世界最大級のMATLAB、Simulinkの総合テクノロジーカンファレンス「MATLAB EXPO 2024 Japan」が5月30日、グランドニッコー東京 台場で開催される。昨年に続く来場型イベントとなり来場者は1000名以上を見込む。講演者をはじめ、MATLAB、Simulinkのエキスパートとリアルにコミュニケーションできる絶好の場だ。MathWorks アプリケーションエンジニアリング部 部長 大塚慶太郎氏に見どころを聞いた。

テーマは「デジタル技術を活用したイノベーションと持続可能な未来の創造」

MathWorksが米国で法人を設立したのは1984年で、日本にオフィスを設置しビジネスをスタートさせたのは2009年だ。2024年は、米国でMathWorks社が設立してから40周年、日本オフィス設置から15周年という節目の年となる。15年前に開催されたMATLAB EXPOにユーザーとして参加したのが、現在、MathWorks アプリケーションエンジニアリング部 部長を務める大塚慶太郎氏だ。大塚氏は、当時を振返りながらこう話す。

「当時のMATLAB EXPOは、MathWorksのエンジニアからMATLABの基本機能を解説する講演が中心でした。その後、MATLABの利用が拡大するなかで、お客さまに登壇いただく講演が増えていきました。現在は、お客様からお取り組みを紹介いただく講演がほとんどを占めています。今年のMATLAB EXPOでは、28講演中26講演がユーザー講演です。それだけ数多くの幅広い活用事例をご紹介できることをうれしく思っています」(大塚氏)

  • 【写真】MathWorks Japan 大塚 慶太郎 氏

    MathWorks Japan アプリケーションエンジニアリング部 部長 大塚 慶太郎 氏

大塚氏が言及するように、MATLAB、Simulinkは非常に幅広い領域で活用が進んでいる。数値演算や並列計算、解析・シミュレーション、制御といった分野はもちろん、モデルベースデザインの実践やAI・データ活用、人材育成、社会課題や環境問題解決へ向けた技術開発などさまざまだ。今年のテーマとセッションもそうした広がりを感じられる構成になっている。

「テーマは『デジタル技術を活用したイノベーションと持続可能な未来の創造』です。MathWorksは、ミッションとしてAccelerating the Pace of Engineering and Scienceを掲げ、工学と科学の分野で開発や研究のペースを加速させることで、よりよい世界を目指し、そこに貢献できる製品の提供と関連する活動をしています。

現在は、多くの企業がSDGsに代表される持続可能な社会に向けた活動に積極的に取り組んでいます。たとえば、カーボンニュートラルやゼロエミッション、地球環境保全、事故のない安心・安全なモビリティなどです。こうした分野においてMATLAB、Simulinkを中心としたデジタル技術がどう貢献し、イノベーションを生み出しているのか。各講演では、その具体的な事例をお客様からご紹介いただきます」(大塚氏)

基調講演にIHIが登壇、「魔改造の夜」参戦経験とモデルベースデザイン活用事例を紹介

基調講演では、MathWorksのDominic Viens氏が「デジタルエンジニアリングにおけるモデルベースデザイン:その影響と展望」と題して、アプリケーションのトレンドや開発フローのトレンドに対して、MathWorksのツールがどう進化してきたか、今後どう対応していくかを展望する。

「アプリケーションのトレンドという点では、自律システムや電動化、コネクティビティなどを取り扱います。また、開発フローのトレンドという点では、システムズエンジニアリングやCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)などのソフトウェア開発プロセス、AIを活用したシステムなどを取り扱います。アプリ、開発フロー両方のトレンドに対して、MathWorksがどのような取り組みをしているのか、海外のお客様の事例を踏まえて紹介します」(大塚氏)

続くユーザー基調講演では、IHIの佐藤彰洋氏が「『魔改造の夜』から考える:ものづくりの未来とモデルベース開発」と題して、IHIがNHKの技術開発エンタメ番組に参戦した経験をもとに、同社の大規模プロジェクトにモデルベースデザインを適用した事例を紹介する。

「番組への参加を通して得た学びや経験として、高速プロトタイピングや部署・専門領域を越えた連携、変化する状況下のプロジェクトマネジメント、挑戦する文化などを挙げていらっしゃいます。普段使っている開発ツールやそれぞれ専門領域が異なるなかで、モデルベースの考え方がどうワークしたのかをお話しいただきます」(大塚氏)

2つの基調講演の後には「MATLAB and Simulink 最新情報」のセッションを設ける。例年実施していたものだが、昨年は当日の会場講演を行わなかったところ、多くのユーザーから「復活してほしい」という声が届いたという。

「MathWorksの製品開発の特徴の1つは、ユーザーの声をもとに新製品や機能開発をしていることです。日本企業からの要望がもとになって追加された機能も数多くあります。MATLAB EXPOのテーマである「デジタル技術の活用」という点からも、MathWorksとしてぜひおすすめしたい機能がたくさんありますので、R2024aから導入された新機能を中心に紹介します」(大塚氏)

