日新火災が30年以上稼働するメインフレームをMicrosoft Azureによりモダナイゼーションしました。その第一弾として取り組んだ「労災あんしん保険」システムは、2023年7月から稼働を開始。JavaアプリケーションをCI/CD環境で開発・保守できるようにして、サービスのリリース速度を向上し、データベースなどもPaaSを活用したマネージドサービスで運用管理の負担を大幅に軽減させています。

損害保険サービスを支えるメインフレームをMicrosoft Azureによりモダナイゼーション

1908年に創業し、国内リテール市場に軸足を置いて、地域社会に密着した営業活動を行っている日新火災海上保険株式会社(以下、日新火災)。東京海上グループの一員で国内リテール分野を担う損害保険会社として、シンプルでわかりやすい商品の開発や、お客さまから信頼が厚い代理店とともに質の高い損害サービスを提供すること等を通じて、「お客さまから選ばれ成長する会社」を目指しています。

そんな日新火災が事業環境の変化にすばやく対応し、持続的な独自の成長を進めるために取り組んでいるのが、メインフレームで構築された基幹系システムのクラウド環境へのモダナイゼーションです。モダナイゼーションプロジェクトの責任者である國廣達成氏は、取り組みの狙いをこう話します。

「私たちの事業の中心は、リテールのお客さまをお守りすることです。ですから、デジタルの力を駆使して、シンプルでわかりやすく安心できる保険をどこよりも手軽に購入いただきたいと考えています。その姿を追求するために、購入しやすい保険料、代理店の負担軽減、手続きの簡素化などを追求しています。メインフレームを中心とした基幹システムのモダナイゼーションも、そうした持続的な成長に向けた施策の一環です。保険商品を販売するために代理店や社員が利用するシステムや、事故が起きた際、保険金をお支払いするために社員が利用するシステム等多くのシステムを今後クラウドにモダナイゼーションしていく計画です」(國廣氏)

  • (写真)日新火災海上保険株式会社 IT企画部 企画グループ 課長 國廣達成氏

    日新火災海上保険株式会社 IT企画部 企画グループ 課長 國廣達成氏

日新火災のシステムは、基幹業務を担うメインフレームのほかに、代理店やお客さまが利用するWebシステムなど500台近いサーバがオンプレミス環境で稼働しています。メインフレームは1988年12月から稼働しており、COBOLとアセンブラなどを用いた13システム約1220万ステップという大規模なものです。また、代理店や顧客が利用するWebシステムや周辺システムはWindows、Linux、AIXなどで開発されており、基幹システムと夜間バッチで連携する構成です。モダナイゼーションプロジェクトは、これらのシステムをクラウド環境へ10年以上かけて移行する大規模プロジェクトです。そして、そのクラウド環境に選定されたのがMicrosoft Azureでした。

ホスト人材の枯渇、ブラックボックス化、開発運用費の増加などの解消を目指す

モダナイゼーションに取り組んだ背景には、日新火災が直面していたシステム面での課題を解消する狙いもありました。安川真斗氏は、課題は大きく5つあったと指摘します。

「1つめは、ホスト人材の枯渇です。ホストを扱う我々のメンバーが不足することに加え、今後は外部から人材を調達することも難しくなるとの懸念がありました。2つめは、システム価格が高騰するリスクです。ホスト人材が減り利用者も減ると、その分システムの価格も上がることが予想されました。3つめはブラックボックス化です。30年以上前に作られているため、わからない部分がありメンテナンスできなくなる恐れがありました。4つめは二重開発による開発費の増加です。ホストシステムとWebシステムで同じような仕組みを作るようなケースが増えていました。5つめは保守運営費の増大です。オープン系システムのほとんどは仮想化しており、サーバ台数は年数十台規模で増えていく状況でした」(安川氏)

  • (写真)日新火災情報システム株式会社 販売推進ソリューション部 担当部長 安川真斗氏

    日新火災情報システム株式会社 販売推進ソリューション部 担当部長 安川真斗氏

モダナイゼーションは、COBOLのコードをJavaに変換するアプリケーションのモダナイゼーションと、メインフレームをオープン系に移行するインフラ基盤のモダナイゼーションの2つの取り組みを並行して行いました。システムごとにこの2つのモダナイゼーションを同時に実施する計画で、その第一弾として選ばれたのが「労災あんしん保険」システムです。

「労災あんしん保険は、従業員の業務上のケガや病気に備える保険で、2016年10月から販売を開始した商品です。商品を販売するためのシステムをメインフレームで開発し、フロントの一部をWebシステムで構築していました。基幹システムのなかでも新しいシステムで、実際にコーディングを担当したCOBOLエンジニアも在籍していました。モダナイゼーションのひな形となるような構成ということもあり、最初に移行するシステムに選定したのです」(安川氏)

COBOLからJavaへ移行することはすぐに決まりましたが、問題はインフラ基盤の選定だったといいます。

すべてのリスクを洗い出して検討、すべての基準を満たしたのがAzureだった

インフラ基盤のモダナイゼーションにおける議論について、野口一臣氏はこう話します。

「業務の根幹となるミッションクリティカルなシステムですから、堅牢性や信頼性を確実に担保する必要があります。その一方で、新しい開発をスムーズに実施できる柔軟性や拡張性が求められました。オンプレミスを含めてさまざまな選択肢を検討しましたが、その際に最も重視したのはすべてのリスクにきちんと対応できるかどうかです。加えて、運用のしやすさ、社内に知見やノウハウがあるか、リソースをすばやく調達できるか、モダナイゼーションの進展に合わせて柔軟に対応できるかなどを考慮しました。数ヵ月に及ぶ検討の結果、最終的に残ったのがAzureでした」(野口氏)

