データ活用を組織で広げていくのは決して簡単ではなく、会社へ還元できるメリットやデータ活用がもたらす具体的な成果を伝え、広げる人材の存在が重要なのではないか。データ活用プラットフォーム「Domo」を提供するドーモ株式会社では、組織内にデータ活用を広げる旗振り役として「データアンバサダー」を提唱している。

今回は、自社のデータ活用をリードした3名のデータアンバサダーをお招きし、座談会を開催した。今回の3名は所属する部署は違ってはいるものの、いずれもIT部門の所属ではなく、データアンバサダーを務めている。業種も職種も違う3名のアンバサダーにある共通点とはどんなものなのか。それぞれの会社で起きた変化とは──。前編となる本記事では、データに着目したきっかけからデータ活用がもたらした変化までのエピソードを語ってもらった。

登場人物紹介

(左から)

津川陽平氏
日本サニパック株式会社マーケティンググループ マーケティング開発部 部長
自社で製造しているごみ袋や食品保存用ポリ袋のマーケティングを手掛けている。2019年10月に中途入社し、2020年に社長直下のマーケティンググループの立ち上げを手掛ける。現在はDomoを活用しながらWebサイト、SNSなどを駆使したマーケティングや市場調査に加え、全社にデータ活用を広げる活動にも取り組んでいる。

平田訓子氏
株式会社スペースシャワーネットワーク ディストリビューション事業本部
音楽配信事業において、2019年のDomo導入当初からデータ活用に携わり、現在はディストリビューション事業本部全体のデータ活用の推進やデータ戦略の立案を担当している。

鳥井太貴氏
KDDI株式会社 コーポレート統括本部 コーポレートシェアード本部 シェアード高度化推進部 BPR推進グループ 兼 コーポレートDX推進部 グループリーダー
KDDIに中途入社後、経理部に配属。会計システム刷新に合わせて業務プロセス見直しが始まり、経営ダッシュボードに適したツールを探していたところDomoと出会う。現在はコーポレートDX推進部門にてBPR推進グループ(鳥井氏がリーダーとしてチーム立ち上げ)のリーダーとしてKDDIグループのコーポレート業務プロセス改革を進めている。

データの重要性に気づいたきっかけ

‐‐まず、データの重要性に気づくきっかけとなった出来事をお聞かせください。

平田氏:音楽市場の売上はこの10~20年でレコードや CDなどの音楽パッケージを製造し販売するフィジカル中心から ストリーミング配信へと大きく変化したのですが、従来は業界全体がデータをそれほど重視していませんでした。というのも、フィジカルはリリース日が売上のピークとなり、その後再ヒットするケースは少ないため、経過を見て施策を打つ必要がなかったからです。ところがストリーミングになると、Apple MusicやYouTubeなどさまざまなプラットフォームが登場し、消費のペースが加速しているため、いかに長く聴いてもらえるかが重要になります。こうした時代では、再生数などのデータを活用して施策を打たなければならず、ここ数年でデータの重要性の認識が音楽業界全体で高まっています。

津川氏:私は前職でECサイトを運用しており、データが完全に整備された環境でした。ところが当社に入社した当時は、マーケティンググループがちょうど立ち上がったばかりだったというのもあり、使えるデータはほぼゼロという状況でした。データがない環境に置かれたことで、データを整備してくれていた人にありがたみを感じながら、あらためてデータの重要性を痛感しました。

鳥井氏:経理と事業部門で、同じテーマで会話をしているはずなのに話が噛み合わないことがよくありました。なぜなら、見るデータがそれぞれで違ったからです。このままでは経営層が間違った意思決定をしてしまうかもしれないと考え、異なる部署間で同じデータを見られる環境を整える重要性を実感しました。

‐‐みなさんそれぞれきっかけが違うのですね。ではデータ活用を始めるときに、まず何から始めたのでしょうか?

平田氏:やはりExcelでの集計から始まりましたね。何十万曲という膨大な数の楽曲データを各プラットフォームの管理ツールからダウンロードし、Excelでまとめていたのですが、何百万行ものデータになるので当然追いつかず、取りこぼしも多かったと思います。何かしらデータを可視化するツールがなければストリーミング時代を勝ち抜いていけないと考え、Domoを導入しました。

津川氏:まずはあらゆるデータを商品軸でまとめてみようと試みました。従来はデータの所在がバラバラで、断片的にしか見られませんでした。データを整備していくうえで、いかに自分たちが見たい形にデータを可視化できるかが重要で、それを実現できるBIツールを導入しようと製品検討を経てDomoにたどり着きました。

鳥井氏:大前提として、データ活用は私一人では絶対にできないものですし、たとえばダッシュボードを作ったとしても、更新し続けなければなりません。つまり、データを扱うプロジェクトメンバー全員がモチベーションを維持し続けられる環境が重要であり、それを作ることから始めました。自分が作ったものが誰かの行動を変えたり、価値を生んだりすることがモチベーションとなり、その積み重ねがDXにつながるのだと思います。そうした楽しさやワクワクを提供してくれるのがDomoでした。

