こんにちは。NTTデータ クラウド技術部の工藤です。
Google Cloud のイベント「Google Cloud Next’23」が2023年8月29日から31日の3日間、サンフランシスコで開催されました。イベント内では生成AI関連を中心に数多くのサービスや機能・アップデートが発表されました(発表は全161件)
イベント内ではKeynote内の新製品発表や数多くのセッション、スポンサーによる展示ブースなどありました。イベントの模様を全3回でお伝えします。本記事ではKeynoteで発表された内容について紹介します。

Keynoteについて

Google Cloud Next’23では以下3つのKeynoteがありました。

1.Opening Keynote: The New Way to Cloud(動画)
 生成AIを活用するためのインフラストラクチャの新機能やVertex AI・Duet AIに関連するサービスを中心に数多くの発表がありました。本記事ではこちらのOpening Keynoteについて紹介いたします。

2.Developer Keynote: What's Next for Your App?(動画)
 Champion InnovatorsというGoogle社員によって選ばれた技術エキスパートが登壇し、Duet AIやJump Start Solutionなどのツールについてデモを交えて説明されていました。

3.DEI Keynote: Targeted Universalism - DEI 2.0 (動画)
 DEI(Diversity, Equity & Inclusion)についての講演および対談が行われていました。

Opening Keynoteの概要

  • イベントの様子①

Keynoteでは生成AI関連の新製品ついてbuild AI・use AI・AI ecosystemという言葉を用いて以下のような説明が行われ、それぞれのカテゴリで生成AI活用を支援するために新製品の発表がありました。

  • build AI:顧客・開発者がGoogleのAIに最適化されたインフラVertex AIによってAIを構築できるようにすること
  • use AI:すべての人がDuet AIを通してAIを利用できる環境を提供すること
  • AI ecosystem:すべての組織がAIの導入に成功できるようにすること

また、後半ではデータベースやデータ分析、セキュリティに関する発表もありました。以下で発表された新サービスや機能を紹介していきます。

AIに最適化されたインフラストラクチャ

Google Cloudが顧客・開発者に対してAIの構築を支援するためのインフラストラクチャとして以下6つの新サービスの発表がありました。

  • イベントの様子②

1.Cloud TPU v5e(Preview)
 中規模〜大規模のトレーニングと推論に必要なコスト効率とパフォーマンスを実現することを目的としてCloud TPU(Cloud Tensor Processing Unit)の新バージョンが発表されました。
Cloud TPU v5eは以下の特徴があります。

  • コスト効率:TPU v4 と比較して、1 ドルあたりのパフォーマンスが最大 2.5 倍、推論のレイテンシが最大 1.7 倍低い
  • スケーラブル: LLM および生成 AI モデル サイズの全範囲 (最大 2 兆パラメータ) をサポート
  • 多用途: 堅牢な AI フレームワークとオーケストレーションのサポート

2.GKE Enterprise (Preview)
 多くの顧客がAIのワークロードにGKEを利用し、GPUを利用することでソフトウェアのデプロイ時間を70%削減しながら45%の生産性向上をすでに実感しているという説明がありました。
GKEを活用する顧客のニーズに対応するため、マルチクラスタの管理をより高度にする機能としてGKEにEnterpriseエディションが追加となりました。Enterpriseエディションは主に以下3つの特徴があります。

  • GKEとAnthosが統合
  •  別々であったGKEとAnthosのコンソール画面が統合されるほか、Managed Service Mesh やPolicy Controller などといった従来Anthosで提供されていた機能群がEnterpriseエディションで利用できるようになります。
  • マルチクラスタ・マルチテナントGKEクラスタ運用のための機能
  •  従来Anthosで提供されていたクラスタをfleetに登録しグループ化することでマルチクラスタの管理を行う機能がEnterpriseエディションでも利用できるようになりました。また、複数クラスタのNamespace単位でTeamを作成し、RBACの設定等を行うことができるteamsという機能が新たに追加されました。
    • Cloud TPUの新バージョン キャプチャ

  • セキュリティ機能の強化
  •  現在のGKE Security PostureではOSレベルの脆弱性の検知のみ対応していましたがAdvanced Vulnerability Insightsがプレビューとなり、言語ライブラリなどアプリケーションレベルの脆弱性も検知できるようになりました。

 実行中のワークロードに対してより幅広く脆弱性の検知ができるようになったことで、イメージビルド時やイメージレジストリ内の脆弱性スキャンでは検知できなかったビルド後に発見された脆弱性の検知が容易となりセキュリティリスクの低減につながる機能と感じました。Keynoteの中ではAIのワークロードに利用するという文脈でGKE Enterpriseエディションが語られていましたが、AI以外のワークロードに利用しているマルチクラスタ環境においてもニーズのある機能であるという印象を受けました。GKE Enterpriseに関してはブレイクアウトセッションでより詳細に説明されていますのであわせてご確認いただければと思います(動画)

3. A3 VMs
 NVIDIAのH100高速化GPUをベースとしたA3仮想マシンがGA(一般提供開始)となりました。A3仮想マシンは以下の特徴があると説明されていました。

  • トレーニング速度:A2の3倍
  • ネットワーク帯域幅:A2の10倍

4.Titanium System
 ホスト CPU によって実行されていたセキュリティ、ネットワーキング、およびストレージ機能を専用のハードウェアで実行(オフロード)することでCPU がワークロードに対して高いパフォーマンスを継続できるようにする機能がGA(一般提供開始)となりました。これによりC3VMブロックストレージでは他クラウドのインスタンスと比較して25%高いIOPSが実現できると説明されていました。

