全国の高校生と対話し被災地に教育支援をしてきたカタリバの活動
認定NPO法人カタリバは、高校生が大学生や若手社会人と語り合う場を作ることを主体に、2001年から活動を開始した団体である。その「出張授業カタリ場」というプログラムは、親子という縦の関係や、友人との横の関係に捉われがちな高校生に向けて、大学生や社会人とナナメの関係を育むというものだ。ボランティアの大学生や社会人との対話を通して、自分の価値を発見し、自己肯定感を養うことを目的としている。
当初はイベント形式で開催していたが、2011年の東日本大震災が活動形態を大きく変えたという。学ぶ機会や居場所を失った被災地の子どもたちに向けて、「未来をつくれる居場所」をコンセプトにコラボ・スクール活動を開始。後に東京都内の足立区と文京区にも常設拠点を設けるなど、その活動の幅を広げてきた。
さらにカタリバの活動を大きく変えたのが、2020年のコロナ禍である。災害が発生したら現場に駆けつけ、子どもたちに出会いと学びの機会や居場所を提供する活動を進めてきたカタリバ。今回のコロナ禍では日本中、世界中が被災地であると認識したうえで、助けを求める声が出ることを予測し、即応できる体制を整えていたという。
全国一斉休校の要請からわずか5日で「カタリバオンライン」を開始
政府から全国一斉休校要請が出た2月末、カタリバは学習サポートを目的としたオンラインサービスと、保護者への相談窓口を設ける準備を進めていることを発表。3月4日には自宅で過ごす子どもに向けて、オンライン上で大人と語り合える場「カタリバオンライン」を開始した。カタリバ オンライン事業部 辻村麻水氏(取材当時)はこう語る。
「子どもたちが学校に行けないことによって生活のリズムが乱れたり、在宅ワーク中の保護者が子どもの面倒をみられなかったりする課題が浮き彫りになってきました。そういった課題に応えてカタリバオンラインでは、朝と夕方の決まった時間に毎日集まり、各自で好きなプログラムを受けるサービスを提供しています。朝はその日にどのプログラムを受けるかを報告し合い、夕方は1日を振り返ることで、規則的な生活が送れるようにしました」(辻村麻水氏)
オフラインで行っていた活動をオンライン上に移行する形でスタートしたカタリバオンラインは、フリースクールのようなものといえる。突然の休校で友達と顔を合わせることすら困難な状況になった子どもたちに、オンライン上の居場所を提供する活動は順調に滑り出したが、早い段階で次の課題が見えてきたという。
「カタリバオンラインに参加できる子は、家庭にパソコンやWi-Fi環境があることを前提としていますが、端末や接続環境がないために参加できない子がいることに気づいたのです」と辻村麻水氏は振り返る。オンライン参加できない子どもにも同様の機会を与えたいと思い、開始したのが端末とWi-Fi機器を無償で貸し出す「カタリバオンライン キッカケプログラム」だ。
「すべての子どもたちに未来を自分で育む意欲と創造性を届けたいと考え、サテライトオフィスの協力のもと、端末を無償貸与することにしました」(辻村麻水氏)
オンライン参加できない子どもに向けて機会の格差をなくす「キッカケプログラム」
3月中旬には支援の必要性を感じる家庭からの申請を受け付ける窓口を設け、並行して端末の手配を進めたという。そこで採用されたのがChromebookだ。同じくオンライン事業部のイ・サンヨル氏はこう語る。
「GIGAスクール構想における端末ベンチマークテストを実施している国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の豊福晋平氏と以前から付き合いがあり、意見を求めたところ、展開の可能性やコミュニケーションコストを考慮したうえでChromebookとG Suite for Educationの組み合わせが適切な選択だろうと勧められました」(イ・サンヨル氏)
そもそもカタリバではNPO法人向けプログラムである「Google for Nonprofits」を利用しており、管理スキルがすでに組織内で蓄積されていることと、コストメリットが感じられることもChromebookを採用した理由だったという。
そうして導入されたChromebookは、キッカケプログラムとして6月から無償貸し出しが開始された。
子どもの創造性を制限しない「最低限の制限」を模索
子どもたちの端末の利用については、カタリバの方針としてできるだけ自由な環境を与えたいため、制限を少なくしたかったという。とはいえ保護者が仕事に行っている間や在宅ワーク中など、大人の目が届かない場所で子どもたちが利用することを想定する必要がある。何かあったときは保護者の協力を得ながらリモートで対応するとはいえ、やはりどこまで制限するかの判断は非常に難しかったという。
「厳しい制限をかけるのは簡単なのですが、最低限にしようとしたので苦労しました。利用者の中には発達に課題がある子どもや不登校の子どもがいるので、何かあったときのリスクをどう回避するかを考えたうえで、正しくPCを利用できる環境を構築しなければなりません。一般の学校での運用よりも配慮が必要だったと思います」とイ・サンヨル氏は語る。
