富士通Japan が、自社ソリューションのクラウド化を加速しています。小売業・卸売業・製造業向けに提供する EDI ソリューション「TradeFront」シリーズもその 1 つです。2020 年までに同社のサービスを搭載できる共通基盤として Microsoft Azure 上に SaaS 共通基盤を構築し、2022 年に マスターデータ管理(MDM)機能を Azure の PaaS をフル活用して新規構築しました。ビジネス環境が激変するなか、マスターデータ管理は DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のカギの 1 つになっています。フル PaaS 化によってもたらされたメリット、「Java on Azure」を推進するうえで Azure が果たした役割やポイントなどを担当者に聞きました。

マスターデータの精度向上で、小売業が DX を推進する際のデータ基盤構築を支援

富士通グループの社会における存在意義であるパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を国内市場で展開する企業として、2020 年 10 月 1 日に発足した富士通Japan。国内の製造業、流通業を中心にシステムやサービスを提供するほか、自治体、医療機関、教育機関を始めとした公共分野に向けて、業務ノウハウと技術力をいかした提案を行なっています。

国内の製造業や流通業のビジネス環境は激変しています。世界的なパンデミックの影響はもとより、ビジネスのデジタル化や顧客のライフスタイルの変化が加速するなかで、企業は、多様な顧客ニーズに対応するためにデジタルを活用した新しい製造や流通のあり方を模索し続けることが重要になってきています。

富士通Japan でも、そうした企業が直面する課題を解消し、ビジネスの拡大を支援すべく、既存の製品やサービスの変革や改善に取り組んでいます。その 1 つが製品やサービスの提供基盤のクラウド化です。e-ビジネスサービス統括部 グループ長 大砂 伸介 氏は、こう話します。

  • 富士通Japan株式会社 e-ビジネスサービス統括部 グループ長  大砂 伸介 氏

    富士通Japan株式会社 e-ビジネスサービス統括部 グループ長 大砂 伸介 氏

「お客様の間で SaaS を中心としたクラウドサービスの利用が広がるなかで、われわれが提供するサービスの基盤のクラウド化にも取り組んできました。まず、Microsoft Azure(以下、Azure)上に当社の SaaS サービスを搭載できる共通基盤を構築し、その上で産業・流通業界のお客様にご提供できる製品・サービスのクラウド化を進めてきています。その 1 つとして取り組んだのが、マスターデータ管理(MDM)製品『Fujitsu マスターデータサービス TradeFront M-DeX』(以下、TradeFront M-DeX)のクラウド化でした」(大砂 氏)。

ビジネス環境が大きく変化するなかで、マスターデータ管理は非常に重要な役割を担っています。e-ビジネスサービス統括部 マネージャー 渡邊 真 氏はこう話します。

  • 富士通Japan株式会社  e-ビジネスサービス統括部 マネージャー 渡邊 真 氏

    富士通Japan株式会社 e-ビジネスサービス統括部 マネージャー 渡邊 真 氏

「消費者の生活が多様化し、多くの小売業がネットスーパーや OMO(Online Merges with Offline)、EC などオンラインを活用した新しい取り組みを進めています。新しい取り組みが増えると、商品マスターなどに必要な項目や機能、連携手法が増え、従来のシステムでは対応できない課題に直面しやすくなります。実際、多くの企業がシステムの都合で顧客ニーズに迅速に対応できず、事業拡大につながらないといった課題に直面しています。TradeFront M-DeX のクラウド化により、それらの課題を解消し、お客様が DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上でのデータ基盤の構築を支援することを目指しました」(渡邊 氏)。

TradeFront M-DeX のサービス基盤に採用されたのが Azureでした。

MDM サービス「TradeFront M-DeX」の提供基盤に Azure の PaaS 環境を採用

TradeFront M-DeX は EDI サービス「TradeFront/6G」が母体となっています。TradeFront/6G(前バージョン含む)は、富士通Japan(株)に統合する以前の富士通エフ・アイ・ピー(株)の時から 30 年以上提供しているサービスであり、小売業の重要業務を担うサービスとして、高い安定性と信頼性も備えています。そのため、TradeFront M-DeX のサービス基盤選定にあたっては、機能、信頼性、実績、コストなどさまざまな要件を検討したといいます。

富士通Japan では、提供するサービスごとに自社データセンター、富士通が提供する各種クラウド、海外ベンダーの提供するパブリッククラウドなどを適材適所で使い分けています。ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 井上 健太 氏は、そのなかで Azure に注目した背景についてこう話します。