5.Google Distributed Cloud (GDC)
 GDCの1機能であるGDC Hostedという機密性の高いデータの保持やセキュリティ要件を持つ顧客に対して他の環境と切り離されたプライベートワークロードを実行する環境を提供する機能がGA(一般提供開始)となりました。また、Vertex AIやAlloy DB Omni, Dataproc Sparkとの統合やNVIDIA A100チップといったAIワークロード用のGPUを含む次世代ハードウェアも導入されることが発表されました。
 これらの発表はセキュリティ要件の厳しい業界やデータ主権のニーズのある顧客に対してもAIの活用をサポートすることに繋がると感じました。

6.Cross-Cloud Network (Preview)
 Google Cloud以外のクラウド環境やSaaS等に接続できる以下のようなネットワーク関連サービスのサービス群としてCross-Cloud Networkが発表されました(Cloud Firewall Plusを除いて既存のサービス)。

  • Cross-Cloud Interconnect
  • Private Service Connect
  • Network Connectivity Center
  • Cloud Firewall Plus (NGFW) :今回発表
  • Cloud Secure Web Proxy
  • Cloud Load Balancer
  • Cloud Armor
  • Cloud CDN など

 Cross-Cloud Networkは分散アプリケーションの構築、インターネットに接続されたアプリケーションの提供、ハイブリッドワークのための安全なアクセス環境といったさまざまなネットワークに関わるニーズに答えられるものとして提供すると説明されていました。

 Keynoteでは詳細までは触れられていませんでしたが、ネットワーク関連ではPrivate Service Connect エンドポイントおよび内部Application Load balancerのグローバルアクセスのサポートやプライベートNATも発表されるなどアーキテクチャの選択肢の増える発表も多かったように感じました。Cross-Cloud Networkに関してはブレイクアウトセッションでより詳細に説明されていますのであわせてご確認いただければと思います(動画)

AIプラットフォーム・ツール(Vertex AI)

PaLM2・Codey・Imagenの機能アップデートとして以下の内容が発表され、Keynote内ではデモも行われました(動画)

  • PaLM2:入力トークンの長さが4倍(32000トークン)となり長い文章の処理が容易となったことおよび38の言語に対応
  • Codey:コードの生成とチャットの品質を最大25%向上
  • Imagen:生成した画像にGoogle DeepMind SynthIDによる電子透かしを入れる機能や画像の編集やキャプション機能などのアップデート
  • Imagen アップデート機能キャプチャ

また、Generative AI App BuilderがVertex AI Search and Conversationに名前を変えてGA(一般提供開始)となり、チャットボットや検索を行うアプリケーションを短時間で作れるようになったことやColab EnterpriseによってColabをエンタープライズのセキュリティ要件に沿った形で利用できるようになるなどの発表がありました。

Duet AI(Duet AI in WorkspaceDuet AI in Google Cloud

Duet AI for Google WorkspaceがGA(一般提供開始)、Duet AI in Google Cloudはプレビューとして発表されました。

  • イベントの様子③

Duet AI for Google Workspace
 GmailやGoogle Docsなどにおける文章の作成支援や会議の要約、Google Drive内の関連情報をもとにスライドを生成する機能などが紹介されました。スライドの生成機能に関してはKeynote内でデモが行われました(動画)

Duet AI in Google Cloud (Preview)
 2023年後半にGA(一般提供開始)予定というアナウンスとともにプレビューとして発表されました。以下に示すようなアプリケーション開発やシステム運用・データベースのモダナイズに活用が期待できます。こちらもKeynote内でコードの生成機能やCloud Monitoringのクエリ生成のデモが行われました(動画)

  • アプリケーションのモダナイズ:コードの言語変更やGoogle Cloudへの移行
  • トラブルシューティング:Cloud MonitoringやCloud Loggingの情報から問題の特定をアシストしたりCloud Monitoringのクエリを自然言語から生成したりする機能
  • データ分析:Duet AI in Big Queryを利用することでデータにアクセスして分析するための SQL や Python の記述をコンテキストに応じて生成
  • データベース:Duet AI in Database Migration Serviceを利用することでOracleデータベースからPostgreSQLへの変換を自動化するなどの機能

データベース・データ分析

Duet AI in Google Cloudで発表された機能の他に以下のサービスが発表となりました。

  • BigQuery Studio
  •  データ分析スイートの統合されたワークスペースで、以下のことが可能になると説明されています。
  1. SQL、Python、Spark、または自然言語を BigQuery 内で直接使用し、これらのコード アセットを Vertex AI やその他の製品全体で簡単に活用すること
  2. CI/CD、バージョン履歴、ソース管理などのソフトウェア開発のベスト プラクティスをデータ資産に拡張し、より良いコラボレーションを可能にすること
  3. BigQuery 内でセキュリティ ポリシーを均一に適用し、データリネージ、プロファイリング、品質を通じてガバナンスをきかせること
ノートブックのインターフェイスは同じく今回発表されたColab Enterpriseを利用することができ、Vertex AIでも同じColab Enterprise ノートブックにアクセスが可能となります。BigQueryの新機能に関してはブレイクアウトセッションでより詳細に説明されていますのであわせてご確認いただければと思います(動画)

  • Alloy DB AI
  •  標準のPostgreSQLの10倍高速なpgvector互換の検索が利用できることが発表されました。Keynoteの中ではデータベースからEmbedding(単語や文の意味を表現するベクトル空間に配置すること)が簡単に生成されることやVertex AIと完全に統合されていることが説明され、OracleやSQL Serverなどのレガシーデータベースの移行に最適とも述べられていました。

おわりに

Opening Keynoteの内容を紹介しました。本記事では十分に説明しきれないほど非常に数多くの機能が発表され、大多数が生成AI関連の発表であったことからも生成AIへの期待や注目度の高さを改めて実感しました。
次回以降は個別セッションの内容やNTTデータのブース出展レポートをお届けいたします。お楽しみに。

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