2020 年に「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスに掲げる一方、社内 DX(デジタルトランスフォーメーション)についても「フジトラ」と呼ばれる取り組みを推進している富士通。社内の組織変革やカルチャー変革で大きな役割を果たしているのが社内 SNSです。富士通では Microsoft 365 の導入に合わせて、社内 SNS として Microsoft Yammer(現Microsoft Viva Engage)を導入しました。当初はほとんど利用されなかったと言いますが、今ではグローバルで 10 万人以上の社員が利用するコミュニケーションプラットフォームに成長しています。社内 SNS 活用のヒント、組織・変革へのいかし方を聞きました。
「フジトラ」の全社推進にあたり、IT 部門として社内 SNS の活用を推進
1935 年の創立以来、技術力を発揮して常に革新を追求してきた富士通。2020 年に「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」をパーパスに掲げ、世界をリードする DX(デジタルトランスフォーメーション)パートナーとしてテクノロジーサービスやソリューション、製品を幅広く提供することで、デジタルの力を活用した社会課題の解決や業種業界の垣根を超えたエコシステムによる価値創造、顧客の DX の実現の支援に取り組んでいます。
富士通では、IT 企業から DX 企業への進化を目指し、富士通自身の DX(社内)とビジネスの DX(社外)という 2 つの変革を進めています。社内 IT 部門として、社内 DX を推進するデジタルシステムプラットフォーム本部(DSPU) CIO Office の DX Officer(デジタル変革責任者) 小久保 義之 氏はこう話します。
「ビジネスと社内の 2 つの変革を進めることで、自社での実践やお客様との実践を形式知化し、日本型 DX フレームワークを作ることを目指しています。社内 DX については、富士通自身を変革する全社 DX プロジェクトを『フジトラ』と呼び、CEO や CIO ら経営層で構成するステアリングコミッティから、各部門に設置した DX 推進の代表である DX Officer、事務局となる CEO 直下組織 DX Designer、DX を現場でサポートする DX コミュニティやフジトラクルーまでが一丸となってプロジェクトを推進する体制です。DSPU では、社内 IT 部門自身の変革に加え、全社 DX に向けて必要となるツールやサービスの提供と利用の支援を担当しています」(小久保 氏)。
フジトラを推進する陣容は日々変化していますが、2023 年 2 月時点では、DX Designer がグループ全体で 56 名超、DX Officer が、総務・人事、法務・知財、広報・ IR、各事業部門など 37 名超で構成されます。また、現場レベルのコミュニティである DX コミュニティの参加者は 7777 名超、DX を現場でサポートするフジトラクルーは 500 名超という規模です。売上収益 3 兆 5868 億円(2021 年度連結)、グローバル従業員数 12 万 4200 人(2022 年 3 月末)という富士通の企業規模の大きさはもちろん、DX プロジェクトの規模としても国内最大級の取り組みです。
「社内 IT 部門にとっては、DX を推進するためのツールやサービスの提供だけでなく、組織としてのカルチャーやマインドを変えていくことも重要でした。そこで取り組んだのは、社員が日常的に利用していたコミュニケーションツールの活用です。なかでも社内 SNS を最大限に活用することに取り組みました」(小久保 氏)。
コミュニケーション変革で活用されたのが Microsoft Viva Engage(旧Microsoft Yammer、以下、Viva Engage)です。
街ネタや内輪ネタに終始していた社内 SNS が激変、化学反応が起こりはじめる
富士通では 2016 年に社内基盤をオンプレミスからクラウドに全面的に移行することを決め、コミュニケーション基盤として Microsoft 365 を採用しています。その際に、Microsoft 365 との親和性やグローバルでの展開のしやすさを考慮して、社内 SNS 基盤として導入したのが Viva Engage です。