  • 富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 井上 健太 氏

    富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 井上 健太 氏

「お客様のビジネスを継続的に支援するためには、スピード感をもって柔軟に基盤を拡張できることや、常に最新の機能を提供し続けていくことが重要です。一方で、安定し信頼性の高い基盤であることも求められます。そんななか、Azure は、富士通Japan のいくつかの SaaS サービスの共通基盤として採用しており、実績があるクラウドサービスであることを評価しました。Azure をサービス提供基盤に採用することで、将来的な拡張や新しい機能の提供もスムーズに進めることができます。特に、産業・流通領域では、Azure を最優先のクラウドサービスに設定し、さまざまなサービスを Azure 上で開発していくことを決めました」(井上 氏)。

ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 シニアマネージャー 大原 陽一 氏は、SE の目線から見て TradeFront M-DeX の基盤として Azure が最適だった理由は「PaaS サービスの豊富さ」にあったといいます。

  • 富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 シニアマネージャ 大原 陽一 氏

    富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 シニアマネージャー 大原 陽一 氏

「DX を進めるうえで重要なことは、お客様が望む業務要件を素早くご要望通り提供できる事です。アプリケーションの開発やインフラの調達に時間を要したり、数年単位でハードウェアをリプレースしていくライフサイクルでは、日々新しい機能や品質の向上を求めているお客様のニーズに応えることはできません。運用中も性能保証のためにさまざまな対策が必要になり、お客様目線でのサービス提供が難しくなります。こうしたなかで、Azure は豊富な PaaS を活用することで、運用の負担を下げながら、スピーディーにサービスを拡張していくことができます。当初は既存システムを IaaS としてクラウド化する構想もあったのですが、Azure の充実した PaaS を活用したいという考えからフル PaaS へ切り替えました」(大原 氏)。

PaaS の各サービスが API で連携するマイクロサービスアーキテクチャを採用

TradeFront M-DeX を利用すると、DX の推進や企業・システム統合、業務連携などによるマスター情報の追加なども、最初に共通ルールを設定しておけば、マスター情報の追加や更新が簡単にできるようになります。また、富士通Japan が提供する電子マネー、ポイント管理などのキャッシュレスソリューション「ValueFront」、店舗発注サービス「ValueAnswer EOB」、金融 EDI ソリューション「FIRST」などのサービスと連携し、総合的なデータ基盤としての活用を視野にいれています。

大原 氏は TradeFront M-DeX のシステム構成での PaaS 活用について、こう説明します。

「IaaS でのクラウド移行から PaaS での新規構築に舵を切る際には、マイクロソフトの担当者と密接に連携してアプリケーションアーキテクチャを構想しました。Azure に関する膨大な資料を読み解きながら、分からないところを担当者に相談し、試行錯誤しながら、サービスを組み合わせていきました。途中まで IaaS で進めていたこともあり、方針転換によって、マイクロソフトの担当者に多大な苦労をかけたのですが、まったく嫌な顔もせず、われわれの要望に寄り添って解決策を示していただきました。

システム自体は Java や PostgreSQL といったオープンソースソフトウェア(OSS)を活用して開発しています。利用している PaaS サービス群は、Web アプリ作成の Azure Web Apps(以下、Web Apps)、コンテナアプリサービスの Azure Container Apps(以下、Container Apps)、サーバレスの Azure Functions、ワークフローやジョブサービスの Azure Logic Apps(以下、Logic Apps)、データ連携の Azure Data Factory、API 管理の Azure API Management、データベース(DB)サービスの Azure Database for PostgreSQL(以下、PostgreSQL)などです」(大原 氏)。

ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部の小野 翔平 氏は、こう続けます。

  • 富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 小野 翔平 氏

    富士通Japan株式会社 ビジネスソリューション開発本部 第二ソリューション事業部 第三EDIシステム部 小野 翔平 氏

「基本的なアーキテクチャは、SaaS 共通基盤からの入力をフロントの Web Apps や Container Apps で受け取ったあと、リアルタイム処理と非同期処理を分け、リアルタイム処理は Container Apps からコア DB の PostgreSQL で直接処理し、非同期処理は Logic Apps や Azure Functions などでバッチ処理したあとフロント DB で処理するといった構成になっています。PaaS の各サービスが API で連携するマイクロサービスアーキテクチャであり、柔軟性や拡張性に優れているだけでなく、信頼性や安定性も兼ね備えていることが特徴です」(小野 氏)。

Container Apps の存在が「Java on Azure」の取り組みを非常に魅力のあるものに

PaaS サービスを活用するうえでは「Java on Azure」の利便性も実感したといいます。

「Java の Web アプリケーションサーバは、Azure の採用が決まってから Apache Tomcat に切り変えました。Web Apps 上で Apache Tomcat を利用することで、ミドルウェアの導入やライセンス、バージョンアップの管理などの負担が減り、これまでよりも迅速に効率良くサービス開発できるようになりました。Java の利用はもちろん、Java を利用するうえでの周辺環境まで含めて、Azure は Javaのサポートが手厚いと感じます。また、マイクロソフトには Java チャンピオンをはじめ豊富な人材も揃っています。Azure なら Java システムの構築もスムーズに実現できるという安心感がありました」(小野 氏)。

