デジタルトランスフォーメーション(DX) の波はあらゆる業界に押し寄せています。移り変わりの激しい市場のニーズに対応するためには、デジタルテクノロジーによる「拡張性」「柔軟性」「高速性」の担保が不可欠。そこで多くの企業が取り組んでいるのが“クラウドの活用”となります。
全国に約1500 拠点の支社や支部を構える住友生命保険相互会社においても“クラウド ファースト”を掲げた業務改革が行われており、2020 年6 月の本格稼働に向けて情報システムのクラウド化に取り組んでいます。本プロジェクトで利用するパブリッククラウドとして採用されたのが「Microsoft Azure 」です。データウェアハウス(DWH)をはじめ様々な機能を搭載した「Azure Synapse Analytics 」で、クラウド上でのデータ活用を目指しています。
情報システムの更改を機にクラウド移行を決定、選択したのはAzure Synapse Analytics
1907 年に創業された生命保険会社である住友生命保険相互会社(以下、住友生命保険)ではDX の実現を重要課題と捉え、“クラウドファースト”をテーマにシステムやアプリケーションのクラウド移行を進めています。ミッションクリティカルなデータを大量に扱う金融業界ではクラウドの活用に慎重な面もあり、住友生命保険でもオンプレミスのインフラと内製のアプリケーションを中心にIT システムが構築されています。
とはいえ、ビジネスや社会の急速な変化に対応するには、従来のIT システムだけでは難しいのが現状です。こうした状況に対処するため、2018 年前後より多くの金融機関が一斉にクラウド化の取り組みを開始し、住友生命保険においても2018 年に社内の情報システムをクラウド上に移行するプロジェクトが立ち上がりました。
本プロジェクトは、将来的な次世代アーキテクチャの構築を見据えたものとしてスタートしました。住友生命保険 情報システム部 システム業務室 上席部長代理の中川 邦昭 氏は、その経緯をこう語ります。
「もともとミッションクリティカルな基幹システムを一気にクラウド移行するつもりはなく、システム更改などのタイミングに合わせ、『システムの用途』『必要なセキュリティレベル』『求められる可用性』といった基準からクラウド化に向いているかを検討してきました。今回の情報系システムもオンプレミスのアプライアンスで構成されていましたが、更改時期に合わせてクラウド化を検討、2018 年12 月に経営層の承認を得てプロジェクトを開始したという経緯です」(中川 氏)
住友生命保険では健康増進型保険「Vitality 」など、先進的なサービスを展開しており、ヘルスケア関連も含め膨大なデータが社内に蓄積されるようになりました。このため、迅速性と拡張性を併せ持つ情報システムの構築が求められており、今回のプロジェクトに繋がったといいます。住友生命保険 情報システム部 システム業務室 部長代理の辻本 憲一郎 氏は、同社のDX の大きな特徴として“データの活用”をあげます。
「Vitality ではIoT などのセンサーデータをはじめ多種多様なデータが蓄積され、今後も増加していきます。DX を推進するうえでは、こうしたデータをいかに活用できるかも考えなくてはなりません。その意味では、データを蓄積するDWH をクラウドに構築して拡張性を担保する今回のプロジェクトは必然ともいえます」(辻本 氏)
また、同社が取り組むDX では、本プロジェクトと併行しクラウドを利用したビジネス部門の業務改革も進められています。情報システム部門だけでなく、ビジネス部門のユーザーとも連携し、ビジネスインテリジェンス(BI)や顧客関係管理(CRM)ツールの更新にも着手し、情報システムのクラウド化をフックに、さまざまな部門を巻き込んでDX に取り組んでいます。
こうした状況に留意しながら、情報システムで利用するクラウドサービスの選定が開始されました。検証と評価を行ったのは、スミセイ情報システム株式会社(以下、スミセイ情報システム)です。
「処理性能」「拡張性」「保守運用体制」「コスト」「導入のしやすさ」を評価軸とし、クラウドの特性上、拡張性は問題なし。保守体制は詳細な項目をチェックし、コストに関してはオンプレミスのシステムの基準である「5年更改」ではなく、ハードウェアの入れ替えスパンも考慮した「10 年更改」での比較検討が行われました。
スミセイ情報システム 基盤システム第1 部 上席システムエンジニアの西垣 加奈子 氏は、実際にシステムを利用するユーザーの視点から評価を行ったと話します。
「クラウド=スケールアウト、スケールアップが容易なことはわかっていたので、まずはユーザーの視点から『現行のシステムと同等以上の使い勝手』を実現できるかを中心に検証を行いました。具体的には検索速度やDB の互換性、夜間のデータ伝送処理にかかる時間などを重点的にチェックしました」(西垣 氏)
こうした技術評価を経て、住友生命保険とスミセイ情報システムが採用したのがMicrosoft Azure サービスの1 つ、Azure Synapse Analytics です。「Azure SQL Data Warehouse 」の進化形となる製品で、データの有効活用を強力に支援するソリューションとなります。厳密な技術評価を行ったほか、保守体制に関してはマイクロソフトへのヒアリングを行い、問題ないと判断。セキュリティのチェックシートで通信の暗号化をはじめとした機能や、FISC やCS ゴールドマークの準拠などコンプライアンス面の確認も行われました。
また住友生命保険では、既にマイクロソフトのクラウドサービス「Office 365」を導入しており、その実績もAzure Synapse Analytics が採用された理由の1 つにあげられます。さらに、Microsoft Azure には、ビジネス部門で利用できるアプリやサービスが多数用意されており、前述した業務改革の観点からもベストなチョイスだったといえます。
