愛媛県東部に位置し、南を西日本最高峰の石鎚山、北を瀬戸内海に囲まれた西条市。“水の都”と称される自然豊かな観光地区である一方で、農業都市・工業都市としても四国屈指の面積を有しています。ICT を活用し、誰もがつながり、安心・安全で豊かな生活を送れる「スマートシティ西条」の構築を推進する同市では、特に教育分野での ICT 活用を積極的に展開。地方自治体としては非常に早い段階から教育系・校務系・学習系システムのクラウド化に取り組んでおり、Microsoft Azure (以下、Azure)を採用し、利便性を損なうことのない三層分離環境を実現しています。こうした取り組みを踏まえた次のステップとして、西条市教育委員会ではオンプレミス上で運用している VDI 環境のクラウド移行に着手します。そこで選択されたのは、Azure 上で提供される仮想デスクトップサービス「Azure Virtual Desktop(AVD)」でした。

地方自治体として、いち早く教育・校務システムのクラウド化を推進した西条市教育委員会の先見性

愛媛県の中心的都市の 1 つとなる西条市は人口約 11 万人。教育分野では小学校 25 校、中学校 10 校の全 35 校(すべて市立)を擁しており、約 8,000 人の児童・生徒が通っています。これらの小・中学校における ICT 環境を担う西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係長の白石 正和 氏は、同市の教育分野における ICT 活用について、次のように語ります。

  • 西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係長 白石 正和 氏

    西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係長 白石 正和 氏

「西条市教育委員会では、市全体の総合計画を骨子とした教育基本方針に基づいて、スマートスクール、GIGA スクール構想の実現に向けた取り組みを進めています。クラウド化にも早くから着手しており、Azure を導入して、オンプレミス環境とのハイブリッドでセキュリティと利便性を担保したシステムを構築・運用してきました。学習・校務ともにクラウドを積極的に活用し、“学び”と“業務”の効率化を目指しています」(白石 氏)。

このように、地方自治体としては、かなり早い段階から教育・校務システムのクラウド化を進めてきた西条市。その背景には、クラウドのメリットを活かして利便性とセキュリティの両立、および震災や災害が発生した際の業務継続性を担保したいという狙いがありました。個人の機微情報を扱う教育現場の校務に関しても、VDI(仮想デスクトップ)を用いて境界型分離の仕組みを構築してセキュリティを担保していますが、VDI のクライアントはクラウド化が遅れ、オンプレミス環境の仮想化基盤上で運用されてきました。この仮想化基盤が老朽化したことで、クラウド移行プロジェクトが始動しましたと語るのは、西条市の小・中学校における ICT システム全般に携わる西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係 担当係長の八木 智文 氏です。

  • 西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係 担当係長 八木 智文 氏

    西条市教育委員会 事務局 学校教育課 スマートスクール推進係 担当係長 八木 智文 氏

「以前より Azure を採用してオンプレミスとクラウドのハイブリッドで教育現場の ICT システムを運用してきましたが、オンプレミス上で運用している仮想化基盤が老朽化したことで、このままオンプレミスの仮想化基盤を更新するのか、それともこれを機にクラウドへの移行を図るのかを検討。Azure を導入した際にもパートナーとして支援いただいた四国通建に相談したところ、Azure Virtual Desktop(AVD)の導入を提案されました」(八木 氏)。

リソースの増減が容易なクラウド型 VDI の導入を検討し、現環境との親和性+コストメリットの高い AVD を採用

西条市教育委員会と協業して教育・校務システムのクラウド化を推進してきた四国通建では、Azure の導入当時から将来的なフルクラウド化を見据えていたといいます。さらに文部科学省が 2022 年に改訂版を公表した教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインにおいて、アクセス認証型のゼロトラストが推奨されたこともあり、Azure を採用した現環境と親和性の高い AVD を提案したと、四国通建株式会社 ICT 事業部 新居浜営業所 所長の服部 博文 氏は語ります。

  • 四国通建株式会社 ICT 事業部 新居浜営業所 所長 服部 博文 氏

    四国通建株式会社 ICT 事業部 新居浜営業所 所長 服部 博文 氏

「三層分離により情報セキュリティの強化を図る際には、それぞれの環境にシステムやデータを置く必要があります。西条市では、先生たちが校務、たとえば成績情報などを扱う際には VDI のクライアントからアクセスするという仕組みを採用しており、数百名分の VDI 環境を構築して運用していました。ところが西条市の教職員数は 700 人以上で、学期末などの繁忙期には想定以上のユーザーが VDI を使うため、リソースが足りなくなるという課題を抱えていました。オンプレミスの仮想化基盤では、こうした課題に対応するための柔軟性がなく、その意味でもクラウド型の VDI サービスが有効と考えました」(服部 氏)。

