MS&AD インシュアランスグループとして国内損害保険事業を展開する、あいおいニッセイ同和損害保険。グループの中長期経営計画(2022 - 2025)では、「Value(価値の創造)」「Transformation(事業の変革)」「Synergy(グループシナジーの発揮)」を基本戦略とした、レジリエントでサステナブルな社会を支える企業グループを目指しており、同社もその方針に則り、社会課題の解決に貢献するための取り組みを進めています。そのなかで、Transformationの一環として「デジタルを活用した最適なソリューションの追求」というミッションを担う同社の業務プロセス改革部は、業務プロセスの自動化/効率化を実現するツールとして RPA に着目。中央集権型の RPA 導入プロジェクトを経て市民開発者の促進を図れる RPA の導入を検討した同社が採用したのは、マイクロソフトの Power Automate(クラウドフロー)と Power Automate for desktop でした。
中央集権型の RPA 活用と併行し、Power Automate による市民開発型の RPA 活用に取り組む
あいおいニッセイ同和損害保険では、最先端・独自の技術やデジタル・データの活用、特色あるパートナーとの協業により、お客様・地域・社会が真に求める新たな価値を提供していくことで、国内外のあらゆる事業を通じて、お客様・地域・社会とともに社会・地域課題の解決にグローバルに取り組む「CSV × DX」戦略を掲げてビジネスを展開しています。テレマティクス技術により保険の DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、自動車保険商品に「事故を未然に防ぐ」「事故の影響軽減と回復の支援」といった価値を付加した「テレマティクス自動車保険」をはじめ、社会・地域課題を解決する保険や、地方自治体との連携による新たな事業の創出、さらには保険の販売形態そのものを変革するプラットフォームプロジェクトなど、CSV × DX を軸にさまざまな取り組みを進めています。
CSV × DX を通じてお客様・地域・社会の未来を支えつづけることを基本スタンスに「攻めの DX 」を推進する同社ですが、その一方で自社の生産性向上や業務効率化を図る「守りの DX」にも積極的に取り組んでおり、その一つが「デジタルを活用した最適なソリューションの追求」です。この重要なミッションを担う、あいおいニッセイ同和損害保険 業務プロセス改革部 ソリューション開発グループでグループ長を務める釣田 貴司 氏は、全社員が日常使いできる「効率化に資するデジタルツール」の発掘・導入を推進。その一環として、RPA ツールの導入による業務改善の有効性を検証してきました。
「RPA の導入黎明期においては、社内で効率化対象業務のアイデアを募りました。その結果、2000 件以上のアイデアが集まったのですが、そのほとんどは個人の既存業務における効率化を図るもので、適用範囲が狭く効果も限定的。ライセンスや運用コストなどを考えると費用対効果の面で課題がありました。そこで、費用対効果が見込める大玉業務を抱える部署を対象に、中央集権型で抜本な業務の見直しを行った上でRPA 活用を行う方向に舵を切りました。効率化・合理化という意味では奏功しましたが、その一方で広く募ったアイデアの大半は活かしきれませんでした」(釣田 氏)。
中央集権型RPA 活用とあわせて、アプリケーション基盤には Microsoft Dynamics 365(以下、Dynamics 365)と Microsoft Power Apps(以下、Power Apps)を導入し、60 個以上のアプリケーションを開発。大玉業務をターゲットにしたことで確かな成果が得られました。ただし、そのような業務を今後も発掘し続けられるとも限らず、同じアプローチでは窮する局面もあるとみた同社は、中央集権型の RPA 活用と併行して、市民開発型の RPA 活用の検討についても開始。多くのマイクロソフト製品・サービスを利用していることもあり、そのライセンスで利用できる Power Automate (クラウドフロー)を採用。運用にあたり各部からのコスト負担もなく、全ての社員が複雑な申請・審査なく利用できる形で全社展開を行いました。
「中央集権型には、推進力という確かなメリットがある一方で、『誰かが効率化してくれる』といった、DX を他人事として捉える雰囲気を作ってしまうのではないかという不安もありました。そこで、全ての社員が効率化の担い手になれるような市民開発型 DX を推進するため、主にクラウドサービス間の連携処理を自動化する Power Automate (クラウドフロー)を 2021 年 8 月に導入。全社員がなるべく複雑なルールに縛られることが無い形で利用できるように展開しました」(釣田 氏)。
