企業としての競争力向上が求められる中、既存事業の強化に加えて「新規事業の創出」を経営戦略に掲げる企業が増えつつあります。「ユーザーにとって本当に有益」で、なおかつ「企業収益に結びつく」事業を生み出す過程では、ビジネス モデルの見直しが往々にして発生します。しかし、市場の変化によってビジネス チャンスが失われることを考慮すると、悠長にプロジェクトを進めることは許されません。1950 年の創業後、約 70 年もの間、ドライバーの給油を支援し続けてきた株式会社宇佐美鉱油も、新規事業を推進する 1 社です。同社では顧客に向けてさらなる価値を提供すべく、未知の市場となる EC マーケットへの参入を計画。しかし、ビジネス モデルの変更が度重なったことを背景とし、同社はまさに、先の事態に直面することとなります。計画から半年遅れで IT 要件の定義を開始することになった中、宇佐美鉱油では、システムの構築期間を短縮化することで当初計画したサービス イン時期に追いつくことを構想。株式会社ピーエスシーが提供する Azure ソリューションを採用したことで、当初の計画時期でのサービス インに成功しています。

構築直前に発生したビジネス モデルの見直し。計画どおりのサービス インには、柔軟かつ俊敏性をもつ IT が不可欠だった

主要幹線道路に470 の直営サービス ステーション (以下、SS) を構える株式会社宇佐美鉱油 (以下、宇佐美鉱油)。ガソリン、軽油、エンジン オイルを主軸とした同社の物流サービスは、エネルギー庁を経由して供給される軽油のうち、およそ 14% ものシェアを保有するなど、多くのユーザーから支持を得ています。この高い支持は、80,000 の法人会員、700 万の個人会員という同社のサービス会員数にも現れています。2018 年夏からは、新サービス「うさマートジャパン」の提供を開始することで、既存顧客へのさらなる価値提供が目指されています。

うさマートジャパンは、同社の個人、法人会員に向けて提供する、カー サプライを中心とした EC サービスです。市場においては後発ともいえるうさマートジャパン。しかし同サービスが秘めるポテンシャルは、カー サプライの EC 市場を変化させる可能性を持ちます。たとえば個人ユーザーの場合、会員の車種情報と連携したしくみによって、ユーザーは自分の車と適合するカーサプライだけを安心して購入することが可能です。法人ユーザーの場合は、給油とカー サプライの支払が統合できる機能によって、商流の簡素化が期待できます。こうした既存 DB、既存取引を最大限に活かした機能の数々は、他サービスにはないうさマートジャパンの大きな優位性です。

中でも特にユニークな機能が、「オムニチャネル連携」と「基幹システム機能」です。同サービスで購入した商品は、直送だけでなく全国の宇佐美鉱油 SS で受け取ることが可能。また、従業員や SS のスタッフにとっては、同サービスが SS の仕入れや在庫管理、経費管理を行う基幹システムとなります。

SS の来店目的は、言うまでもなく「給油」です。石油販売業界の難しいところは、ユーザーが SS を選ぶ理由の多くが「必要となった際、最寄りにある」こと、つまりリピート化の難易度が高い点にあります。EC と融合したオムニチャネルのしくみを SS に取り入れることによって、給油以外に来店目的を付帯することが可能です。「これは、数ある給油スポットの中で当社 SS を選んでもらう動機付けになるでしょう」と近藤 氏が語るとおり、うさマートジャパンが持つしくみは、「既存顧客のロイヤル化」を大きく推進し得るのです。

また、こうした販売戦略とはまったく別軸のねらいもありました。SS には「3 K 労働」というイメージが付きまとっており、人材不足が常態化しています。いかにして現場の業務負荷を削減し、少人数でも滞りなく業務が完了できるよう支援するか。これは宇佐美鉱油のみならず、石油販売業界全体の命題といえるでしょう。この解決策として、同社では、これまで分断されていた「商品調達」「消耗品調達」「部材管理」「在庫管理」「経費管理」といった SS で利用するシステムの、うさマートジャパンへの統合を考えます。複数のシステムを利用せねばならなかった作業を統合することで、業務効率が最適化されることを期待したのです。

  • うさマートキャプチャ

「既存顧客のロイヤル化」と「業務効率の最適化」という大きな命題をもつうさマートジャパン。同サービスは「2 年後のサービス イン」を目指し、2015 年 3 月に新規プロジェクトとして発議されました。2015 年 12 月までにビジネス モデルを策定し、翌年 1 月からは IT 要件の定義とシステム設計を開始。そして 4 月からは構築作業のスタートを予定していましたが、ここで大きな問題が発生します。構築着手直前の 2016 年 3 月になって、ビジネス モデルに大幅な変更が発生したのです。この出来事について、近藤 氏は次にように語ります。