  • (写真)日新火災情報システム株式会社 ITインフラソリューション部 担当部長 野口一臣氏

    日新火災情報システム株式会社 ITインフラソリューション部 担当部長 野口一臣氏

決め手になったのは、リスク洗い出しの際にマイクロソフトユニファイドエンタープライズサポートによるきめ細かな対応でした。

「洗い出したリスク項目は百数十に及びます。特に大きかったのは、自社でデータを持たない状況でトラブルが発生したときどうするか、メンテナンスのタイミングが事業者まかせになり計画メンテナンスできないことでした。データを持たないことについては、バックアップやディザスタリカバリ、可用性セットの仕組みで対応できるとわかりました。また、計画メンテナンスもユーザー側で管理できる仕組みがあることがわかりました。マイクロソフトの担当者からは、それら1つ1つのリスクについて、どう対応できるかを丁寧に説明いただきました。そうした姿勢を見て安心感が得られたことが決め手になったのです」(野口氏)

Azureを採用した背景には、Webシステムや周辺システムの開発で.NETを多く活用していたことも挙げられます。開発チームや運用チームにノウハウがあったため、アプリケーションやインフラをPaaS化する際にも、知見が生かせることを評価したのです。

COBOLをJavaにリビルド、アプリとデータベースを中心にPaaSをフル活用

Azureへのモダナイゼーションは、アプリケーションのJavaへのリビルドと、インフラ基盤のマイグレーションを並行して進めました。いずれもAzureのPaaSをフル活用する構成です。アプリケーション開発における苦労やメリットについて、安川氏はこう話します。

「開発で苦労したのは、Javaの採用にあわせて新しい考え方や開発体制を整備したことです。既存の業務とCOBOLを知るホストのメンバーがオブジェクト志向などのJavaの基本から学びつつ、自分たちで手を動かしながら開発することを基本としました。COBOLからJavaへの移行は、変換ツールなどは使わずに、すべて書き直すリビルドという手法を採用しています。Javaの環境は、Azure App Service上で稼働させることになるので、業務を知るメンバー自身が新たな言語や環境でシステムを作り直すほうが、PaaSのメリットを生かせると考えたためです。また、Javaへの移行とあわせて、Azure DevOps Serverを採用してCI/CD環境も構築しました。COBOLを扱っていたメンバーが自分たちでCI/CD環境でコードのメンテナンスや開発した機能のリリースができるような環境を整えました」(安川氏)

インフラ基盤のマイグレーションでの苦労やメリットについて、野口氏はこう話します。

「データベースをAzure SQL Managed Instanceに移行し、関連する監視やセキュリティ、運用管理などのサービスでPaaSを採用しました。IaaSはバッチ処理の一部のみです。最も苦労したのは、受け入れテストです。これまではオンプレミス環境で完結できましたが、クラウドの場合、外部との接続や周辺システムとの接続など、これまでになかったテストが必要です。想定外の事態が起きやすく、実際、受け入れテストは4ヵ月の予定が1ヵ月ほど伸びました。リハーサルなどの後工程を短くして対応したのですが、その際もマイクロソフトのサポートからさまざまなアドバイスをいただき、助かりました」(野口氏)

モダナイゼーションを自動車保険、火災保険、新種保険などに拡大

「労災あんしん保険」システムのモダナイゼーションは2021年3月からスタートし、2年超の期間を経て、2023年7年から本稼働を開始しています。現在はモダナイゼーションの第一弾を終えた段階ですが、すでにさまざまな効果を確認しているといいます。

アプリケーション開発という点では、開発速度の向上や保守性の向上が挙げられます。

「アプリケーションはローコード開発製品で画面を構築しています。また、バックエンドはAPIで連携できるように構成されていて、コードの修正やサービスのリリースもAzure DevOpsを使ったCI/CDで実施できます。これまではサービスの改善が必要なときも、改修の申請や承認、テストなどの関係で年1〜2回の頻度でしか実施できませんでした。今後は、年3~4回でサービスをリリースすることも可能です。サービス内容は、保険料率の改定や補償内容の改定、特約の追加など適宜見直しています。今後は、事業環境の変化にあわせてより柔軟に迅速に変更できるようになります」(安川氏)

また、インフラ基盤の運用という点では、モダナイゼーションに向けて抱えていた5つの課題を解消する目途が立ったことが大きいといいます。

「Javaへの移行とクラウドへのモダナイゼーションにより、ホストにまつわる課題や二重開発の課題を解消できます。既存システムのクラウド移行が進むなかで、オンプレミスサーバの保守運営費も削減できるでしょう。システム運用管理という点では、Azureのさまざまなサービスを使ってコストを最適化し、トラブルに迅速に対応することが可能になりました。例えば、Azure MonitorのApplication Insightsを使って、CPUやメモリの使用率、各種アラートの確認、障害調査などを1つの画面で一気に確認できます。サービスのレスポンスが悪いときに素早く対応できるようになりました」(野口氏)

今後は、モダナイゼーションの対象システムを、主力商品である自動車保険、火災保険、新種保険などに拡大していく予定です。國廣氏は、次のように将来を展望します。

「今後のモダナイゼーションに向けた土台を作ることができました。新商品の開発や質の高いサービス提供、さらに、Azure OpenAI Serviceなどの最新機能も積極的に活用しながら、『お客さまに選ばれ成長する会社』を目指していきます」(國廣氏)

モダナイゼーションは10年にわたる長期的な取り組みです。マイクロソフトはこれからも日新火災を支援していきます。

*所属部署、役職等については2024年4月現在のものです。

  • (写真)集合写真

[PR]提供:日本マイクロソフト