ChatGPTをはじめとする「生成AI(ジェネレーティブAI)」が昨今トレンドになっている。すでに業務に取り入れている企業もあり、生成AIの活用は今後さらに広がりを見せることが予想される。
一方で、生成AIとは何なのか、何ができるのか、どう活用すればいいのかなどの疑問を持つ人も少なくない。HubSpotが実施した調査「第1回 日本のマーケティング・営業領域における生成AI(ジェネレーティブAI)利用に関する意識実態調査」によると、日本の営業・マーケティング従事者のうち、生成AIを業務で活用したことがあると回答した人は全体の13.2%にとどまり、生成AIを活用しない理由として6割以上の回答者が「使い方がよくわからない」「特にない・わからない」と回答している。
そこで今回は、日本の営業・マーケティング従事者1,000名を対象に実施した同調査結果を踏まえた上で、HubSpot Japan株式会社シニアマーケティングディレクター 伊佐 裕也 氏に「生成AIとはなにか。業務でどのように活用すればいいのか」について見解を伺った。
生成AIとはなにか
そもそも生成AIとは、文章やイラストなどのコンテンツを生成する能力を持つAIのことだ。従来のAIは、与えられたデータをもとにしたデータの整理や分類などを得意としていたが、生成AIは与えられたデータや既存の情報を組み合わせ、新しいアウトプットを創り出す点が特長である。
そんな生成AIが一気に注目されるきっかけとなったのは、GhatGPTの登場だろう。自然な話し言葉で質問を打ち込むと、即座に回答が返ってくるため世界に衝撃を与えた。
伊佐氏は「生成AIの登場は産業革命やインターネットの登場に匹敵する出来事」と話す。
「生成AIの革新性は自然言語で扱えることです。つまり、エンジニアではない一般の人でも生成AIを使いこなせるのです。ChatGPTは登場から2ヶ月でユーザーが1億人を突破し話題になりましたが、その背景には“誰もが使える”ことにあるでしょう。現在、CRMプラットフォーム『HubSpot』をはじめ、多くの専門的なツールがChatGPTを導入し、自然言語で指示できるUIを搭載し始めています。そのため、今後は非IT人材でも専門ツールを使いこなせるようになり、IT人材が不足する中小企業もDXを推進できるようになるでしょう。
もちろん、ツールの導入でDXが推進されるわけではありませんが、少なくとも『ツールの使い方がわからない』という課題はクリアできます。日本の会社の約99%は中小企業ですから(※1)、そこがDXでエンパワーされることは日本全体にも大きな影響を与えるはずです。既に日本に先駆け、米国ではAIツールの効果が表れ始めています。調査によると、AIツールに投資している米国中小企業のリーダーの約4分の3が、従業員の生産性向上を実感しており、平均で1日あたり2.5時間の効率化につながったそうです。(※2) こうした生成AIの影響は、ビジネス領域に留まらず、私たちの日常生活の中にも当たり前に使われるような世界が訪れるのではないでしょうか」(伊佐氏)
一方でHubSpotの調査によると、日本の営業・マーケティング従事者の55.6%が、「生成AIを聞いたことがない、知らない」と回答した。職種別だとマーケティング従事者は49.9%、営業従事者は61.3%が「生成AIを聞いたことがない、知らない」と回答しており、認知度は意外と高くないことがわかった。
さらに「生成AIを業務で使っている」割合は13.2%にとどまっている。他国での利用状況の参考値として、HubSpotの米国調査では、生成AIを業務で使っているマーケティング従事者は35%。ブログやSEO記事などコンテンツ作成に携わるマーケターに絞ると、54%が使っていると回答している。単純比較はできないデータではあるが、日本の生成AIの利用率は米国と比較して低い数値であることがわかる。
なぜ日本の営業・マーケティング従事者における生成AIの浸透率は低いのか。伊佐氏は「自分の業界や職種における具体的業務に、生成AIがどう関わるのかよくわからないことが理由では」と予想する。