西条市教育委員会の八木 氏も、「VDI から校務支援システムを使用する際、オンプレミスではリソースを使い切ってしまうと、使い終わった先生がログアウトしない限り次の先生が使うことができません。こうした場合、AVD ではリソースを柔軟にコントロールすることができるので、クラウド型 VDI のメリットと感じています」とクラウド移行に舵を切った理由を説明。さらにコスト面でのメリットがあったことも、AVD の採用を決めた要因と語ります。

「校務支援システムを利用する人数は、学期末など繁忙期には非常に多くなりますが、逆に夏休み期間中などは極端に少なくなったりします。オンプレミス環境で繁忙期を見据えてサイジングするため、閑散期に無駄なコストが生じてしまいますが、AVD ならば閑散期の稼働数を減らすことでコストを最適化できます。さらに西条市では、以前より教務・校務用に Microsoft 365 A3 を導入しており、このなかに AVD のライセンスが含まれていたことも、コスト削減につながる大きなメリットと感じました」(八木 氏)。

また Microsoft 365 A3 と AVD を組み合わせることで、教職員が利用できるストレージ容量が大幅に増えたことも大きなメリットと白石 氏。「これまではサーバーのストレージ容量による制限がありましたが、一人当たり1 TB の OneDrive のストレージを効率的に利用することができるようになったため、データの保存領域に関する課題はほとんどなくなりました」と語ります。

教育現場の特性に合わせたサイジング設計でシステムを構築、AVD のオートスケール機能の効果的な使い方も模索

このような経緯で、AVD を用いた VDI 環境のクラウド移行プロジェクトが始動します。前述したとおり西条市では、学籍/成績管理システムや出欠/保健管理システムなど多様な校務支援システムを Azure の IaaS 上で運用しており、オンプレミスの VDI 基盤刷新はフルクラウド化のラストピースとなりました。西条市教育委員会では校務系・教務系・学習系システムのクラウド化と合わせ、VDI を利用したテレワーク環境の構築にもいち早く取り組んでおり、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大、いわゆるコロナ禍においてもスムーズに対処できたといいます。白石 氏は「教職員の負担軽減なども考慮し、早くからテレワーク環境の構築を進めていたため、コロナ禍においても校務への影響はほとんどありませんでした」と力を込めます。こうした取り組みは全国でも高く評価されており、西条市は全国 ICT 教育首長サミットで「2018 日本 ICT 教育アワード」を受賞しています。今回のプロジェクトでは、テレワーク環境も AVD への移行が図られており、より柔軟かつ効率的なテレワークを実現しています。

システムの構築にあたっては、一般的な企業とは異なる学校ならではの特性に合わせたサイジング設計がポイントとなりました。設計段階から本プロジェクトに参画している四国通建株式会社 ICT 事業部 ソリューションマーケティング システムエンジニアの岡部 貴大 氏は、AVDのシステム構築における苦労を振り返ります。

  • 四国通建株式会社  ICT 事業部 ソリューションマーケティング システムエンジニア 岡部 貴大 氏

    四国通建株式会社 ICT 事業部 ソリューションマーケティング システムエンジニア 岡部 貴大 氏

「弊社は VDI ソリューションの導入に関するノウハウは豊富にありましたが、AVD に関しては経験が少なく、学校独特の業務特性も相まってサイジング構成にはかなり苦労しました。どれだけのサイジング設計ならば運用に耐えられるのかを吟味するうえでは、社内に数十台のクライアント PC を用意し、実際に接続してパフォーマンスやネットワーク状況などを検証。コストと利便性のバランスを取りながら最適な構成で設計・構築を行いました」(岡部 氏)。

AVDの導入にあたっては、パフォーマンス面を考慮し、ユーザープロファイルの保管領域としてフルマネージド(PaaS)のファイルサーバーとして利用できる Azure NetApp Files を利用したといいます。また岡部 氏は、学校現場における校務支援システムの利用状況を踏まえて、AVD のオートスケール機能を構成したシステム構築時の工夫を説明。「学校現場において、日中は授業を行っているため、児童・生徒が帰宅した後の放課後に校務を行う先生が多く、一般的な企業の使い方とは時間帯が異なっています。このため、どのタイミングでオートスケールを適用させるのが効果的なのかを、西条市教育委員会の皆様と相談しながら設計していきました」と解説します。