大原 氏もこう指摘します。

「Java を使ってマイクロサービスアーキテクチャを実装していく際に、Container Apps が非常に役立ちました。Container Apps は、Kubernetes ベースでマルチテナント環境に向いていて、しかも性能がいい。Container Apps があることで、Java on Azure の取り組みが非常に魅力あるものになっています。Azure 以外のクラウドサービスは、サービスについて細かい設定までできることが多いのですが、逆に言うと、パフォーマンスを発揮させるために細部まで管理する必要が出てきます。Azure はそうした手間が要らず、構築から運用までを効率良く実施することができます」(大原 氏)。

TradeFront M-DeX は 2022 年中に環境構築を終え、2023 年 2 月から本格的なサービス運用がスタートします。サービスの営業担当者として、顧客に TradeFront M-DeX を紹介するなかで、すでにクラウドの効果を確認しているといいます。 e-ビジネスサービス統括部の中野 愛瑠 氏はこう話します。

  • 富士通Japan株式会社 e-ビジネスサービス統括部 中野 愛瑠 氏

    富士通Japan株式会社 e-ビジネスサービス統括部 中野 愛瑠 氏

「クラウド化により提案時の利便性向上を実感しています。以前は、お客様に画面や操作を説明する際にスクリーンショットを貼った資料を紙芝居のように見せていたのですが、パブリッククラウドで提供するサービスになったことで、お客様先で実際のサービス画面を直接見せて商談を進めることができるようになりました。実際にユーザーが見る画面なので話が進みやすく、お客様もわれわれに改善の要望を出しやすいと仰っています。また、性能面の観点としても、お客様から実際に処理しているデータをいただき、クラウド上で PoC を行うことで、パフォーマンスの数値などを提示しやすくなりました。『今まで○分かかっていたものが○分になります』など、根拠のある数字をもとに商談できるようになり、提案の説得力が増したと感じています」(中野 氏)。

アジャイルな開発体制のもと、顧客からのフィードバックをサービスに迅速に反映

お客様からの改善の要望は、営業や開発で共有しながら、素早くアジャイルにアップデートしていく体制をとっています。渡邊 氏は、PaaS を活用することで、こうした顧客からのフィードバックの反映がしやすくなったといいます。

「いただいた要望を持ち帰って検討するのではなく、その場でお客様に解決策を見せることもあります。一例として、Logic Apps を使ってデモ実施者がローコード/ノーコードでその場で新しいロジックを組み立てられるようにしたケースがあります。Logic Apps でワークフローの仕組みを開発チームがあらかじめバックエンドで作っておき、デモ実施者がお客様にデモを行った際に、その場でお客様からいただいた意見を元にロジックを修正していくのです。これにより、お客様のニーズを正確にくみ取ることができ、顧客に寄り添った提案ができるようになりました。お客様も Logic Apps を使ったローコード/ノーコードの仕組みに新鮮な驚きを感じていただき、それが商談を後押ししてくれることもあります」(渡邊 氏)。

また、PaaS を使うことで、社内での情報共有やコラボレーションも促進されていると、大砂 氏はいいます。

「リアルタイムに要望を把握して『PaaS を組み合わせればこれができるね』と話しあうような環境ができています。営業と開発との距離が今まで以上に近くなり、一緒にサービスを開発・提供しているという一体感も増しています」(大砂 氏)。

こうしたコラボレーションの促進は、技術的な観点からも PaaS の導入が可能にしたものだといいます。

「従来のような Java アプリケーション環境では、データベースにデータを格納したあとに、ユーザーが自由にデータを操作することは難しい面がありました。フル PaaS で、複数のサービスを柔軟に組み合わせるアーキテクチャを採用したことで、開発や営業それぞれのニーズに応じたシステムの使い方ができるようになっています。また、PaaS は、CPU を上げたい、IOPS を上げたいというときも素早く実施できます。私たち自身も驚きましたし、お客様にとっても翌日には性能が向上するというのは大きなメリットになっています」(小野 氏)。

このように、フル PaaS でのシステム刷新により、スピード、拡張性、柔軟性、アジャイルな開発体制の構築、コラボレーションの促進などを実現した富士通Japan。今後は、TradeFront M-DeX を起点にしながら、さまざまなサービスを連携させることで小売業の DX 推進に向けたデータ基盤の構築へとつなげていく構えです。大原 氏は「富士通Japan とマイクロソフトが協力しながら、お客様を含めて皆が Win - Win になるサービスを提供していきたいと思います」と話します。富士通Japan のクラウド推進と小売業向けの DX 支援の取り組みをマイクソロフトは引き続きサポートしていきます。

[PR]提供:日本マイクロソフト