  • KDDI株式会社 コーポレート統括本部 コーポレートシェアード本部 シェアード高度化推進部 BPR推進グループ 兼 コーポレートDX推進部 グループリーダー 鳥井太貴氏

ベースとなる「データ活用マインド」の醸成をいかに進めたか

‐‐データ活用は一人ではできないというお話がありましたが、いかに社内の人間を巻き込みかが重要ですよね。データ活用のマインドをどのように醸成したのでしょうか。

鳥井氏:私はツール先行ではなく、マインドセットが育たなければ業務変革は起きないと考えました。BIツールの活用を促すときは、どうしてもKPIを可視化するなどゴールをアピールしがちです。そうではなく、業務プロセスを含めて可視化することが重要だと思います。業務プロセスが可視化されると一気にジブンゴト化されるので、そこで初めて問題意識を持つ人や、自身の業務変革にアクションを起こす人が増えるようになりました。

‐‐具体的にどのような業務改革が起きたのでしょうか?

鳥井氏:当時経理部門で、グループ会社の連結決算書を作成する際に、会社によってはなかなかデータがあがってこないなど、進捗にばらつきがありました。それまでは各社のステータスは担当者といった特定個人しか把握できていない属人化された状態でしたが、Domo上で共通フォーマットを作り、半ば強制的にすべての会社のステータスを可視化したところ、上層部から自然に指摘が入るようになったり、担当者以外がプロセス自体に問題意識を持つようになったりして、結果的に決算書作成プロセス自体が改善され、作業日数も短縮されました。

津川氏:やはりマインドは重要ですよね。マーケティンググループでは、私も含めてデータを見る習慣があった一方で、全社的にはデータをもとに話をする習慣がなく、経験や勘に頼る文化だったので、マインド醸成には苦労しました。
Domoを導入する前は生データのままで断片的かつ見づらく、「データからは何もわからない」というイメージがついてしまい、なかなかデータを見る習慣がつきませんでした。そこで、「データを見れば直感的に何かに気づける」と思ってもらえるように、Domoを使ってUI/UXを整えるようにしました。それによってデータに対する抵抗感を払拭し、データ活用のマインドが広がっていったと考えています。

‐‐データへの抵抗感をなくすために、どのような工夫をされたのでしょうか?

津川氏:最初は現場が求めるものを作ろうと現場にヒアリングしたのですが、それだと集計の延長線にしかならず、データ活用の本領を発揮しきれませんでした。そこで、データの見せ方をこちらから提案するスタイルにしたところ、まさにそれが求めていたものだという反応が生まれるようになったのです。

平田氏:私もたくさん現場ヒアリングを行いました。これまでは現場が欲しいデータではなく、マネジメント側やデータ活用を推進する側から見てほしいデータを可視化していたこともあり、実はつい最近までマインドセットを変えられた実感がなかったんです。これまでデータを重視していなかった業界の特性もあり、経験と勘で判断する人が多く、データ活用の話題を出すと煙たがられることもよくありました。こうした状況を打破すべく、ドーモの営業担当の方からデータ戦略を行っている外部のコンサルタントを紹介していただきました。2023年12月から半年ほどかけて、データを本当に見てほしい人をプロジェクトメンバーに加え、ミーティングを週1回行うようにしました。

‐‐具体的にはどのようにヒアリングを行ったのでしょうか?

平田氏:それぞれの現場で抱えている課題を2~3カ月ほどかけて徹底的にヒアリングしました。具体的には業務プロセスを整理し、注力アーティスト選定や再生数を伸ばすための施策そのものに問題がないかなど、課題を一緒に探しました。そのうえで、Domoのデータを活用し、そうした課題の突破口を見つけられるようなダッシュボードを一緒に作り上げました。その結果、データにあまりポジティブな印象を持っていなかった人たちのマインドが変わり、データの活用を真剣に考えてくれるようになりました。

  • 株式会社スペースシャワーネットワーク ディストリビューション事業本部 平田訓子氏

個人の意識変革やExcel文化脱却など、Domoが起こした変化

‐‐Domoを使っていて良かったと感じたエピソードを教えてください。

津川氏:営業の方がデータを武器にできるようになったことです。これまで営業活動は担当者個人の経験やスキルによって情報量が左右され、メディア掲載情報やイベント・キャンペーンなど営業に役立つ情報を知らない担当者もいました。そこで上記の情報と点在していた売上や商品の情報も含めて、Domoで簡単に見えるようにしたところ、経験・スキルを問わず営業全員がデータを武器として使えるようになりました。
例えば、Domoのカレンダーカードで見れば、何月何日のメディア掲載、何月何日にキャンペーン開始といった情報を拾えるので「今はこの製品の露出が増えているから、イベントの案内とともに商品紹介しておこう」といった形での活用が実現しています。