「うさマートジャパンが現在のビジネス モデルになるまでには、フィールド調査をはじめとするさまざまな取り組み、協議が進められました。新規事業を『ユーザーにとって本当に有益』で、なおかつ『企業収益に結びつく』ものとして進める過程では、ビジネス モデルの変更が往々にして発生するものです。しかし、2016 年 3 月の方針転換は、変更というよりも刷新に近いものであり、3 か月を要して計画してきた IT 要件やシステム設計についてもゼロ ベースからの見直しを迫られるものでした」(近藤 氏 )。

ユニークなサービスは、「世の中にいまだ存在しないこと」が大きな価値となります。サービス インまでに類似サービスが登場した場合、その存在はビジネス チャンスを逃す大きなリスクとなるでしょう。計画の後ろ倒しはまさにこのリスクを増徴することであり、宇佐美鉱油としてはそれを避ける必要がありました。ビジネス モデルが流動する中、それでも計画どおりにプロジェクトを進めるためには、俊敏性と柔軟性を兼ね備えたベンダー、そして提供基盤の選定が不可欠だったのです。

セキュリティ水準と優れた拡張性を評価し、Azure を採用

IT 要件とシステム設計の見直しが発生したとはいえ、サービス インの後ろ倒しは許されません。したがってこれを支援するベンダーには、プロジェクトの状況に合わせた柔軟かつ迅速な対応能力が求められました。この指標のもと、宇佐美鉱油ではベンダー 5 社を対象とする比較検討を実施。結果、株式会社ピーエスシー (以下、ピーエスシー ) を選定します。この理由について、近藤 氏は次のように説明します。

「ピーエスシーは、当社が求めた柔軟性や俊敏性を有するだけでなく、インフラとアプリケーションの両側面で高い技術力を備えていました。うさマートジャパンでは、同一サイトながらユーザーごとで異なるサービスが利用されることとなります。システムも複雑な構造となっており、サービス イン後の機能拡張も考慮すると、パッケージ製品を採用するのではなくスクラッチでの開発が必要でした。難易度が高く、要件も適宜変化するプロジェクトですが、ピーエスシーであれば、優れたアイデアとそれを裏付ける技術力、そしてすばやいフットワークをもって期待以上の支援をいただけると考えたのです」(近藤 氏)。

うさマートジャパンのビジネス モデルが現在の形に固まったのは、2016 年 6 月のことです。当初の計画からおよそ半年遅れての進行となり、予定どおりサービス インするためには可能な限り構築に割り当てる期間を短縮化する必要がありました。新規事業という特性上、利用ユーザー数やそこで必要となるリソースの試算は困難です。オンプレミスを提供基盤とする場合、構築よりも前段階のサイジングや機器調達に多くの期間を要することが懸念されました。

こうした背景から、宇佐美鉱油とピーエスシーは、提供基盤へのクラウド活用を検討。複数サービスで比較検討した結果、マイクロソフトが提供する Azure の採用を決定します。物理ハードウェアに依存せず拡張性も持つクラウドを活用すれば、構築開始までのリードタイムが短縮化できます。これは、クラウド サービス全般に共通した大きな利点といえるでしょう。

その中でも Azure を採用した背景として、今回のプロジェクトを支援した株式会社ピーエスシー Solution Consultant Team 兼 Digital Marketing営業部 執行役員本部長 山本 昌史 氏は、高いセキュリティ水準を挙げます。

「うさマートジャパンは、Web サービスとしてだけでなく基幹システムとしても機能します。そこではオンプレミスにある基幹システムとの連携、つまりハイブリッド クラウドの形をとることとなり、クラウド側には高いセキュリティ水準が求められます。Azure は国内でも数少ない『CS (クラウド セキュリティ ) ゴールド マーク』の取得事業者であり、機密性の高い情報を預けるのに十分な信頼性を有していました」(山本 氏)。

ピーエスシーはこれまで、多くの Azure 案件に携わってきました。同プロジェクトのようなハイブリッド クラウド構築についても、多くのノウハウとセキュリティを担保するためのサービスを有しています。数あるクラウドの中から Azure を選択したことは必然だったといえるでしょう。

こうしたセキュリティ水準の利点に加えて、リソースと機能の両側面で優れた拡張性を持つことも高く評価されました。株式会社ピーエスシー 第四事業本部 執行役員 兼 マーケティング室 室長 北添 正和 氏は、この点について次のように説明します。

「Azure は独自開発の SLB (サーバー ロード バランシング/サーバー負荷分散) 機能を備えており、突発的にトラフィックが増大した場合でも自動的にスケール アウトして対応可能です。また、Azure Machine Learning (機械学習 ) や、Azure Bot Service (チャット ボット サービス) など、将来的に実装するであろう多くの機能を PaaS として提供しています。新規事業は、サービス インして終了、というわけにはいきません。その後も随時改良、発展させていくことが求められます。リソースだけでなく、機能面でも高い拡張性を備える Azure は、そうしたサービスの提供基盤として適していたのです」(北添 氏)。

