いま、医療機器業界に大きな変化が訪れようとしています。2018 年 5 月、厚生労働省は医薬品医療機器等法の改正を見据え、「条件付き早期承認制度」や「先駆け審査指定制度」を法制化する議論をスタートさせました。最先端の治療を短期間に審査、承認できるようにすることで、患者への適用を早めるのが目的です。今後、医療機器メーカーは優良な機器をいかに素早く開発し、市場提供できるかが問われるようになるでしょう。
デジタル X 線画像診断システムをはじめ、数多くの医療機器を製造しているコニカミノルタは、こうした業界動向を見極め、研究開発の迅速化にいち早く取り組んできました。同社は製品開発に関わるドキュメントの管理、および市場提供後に顧客から寄せられる苦情や品質情報と管理ドキュメントとを結びつけるトレーサビリティを、東洋ビジネスエンジニアリングの提供するクラウドサービス Business b-ridge で確保。これによって各国の医療機器認証への対応を格段に向上させるとともに、開発スピードを高めているのです。コニカミノルタの製品開発を支える Business b-ridge は、強固なセキュリティ ポリシーのもとに運用されている Microsoft Azure をプラットフォームとしています。
医療機器を安定的に製造販売する。このために、厳格なコンプライアンスに対応したドキュメント管理システムが必要だった
コニカミノルタは、レントゲン画像をデジタル化する X 線撮影装置や超音波診断装置を始めとする様々な画像機器・IT ネットワーク サービスをグローバルに展開しています。近年は個人レベルで最適な治療方法を分析、選択してそれを施すプレシジョン・メディシンの分野 (個別化医療) へ進出するなど、同社は常にあらたな技術を研究し、製品化に取り組んできました。同社の使命について、コニカミノルタ株式会社 ヘルスケア事業本部 開発企画部 テクニカルサポートグループ チームリーダーの藤本 顕夫 氏はこのように語ります。
「当社は従来、X 線や超音波などから得られる画像情報を『可視化』することにフォーカスしてきました。ここで培った当社の強みである最先端の画像技術を、昨年米国で買収した 2 社が展開していたプレシジョン・メディシンに生かす取組を行っています。つまり分子レベルの遺伝子・たんぱく質の診断により、個々人にあった予防・治療・投薬の『個別化医療』を可能にし、QOL の向上と医療費削減に貢献することが、これからのコニカミノルタの使命だと考えております。そのために、当社では開発プロセスをすべてクラウド上に集約することで、先端技術の基礎研究から製品化、市場供給後の改良までの流れをスムーズに進めるしくみづくりをすすめています」(藤本 氏)。
製品を開発し、市場に供給する、そして顧客ニーズを反映して改良する……、これらのリード タイムを短縮することは、企業のプレゼンスを向上させるためには欠かせない要素です。特に医療機器業界ではトレーサビリティを厳格に確保することが求められているため、スピードの向上には開発体制そのものをデジタル化していくことが必要となります。そのためにコニカミノルタが採用したのが、東洋ビジネスエンジニアリング (以下、B-EN-G) の提供する Business b-ridge でした。藤本 氏は、このサービスを選定した理由をつぎのように話します。
「医療機器を製造販売する場合、国内の医薬品医療機器等法 (GxP) やアメリカの米国食品医薬品局 (FDA:Food and Drug Administration) 認証といったさまざまな法規制を遵守し、認証を受け、査察を受け入れなければなりません。また規制は最終製品だけが対象ではなく、開発時や製造時に利用するコンピューター システムも、CSV (Computerized System Validation) で定義した細かなプロセスを経る必要があります。さらに『○○ で発生したクレームに対して、どのような対応、検証、仕様変更、告知をおこなったか。この不具合に関連した他の事例は何か。』というレベルで要求される査察に対し、その都度紙のファイルを探し、リストを制作していては、膨大な時間がかかってしまいます。それだけで、市場への供給や製品アップデートが数か月単位で遅れてしまうのです。Business b-ridge は、こうした医療機器業界のコンプライアンスに対応している、数少ない文書管理システムでした」(藤本 氏)。
