消費者がモノを購入するきっかけや場所は、日々変化しています。例えば、経済産業省が発表した平成 29 年の飲食料品小売業指数では、コンビニを除く小売店・通信販売における販売の不調を、好調な動きのコンビニ・ドラッグストアが補っていると報告。消費者の飲食料品に関する店選びに近年大きな変化が起こっている可能性が示唆されているのです。
"店でモノが売れない時代" と叫ばれていますが、これを単にネット販売に人が流れているからと結論付けすべきではなりません。先の例からは、リアルに構える店がまだまだ滝ポテンシャル・可能性を持つことが示されているからです。ビール類市場において 8 年連続シェア No.1 の座を堅持しているアサヒビールは、量販店各社と共同し、こうした小売が持つ可能性の最大化に取り組んでします。
"小売が持つ可能性の最大化" にあたっては、膨大にあるデータから消費者の変化を捉え、これを加味した売場設計が求められます。営業担当が容易かつ有効に、パートナーである量販店とともにデータを活用することができる――そんな環境を用意するために、アサヒビールでは 2018 年、Microsoft Azure を利用したデータ分析基盤「カテゴリマネジメントシステム」を構築しました。このデータ分析基盤では、全ジョブの実行環境がマイクロサービス化されています。高い柔軟性によって、消費者の変化やユーザーの声を受ければすぐに改修・機能拡張を行うことができる。こうした特徴を持つ「カテゴリマネジメントシステム」が、日々変化していくこれからの社会にあってもアサヒビールとそのパートナーの売場づくりを強固に支えていくことが期待されています。
量販店と共同して市場開発に取り組む、アサヒビール
アサヒビールは、我が国を代表する飲食品メーカーの 1 社です。同社の売上は、全体のおよそ 70% が量販店による販売で占められています。同社がいかに自宅でお酒を飲む "家飲み層" から高い支持を集めているかが分かるでしょう。
しかし、アサヒグループのアサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 マネージャーの清水 博 氏は、「飲食料品の流通市場は、緩やかではありますが縮小の傾向にあります。様々な要因がこの背景にはありますが、消費者のライフスタイル・ニーズの多様化がその 1 つにあることは間違いありません。消費者が "欲しい" と思ったタイミングに最適な提案ができなければなりません。流通と一緒になって売場を最適化する。機会損失を最小化するために、アサヒビールではこうした流通とのパートナーシップを強化しております。」と語ります。
同氏は続けて、こうした状況ではデータが何よりも重要になると説明。マス的な視点だけでなく、県や市、地域といったエリアにまで細分化し、どのような住民が住んでいるのか、周辺にある店舗はどんな売場づくりをしていて何が響いているのか、棚割りとエリアとの間に相関性は無いかなどを可視化する仕組みが不可欠だとし、そのために「カテゴリマネジメントシステム」と呼ばれるデータ分析基盤を構築したと述べます。
「これまでも POS データや第三者調査データ、オープンデータなどをエビデンスに量販店様へ売場づくりを提案する営業はいたのですが、あくまで全体のほんの一部でした。従来は各システムへアクセスして自分でデータを集計加工しなければならず、どうしてもハードルが高かったのです。ビジネスを抜本的に変えるならば、まずは当社の営業全員が日々当たり前のように利用するデータ分析基盤を用意せねばなりません。また、量販店各社様は自前でデータ分析基盤をお持ちですから、そこでは得られない洞察が提供できる、量販店様からリクエストを受けたデータやレポートが迅速に提供できる、そんな環境でなければ意味がありません。この双方を実現するために構築したのが、『カテゴリマネジメントシステム』です」(清水 氏)。
サービスを発展させ続けるために、DevOps に取り組む
誰もが当たり前のように日々利用する。そんなデータ分析基盤にするためには、ただアクセスすれば直感的に必要な情報へたどり着くことのできる仕組みが必要です。また、消費者のライフ スタイルはめまぐるしく変わります。リリース当時には用意していないようなデータ、レポートを量販店から求められることも容易に想像できます。そうした際に即時対応が可能な柔軟性を備えてなければなりません。
