社会知性(Socio-Intelligence)の開発を教育目標に掲げ、社会の諸課題を解決できる人材の育成に取り組む専修大学が、全学の学生と教員が利用する教育研究用情報システムを構成する重要システムの 1 つとして Azure Virtual Desktop を採用しました。コンピュータ実習を行うための環境を、専用の教室(端末室)に常設されていたPCから Azure Virtual Desktop に移行し BYOD(Bring Your Own Device)を実現することで、多様な教育ソフトウェアをどこでも 24 時間利用できるようにしました。端末室という物理的な制約から教育研究活動が解放されることで、どのような効果が得られたのでしょうか。取り組みをリードした佐々木 重人 専修大学長、髙橋 裕 情報科学センター長に話を聞きました。
情報教育に力を入れ、社会の諸課題を解決できる人材の輩出に取り組む
1880 年(明治 13 年)、当時は外国語での講義が一般的ななか、日本で初めて経済学と法律学を日本語で学べる高等教育機関として誕生した専修大学。質実剛健・誠実力行を学風とし、現在は 8 学部 20 学科を設置しています。建学の精神は「社会に対する報恩奉仕」であり、それを現代的に捉え直した 21 世紀ビジョンとして「社会知性(Socio-Intelligence)の開発」を教育目標に掲げ、社会の諸課題を解決できる人材を輩出し続けています。
在籍学生数は約 1 万 8,000 人、教職員は約 1,500 人で、東京都千代田区の神田キャンパスと、神奈川県川崎市にある生田キャンパスの 2 拠点で構成されています。文系学部が中心でありながらコンピュータ教育や情報教育に力を入れている大学としても知られ、1960 年代から情報科目を数多く用意し人材育成に取り組んできました。
専修大学の端末室の特長として、適切な規模の教室を多数整備し、多様な端末を揃えていることが挙げられます。多くの大学では 100 名以上の学生が一度に学べる大規模な教室を用意することが多いなか、専修大学では教育効果を高めるために、 20 ~ 50 人ほどが学べる小規模な教室を多数整備しています。また、高性能なデスクトップ PC から小さなサイズのノートPCまで多様な端末を揃え、ソフトウェアについても、映像音声から、言語・開発、統計・分析、地理などまで約 90 種類を用意しています。
もっとも、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は大学にも大きな影響を与えており、情報教育やコンピュータ利用のあり方が大きく変化したといいます。IT インフラの企画・整備を担う情報科学センターのセンター長を務める商学部教授 髙橋 裕 氏はこう話します。
「これまでは教育研究のためのコンピュータやネットワークを4 年前後の間隔でリプレースしてきました。このペースで2020年からリプレースの準備をする予定でしたが、COVID-19 の影響からオンライン授業の実施をはじめとしたさまざまな対応を優先することになり、リプレースの準備は中断せざるを得ませんでした。学生がキャンパスに通学できなくなり、学生の私物 PC を使ったオンライン授業がスタートし、キャンパス内の PC 約 2,400 台は利用されなくなりました。また、文部科学省が数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度を開始したのと時期を同じくして、本学もこの分野の教育をさらに強化しました。こうしたさまざまな環境の変化にあわせて、大学のコンピュータ利用のあり方を抜本的に見直すことにしたのです」(髙橋 氏)。
COVID-19 によってさまざまな変化が引き起こされ、 IT を中心とした技術進化やそれらの技術を活用する機運が加速しました。そうした技術のなかで専修大学が注目したのが仮想デスクトップです。学生の BYOD 端末向けに Azure Virtual Desktop を活用した教育環境を構築したのです。
学生のBYOD端末を授業で活用、学修環境を Azure Virtual Desktop で用意
Azure Virtual Desktop の採用は、単なるシステムリプレースにとどまらず、専修大学の情報教育の質向上をふまえての取り組みでした。
「システムのリプレースでは、成果物の評価にいかに旧システムからパフォーマンスを向上させるかといった指標を採用しがちです。しかし、今回はそうした考え方から離れ、本学がどのような教育を行い、どのようなアウトカムを学生に提供するのかという視点から、ゼロベースで新システムのあるべき姿を検討しました。結果として行きついたのは、学修用の端末は学生に用意してもらい、大学はインフラやソフトウェア環境の構築と提供に注力するということでした」(髙橋 氏)。
しかし BYOD 導入にあたっては、懸念もあったと髙橋 氏は述べます。
「BYOD における課題は端末が多様になりすぎることです。あまりに多様な環境は教えづらさや学びづらさにつながり、教育効果を落としかねません。また実習のためのソフトウェアも自分で導入することになります。ソフトウェアの導入でつまずいてしまい、スムーズに授業ができないケースも考えられます。さらに、 Windows だけでなく、 Mac を利用する学生もいるので、導入できるソフトウェアに制約がでることもあります。これらの課題を解決できるのが Azure Virtual Desktop でした」(髙橋 氏)。
環境の変化に合わせて柔軟にシステムを拡張できる点を高く評価して採用