CSV に対応したクラウド サービスであることが、大きな決め手だった
グローバルで事業展開しているコニカミノルタにとって膨大な数に及ぶすべての規制に対応可能なパッケージ システムはほとんどありません。Business b-ridge は、医療機器業界のコンプライアンスに対応可能なサービスであること、さらに SaaS で提供されていることが、コニカミノルタにとって大きな利点でした。藤本 氏はこのように説明します。
「CSV の適用範囲は、ハード / OS / アプリケーションといったシステム全体が対象になります。これにくわえて定期的な OS のセキュリティ パッチやアプリケーションの機能向上に伴う検証もおこなうわけですから、オンプレミスではこれらを検証するための環境を整備し、検証を行い、検証記録を残して本番環境へ適用することが必要で、これらに多大な労力と時間を要してしまいます。当社が実現すべきはトレーサビリティの確保であり、システムはあくまで手段です。システム保守活動は最小限に留めたく、ハード / OS / OS セキュリティ パッチ / 標準機能アップ時のバリデーションは B-EN-G で行い、弊社ではカスタム開発した機能のみをバリデートすればよい SaaS 形式の Business b-ridge は、当社としてはベストなサービスでした」(藤本 氏)。
この Business b-ridge は、実は医療機器業界に特化したドキュメント管理サービスではありません。さまざまな業界で利用できる汎用的なサービスとして設計されています。それではなぜ、同サービスは、医療機器業界の厳格なコンプライアンスに対応できているのでしょうか。東洋ビジネスエンジニアリング株式会社 ソリューション事業本部 デジタルサービス本部 b-ridgeサービス部 部長の岡 正弘 氏は、まずサービス開発当時のことをこう振り返ります。
「Business b-ridge は、BtoB に特化したクラウド サービスとして開発されました。複数企業が同じサービスをセキュアに利用できるよう、Business b-ridge はマルチ テナントを前提として設計しています。また、システム運用を効率化するため IaaS ではなく PaaS を利用することを最初から志向して構想を開始しました。2013 年のサービス提供開始から Microsoft Azure をサービス基盤にしていますが、この理由はまず、PaaS 機能が他サービスと比較して充実しており、また唯一 SLA を提供していた点にありました。こうした経緯でサービス提供を開始しましたが、当社はもともとヘルスケア作業のお客様が多く、CSV への対応をご要望いただくようになりました。そして、当初の思惑にはなかった PaaS 以外の Microsoft Azure の強みもあって、厳しいコンプライアンスへの対応が可能になりました」(岡 氏)。
マイクロソフトの情報公開性と高度なセキュリティ ポリシーが、CSV 対応を可能にした
B-EN-G は Business b-ridge のサービス イン前から、「コンピューター化システムバリデーション支援サービス (以下、CSV サービス)」を医薬品製造業、医療機器製造業に向けて提供してきました。これは、法規制下業務 (GxP、QSR) をコンピューター化するに際して求められる CSV について、システム アセスメント、開発業務、運用手順の整備、検証業務の側面から支援するサービスです。
CSV は、アプリケーションのバリデーション (妥当性の検証作業) とインフラのクォリフィケーション (適格性評価) に分離されます。クラウド サービスを利用するとなると、企業はクラウド ベンダーと契約を締結しサービスを利用するだけのため、直接は、クラウド サービスを構成するハードウェアやソフトウェアのクォリフィケーションを実施することができません。このような場合、ベンダー監査を実施してベンダーの管理状況を確認するのが定石となりますが、大手クラウドベンダーのほとんどは顧客の監査を受入れておらず、これが行えないのが実情です。しかし、Microsoft Azure の場合、状況が少し異なっていたといいます。