平田氏:私も津川さんと同じように、Domoでデータを見ることで個人の意識や行動が変わったことを実感しています。Domo導入前は、自分が担当するアーティストの数字は見ているものの、事業の全体感を捉える必要性に気づけない人が多くいました。今は売上や利益など事業の全体感をDomoで可視化したことで、限られたリソースをどこに配分すべきかを各々が判断できるようになり、意識の改善も進んでいます。

鳥井氏:当社はDomoを活用することで、若手社員を中心に、「これまでの業務のやり方に縛られなくていいんだ」という考え方が生まれました。
従来はベテランの人しか使えないExcelのマクロや情報クエリレポートがあり作業が属人化していました。導入当初はDomoで何ができるかよくわからないところからスタートしたので、とりあえずデータを突っ込んでみるなど、若手社員も含めてみんなで一緒に試行錯誤しました。そこからダッシュボードを作って共有して、Domo上で2人以上から「いいね!」がついたら、自信を持って横展開やボトムアップしていく文化が自然と出来上がり、若手社員にとってはチャレンジしやすい環境になったと思います。Domoを使えば、だれでもデータから何か新しいインサイトを得られるようになり、社内の意識も業務も大きく変わりました。

津川氏:当社も以前はまさにExcel文化で、個人でExcel集計して会議などで報告していたため、人によって情報源が異なっていました。それがDomo導入によってすべてのデータを共通の画面で見られるようになり、同じデータを基に議論できるようになったと実感しています。

  • 日本サニパック株式会社 マーケティンググループ マーケティング開発部 部長 津川陽平氏

非IT部門主導でデータ活用を推進するコツとは

‐‐非IT部門主導でデータ活用を推進するコツをみなさんの経験から教えてください。

津川氏:コツは上層部の力を使うことです。当社の場合、マーケティンググループが社長直下で立ち上がった組織ですので、うまくトップダウンを使えたところはあったと思います。たとえば、Domo導入にあたっては社長の力が不可欠でした。社長からは「営業が出勤してまず見るべきものは、新聞でもメールでもない。昨日の売上をデータで見るべきだ」と共感していただき、親会社の決裁者にもプッシュしてもらい、導入に至りました。

平田氏:私も自分の力だけでプロジェクトを進めるのは難しかったので、上層部の力を借りました。人脈が大事な業界ですから、お客様との関係性から得られる情報がすべてだという意識はまだ強い一方、上層部は情報が属人化することに対して危機感を抱いています。それを解消できるのがデータ戦略ということに気がついてるので、トップダウンで指示してもらうなど、今も積極的に力を借りています。

鳥井氏:先ほどはボトムアップの話をしましたが、私も浸透させるときはやはり上層部の力を借りました。社長やCFOに報告する際に、何も説明しなくても分析結果をDomoで見せるだけで興味を持ってくれました。「上が見ているから」と中間管理職も見るようになります。現場は自分たちのニーズに応じて見せたいものをDomoで作っていくのですが、経営層と現場のミドルクラスを動かすにはやはりトップダウンも必要ですよね。

津川氏:ミドルクラスは私も苦戦しました。Domoの見やすさは実感してもらえたのですが、長年で染み付いたやり方を変えるとなると一気にハードルが上がってしまうんですよね。現場からは複数のツールを使う煩雑さから解放されるメリットを感じてもらい、Domoの利用が浸透しつつあるので、その一方で現場からはボトムアップを活かしミドルクラスとの対話を続けています。

平田氏:現場のやり方を変える難しさは私も感じ、ひたすらトライ・アンド・エラーを繰り返していました。最初はボトムアップで現場が困っていることを効率化してあげたいと考えていたのですが、仕事のやり方を変えるのは難しいとなり、データを使って何をすべきか1度整理する期間を設けるなど、まずはとにかく恐れずに何かをやってみること。そこでつまずいたらまた考えて別の方法を試す……と、結局はチャレンジを続けるしかないと思っています。

鳥井氏:私もなかなか浸透しないときもあったので、その人たちが絶対に興味があるレポートをわざと作ったりしました(笑)。

津川氏:やはり自分ごととして認識してもらえるようになると、データ活用は着実に浸透していきますね。

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前編となる今回は現場だからこそ気がつくデータの重要性を起点に組織全体のデータ活用まで議論が深められた。DXやデータ活用など組織に変化をもたらすためには機動力と継続が必要で、専門的な知識よりも「データを活用したい」という思いが重要であると言っても過言ではない。そうした思いを実現するには、トップダウンとボトムアップをうまく取り入れながら周りを巻き込むことと、専門的な知識がなくてもノーコード操作で見やすいダッシュボードを作れるDomoが不可欠だ。

後編では、Domoの具体的な活用方法を実際のダッシュボードのイメージなども交えながら紹介し、データアンバサダーが見据えるデータ活用の展望について話を伺っていく。

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