デスクトップ作業を自動化できる Power Automate for desktop を採用し、市民開発の促進を図る
中央主権型と、Power Automate (クラウドフロー)による市民開発型 の両面から RPA 活用を推進することで、同社の DX はさらに加速します。Power Automate(クラウドフロー)の開発者数は 2600 人以上に及び、「自らの手で自身の業務を効率化する」という市民開発の文化が醸成され始めました。ところがこうした流れのなか、Power Automate (クラウドフロー)によってマイクロソフト製品・サービス間の連携処理による自動化が図れる一方で、PC のデスクトップ上での操作自動化ニーズのすべてには対応しきれていないという課題は残存していました。釣田 氏は「RPA 活用を始めた際に募った アイデアはデスクトップ上の操作に関わるものも多く、Power Automate (クラウドフロー)単体だと社員各々が抱える業務を自ら効率化する術として、限定的でした」と語り、社員のニーズに対応するため Power Automate for desktop の導入を検討した経緯を振り返ります。
「全社員に展開する市民開発型の RPA 活用について、さまざまな製品について検討しましたが、やはりコスト面での課題が鮮明になりました。この点、マイクロソフトの RPA である Power Automate for desktop ならば当社のライセンス契約上無償で使うことができ、コスト面の課題がクリアできます。Dynamics 365 や Power Apps、Power Automate (クラウドフロー)を導入するなかでマイクロソフトの手厚いサポートが受けられることも確認できており、さらにノーコード/ローコードでの実装が可能で市民開発に向いていることもポイントとなりました。SE が使うことを前提とした RPA ツールが多いなかで、社員でも使いこなせる余地があるPower Automate for desktop は市民開発の推進に最適だと判断しました」(釣田 氏)。
経営層やシステム部門とガバナンスの方向性を協議し、全ての社員が容易に RPA を扱える体制を構築
Power Automate for desktop の導入プロジェクトは 2022 年 5 月に立ち上がり、技術・運用の論点での検討と併せて、ガバナンスの方向性や展開方法などを整理。そのうえで、有志を募っての PoC が実施されました。「Power Automate (クラウドフロー)を展開した際に積極的に活用してくれた方や、頻繁に研修に参加してくれた方に声をかけ、20 人弱の有志を選定して PoC を実施し、開発・運営のナレッジ・アセットを蓄積しました」と釣田 氏。併行して、ガバナンスの方向性に関しても経営層やシステム部門と議論を重ねていったと語ります。
「Dynamics 365 や Power Apps を導入した際には、SEのみならず一般社員による開発も許可したものの、強固なガバナンス・完全に近い統制を前提としたため、500 ページ近くに及ぶルールブックを遵守する必要がありました。このため開発難易度は非常に高く、社内の開発研修を終えた一般社員は320 人に及びましたが、市民開発型のアプリ開発が根付くには至りませんでした。確かに中央集権型で大玉業務の自動化を図る際にはしっかりとしたルールを作ることも重要ですが、扱いきれないルールでは意味がないという教訓を得ました。Power Automate for desktop の導入にあたってはこうした経験も踏まえ、ガバナンスの方向性を議論しました。経営層やシステム部門としては、管理の行き届かない、いわゆる『野良』に対する不安が根底にあったため、まずは『野良の何が問題となるのか』を具体化し、その最低限の対策以上に過剰なガバナンスは不要であるという合意形成を行いました」(釣田 氏)。
Power Automate for desktop の全社導入の議論において、『野良の問題点』を言語化していくと、「利用における追加費用」「自動化フローが動作しなくなった際の利用者への影響」「RPA の不正利用による情報流出」「自動化フローがシステムへ与える負荷の増大」の四つに類型化できることがわかりました。釣田 氏は、それぞれについて評価し、緩やかな統制を採ったとしても受容できるリスクサイズであることを関係者に説明の上で、合意を形成。PoCを経て、2023 年 2 月より全社員が自由に活用できる形で Power Automate for desktop の提供を開始しました。
