伝統のキリスト教主義学校はChromebookを選択
横浜英和学院は、1880年にアメリカ メソジストプロテスタントの女性宣教師H.G.ブリテンによって横浜山手の居留地に開設された「ブリテンスクール」を祖として、キリスト教教育を基盤に歩んできた学校だ。
幼稚園から高校までをカバーする教育を行っている同学院だが、特に中高一貫教育を担う青山学院横浜英和中学高等学校では教育環境のICT化への取り組みを強化。生徒への1人1台のChromebook端末配布も2019年から順次開始していた。
「生徒に使わせる前に教員が慣れなければいけないだろうと考え、Windows端末を教員に配布したのが2017年頃のことでした。最初はローカル環境で利用しており、授業においてはプロジェクターに教員端末の画面を映し出すような使い方でしたが、のちにG Suite for Educationを導入。生徒用の端末は2019年の秋に中学2年生から高校1年生までの3学年への配布が完了していました」と語るのは、青山学院横浜英和中学高等学校の教諭である濵田真衣氏だ。
最初の教員向け端末は、操作性を最重視したうえで、馴染みがあるWindows端末を導入。しかし生徒向けの端末をどうするか考えたときには、一括管理ができることや導入コストの面からChromebookが採用された。これに合わせて、学校で利用するクラウドサービスもG Suite for Educationに決定したという。
「一番の理由は生徒端末の一括管理ができることでしたが、全員に持たせるにあたってあまり高いものにはしたくないと考えていました。使い勝手に大きな差はありませんから。またWindowsアップデートが授業中に始まってしまう懸念もありましたね。すでに教員端末で休み時間にアップデートが開始されてしまい、次の授業で利用できなかったという例もありました」と濵田真衣氏。
Zoomなどその都度使えるもので対応しながら端末配備を推進
前述したように3学年へのChromebook配布は2019年度に行われたが、バリバリ使っているとはいえない状態だったという。「授業の感覚としてはガラッと変わってしまうので、先生方によって使ったり使わなかったりと教科によって偏りがありました」と濵田真衣氏は振り返る。
苦手意識を持つ教員も少なくなかった状況で、2月27日に突如一斉休校が要請された。緊急処置としてオンラインでの対応を進め、YouTubeを利用した保護者向けの卒業式と入学式のライブ配信を実施。4月にはZoomを利用したホームルームを開始し、4月2週目からはClassroomを活用したオンライン授業を行うなど急ピッチでの対応が行われた。
「端末とアカウントを配布できていない学年はGoogle Meetが使えないので、ホームルームはZoomを代用したりなど、臨機応変に対応していきました。先生方も出勤が戸惑われる環境でしたが、そのぶん集中力はすごかったですね」と濵田真衣氏は緊急対応の様子を語ってくれた。
実は学校に慣れることを優先させたい中学1年生と、選択授業が多く受験対策も始まるなど全員揃った授業が減りがちな高校3年生はアカウント・端末配布をしない予定だったが、授業のオンライン化に伴い、配布計画の見直しを余儀なくされたという。
「もともと、新中学2年生には6月に端末配布を予定していたのですが、急きょ前倒しして5月に配布しました。まだ配布する予定ではなかった新中学1年生は夏休み前に配布。残る新高校3年生は1年間しか学校では使わないので購入はせず、アカウントのみを配布して家庭にあるPCやスマートフォンを使ってもらうという形で進めました」と濵田真衣氏。
G Suite for Educationの導入からChromebook端末手配まで携わってきたサテライトオフィスは、このときの前倒し配布やアカウント発行に協力。全校でオンライン授業ができる体制を整えるためのサポートを行った。
主要5教科からスタートし実技教科までオンライン対応を実現
中学1・2年生への端末を前倒しで手配しつつ、当面は家庭にある端末を利用してもらう形で4月2週目からスタートしたオンライン授業は、まず内容的に取り組みやすい主要5教科から開始された。
「1コマ40分の授業を1日実施し、中学生は主要5教科で時間割を作って取り組みました。高校2・3年生は選択科目や受験体制のために自習というコマをつくり、生徒一人ひとりに合った時間割で取り組むよう指導を行いました」と語るのは、青山学院横浜英和中学高等学校の教諭である横井嵩之氏だ。
生徒の端末操作サポートを担当したという横井嵩之氏は「最初の頃は端末が動かなくなったと言われて、よく確認させたら電源が切れていたなどということもありました」と不慣れな中で全体導入することになった生徒側でも戸惑いがあった様子を語る。