「カテゴリマネジメントシステム」は、パブリック クラウドの Microsoft Azure (以下、Azure) を利用した独自の仕組みによって、今挙げた "直感的な操作" と "高い柔軟性" を実現しています。しかし、ここに至るまでには少なくない苦労があったと、清水 氏は語ります。
「構想自体は2015 年くらいからありましたが、中々具体化することができませんでした。迅速に環境を発展させていくという特性上、当システムでは DevOps の体制が求められます。しかし、当社はこれまで DevOps の経験が無く、多くの大企業と同様に "利点は分かるがうちには無理" という思考に陥っていたのです」(清水 氏)。
こうした状況を変えたのは、ZOZOテクノロジーズに所属しアサヒグループの Architectural Advisor も務める 岡 大勝 氏の助言でした。岡 氏は、「処理内容が変わることの無いサービスならば、ウォーターフォールを採るべきでしょう。ですが、今日の企業内システムはこうしたサービスの方が少数になっています。特に『カテゴリマネジメントシステム』のように、ユーザーの要望を受けて絶えずデータ、機能、処理内容を拡張していく場合、DevOps を前提とした設計でなければ "現場が使わないサービス" になってしまいます。"現場が使うサービス" にしたくても中々仕様が変えられない、そんな悪循環に陥ってしまうのです。アサヒビール様にはこのことをお伝えし、今チャレンジすべきだとお話しました。」と、この助言について言及します。続けて清水 氏は、当時を「私たちは今、ビジネスを抜本的に変えるという方針をホールディングスとして掲げています。この方針に則るならば IT の在り方を変えるべきだと考え、DevOps に取り組むことにしたのです。」と振り返りました。
DevOps を実践する上で、CI/CD (継続的インテグレーション / 継続的デリバリー) に最適化したシステム設計を採ることは不可欠となります。「カテゴリマネジメントシステム」は、設計面で、ある工夫が施されているといいます。
「元データの蓄積とその加工・集計、データ転送、最終テーブルの作成など、あらゆるジョブの実行・管理処理をコンテナ技術でマイクロサービス化しました。新たな機能や処理が必要になってもコンテナを 1 つ増やして対応できる、新しいデータを追加する場合も "元データを加工・集計するコンテナ" だけ改修すればいい。まるでスマートフォンのアプリのように、簡単に機能やデータを追加していくことができるのです」(岡 氏)。
「モノリシックな設計では、機能改修の度、システム全体への影響を考慮せねばなりません。リリース時にはメンテナンス時間を設けてサービスを止める必要もあるでしょう。マイクロサービスでは機能単位で改修・デプロイすることが可能です。Kubernetes を利用して一連のジョブ管理を自動化すれば、空いたリソースを開発側へ割り当てることもできます。DevOps を実践することで、GUI、取り扱いデータ、機能等あらゆる側面からユーザーの要望に応え続けることができます」(清水 氏)。
エンタープライズのアプリケーション用途ならば、Azure 一択だった
既述の通り、「カテゴリマネジメントシステム」は、Azure をプラットフォームにしてサービスを提供しています。
この基盤では、ユーザーがアクセスすることになる Web アプリケーションに Azure App Services を、Web アプリケーションがデータを参照するデータベースに Azure SQL Database、Azure Database for MySQL、Azure Cosmos DB を利用する他、ジョブの実行・管理環境の Azure Container Service や ジョブのプロセスを制御する Azure Data Factory 等、PaaS を全面的に採用したサーバー レスが採用されています。
