2018年10月、株式会社FRONTEO(フロンテオ)が、人工知能エンジンKIBIT(キビット)の次世代版KIBIT G2(ジーツー G=Generation)をリリースした。テキストデータの解析に特化して開発されたKIBITは、膨大な計算資源が不要かつ少量の教師データで短時間での解析が可能という特長から、様々な業種の企業や官公庁などで導入が進んでいる。FRONTEOによれば2018年9月末の時点で、120以上の導入先で大きな成果をあげているという。

人手不足の解消や業務の効率化にAIを役立てたいと考える企業が急増しているのを受け、マイナビニュースではすでに多くの実績を持つKIBITに着目し、その開発経緯や性能、業務活用事例などについて、今回から3回に亘って紹介していく。

人の暗黙知を学習するAI

まずKIBITの概要を説明しておこう。その最大の特徴は、テキストデータ解析に特化したAIであるということだ。AIというとディープラーニング(深層学習)をベースにした画像や映像、音声の解析をイメージしがちであるが、KIBITはテキストを扱う。与えられた大量のテキストデータが、事前に学んだ教師データがもつ特徴とどれだけ近いかを0~10,000の点数でスコアリングする。この説明だけだと「テキストマイニングツールと変わらないのでは?」と思われそうだが、KIBITは文章全体の微妙なニュアンスを読み取るという点で大きな違いがある。

たとえば膨大な論文データから、ある特定領域の技術について調査しようとする場合、従来の検索エンジンやテキストマイニングツ-ルでは、その技術に関連するキーワードを全て指定する必要がある。しかしKIBITは、前後の文脈から「その技術について言及していると思われる表現」をピックアップすることができる。仮に検索者が知らないキーワードで表現されていたとしても、KIBITなら取りこぼすことがない。また「顧客から寄せられたアンケートのうち、肯定的な意見・感想が書かれたもの」を教師データとして解析すれば、特定のキーワードに依存せずに、KIBITが「肯定的な度合いが高い」と判断した順に、データをリストアップすることができる。

  • KIBITは、膨大なデータから必要なものを適切に抽出できる

KIBITはその特徴を活かし、「特許出願時の事前調査」「機器の不具合への対処方法を、過去の保守記録から探索」「新卒入社試験エントリー時に応募企業に提出するエントリーシートからの適正人材の見極め」など、文書の調査・抽出・仕分けなどのシーンで活用が進んでいる。2018年に金融庁による「FinTech実証実験ハブ」で選定された実証実験でも、従来、人が行っていた業務を時間にして42%短縮しつつ、精度を倍にするという成果をあげた(こうした活用事例については連載第3回で詳しく取りあげるので、そちらをご覧いただきたい)。

リーガルテック領域で生まれたKIBIT

KIBITの開発元のFRONTEOは、もともと国際訴訟対策支援や不正調査を行う企業として、2003年に設立された(旧社名UBIC)。アメリカに進出した日本企業が訴訟に巻き込まれ、不利な状況に立たされているのを支援することを目的としていた。

アメリカでの民事訴訟では原告・被告双方が、裁判所での審理の前に、争点を整理するために当事者同士が自らの主張を裏付ける証拠を相互に開示し合う証拠開示手続きを経て、審理が進められる仕組みとなっている。このため、限られた時間で自社内の様々な文書から訴訟と関連がありそうなものを選出、担当弁護士が重要度に応じてさらに絞り込んでいくといったドキュメントのレビュー作業が必要となる。従来目視・手作業で行われていたこの作業を、それまでに蓄積されたデータ解析のノウハウを活用して効率化し、レビュー作業に要するコスト削減の実現を目指したのが、のちにKIBITのコア技術が誕生するきっかけだった。

膨大な訴訟関連文書の中から、弁護士が「関連性が高いデータ」として選び出したものと、「そうでないもの(=関連性が低いデータ)」を教師データとして学ばせることで、大量のデータから必要なものを選び出すことを可能にする、これまで専門家の暗黙知(勘や経験に基づく知識)でしか対応できなかった業務を人工知能が行うことにより、訴訟準備の時間と手間は大幅に圧縮されるようになった。

KIBITの技術は証拠開示のほか、デジタルフォレンジック(電磁的記録の証拠保全や調査分析、情報収集)にも利用され、これまでに7,200件以上の訴訟や第三者委員会での証拠分析に活用され、実績をあげている。

その性能・特長を、ビジネス支援に

同社は、今ではリーガルテック領域に限らず、より幅広い業界・分野の企業へKIBITを提供している。2014年にリリースした電子メール自動監査システム「KIBIT Email Auditor」では、全社員の電子メールを解析し、情報漏えいやハラスメントなどを早期に検知。一見ごく普通の会食の誘いに見える文章の中から、カルテルに関する打ち合わせの意図がある表現を見つけ出すことに成功した事例もあったという。

  • KIBITなら単なる「会食の誘い」と「不正目的の会合」の差を文章から読み取れる

さらに2015年にはトヨタテクニカルデベロップメント株式会社と共同開発した特許調査・分析システム「Patent Explorer」を、その後も「KIBIT Knowledge Probe」や「KIBIT Find Answer」といったKIBITを搭載した製品を次々にリリースしている。

そして、2018年10月に各製品のエンジンKIBITの次世代版となる「KIBIT G2」を発表。同時にユーザー企業のシステム、アプリケーションとの連携が容易となるAPI(KIBIT-Connect キビット・コネクト)の提供も開始し、より広範なビジネスシーンでのAI実装を推進している。連載第2回ではKIBIT の特徴や、KIBIT を搭載した製品の活用シーンについて詳しく紹介する。

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