導入当初は、社員の自主性に任せていたこともあり、活用シーンは限られていたと言います。導入を推進した End User Services Division シニアマネージャー 伊東 靖史 氏は、こう話します。
「SNS には、メールや掲示板のようなコミュニケーションツールにはない強みがあります。もともと富士通には NIFTY-Serve の掲示板やフォーラムを活用するような文化があるため、社内 SNS の利用も抵抗なく受け入れられました。社内 SNS は自分の業務や部門部署の壁を超えたグローバルなコミュニケーションができることが魅力です。そこで社員間での新しい化学反応が起こることを期待して導入を決めたのです。しかし、実際には、街のグルメ情報や内輪ネタなど限られた利用がほとんどで、部門部署を超えた新しい活用はほとんど見られませんでした」(伊東 氏)。
伊東 氏によると、メールや Teams と違って、社内 SNS は一見業務に必須ではないと思われがちで、利用率を一定程度まで上げることは決して簡単なことではないと言います。導入から 4 年ほど経った時点での利用率はグローバルで 3 割程度となっており、SNS 利用に熱心な特定の国を除くと、日本を中心にほとんど活用されていない状況でした。
「そのため、展開初期には全国各地を巡って説明会を実施したり、その後も継続的にオンライン説明会や動画や各種情報発信など利用者拡大のための努力をしてきました。また、フジトラ発足以前から、基盤提供側として継続的にルール、マナーの啓蒙活動や、コンプライアンス的に問題となりうる投稿の監視など、利用者が安心して使っていただけるように日々頑張ってきました。ここは安心して書き込んでもいい場所だ、という心理的安全性がなければ社内 SNS が盛り上がることは絶対にありません。利用率を 3 割までもってくることが、実は簡単なことではないのです」(伊東 氏)。
しかし 2020 年にフジトラがスタートすると、社内 SNS を取り巻く環境は大きく変わります。伊東 氏によると、DX やカルチャー変革は、フジトラのような活動とそれを支えるサービス基盤との両輪で成し得ることです。これまで地道な活動を継続してきたことでフジトラ発足時に白羽の矢が立ち、フジトラをきっかけにして、まき続けた種が一気に芽吹いたのです。「大変な思いをしながら一定数まで利用者を上げてきたことで、ある水準を超えたところでクチコミのように自然に拡大していきました」と伊東 氏は振り返ります。
デジタルシステムプラットフォーム本部 CIO Office マネージャー 兼 DX Officer 補佐 轟木 美穂 氏は、こう話します。
「CIO に福田 譲が着任し『社内 SNS をもっと活用しよう』という掛け声とともに、福田自らが SNS を積極的に活用して発信したり、社員一人ひとりに返信したりするようになりました。社員が何か取り組みを SNS に報告すると、その度に『いいね』『その調子でやって』と返すので、利用する社員のモチベーションが一気に高まったように感じます。われわれ IT 部門でも活用推進の施策を実施しました。程なくして、さまざまな新しい取り組みが自主的に行われるようになりました」(轟木 氏)。
フジトラのスタートから 4 年ほど経った現在、Viva Engage は、社内での情報共有サイト、自主的な FAQ サイト、動画を使った製品 Tips などの紹介サイト、サンクス交換サイトなどとして活用され、グローバルで 9 割近い社員が日常的に利用するツールとなっています。当初期待していた化学反応が急速に起こりはじめたのです。
コミュニケーションのあり方を変える「人力検索」と「FujiTube」「サンクスポイント」
社内 SNS の代表的な活用事例に、ボランティア社員が自主的に運営する FAQ サイト「人力検索」があります。Viva Engage には特定の話題を 1 つのスレッドで扱う機能がありますが、それを利用して「誰かが何かを質問すると誰かが適切に答えてくれる」FAQ コミュニティサイトとして活用しています。
「『ネットワークがどこか不調だ』『この書類の申請方法がわからない』といった働いていて感じる日々の小さな悩みに対して『私もそうだ』『私の場合はこう解決した』と、すでにそれを経験していたり、知っている誰かが回答します。以前は、こうしたコミュニケーションは隣の席の人に聞くことで行ってきたものです。しかし、今は固定席もなくなり、自宅やサテライトオフィスなどで仕事をすることが増えました。何か困り事があったら、サポート窓口に聞くことになるため、回答を得るまでに時間がかかったり、サポートの手間も増えたりして、みなストレスが溜まってしまいます。人力検索では、6000 名のコミュニティ参加者がお互いに助け合って課題を解決できるので対応スピードも速く、満足度も高いです」(轟木 氏)。