Azure Virtual Desktop の採用にあたっては、オンプレミス型の VDI も検討したようですが、教育活動を行う上で、BYOD のPCで対応可能な範囲がどの程度なのか、仮想デスクトップの利用は今後どの程度広がるかといった予測が難しく、変化に対応できる基盤としてクラウドの活用を優先したといいます。クラウド型の仮想デスクトップのメリットについて、髙橋 氏は次のように説明します。
「クラウドを利用することで、変化に柔軟に対応することができます。必要に応じて臨機応変に性能を向上させることもできますし、足りない機能やリソースがあればダイナミックに追加することもできます。ソフトウェアの追加やアップデートも、これまでより頻繁に実行可能になります。すでにラーニングマネジメントシステム(LMS)などで Azure を利用しており、クラウドのメリットを感じていました」(髙橋 氏)。
専修大学では LMS に加えてMicrosoft 365 を全学導入しています。教職員は、日常的に Exchange Online や SharePoint Online 、 Microsoft Teams を活用していました。そうしたなかで Azure Virtual Desktop を採用した理由は、過度にカスタマイズされた特殊な環境ではないこと、一般的なデスクトップ環境を短期間で構築できると考えたことだといいます。
「 Azure Virtual Desktop は、さまざまな既存のソフトウェアを稼働させることができます。学生はリモートデスクトップクライアントアプリをインストールするだけですし、 Mac 向けのクライアントアプリも提供されています。学生の多様なハードウェア環境をサポートできること、学生自身で授業に必要な環境を整えやすいこと、教職員がサポートしやすいこと、環境の変化に合わせて柔軟にシステムを拡張できることなどを考慮すると Azure Virtual Desktop が最善の選択でした。さらに Azure Virtual Desktop に必要なライセンスは、Microsoft 365 の包括契約で満たせるため、追加購入が不要となり、コストメリットを出しやすい点も評価しました」(髙橋 氏)。
加えて、日本国内にデータセンターがあり信頼性が高いこと、 Microsoft 365 との親和性が高く、今後 Azure が提供する最新機能を利用しやすいことも考慮したといいます。 Azure Virtual Desktop の採用は、情報科学センターに設置された「次期システム検討委員会」の要求にも見合うものでした。学長の佐々木 重人氏を筆頭に、2021 年半ばから学内の会議体で検討を重ね、2022 年 7 月に正式決定しました。その後、具体的な構築作業がスタートし、2022 年秋には本番環境の一部の利用を開始し、検証をふまえて 2023 年 4 月のグランドオープンに至っています。
「マイクロソフトに、今後あるべきシステム構想について相談にのってもらうなかで Azure Virtual Desktop をご紹介いただきました。どう利用していきたいのかを整理し、そのうえでどのようにシステムを構築するかなどをマイクロソフトの支援を受けながら、急ピッチで検討していきました」(髙橋 氏)。
情報資産の活用と学生へのサービス提供という点で非常に大きなインパクトを確認
Azure Virtual Desktopを使った実習は2023年4月からスタートしています。学生はMicrosoft Office や Web ブラウザを日常的に使います。これらのソフトウェアを利用するときは、BYOD 端末のローカル環境にインストールしたソフトウェアを利用し、専門的なソフトウェアを用いた実習などの際には、Azure Virtual Desktop にアクセスします。実習に利用しているのは、統計・分析の R 言語や開発環境である Jupyter Notebook 、地理情報システムである MANDARA や QGIS といった OSS ツールが中心で、今後は有料ライセンス版ソフトウェアも含めて拡充していく方針です。
髙橋 氏は、Azure Virtual Desktop の導入効果は大きく3つあったと指摘します。
1 つめは、 BYOD による使用環境の多様化が授業運営を困難にするという懸念が払拭されたことです。
「学内の多様なステークホルダーにも新しいシステムをスムーズに理解し受け入れてもらうことができました。 また、古い OS を BYOD で持ち込んだ場合でも、 Azure Virtual Desktop につなぐことで最新の環境でスムーズに授業に参加できます。もし Azure Virtual Desktop を導入しないまま BYOD を実施していたら、学内の授業が混乱していた可能性もありました」(髙橋 氏)。
2 つめは、最新のシステムを 24 時間、どこからでも利用できるようになったことです。これにより学生へのサービス提供時間は数倍に拡大したと言えます。
「卒業論文の作成などで端末室の PC を長く利用したいという学生もいたのですが、利用時間に制限があったため、作業途中でも帰宅せざるを得ないこともありました。 Azure Virtual Desktop があるおかげで、自宅でも電車の中でも作業ができます。情報資産の活用という点でも、学生へのサービス提供という点でも非常によいインパクトがあります。また、場合によっては有料ソフトウェアを学部や研究室ごとに導入し、二重投資になっているケースを見直すことで、ライセンスコストの最適化も期待できます」(髙橋 氏)。
3 つめは、3 〜 4 年ごとに行っていた PC のリプレース作業がなくなったことです。
