福岡と北九州にオフィスを構え、「地域産業をアップデートする」というビジョンのもと、IT による地域産業の活性化に取り組むクアンド。同社が開発した「SynQ Remote(シンク リモート)」は、“現場”の業務に特化した SaaS 型の遠隔支援ツールで、建設業や製造業をはじめ、現場業務の効率化とベテラン技術者の負荷軽減を図りたい企業から高く評価されています。本プロダクトには、Azure App Service をはじめとした Microsoft Azure が提供する PaaS サービスが採用されており、多機能で信頼性の高いサービスの提供を実現しています。
建築や製造の“現場”を IT で効率化するため、Azure を利用した遠隔支援ツールの開発に着手
地域産業・レガシー産業のアップデートを目指してビジネスを展開しているクアンドでは、建築や製造などの“現場”において IT サービスが効果的に使われていないことを、解決すべき課題だと捉えていました。実際に建設・製造の現場で働いた経験を持つ同社 代表取締役CEOの下岡 純一郎 氏は、リアルな現場における経験を通じて実感した課題として“人材不足”と、それに伴う技術者の業務負荷増大を挙げます。
「建設や製造に携わる企業の多くでは、複数の現場での作業が並行して行われており、それぞれの現場をみられる人材が不足していることが大きな課題となっていました。現場を回せるスキルと経験を持つベテラン技術者は人数が限られており、仕事の依頼が来ても回せる人がいないという状態が日常茶飯事で、何もわからない新人スタッフを現場に投入せざるを得ず、その結果すぐに辞めてしまうという悪循環が常態化。その結果、1 人のベテラン技術者による複数現場の掛け持ちが当たり前となり、業務が過集中してしまう状況を引き起こしていたのです」(下岡 氏)。
現場を回せるベテラン技術者の負荷軽減が喫緊の課題であると判断したクアンドは、各技術者の仕事内容を分析。複数の現場を回るため移動時間が増加していることに着目し、各現場に赴くことなく業務を行うためにコミュニケーションツールの活用を検討しました。「当初は汎用的なコミュニケーションツールを試しましたが、現場の情報を正確に伝えるための機能が足りないことが判明しました」と下岡 氏。ビデオ通話時のポインタ表示機能や遠隔撮影機能など、現場のニーズに対応する機能を実装した遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンク リモート)」の開発に着手したと語ります。
このSynQ Remoteには、Microsoft Azure(以下、Azure)が提供しているサービスが活用されています。開発当初は Azure ではないメガクラウドのマネージドサービスを使っていましたが、福岡のスタートアップイベント「StartupGo!Go!」 に登壇した際にマイクロソフト賞を受賞したことで、マイクロソフトがグローバルで展開しているスタートアップ向けの支援プログラム「Microsoft for Startups」に参画。Azure のサービスを無償で利用できるようになったこともありシステム構成の見直しに着手し、Azure の採用を決定したといいます。SynQ Remote の技術的な方針から実装までに携わるクアンド テックリードの髙野 嵐 氏は「他のマネージドサービスと比較して運用上のリスクが軽減できることが検証でき、さらにAD(Active Directory)との連携も他の IDaaS サービスと比べて容易なことも大きなメリットに感じました」と Azure を採用した理由について語り、2019 年 4 月から α バージョンの開発に着手したと振り返ります。
下岡 氏は、Azure を採用した要因の 1 つとしてマイクロソフト製品としての信頼性を挙げます。
「SynQ Remote がターゲットとしている製造業や建設業、特に大規模なビジネスを展開している企業は AD や Office 365 などのマイクロソフト製品を利用していることが多く、『クラウドには Azure を採用しています』と言えるのは、製品を信頼してもらうという意味でも有効です。将来的に他の業務システムとの連携を図る際にも、AD との ID 連携が容易に行える Azure の強みが活かせると考えています。もちろん、Microsoft for Startups で Azure の利用料金を抑えられたことも見逃せないメリットといえます」(下岡 氏)。
Azure App Service を効果的に活用し、コスト削減と運用上のリスク軽減を実現
Microsoft for Startups を利用した本プロジェクトでは、Azure のクラウド ソリューション プロバイダー(CSP)である株式会社オルターブースがパートナーとして参画しています。クアンドと同じく福岡を拠点にビジネスを展開するオルターブースのサポートにより、開発は順調に進んだといいます。
「オルターブースのようなパートナーがすぐ近くにいてくれることは、プロジェクトの推進に大きな効果がありました。我々の開発チームを福岡のオフィスに集めて、2 日間をかけたハッカソンを実施してもらえたことで、メンバーのケイパビリティを高められました」(下岡 氏)。
α バージョンを使った仮説検証を経て、2020 年初頭からは β バージョンの開発を推進。同年 4 月には製品版の実装に着手し、11 月に製品版をリリースしました。システム構成に関しては、PaaS サービスの Azure App Service(以下、App Service)を中心に Azure のサービス・機能を利用することで、コストの削減と運用上のリスク軽減が図れたと高野 氏。一部のジョブに他社のマネージドサービスを使うことで、開発メンバーのスキルで管理可能なシステムを構築できたと振り返ります。