「FujiTube」という社内インフルエンサーが運営する動画サイトも人気です。Viva Engage と Microsoft SharePoint のストリーム機能を連携させて、ツールの賢い使い方や製品の Tips などの解説動画を社内向けに発信しています。社内インフルエンサーの FujiTuber として活動するデジタルシステムプラットフォーム本部 CIO Office 石田 皓平氏はこう話します。
「普段利用するシステムのマニュアルは、すべてのパターンを網羅しようとしてしまうため、どうしても分厚くなってしまいます。先日、新しい経費精算システムが導入されたのですが、当然マニュアルも分厚く、全部読んでいるとそれだけで数時間かかってしまいます。そこで『5 分で経費精算システムの概要をつかむ動画』を作成し、Viva Engage のお知らせを使って紹介しました。すると、国内 8 万人の社員のうち 1 万人が視聴するなど、大きく“バズり”が発生し、社長の年頭挨拶の動画よりも多い再生数を獲得することができました。他にも『いっしーの Fujitsu 大学』コミュニティ内(Viva Engage のグループ)で『Outlook 便利技 3 選』『資料の探し方 3 選』といったコンテンツを作成し提供しています。動画を活用することで、メッセージをわかりやすく伝えることができます」(石田 氏)。
動画に対する反応は「いいね」などのほか「投げサンクス」があります。これは、新たに導入した社員同士で感謝(サンクス)を贈り合うサンクスポイント制度をアプリとして組み込んだものです。
「サンクスポイントは、社員同士で贈りあったサンクスをポイント化し、社員のプロフィール上にサンクスポイントとして表示するものです。サンクスを贈るアプリは Microsoft Power Apps で作成されていて、Viva Engage や Microsoft Teamsなどからすぐにサンクスを送ることができます。誰が誰にサンクスを送ったかについても、Viva Engage 上で全員が確認できるようになっています」(伊東 氏)。
投稿動画へ投げサンクス機能を付けたことで、サンクス制度をより広く知ってもらうきっかけの 1 つになりました。その後、社内イベントへの登壇者へのサンクスや、日常業務で助けてもらったことへのサンクスなど、新しいコミュニケーションのあり方として定着したと言います。
キラキラした DX だけでなく、日の目を見ない地道な取り組みにもスポットを当てる
社内 SNS は、社員一人ひとりが表明したパーパスについて交流する場としても機能しています。パーパスプログラムの 1 つに、社員一人ひとりが自分の価値観を振り返り、個人パーパスを掘り出していくパーパスカービングがあります。
「パーパスカービングでは、一人ひとりがオリジナルの写真や文章を使って作ったパーパスを社内 SNS 上に投稿します。それに対するコメントやいいね、サンクスを Viva Engage 上でやりとりすることで、社員がお互いのことをよりよく理解できるようにしています。CIO の福田も社員一人ひとりにコメントしています。経営層にとっても使いやすいツールのようで、福田も『Viva Engageが社員を知る一番の情報源だ』と常々言っています。Viva Engage でのコメント数では福田はトップランカーの一人です」(小久保 氏)。
「FujiTube のような活動についても『こんなことやっていいの?』と考える人も少なくなかったのですが、福田自身が Viva Engage 上で『ナイスだね。どんどんやろう!』とコメントをいれることで、他の役員や上長にも伝わり『うちでももっと面白いことをやっていこうよ』と変わっていったように思います」(轟木 氏)。
もちろん、社内 SNS による急激なカルチャーの変革は、必ずしも自然発生したわけではありません。最初のきっかけとなったのは CIO 福田 氏の掛け声とアクションでしたが、国内の多くの社員の意識に直接訴えかけるような印象的な出来事もあったと言います。小久保 氏はこう振り返ります。