清水 氏は「Azure はデータ分析基盤に必要な PaaS を一通りそろえています。これを活用することで、運用負荷を大きく削減し、尚且つシステムのアジリティ (俊敏性) も飛躍的に高めることが可能となります。豊富な PaaS の存在は、当社が Azure を選択した 1 つの理由でした。」と語ります。また、機能面以外にも、同プロジェクトにあたり Azure を選択した大きな理由があったといいます。
岡 氏は清水 氏の言葉を紡ぎ、このように続けます。
「代表的なパブリック クラウドには、それぞれ特徴があると考えています。その中での Azure の特徴は、エンタープライズにおける DevOps に適しているということです。エンタープライズではスキル セットの異なる数多くのエンジニアが介在しますから、"誰もが手を入れられる仕組み" にすることが求められます。Azure はダッシュボードの作り、容易な開発環境を提供する Visual Studio といった各種ツールなど、随所に標準化の志向が施されています。また、開発環境の標準化だけでなく、多数いるユーザーの権限も Azure Active Directory ならば容易に管理できます。今回のケースにおいて、この点は大きな優位性でした。例えば Amazon Web Services の場合、仮想マシンやネットワークそのものを触れるという利点を持ちますが、自由度が高いだけ属人性も高まってしまう恐れがあり、本件には適さなかったのです」(岡 氏)。
"今回のように多数のエンジニアが介在して 1 つのロジック、1 つのアプリケーションを開発していく場合、選択すべきパブリック クラウドは Microsoft Azure 一択でした。"
-岡 大勝 氏 : Architectural Advisor
アサヒグループ
ユーザー要望に応えることが、"現場に使われるサービス" に繋がる
アサヒビールでは、2018 年 3 月に「カテゴリマネジメントシステム」の構築プロジェクトをスタートし、わずか 9 か月後の 12 月には作業を完了させています。
大規模なシステム構築を短期完了したことも然ることながら、驚くべきはリリース後の改修頻度です。清水 氏は、「ユーザーから受けたリクエストについては順次対応していく体制を採っています。小さいものも含めると、リリースから 3 か月程の間で数十回の改修を行っています。」と説明。こうした運用体制もあって、「カテゴリマネジメントシステム」は既に、"現場に使われるサービス" になっていると笑顔を見せます。
「『カテゴリマネジメントシステム』では、担当エリアや店舗情報を選択するだけで、参照すべき各種データが一覧化されます。ドリル ダウンによってデータを深堀していくことも可能です。データ活用のハードルを大きく引き下げるサービスを初期開発で用意できたこと、またその後に寄せられるユーザー要望に即座に対応していったことで、社員の中に『自分のツール』という意識が生まれています」(清水 氏)。
"現場に使われるサービス" になったというのは、データを基にした考察が社員
にとって当たり前になったことと同義です。データ活用を基軸にビジネスの在り方を変えていく上で、このことは大きな成果だと言えるでしょう。"
-清水 博 氏 : 業務システム部 マネージャー
アサヒプロマネジメント株式会社
続けて岡 氏は、ユーザーである社員から絶えず要望がきている点もポイントだとし、その理由をこのように説明します。
「同じことを続けていては、事業は停滞していきます。失敗してもいいから何か新しいことを試し、成功の芽を生み出していく。あらゆる部門がこれを短期サイクルで進めていくことが求められているのです。システムへの要望を出しこれがすぐに反映されるというのは、ユーザーにとって、今挙げたことの 1 つの体験になるはずです。『カテゴリマネジメントシステム』を通じて社員が短期間での成功体験を重ねていく、そしてこれが、"新しいことを試す" という風土を創り出していく。この目線で見ると、DevOps という試みは企業全体の競争力を高めることにも繋がり得るのではないかと考えます」(岡 氏)。
DevOps の体制のもと、「カテゴリマネジメントシステム」はこれから先も、改修・機能拡張が進められていきます。
量販店などの小売と共同して進めるアサヒビールの "売場改革" が、これからの売場を変える。そんな世界が、今、すぐそこに来ています。
[PR]提供:日本マイクロソフト