「現在は一部のジョブに他社のサービスを利用していますが、将来的には Azure のサービスで統一してシームレスな連携による運用・管理コストのさらなる削減を実現したいと考えています。現状他社のサービスを使っている部分は、開発当時 Azure 上に同等のサービスがない、もしくは GA(一般公開)していなかったケースが多く、現在ではそうした機能が続々と GA されています。これらの機能を検証・理解したうえでシステムの最適化を意識して技術選定を進めたいと考えています」(高野 氏)。
Azure の採用を決定した段階では、Azure のサービスを領したシステム構築の知見が少なかったクアンドの開発チームですが、前述したオルターブースのハッカソンに加え、マイクロソフトの公式ドキュメントを読み込むことでナレッジを吸収したと高野 氏。「システム構成を検討している際にマイクロソフトに相談したところ、すぐに複数の案を提示してくれ、それぞれのメリットについても詳細に説明してもらえました」と語り、マイクロソフトのサポートを高く評価します。
AI 技術を用いたデータ利活用も視野に入れ、Azure が提供するサービスの技術検証を推進
こうして 2020 年 11 月に提供が開始された SynQ Remote は、建設・建築業や製造業をはじめ、インフラ、重工業、交通、行政と幅広い領域で活用が推進されます。エンターブライズから中小まで福岡・北九州に拠点を構える企業や地方自治体に導入され、クアンドが掲げる「地域産業・レガシー産業のアップデート」のビジョンを体現するプロダクトとして成長を続けています。特に“モノづくり”に携わる企業が多い北九州では、生産設備、機械設備のメーカーを中心に導入が進んでおり、遠隔での設備メンテナンスや鉄道沿線の安全パトロールのリモート化などに活用されているといいます。
「たとえば安川電機様では、世界中の現場で稼働しているロボットにトラブルが発生した際、そのすべてに自社のサービススタッフを迅速に送り出すのは困難なミッションでした。そこに SynQ Remote を導入することで、現地のスタッフと遠隔でやり取りできるようになり、迅速な対応が可能となりました。また、同じく九州の鉄道会社では、スタッフの沿線パトロールを遠隔化することにより安全性を向上させています。さらに行政の領域でも利用が進んでおり、行政担当者が現場の状況をリモートで確認することで、現地に赴くことなく災害時における緊急性の高い判断を行えるようになったという導入事例もあります」(下岡 氏)。
もちろん、SynQ Remoteの導入を検討しているのは福岡・北九州の企業・団体に限りません。経験とスキルを持ったベテラン技術者が不足し、現場対応に苦慮している全国の複数企業が SynQ Remote を用いた業務改革に取り組んでおり、業務効率化による人材不足の解消やコストの削減といったメリットを享受しています。
現状では現場と人(またはオフィス)をリモートでつなげるプロダクトとして利用されている SynQ Remote ですが、将来的には SynQ Remote で取得したデータの有効活用も見据えていると下岡 氏。「Azure の機能・サービスを活用して、リモートでやり取りした内容をナレッジ化して DB に蓄積したり、検品や検査など人の目や手で行っている作業を画像分析で行う AI 活用を推進したりといった取り組みを進めていきたい」と今後の展望を語ります。
その実現に向けて、テックリードの高野 氏も Azure が提供するサービスの検証を進めています。
「SynQ Remote の開発では、まずはApp Service を導入して Kubernetes で動いていた Docker イメージを動かすというような最短ルートで構築しましたが、今後は Azure の機能・サービスを検証して、運用・コストを最適化できる構成にしていきたいと思います。もちろん、データの集約や画像分析・AI 活用に使える Azure のサービスも、しっかりと技術検証を行い、適材適所で活用していきたいと考えています。現時点で注目しているサービスは Azure Communication Services で、必要な機能を簡単に実装できるのではないかと期待しています」(高野 氏)。
「地域産業をアップデートする」という目標を達成するため、SynQ Remote をより幅広い領域に展開していくクアンド。今後は地域産業・レガシー産業が抱える課題を捉えて、企業と二人三脚で解決を図る DX 事業にも注力していきたいと下岡 氏は力を込めます。
「SaaS 型のプロダクトである SynQ Remote で現場の課題解決を支援するだけでなく、地域産業・レガシー産業の DX を支援し、課題解決に貢献していきたいと考えています。その実現に向けて、マイクロソフトには、さらなる支援を期待しています。これまでは技術面でのサポートが中心でしたが、今後は地域産業の DX 事業においても協業できればと考えています」(下岡 氏)。
現場との IT サービスを積極的に活用する企業が多い九州から、あらゆる“現場”の効率化を目指すクアンドの取り組みと、その実現を支援する Azure のサービスには、今後もご期待ください。
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