「コロナ禍によりPC のリース期間を延長して導入から 6 年を越えるような古いハードウェアもあり、学生も使いづらさを感じていたと思います。Azure Virtual Desktop を利用することで常に最新のシステムを利用できるようになり、運用管理の作業負担やコストも削減できました。また、クラウドのメリットを活用した段階的な移行が可能なため、大規模なシステム移行に伴うシステム停止を避けられるようになりました」(髙橋 氏)。
大学が描く理想を、実現を前提とした計画に脱皮させる役割を担うのが Azure
実際に Azure Virtual Desktop を利用した学生からは、「Mac を使用しているため、先生と画面が違い困ることもあったが、 Azure Virtual Desktop を利用して同じ環境が使えるようになった。」「自分の PC にインストールされたソフトウェアが先生の使っているバージョンと異なり困っていたが、 Azure Virtual Desktop を使うと先生と同じ、かつ最新のバージョンが利用できる。」「 PC が低スペックでローカルのアプリケーションの動作が遅かったが、 Azure Virtual Desktop はサクサク動く。」など肯定的な意見が多数あがっているといいます。
Azure Virtual Desktop はこれまでの端末室の利用状況などをふまえ、最大の同時接続数が 700 台になるように構成されています。具体的には、セッションホストの台数が 4 名あたり 1 台と想定し 150 名同時利用で 38 台構成としています。もちろん、将来必要になれば利用状況に合わせて最大の同時接続数を変更することも可能であり、その点も評価されています。髙橋 氏は、導入で苦労した点やマイクロソフトのサポートについて、次のように振り返ります。
「検証を進めるなかで一部のアプリケーションが正常に動作しないケースや、Windows Store で公開されているアプリケーションと Web サイトからダウンロードできるアプリケーションで動作が微妙に異なるというケースもありました。何か課題に直面するたびに情報科学センターを支援する情報システム課のメンバーがマイクロソフトや構築支援パートナーと連携し、解決に向けて一緒に取り組んできました。そうした課題に向き合っていく経験はわれわれにとっても学びになりました。ノウハウが蓄積されていくことで、情報システム課と教職員の啓発にもつながると考えています」(髙橋 氏)。
また、システム導入をうまく進めることができたポイントについては次のように説明します。
「変革をためらうケースもありますが、移行するメリットや『利便性は下がらないこと』をユーザーにしっかり伝えることで、多くのステークホルダーを味方にしていくことが大切です。また、クラウド移行で単純なコスト削減につながるというよりも、クラウドのフレキシビリティがどうコストに影響を与えるのかをきちんと説明すること、ときには増えるコストもあることを理解してもらうことが重要です」(髙橋 氏)。
佐々木 学長は今後の展望について、次のように語ってくれました。
「専修大学では、SiU (Socio-intelligence University)グローカル・スマートキャンパス2024 を掲げ、学生が卒業した後のキャリア形成を視野に入れた教育改革に取り組んでいます。新しいIT環境は、この SiU グローカル・スマートキャンパスを実現するインフラでもあります。大学の描いた理想や願望を、実現を前提とした計画に脱皮させる、その役割を担うのが Azure Virtual Desktop をはじめとした IT サービスなのです。BYOD と Azure Virtual Desktop の合わせ技は、端末室という物理的な制約を解放しました。今後は、マイクロソフトとの連携をさらに強め、SiU グローカル・スマートキャンパスに向けたさまざまなニーズに Azure Virtual Desktop を中心とした新システムで対応していきます」(佐々木 氏)。
今回の COVID-19 はビジネスや生活においてさまざまな変化をもたらし、新しい教育のあり方を問われることになりました。今後もIT技術の進化により、ビジネスや生活がめまぐるしく変化していくなかで、高等教育の幅も広がっていくことでしょう。そうしたなかで今後もマイクロソフトのサポートに期待を寄せていると髙橋 氏は言います。
「マイクロソフトが掲げている、より少ないリソースでより多くの価値を実現する『 Do more with less 』という方針に強く共感しています。大学で実現すべきことは増える一方で、それを限られた人数でサポートしていかなければなりません。デジタルの力で可能な限り人の労力を削減し、現在取り組んでいる業務はもちろん、これまでできなかった教育・学生サービスに力を注いでいくつもりです。マイクロソフトさんにはぜひ、Azure や Power Platformなどの活用を中心に今後も継続的にサポートいただきたいですね」(髙橋 氏)。
専修大学の教育改革の取り組みを今後もMicrosoftソリューションが支えていきます。
マイクロソフトが掲げている、より少ないリソースでより多くの価値を実現する『 Do more with less 』という方針に強く共感しています。大学で実現すべきことは増える一方で、それを限られた人数でサポートしていかなければなりません。デジタルの力で可能な限り人の労力を削減し、現在取り組んでいる業務はもちろん、これまでできなかった教育・学生サービスに力を注いでいくつもりです。マイクロソフトさんにはぜひ、Azure や Power Platformなどの活用を中心に今後も継続的にサポートいただきたいですね
─髙橋 裕 氏: 商学部教授 情報科学センター長
専修大学
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