なお営業とマーケティングで比較すると、マーケティング従事者の方が生成AIの認知度は高く、業務で利用している人は多い。これは、「マーケティング業務の方が広告配信やSEOの最適化などでAIを活用するケースが多いので、生成AIとの距離感も近い」(伊佐氏)からだろう。
また、生成AIを「業務で使っていない」と回答した人が使わない理由として、「使い方がよくわからない」「特にない/わからない」(62.6%)という回答が多く挙げられた。これは「自分の仕事で生成AIを利用するイメージが湧かない、生成AIで具体的に何ができるのか分からない、と考える方が多いのでは」と伊佐氏は話す。
生成AIは急速にトレンドになったこともあり、活用法についてはまだ手探りの状態が続いている。今回の調査結果は、そうした混沌とした現況を如実に反映したものといえるだろう。
営業やマーケティングにおける生成AIの活用例
とはいえ、すでに生成AIを活用して業務効率を高めることに成功している企業も現れている。営業・マーケティング従事者としてはできるだけ早く生成AIの活用法を発見し、導入していくことが重要だろう。
そうした活用法の一例を伊佐氏に聞いた。
「実際に私自身も生成AIを業務に活用しています。なかでも便利だと思ったのは、非構造化データの分析に生成AIを用いることです。たとえば、アンケートの収集・分類・分析での活用です。HubSpotではユーザーの声を様々な場面で収集し、製品開発などに生かしていますが、収集コメントが多く分析に時間がかかります。そこでまず、生成AIにユーザーコメントを分析させ、カテゴリ分けさせます。そして各カテゴリのコメントを整理させると、人間が示唆を汲み取っていく事前準備ができます」(伊佐氏)
ユーザーの声の中には、製品、サポート、マーケティング施策に対するコメントなど様々なものが含まれる。人が何百何千というコメントすべてに目を通し、カテゴライズするのは大変で、集計する際に主観が入ることも大いにあるだろう。だが、生成AIならコメント内容を分析し、瞬時に客観的に整理してくれる。
もし、整理した結果を見て分類の仕方が甘いと感じたら、その結果を踏まえてもう一度生成AIに対して具体的に指示を出せばいい。それを何度か繰り返すだけで、高精度に整理されたデータが出来上がる。同じ作業を一から人がやるよりも、はるかに短時間で済むはずだ。
ほかには、学びや情報収集のためのインプットとしての活用だ。スキルアップや業務を行う上で、自身の業界や職種に関わる最新動向の情報収集は欠かせない。そういった情報を発信するブログや記事の内容を要約してもらう使い方ができる。また伊佐氏はこうしたインプットを、顧客理解を深めるためにこう活用できると話す。
「たとえば、営業担当がA社に対して営業提案を行う場合、まずはA社が発信する記事を読んだり、A社に関するニュースをチェックしたりと、A社について入念に調査するはずです。しかし、すべての情報に目を通すのは時間がかかります。生成AIは既存の情報の加工が得意なので、たとえば決算報告書を数年分読み込ませたり、A社が出している複数の記事をまとめて読み込ませて端的な要約を作るなどして活用することで、情報の要点を短時間でつかむことができます」(伊佐氏)
情報の要点を掴んだら、そこから顧客の課題の考察にも活用できる。たとえば、こんな風に生成AIに質問してもいいだろう。「A社の営業部長が抱えていると思われる課題について、3つ挙げてください」と。もちろん、生成AIが出した回答がすべて正しいわけではないため、生成AIから出てくる情報を鵜呑みにするのではなく、自分の持っている仮説と照らし合わせた検証は必要だ。しかし、膨大なデータをもとに生成AIがはじき出してきた回答からは、きっと何かしらのヒントが得られるだろう。
分析・収集した情報を基にして、顧客とのコミュニケーションの質を向上させる点でも生成AIは力を発揮する。たとえば、顧客と商談を行う際のプレゼン準備時の壁打ち相手として活用するユースケースなどが考えられる。
「『製造業の営業担当者がA社の営業部長と商談を行います。このスクリプトをもとに、営業部長からの想定質問を考えて提案してください』と投げかければ、生成AIは商談相手になりきった質問を生成し、商談シミュレーションの良い壁打ち相手になってくれるでしょう。非常におもしろい使い方だと思います」(伊佐氏)