  • 【写真】昨年の会場の様子

    昨年の会場の様子

モデルベースデザイン、AI、ロボティクス、自動運転をテーマに多くの講演が実施

午後からは、複数のテーマを持つセッションが並行して行われる。テーマには「モデルベースデザイン」「電動化」「AI」「ロボティクス」「自動運転」「宇宙・防衛・通信」「人材育成」「アカデミア」などがあり、1つのセッションに複数のテーマがタグ付けされるイメージだ。

28講演中26講演がユーザー講演のため、すべてが注目講演と言っていい。そのなかから6つピックアップして大塚氏より紹介してもらった。

●モデルベースデザイン:アイシン「Model-Based Designを活用したドア系製品のソフトウェア開発事例」
モデルベースデザインの適用領域が広がり、自動車業界でもパワートレインやモーター制御だけでなく、さまざまな領域で使っていただいています。アイシン様の講演は、ドア系の制御にモデルベースデザインを適用した事例です。スクラッチでモデルベースを立ち上げた事例としても参考になります。

●電動化:デンソー「Simscapeを用いた1D熱モデル構築自動化による設計プロセス革新」
ゼロエミッションやモビリティ電動化のなかで、付加価値向上に向けた取り組みが加速し、電動化したあとの機能や性能を効率的に評価していくことが重要になってきました。デンソー様の講演は、熱シミュレーションの領域で、3D CAEから効率的に高精度で1D熱モデルを構築した事例です。

●AI:トヨタ自動車「ドローンLiDARを用いた森林のモニタリング手法の開発」
AIはさまざまな業界で活用が進んでいます。環境問題への対応もその1つで、トヨタ様の講演は、森林保全のためにドローンLidarを使ったリモートモニタリングを行った事例です。空撮したLidarのデータをMATLABで分析し、森林の育成状況を把握しています。

●ロボティクスと自動運転:トヨタ自動車「ADAS評価に向けたVILS環境構築」
モデリングやシミュレーションの領域が広がり、モーター1台のモデリングから、自動車1台分、さらに、自動車の周囲の環境を含めたモデリングへと広がっています。トヨタ様の講演では、車両の性能評価を仮想の外界環境のモデリングとシミュレーションに取り組んだ事例を紹介されます。

宇宙・防衛・通信や人材育成・アカデミアに加え、DE&I(多様性、公平性、包括性)の取り組みも

このほか、宇宙・防衛・通信について、成層圏から広域な無線通信サービス(HAPS)を提供する際の、ミリ波帯バックホールシステムを開発したスカパーJSATによる「HAPSを用いたミリ波帯バックホールシステムの研究開発」や、人材育成・アカデミアについて、ラジコンカーを使った演習を展開する名古屋大学による「モデルベースデザイン教育実習によるDX人材育成~名古屋大学先進モビリティ学の取り組み~」など、興味深い講演が目白押しだ。

さらに、リアル開催のメリットを生かしたデモブースや展示も大きな見どころだ。

「MathWorksのデモブースでは、モデルベースデザインやアプリケーション領域別ソリューションなど、4つのグループで18の展示を行ないます。プログラミングコンテストも実施します。また、MATLABを使った意外な活用法や趣味で極めた研究など、毎年ユニークな発表がされるライトニングトークとポスター発表もあります」(大塚氏)

新しい取り組みとしては、DE&I(多様性、公平性、包括性)に向けたセッションや託児ルームの設置がある。女性活躍推進や両立支援の取り組みを紹介する、ソニーセミコンダクタソリューションズ「DE&I ジェンダー平等な職場で、育て!創造の芽!」は、注目すべきセッションだ。このほか、 Live Q&A に加え講演者との意見交換会やなど、昨年から実施して人気のあった取り組みも継続する。

「昨年、会場へ来場されたお客様から『ひさびさに来られて良かった』『思わぬ収穫があった』とご好評いただきました。直接会話できる機会を多くつくることができるよう企画をしています。何気ないブースでの会話から開発のヒントが得られたり、分野の異なる方々との議論で新しい知見やアイデアを得たりすることができる点がリアルイベントの魅力です。ぜひ足を運んで色々な方とコミュニケーションをとっていただければと思います」(大塚氏)

2024年が節目の年となるMATLAB EXPOは、参加者にとっても特別な転機につながるイベントになるかもしれない。ぜひ会場を訪れ、あらたな気づきやヒント、アイデアを見つけてほしい。

  • 【写真】MathWorks Japan 大塚 慶太郎 氏

関連リンク

「MATLAB EXPO 2024 Japan」開催概要

●開催日時:2024年5月30日(木)10:00~17:30
●開催場所:グランドニッコー東京 台場
●参加費:無料
●主催:MathWorks Japan(マスワークス合同会社)

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