状況が落ち着いた頃、高校3年生だけを対象に時差登校が開始されたが、ほか5学年に対しては1学期いっぱいのオンライン授業が継続された。
「不慣れな先生も多くいましたが、やらなければならない環境だったので日々必死に対応しました。とにかく、学びを止めないということが根底にあったので、オンライン授業がやりやすい主要5教科から手をつけたのですが、段階的に実技教科でも利用しました。私は家庭科担当なのですが、休校期間前にChromecastを利用していました。実技指導用に手元を撮影した動画を休校期間中にも配信できたので、スムーズにオンラインに移行することができました」と青山学院横浜英和中学高等学校の教諭である上田弘子氏は語る。
一気に進んだICT活用、生徒側の自主性と自由度を高めたい
本来は段階的に進められるはずだったICT活用が、コロナ禍の中で一気に進められた青山学院横浜英和中学高等学校だが、対応に苦労はしたものの、その結果には手応えを感じているようだ。
「今回のことでICT活用がだいぶ進みました。Classroomは休校期間中にたくさん利用しましたが、それをきっかけに教員・生徒ともに利便性を実感したのか、通常登校になってからもよく利用されていますね。導入時に戸惑っていた先生方も少し使えるようになると活用方法のアイデアが出てくるようです」と濵田真衣氏は語る。
一方、生徒側の端末の制限は強めにかけられているという。これはセキュリティ面での制限とともに、教育的な配慮も加わっているためだ。もともと携帯電話利用を禁じている同学院では、Chromebookを自由に使える形で与えることは考えていなかった。
「両親が出勤している間に、学校で与えられた端末で動画を自由に見られるのでは困るだろうと、特に家庭学習の期間は簡単に利用範囲の拡張はしませんでした。家庭のルールを学校のツールで破らせないよう慎重に対応したのです。とはいえChromebook自体は非常に魅力を感じていますし、教育上のメリットはあると思うので、今後はもっと理解を深めたうえで時代のニーズにも対応していきたいと考えています」と上田弘子氏は語る。
「利用の手引きを考える段階でどこまで使わせるのかを審議し、しっかりと制限をかけました。今は教員側でルールを決めて制限していますが、今後は生徒たちが主体性を持ってしっかりとルールを守ったうえで、自分たちがしたいようにできる形が理想だと思っています」と濵田真衣氏も今後の利用拡大について語った。
学院全体でのネットワーク整備から始まったICT環境構築が活きた瞬間
現在、青山学院横浜英和中学高等学校では、5学年で1,000台以上のChromebookを利用している。また、G Suite for Educationのアカウントは全生徒と教員に発行されており、教員業務で利用されるものとして、情報共有のための掲示板や出退勤管理にはサテライトオフィスのアドオンも活用されている。
この環境を順次整え、今回の緊急事態に迅速な対応が可能になったのは、以前から横浜英和学院全体でネットワークの再構築を地道に進めてきた基盤があったからだ。その整備にあたって幼稚園から高校までネットワーク全体の整備を統括したのが、横浜英和学院 法人事務局 情報システム室長である上田潤一氏だ。
「横浜英和学院は広い敷地内に複数の建物が存在し、幼稚園、小学校、中学校、高等学校と各校舎でICT環境を順次整備したため、それぞれネットワークが独立していました。そこで、より高速なインターネット光回線に切り替えたうえで、校舎間のネットワーク接続や校舎内の有線LAN接続を行いながら、幼小中高の各教室内の無線Wi-Fi化を完備し、ネットワークを統合させました」と上田潤一氏は語る。
ネットワーク環境を整備したことで各教室でのコンピュータを利用した授業環境が構築され、これを受けて教室へのプロジェクター設置などハードウェア導入も実施。以前からICT環境を整えてきた背景があったからこそ、緊急の全校オンライン授業がスムーズに対応可能になったのだ。
結果的に、5学年に端末が行き渡り、G Suite for Educationアカウントは全校に配備され、教員・生徒ともに遠隔で授業を成立させられるほどに端末やシステムの利用を定着させることができた。時間をかけて準備をしてきたものが一気に花開いた横浜英和学院では、今後ますますICT活用が進められる予定だ。
監修:原口 豊(はらぐち・ゆたか)
大手証券会社システム部に在籍後、1998年、サテライトオフィス(旧ベイテックシステムズ)を設立。2008年、いち早くクラウドコンピューティングの可能性に注目し、サービスの提供を開始。G Suite(旧Google Apps)の導入やアドオンの提供で、これまで実績4万社以上。「サテライトオフィス」ブランドでクラウドサービスの普及に尽力している。
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