「クラウド サービスが高いガバナンス、セキュリティ ポリシーを持つことは、あくまで前提です。何よりも重要なのは、当社で直接管理できないインフラに対して抽出したリスクに対する評価を、アセスメント + 実施検証というフレームワークで実施できることです。Microsoft Azure の場合、監査法人がクラウド ベンダーに与える "SOC1"、"SOC2" 取得し公開しています。こうした公開情報をエビデンスにすることで、コンプライス対応を明示した環境をパブリック クラウドでも用意することができました」(岡 氏)。
これにつづけて藤本 氏は、Business b-ridge のサービス基盤が Microsoft Azureであることは、コニカミノルタにとってもサービス採用の決め手になったといいます。
「Business b-ridgeは、企画、開発、供給段階のプロダクトに関する膨大なドキュメントを管理します。そこで扱われる商品の企画や技術情報は、決して外部に漏れてはならない機密情報です。正直なところ、検討段階では、社外のクラウドにこうした情報を預けて本当によいのかという懸念も少なくありませんでした。しかし、世界有数の IT 企業であるマイクロソフトが厳格な管理ポリシーに基づいて運営しているという安心感は、他には代えがたいものがありました。既に情報系システムで Office 365 を導入していたこともあり、安心感と信頼感にもとづく決定ができたと思っています」(藤本 氏)。
監査対応に要する期間を大幅に短縮。開発プロセスの共有により、品質向上にも貢献
コニカミノルタが Business b-ridge を採用した当初の目的は、市場に供給している製品の査察や監査対応を迅速化することにありました。しかし、藤本 氏は「現在ではこうした迅速化だけでなく、市場投入前の商品企画、商品開発の領域まで、活用の幅が拡がっています」と笑顔を見せます。
「Business b-ridge を利用する前は 、査察や監査対応に数か月の準備を要していましたが、今では即座に対応できるようになっています。また、電子化し蓄積されたドキュメントを新たな開発プロジェクトで活用しやすくなったことも見逃せません。ユーザーからは新製品の立ち上げ時に必要となる類似ドキュメントを検索して参考にすることや、過去の仕様書や報告書等から、技術 / 検証手法 / 報告方法のノウハウを学び、活用することができたなど、高評価を得ています。開発から生産までの製品全体を即座に見渡せることになったことで、スピードだけでなく品質もさらに向上させていくことができるでしょう。これは、顧客満足を最大化していく上で、大きな前進です」(藤本 氏)。
現時点では、Business b-ridge を利用しているのは、日本を拠点とするコニカミノルタヘルスケア事業本部内の組織のみとなっています。しかし、同社は今後、海外拠点やパートナーとのコミュニケーション ツールとしても、同環境を大いに活用していくことを構想しています。
「すべてを独力でやるのではなく、さまざまな企業と連携していかなければ、いずれ品質や開発スピードに限界が訪れるでしょう。今後は、国内外のパートナーやサプライヤーと製品情報を共有しながらプロジェクトをすすめる必要があると思っています。Business b-ridge では柔軟にアカウント権限を切り分けることができるため、こうした共創を支えるプラットフォームとしても活用していけると考えています」(藤本 氏)。
「Microsoft Azure の Azure Active Directory B2C は OAuth や SAML といった標準的なプロトコルに対応しているため、外部と連携するための認証基盤構築にも容易に対応できます。また、これからは開発プロセスやワークフローをさらに加速させていくことも求められると思います。システムに蓄積したドキュメントやログを分析すれば、プロセス最適化のヒントが見つかるかもしれません。たとえば PaaS の Azure Machine Learning を活用すれば、AI が過去のプロセスを読み込んで実プロジェクトにアドバイスするような機能も用意できます。サービスの提供側としてこうした機能拡張もすすめることで、コニカミノルタ様のビジネスを支援して参ります」(岡 氏)。
あたらしい技術を具現化して、難病に冒された患者を救う。これを早期に実現することは、極めて大きな社会要請です。課題提起型デジタルカンパニーとして常に最前線の技術を研究し、製品化に取り組むコニカミノルタは、トレーサビリティを確保した開発環境のもとで、これからも社会の期待に応えつづけていくことでしょう。
[PR]提供:日本マイクロソフト