そこでG Suite for Educationの管理機能と数種類の管理ソフトを組み合わせ、利用状況をモニタリングして、適切な利用範囲の基準を超えた場合にアラートを出す仕組みを作り出した。この管理環境が整ったのが7月のことである。そのあとに追加手配した端末には管理環境をセットして貸し出し、先行貸与していた端末はリモートで管理環境を整備したという。
カタリバが出した答えは個人の状況に合わせた丁寧な対応
一方でカタリバが制限したのは、主にAndroidアプリの利用だ。一般的な学校で制限されがちなYouTubeの視聴やブラウザの利用は制限していない。
「有料アプリの利用は制限することにしています。ゲームについては中毒性の高いものを制限し、学習に役立つようなアプリはOKとしました」とイ・サンヨル氏。
追加で使いたいアプリがあればフォームから申請できるようになっており、基本的には1人でも希望者がいれば許可している。それでも許可できない場合は「うまく利用しきれない子もいるから理解してほしい」とコミュニケーションをとって納得させているとのことだ。
「極端に利用時間が長い、深夜利用が目立つ子どもに関しては週次でアラートを出し、月次でアラートの上位者をチェックしています。場合によっては保護者と連絡をとって利用可能な時間帯や1日の利用時間などを個別で制限したり、YouTubeでゲームなどのカテゴリを一部制限したりしています」(イ・サンヨル氏)
最重要ポイントは親子それぞれとのコミュニケーション
そのほかにもChromebook起動時のホーム画面に各種告知やプログラム参加のためのリンクを含んだマニュアルを表示したり、画面下部にサポートページにアクセスできるボタンを表示したりするなど、Chromebookの機能をうまく活用できているという。それに加えて、カタリバでは利用方法に関する研修をいくつか実施している。
「利用開始にあたっては10分程度のヒアリングを行い、家庭状況を把握しています。親子参加が必須のスタートアップ研修をオンラインで開催し、80分程度で端末や各種ツールの使い方をレクチャーしています。子どもたちには別途研修があり、自分自身でPC利用にあたっての約束を決めてもらいます」と辻村麻水氏。
保護者にはLINEの登録を促し、専用のメンターを配置。一方で子どもにもメンターが付き、Google Chat上のさまざまな相談に対して数分以内で返信する体勢を整備しつつある。イ・サンヨル氏はコミュニケーションで解決できる課題が多くあることを熱弁した。
「重要なのはコミュニケーションで、保護者にはLINE登録を必須でお願いしています。保護者との連携がとれていれば、子どもに多少のリスクがあってもうまくいくものです。フルリモートだからからこそ、保護者との良好な関係を築き、信頼を得ることは重要なポイントです。子どもたちとのコミュニケーションはスピード感が大事で、対応を後回しにしてしまうとのちのち問題に発展する可能性があります。遅い時間でもできるだけ即レスで対応できる体制を作っています」(イ・サンヨル氏)
子どもに寄り添って伴走するキッカケプログラムの展望
朝夕の対話や週次の面談など、グループコミュニケーションを主体とするカタリバオンラインに対し、キッカケプログラムは個別のメンターによる強いサポートが特徴だ。「カタリバオンラインはフリースクールのようなもので、キッカケプログラムはメンタリングに近いですね。出席を促しプログラムをやり切らせることによる自己肯定感の向上を目的として、成果基準を設けながら前後のアセスメントを行っています」とイ・サンヨル氏。
単なる端末の貸与サービスに留まらないからこそ、キッカケプログラムに参加し、Chromebookを活用している数多くの子供たちが前進していることを感じられる。「キッカケプログラムを通して学習の習慣が付いたり、自信を持つことができたりといった成果を嬉しく思っています」と辻村麻水氏も手応えを語った。
今後はさらに端末の台数を増やし、2021年4月からの貸与に向けて準備を進めているという。辻村麻水氏は「ただのPC貸し出し屋になりたいわけではありません。子どもたちとは一緒に学びを深めて行く関係でありたいのです」と言う。学校外で子どもの教育に携わるカタリバならではのChromebook活用は、今後もさらに拡大していくことだろう。
監修:原口 豊(はらぐち・ゆたか)
大手証券会社システム部に在籍後、1998年、サテライトオフィス(旧ベイテックシステムズ)を設立。2008年、いち早くクラウドコンピューティングの可能性に注目し、サービスの提供を開始。Google Workspace(旧称:G Suite)の導入やアドオンの提供で、これまで実績4万社以上。「サテライトオフィス」ブランドでクラウドサービスの普及に尽力している。
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