なお、導入の検討から提供に至るまでにはマイクロソフトのサポートが大いに役立ったと言います。
「検討段階から導入・運用までを通じて、マイクロソフトには専門の担当者による密接なサポートをいただきました。質問についても一般論だけではなく、具体的な方法も含めて回答してもらえたので理解を深めることができました。運営する際の助言や、今後普及させていくために必要な学習教材の関連情報や事例、ベストプラクティスもいただき、本当に感謝しております」(釣田 氏)。
Power Automate for desktop による業務改善では、Office 365 の所有済みのライセンスを使って、各個人が自身の ID で元々許された範囲において開発し、自己の手作業的な業務を自動化していきます。あたかも Microsoft Excel で「凝ったことをする」ことと同様の責任整理が一般化し、また利活用の過程で社員のリテラシ向上の一助となることも期待されます。
外部 SE と各部内における市民開発の中核人財をアサインし、RPA 活用の定着化を進めていく
Power Automate (クラウドフロー)と Power Automate for desktop の活用にあたっては、 業務プロセス改革部自身がサンプルとなるフローを開発し、社員が自らの業務の自動化・効率化を図る市民開発を後押ししています。Power Automate (クラウドフロー)では、Microsoft Forms(以下、Forms)・ Lists ・ Microsoft Teams (以下、Teams)と Web ブラウザを連携させた座席予約フォームや、Forms ・ Lists ・ Teams を連携し、業務プロセス改革部の照会応答を管理する問い合わせフォームなどを開発。全社展開をスタートしたばかりの Power Automate for desktop では、有給申請やミーティング調整支援のデモを実施し、サンプルフローとして全社に公開していく予定です。
全社公開してからわずか数週間、あっという間に 300 人以上の社員が市民開発者として Power Automate for desktop での開発に着手しており、業務プロセス改革部はプロジェクトの出だしに確かな手応えを感じているといいます。Power Automate(クラウドフロー)の導入時から取り組んできたポータルサイトでの事例紹介や、Teamsを活用したコミュニティの運営といった市民開発促進の施策は継続して行い、さらに空き時間でアプリの使い方を学べる動画コンテンツも提供していきたいと釣田 氏。
また、各部でのPower Automate for desktop 活用を定着化させるため、教師役のSEを配属させる伴走型の技術定着化プログラムの実施も予定されています。釣田 氏は「業務プロセス改革部主導で外部から SE を手配し、まずは要請のあった本社部門を対象に配置。受け入れ側となる各部門においても市民開発の中核人財となる社員を 2 名以上アサインし、教師役のSE と二人三脚でフローを開発するスタイルでの技術定着を進めていきたい」と説明します。
同社では、2023 年度のPower Automate for desktop 全社展開の成果として、計 200 人量分の業務量削減を目標としています。損害保険の業務特性を踏まえ、特定の業務領域で定型的に行われている、まだ自動化されていない作業を識別し、さらなる成果につなげていきたいと釣田 氏は力を込めます。
「本プロジェクトが目指した市民開発の定着に向けた取り組みは今後も継続していきます。RPA に限らず、『全ての社員が便利に使えるツール』の発掘も進めていきたいと思います。その意味では、昨今話題となっている『ChatGPT』『Copilot』など のサービスには注目しています。Teams にもAIが組み込まれ、会議の効率化や仕事の基本的な進め方を変えていくような製品戦略にも注目していきながら、さらなる生産性向上につなげていきたいと考えています。当社における業務効率化やクリエイティビティの高い業務の創出に資するため、マイクロソフトには『ベストパートナー企業』として、引き続き支援・協力いただきたいと思っています」(釣田 氏)。
Power Automate for desktop の全社展開を推進し、全ての社員が効率化の担い手となる市民開発型 DX の実現を目指すあいおいニッセイ同和損害保険。マイクロソフトは、今後も支援を続けます。
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