システムの設計・構築においては、マイクロソフトからの手厚いサポートがあったと服部 氏。「文教分野で豊富な実績を持つマイクロソフトに、設計ノウハウから構築手法、気を付けるべきポイントなどを教えていただきながら進めたことで、大きなトラブルなくスムーズに AVD を導入することができました」と喜びを口にします。

多要素認証を採用してゼロトラストを推進、既存の VDI における課題は完全に払拭された

西条市教育委員会と四国通建が連携して進められた本プロジェクトは、マイクロソフトの密接なサポートもあってスムーズに進行。2022 年 11 月に本稼働を迎え、すでに西条市の教職員に利用されています。認証の仕組みを、従来の ID /パスワードによる認証から、ゼロトラストを適用した多要素認証に変更したこともあり、稼働した当初は、教職員からの問い合わせが絶えなかったものの、操作に慣れてくると「各システムにアクセスしやすくなった」という声が聞こえてきたと八木 氏は語ります。

「これまでは、オンプレミス上の Active Directory(AD)の下に校務用の端末がつながるという一般的な構成でしたが、現在の認証基盤は Azure Active Directory(Azure AD)に完全移行しており、校務支援システムへのアクセスについてはゼロトラストを実現しています。多要素認証としては、基本的には PIN コード認証を使っていますが、Windows Hello の生体認証も使えるようにしており、リプレース時に Windows Hello 対応の PC に切り替えていく予定です。告知はしていませんが、IT スキルの高い先生のなかには、自身で顔認証を設定しているケースも出てきています」(八木 氏)。

  • システム図

    システム図

AVD 導入によって得られた成果について、白石 氏は VDI のリソース上限を気にせずに運用できるようになったことが大きいと語り、「年度末で 400~500 ユーザーが同時にアクセスした際にも待たなくてはいけない状態はなくなり、快適なパフォーマンスも担保しています」と、フルクラウド化の実現に手応えを感じています。四国通建の服部 氏も「AVD を採用してゼロトラスト環境を実現したことで、一度ログインすれば各リソースへのアクセスが容易となり、先生方の利便性は大幅に向上しています。今後、Windows Hello 対応の PC への切り替えが進めば、さらに利便性は上がっていくと思います」と語ります。

AVD 導入の成果を踏まえ、西条市教育委員会は「データ駆動型教育」と「クラウド・バイ・デフォルト」の実現を目指す

本プロジェクトの成果を踏まえ、西条市教育委員会では、「教職員の働き方改革」と「学習系・校務系データの連結と利活用」を促進していく予定です。白石 氏と八木 氏は、次のように今後の展望を語ります。

「フルクラウド化されたことで、国が主導する取り組みに対して柔軟に対応できるシステム構成を実現できたと考えています。文部科学省が開発したオンライン学習システム『MEXCBT :メクビット』などの利用が全国で拡大していますが、こうしたシステムの導入も視野に入れて、今後も環境整備を進めていきたいと思います」(白石 氏)。

「職員室と自宅(テレワーク)だけでなく、たとえば端末を教室に持ち込んで校務を行えるような仕組みも提供するなど、教職員の働き方改革を推進していきたいと考えています。技術的にはいつでも実現できるように準備しているので、先生たちの意識改革と足並みを揃えてチャレンジしていきます。また、学習系データと校務系データを連携させるなど、統合的なデータ利活用環境の実現も目指しています。校務の効率化・自動化はもちろん、児童・生徒の学びにもデータを活用していければと思っています」(八木 氏)。

西条市における教育系・校務系・学習系システムのクラウド化を支援してきた四国通建の服部 氏も、文部科学省をはじめ、各省庁の動向に注視しながら、西条市教育委員会が目指す「データ駆動型教育」と「クラウド・バイ・デフォルト」の実現を支援していきたいと今後の展望を語り、マイクロソフトの更なる支援を期待しています。

「Azure には、データ分析基盤や BI ツールなど、効果的なデータ利活用を実現するための機能やサービスが充実しています。西条市は、教育の情報化に関わる文部科学省・総務省モデル事業に採択されるなど、データ駆動型教育実現の素地はすでにできており、四国通建としてもマイクロソフトの支援をいただきながら、最新技術を教育の現場に落とし込んでいくためのサポートを続けていきたいと考えています」(服部 氏)。

「スマートシティ西条」の取り組みを推進し、教育分野の働き方改革と学びの改革を目指す西条市と、文教分野における ICT 活用を全方位で支援する四国通建が見据える教育現場の未来像は、全国の地方自治体にとって重要な“気づき”を与えてくれるはずです。

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