「“クラウドファースト”は経営層にコミットされており、確実な技術評価を提示するだけで問題なく決定した」と中川 氏は語ります。
マイクロソフトのサポートで、新たな技術や製品の検証を実行
試行導入においては、オンプレミスの社内システム同士でも時間がかかっていたデータ伝送時間を、専用線である「ExpressRoute」とレプリケーションソフト「Attunity Replicate」などを活用し、短縮できることが確認されました。
「試行導入のなかでクラウドを立てるのも初めて、Attunity Replicate も初めて、とスキルが足りないところをマイクロソフトさんや協力企業にサポートしてもらうことで解消していきました」と西垣 氏は当時を振り返ります。
住友生命保険では、全国500 人程度のユーザーが始業時にDWH へアクセスし、ピークの時間帯は1 秒間に10 ~ 20 件のアクセスを処理する必要があるといいます。スミセイ情報システム株式会社 基盤システム第1 部の上田 大智氏は、DWH へのアクセスがピークとなる始業からの10 分間に合わせたサイジングに苦労したと話します。また、クラウドへの移行に合わせてDBMS も変更したため、チューニング作業が重要になったと同社 基盤システム第1 部 上席システムエンジニアの大東 正和氏も語ります。
「これまでのDBMS はPostgreSQL ベースでしたが、今回はAzure Synapse Analytics へ移行するのでSQL Server ベースになり、互換性のチェックやチューニング作業を行う必要がありました」(大東 氏)
さらに大東 氏は、「クラウドの必要性は認識していたのですが、それでもクラウドの特性や留意点が分からないという不安がありました。このため、『クラウドで何ができるか』という技術的な検証に加え、クラウドファーストへのマインドチェンジが必要でした」と話します。
住友生命保険(システム構築はスミセイ情報システム)では、Microsoft Azure においてIaaSやSaaS の導入を経験していますが、今回のプロジェクトのようなPaaS の導入は今回のプロジェクトが初めての試みとなりました。IaaS とSaaS の間に位置するPaaS の導入には多くの企業が苦労しており、本プロジェクトで培われたノウハウは今後のDX に活かされていくはずです。
“ データドリブン” な企業に進化するために、DX への取り組みを推進する
現在、住友生命保険とスミセイ情報システムは2020 年6 月の本格稼働に向けて負荷検証を進めています。DWH のクラウド化自体は直接的な業務改善の施策とはなりませんが、クラウド上にDWH 環境が構築できれば、BI ツールなどDWH を活用するアプリやサービスをテストすることが可能になります。前述したとおり、住友生命保険ではビジネス部門と連携した業務改革プロジェクトも同時に進めており、こちらのプロジェクトも含めた負荷検証を行っている段階です。また上田 氏は、負荷検証においてクラウドの拡張性が大きなメリットになると期待を寄せます。
「負荷検証を行う際、クラウドだからという観点は特に持たず、オンプレミスと同様、本番相当の負荷を検証することを目的としています。ただしクラウドの特性上、ネットワーク負荷についてはしっかりと確認していく必要があります。これまでの負荷検証はハードウェアを購入してから実行していたため、問題があった場合の対処が大変でしたが、クラウドはクリック1 つで拡張できるので助かっています」(上田 氏)
このように、住友生命保険とスミセイ情報システム、マイクロソフト、協力企業は、本格稼働に向けて鋭意作業を進めていますが、その後の展開についても見据えています。
「将来的にはもっと大きなデータレイクを構築し、データ活用のレベルを高めていきたいと考えています。クラウドにDWH を移行したことで、業務向けのSaaS を幅広く利用できる環境が整うことになります。マイクロソフト製品群のさらなる拡充に期待しています」(中川 氏)
「『Vitality』で収集しているデータのさらなる活用が必要といえます。さらに、デジタルマーケティングに取り組む中で、Webやスマホアプリ、ウェアラブルデバイスなどのお客さまとのタッチポイントで収集したデータと医療系のオープンデータなど、外部データを組み合わせて活用するなど、お客さまの生活をあらゆる面で支える新しい保険の価値を届けたいと考えています」(辻本 氏)
今回のプロジェクトと今後の展望において、もっとも重要な役割を担っているのは“データの活用”です。住友生命保険では、データ分析を担う人材の育成も開始しており、Azure Databricks などのソリューションを利用して、自由に分析できる環境の構築を目指しています。目標としているのは“データドリブン”な企業です。働き方改革が進み、サテライトオフィスや在宅勤務などが当たり前となった今、従来の方法ではフォローできない顧客も増えてきており、データを活用した新たなアプローチが求められています。
対面重視で経験と個人のスキルが重要視される旧来型のビジネスである生命保険会社のイメージを変革し、データを活用できる“環境”と“人材”で、ビジネス部門のリテラシーを高めることで、DX を成功させ、“データドリブン”な仕組みを構築できると中川 氏は力を込めます。
現在進行中のクラウド移行やBI ツール導入なども、その一環といえます。大東 氏は「今回のプロジェクトの成功がDX を実現する推進力の一つとなる」とその重要性を強調。西垣 氏も「PaaS の使い方をもっと勉強して多くの活用方法を提案していきたい」と将来を見据えます。
“クラウドサービス”は現在も進化を続けており、Microsoft Azure も頻繁な機能向上が図られています。住友生命保険とスミセイ情報システムが、Microsoft Azure をベースにどのような“データドリブン”なシステムを構築していくのか、今後の動向にも注目したいところです。
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