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  • 宇佐美_概念図

当初の計画どおり無事サービス イン。構築期間の短縮化が、ビジネスの成功とコストの削減をもたらす

Azure の採用を決定後、宇佐美鉱油とピーエスシーは 2017 年 1 月から Azure 上での構築作業を開始しました。それからわずか 3 か月後の 4 月にはサービス提供をスタート。プロジェクトの発議当時に計画した「2 年後のサービス イン」を果たしたこととなります。当初は SS スタッフにユーザーを制限していましたが、法人向け、個人向けとユーザーを拡大し、2018 年夏、無事グランド オープンを迎えました。

" Web サービスは変化が激しい業界です。少しのサービス インの後ろ倒しが、その後の事業の明暗を分けることもあります。今回のプロジェクトでは、ビジネス モデルの度重なる変更によって進行に遅れが生じたものの、システムの構築期間でそれを取り戻すことができました。Azure の採用によってシステムを短期間に構築したことは、うさマートジャパンというビジネスの成功可能性を高める意味で、最適な選択だったと感じています"
-近藤 洋英 氏: 経営企画本部 EC事業部 課長
株式会社宇佐美鉱油

スムーズなサービス インを実現した理由について、山本 氏はこう説明します。

「クラウド インテグレートでは、多くの場合、クラウド事業者に問い合わせなければならない事態が発生します。ほとんどのクラウド事業者が 24 時間 365 日のサポートを謳っていますが、実はそこでの対応水準は事業者によってまちまちです。マイクロソフトはオペレーターによる Q&A だけでなく、SE レベルのサポートも 24 時間 365 日水準で提供しています。これは短期構築を実現する上で、きわめて有用でした」 (山本 氏)。

いかに迅速にシステムの構築作業を進めようとも、クラウド事業者からの回答待ちに時間を要しては、それがプロジェクトの進行を妨げる大きなボトルネックとなります。マイクロソフトが整備する高水準のサポートは、トラブルの解消だけでなく、短期開発という側面にでも有効に機能したといえるでしょう。

構築期間の短期化は、エンジニアリングに要する人件費の圧縮にも繋がります。近藤 氏は、オンプレミスでの構築と比べた場合、期間だけでなくコストの観点でも大きな効果を生んでいると語ります。

「仮にオンプレミスで構築した場合、サービス インの時期は現在よりも半年は後ろ倒しになっていたでしょう。また、データセンターの費用やハードウェアの調達コストだけでも、Azure と比較して 30% ほどコスト高となります。加えて半年分のエンジニアリング費用も加算されるわけですから、Azure を採用したことで得られたコスト削減の効果は非常に大きなものです」 (近藤 氏)。

Azure が有する PaaS を活用して、さらなるサービスの発展を目指す

Azure を採用したことで得られた効果は、構築期間とコストの圧縮だけに留まりません。北添 氏も触れたとおり、Azure では豊富な PaaS を活用することで、容易に新たな機能を実装できます。宇佐美鉱油が取り組んだ今回のプロジェクトは、サービス インで終了したわけではありません。顧客要望を反映してサービスを発展させていくこれからのフェーズこそが、本番だといえます。そこでは Azure が擁する拡張性が有効に機能することでしょう。

近藤 氏は、今後のサービス発展の構想について、次のように説明します。

「個人と法人ユーザーに向けてより最適な商品が提案できるよう、機械学習の技術を組み込んだレコメンド エンジンを実装する予定です。また、商品を提供するサプライヤーがうさマートジャパン上で出店できるマーケット プレイス機能の実装も予定しています。サプライヤーが積極的に商品を出品することによって商品ラインアップが充実する、そのラインアップの中からユーザーは最適な商品が購入できる、このような世界を実現す ることで、既存顧客のロイヤル化を進めていきたいと考えています」(近藤 氏)。

うさマートジャパンは、こうした既存顧客のロイヤル化に加えて、業務効率の最適化という命題も抱えています。今回の取り組みで、SS に散在していたシステムの統合化は果たすことができました。今後は、いかにしてそこでの作業を自動化していくかが求められるでしょう。北添氏は、Azure が有する機能を活用することで、新機能の実装、作業の自動化にアプローチしていきたいと語ります。

「機械学習の Azure Machine Learning を利用すれば、レコメンド エンジンも速やかに実装できるでしょう。また、Azure Bot Service を駆使することで、作業の自動化へもアプローチできるかもしれません。情報基盤のデータと業務基盤を Azure で連携していくことで、業務効率の最適化に向けたアプローチの幅は拡大できます。今後は、うさマートジャパンだけでなく、宇佐美鉱油様の事業全体も支援できるよう、尽力していきたいと考えています」(山本 氏)。

レッド オーシャンともいえる EC 市場に対して、独自の価値をもったサービスを提供することで既存顧客のロイヤル化を目指す宇佐美鉱油。綿密な事業設計を経て、なおかつオン スケジュールでサービス インを果たしたうさマートジャパンが、今後、EC サイトの新しい形となることが期待されます。

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[PR]提供:日本マイクロソフト