「フジトラの取り組みが始まった当初、社内オペレーション業務の担当者が Viva Engage にある長文を投稿しました。内容は『DX と言ってキラキラした取り組みをしようとしているけれど、自分たちも日の目を見ずに地道に頑張っているんだけどな』といったものです。数百件のいいねと共感するコメントが相次ぎ、運用の大切さを切々と訴えるベテランなども登場しました。多いに“バズり”が生じるなかで、CIO の福田だけでなく、人事担当役員の目に止まります。そこでとったアクションが、フェースツーフェースでのワークショップでした。担当者の元に足を運び、お互いに膝を詰めて話をしながら『モヤモヤをワクワクに変える』をテーマに、運用やサポートでの前向きな改善提案を行っていくことを決めたのです。。経過や改善案も Viva Engage で全社員が共有し、オンライン、オフラインでの議論を交わしたことで、全社的な DX が社員一人ひとりの自分事になっていきました」(小久保 氏)。
カルチャー変革に社内 SNS は必須、テクノロジーの力を活用することが重要
Viva Engage は今では富士通のコミュニケーションになくてはならないものになっています。利用率は 9 割を超え、グローバルで 10 万人が利用するプラットフォームになっています。また、コミュニティの数も 1 万を超え、部門部署の垣根を超えたやりとりが日々行われています。社内情報の見せ方や伝え方も大きく変わり、マニュアルの読解に 1 時間かかっていたものが動画によって 5分で済ませられたといったケースも増えています。
「重厚長大なプレゼン資料をやりとりするのではなく、気軽なコミュニケーションのなかで生の声を伝えられるのは社内SNSならではです。業務に密接にかかわりながらも、メールとは違って好きなタイミングで返信する、ゆるいつながりも重要です。『こんなこと言っても大丈夫かな』ということをクイックに行うことで、意識や文化が少しずつ変わっていっていることを実感します」(石田 氏)。
実際、数字だけで測ることは難しい効果も現れています。
「カルチャー変革に社内 SNS は必須だと思っています。役員同士が交わすやりとりを現場社員が見て経営の考え方を知ったり、逆に、現場担当者の考え方を役員が知ったりすることができるようになります。実際にワークショップなどを経て、運用業務のなかで新しいツールを活用したり、顧客に近い立場にいる人の意見を吸い上げるための施策を行ったりと業務改善につながった実績は増えています。そうしたなか、IT を提供する立場としては、心理的な安全性を担保することや安全な基盤であることを心がけています」(伊東 氏)。
社内 SNS は、富士通がかつて経験したように使われないままで終わるケースも少なくありません。活用のヒントは、テクノロジーを活用して参加しやすい環境を作ることにあると言います。
「以前なら、何か会社に提案する場合も、上司や同僚に相談して『前例もないしやめたほうがいい』と指摘されて終わってしまっていたことも多いと思います。今は、Viva Engage の機能はもちろん、Microsoft Power Apps や Microsoft SharePoint などのテクノロジーを活用することで、新しい活動に向けた声を拾い上げていくことができます。そのためには、限られた人だけが携わるのではなく、みんなが楽しんで参加できるような雰囲気作りも大切です。写真や動画、絵文字などを使って気軽に参加でき、親しみやすい環境を作ることを心がけています」(轟木 氏)。
そのうえで、小久保 氏は、社内 SNS を活用したフジトラによって、社内 IT 部門の役割も変わってきたと話します。
「DSPU では、組織のビジョンとして、Creation 、Change 、Confidence の 3 つを設定しています。Creation は、デジタル技術を駆使して新たなワークスタイルを創造し、その環境を提供すること。Change は、社会や技術の変化に柔軟に対応し、自ら変わり続けることができること。Confidence はすべての DSPU メンバーが自信を持ち、全社員から信頼されることです。この三つを実現することで、従来のような IT システムの維持管理を中心とした IT 部門から、自らが変革し、新しい価値を提供し、社員の皆さんから信頼される IT 部門になることができると考えます。社内 SNS はこのビジョンを実現するのに欠かせない重要なツールであると考えています」(小久保 氏)。
富士通の全社 DX と社内 DX の取り組みをマイクロソフトは今後もサポートしていきます。
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