紹介したユースケースからもわかるように、生成AIはアイデア一つで様々なメリットを生み出せるツールである。その有用性にはHubSpotも注目しており、いち早くCRMプラットフォーム『HubSpot』に「コンテンツアシスタント」という機能を導入している。コンテンツアシスタントはブログ記事やSNS投稿、メールなどの文面作成を担うAI機能である。
「コンテンツアシスト」画面イメージ。生成したい内容を記入すると文面を自動で生成してくれる
たとえば、マーケティングメールを作成する際に「製造業の部長職を務めている人は、現在人手不足という課題に悩まされています。そこに対して、○○という製品がどのような価値提供をできるか説明するメールを書いてください」と依頼すると、受け取る人の特性や課題感を踏まえたメールの文面が生成される。コンテンツアシスタントが生成した文面を確認して、文章のトーンの調整を依頼したり、補足したい点は修正を加えて採用したりすればいい。一からコンテンツを作成するよりも、はるかに効率的かつ創造的に業務を進められるはずだ。マーケティングだけでなく、営業担当者から顧客向けのメール作成にも活用できる。
営業・マーケティング業務における生成AIの活用法の一例
生成AIはビジネスの世界に“わくわく感”をもたらした
調査結果からもわかるように、日本における生成AIの認知度は、欧米に比べるとまだ高いとはいえない。しかし、今後日本においても生成AIの浸透と活用が急速に進むと予想される。そのときに備えて、営業・マーケティング従事者としては生成AIの活用にいち早く取り組み、使いこなせるようになることが重要だろう。
一方で、生成AIを活用する上で意識すべきは「なんのためにやるのか」だと伊佐氏は指摘する。
「生成AIは背景や文脈といったコンテクストを理解しないので、人間の事情を汲み取ってコンテンツを作ることはできません。ですから、生成AIを使えばすべてうまくいくと過信すべきではありません。重要なのは『顧客のために』生成AIを活用するのだとしっかり意識して使うことです。今回の調査では、生成AIの使い方がわからない人が多い実態が明らかになりましたが、まずは、”顧客のためにしたいこと”を起点に生成AIの活用法を考えてみることは有効です」(伊佐氏)
たとえば、顧客からのフィードバックや課題感のヒアリングのために、顧客と直接会話できる時間を増やしたい場合、ほかにどんな時間を削減できるのか自身のタスクを棚卸してみる。そこから生成AIにできることは何か、自分にしかできないことは何かを分類し、小さなことから試しに使ってみるという挑戦を繰り返すことで、自分の仕事においてのベストプラクティスが得られるだろう。
生成AIの登場で世界は確実に変わろうとしている。生成AIがもたらす変化に対して、伊佐氏は今までにない高揚感を覚えているという。
「これまでのビジネスでは、効率を上げれば質が落ち、質を高めれば効率が落ちることが多かったのですが、生成AIをうまく活用すれば、効率も質も高められます。そのことに私はすごくわくわくしています。営業やマーケティング業界は今、自分にしかできないことを追求し、それを突き詰めることができる、ものすごく楽しい時代に入ったと感じています」(伊佐氏)
生成AIの時代はまだ始まったばかり。今後、生成AIに対する人々の意識はどんどん変化していくだろう。HubSpotは今後も生成AIに関する調査を定期的に実施していくという。近い将来、生成AIが人にとってどんな存在になっているのか。今後も注目していきたい。
(※1)出典:「2023年版 中小企業白書 小規模企業白書」(中小企業庁)
(※2,3) 出典:「2023 AI Trends for Marketers」(HubSpot)
HubSpot調査「第1回 日本のマーケティング・営業領域における生成AI
(ジェネレーティブAI)利用に関する意識実態調査」のプレスリリースはこちら
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