首里城公園や沖縄美ら海水族館などを管理運営する沖縄美ら島財団が、オンプレミスで運用していたファイルサーバーを Microsoft Azure を活用したクラウドファイルサーバーへと移行しました。パートナーの USEN ICT Solutions の支援を受けながら、11 拠点それぞれに保管された計 35 TB に達するデータをすべてクラウド上に移行。運用管理、データ共有、災害対策、リモートワーク対応などの課題を解消し、業務改革や働き方改革、DX 推進の土台として活用しています。
11 拠点それぞれでファイルサーバーを設置、運用管理負担やデータ共有が課題に
「美らなる島の輝きを御万人(うまんちゅ)へ」を経営理念に、首里城公園や沖縄美ら海水族館といった沖縄を代表する施設の管理運営と、亜熱帯性植物や海洋生物、沖縄の歴史・文化・海洋文化の調査研究・技術開発を行なう沖縄美ら島財団。1976 年に財団法人として設立され、本部地区と那覇市の那覇地区を拠点に、県内 13 の管理施設と関連企業において、従業員約 630 名がさまざまな活動に携わっています。事業部 統括 兼 企画広報課長 篠原 礼乃 氏は、同財団の事業の特徴についてこう話します。
「沖縄における調査研究、普及啓発、施設管理において豊富な実績とノウハウを持っています。調査研究では、総合研究センターを中心に、沖縄の亜熱帯性動植物などの自然、歴史、文化に関する調査研究と技術開発を行なっています。加えて、これまでに培った調査研究の成果を活用して、海洋文化、琉球文化などの普及啓発活動も行なっています。施設管理では、沖縄観光の拠点である海洋博公園や首里城公園など、公益性の高い施設を管理運営しています」(篠原 氏)。
調査研究の拠点や管理運営する施設は、沖縄県内に広く分散しています。また、調査研究拠点の稼働は平日が中心となることに対し、観光関連施設では祝祭日が中心になるといった事情もあります。システムの構築や運用管理は、そうした地理的、時間的な制約を大きく受けざるをえませんでした。事業部 企画広報課 情報システム係 主事 神里 直 氏はこう話します。
「システムは、複数の拠点それぞれにオンプレミスでサーバーを立てて管理するという体制でした。メンテナンスも外部に委託せず、情報システム係が担当していたため、サーバーの調子が悪い、機器が停止したといった連絡があると、その都度、システム係が現場に出向いて対応する必要がありました。拠点間の移動だけで車で 1 ~ 2 時間かかる場合もあり、運用管理は大きな負担になっていました」(神里 氏)。
システムはそれぞれの拠点で独立していたため、拠点間でのスムーズなデータ共有は難しい状況でした。実際に業務が滞ることもあったといいます。
「例えば、資料の貸し出しとして首里城や水族館の写真や動画のデータを他の拠点に転送したいと思っても、すぐに対応することができませんでした。軽いデータはグループウェアやメール添付で共有できたのですが、重いファイルは外部のファイル転送サービスを使ったり、直接手渡したりする必要があり、その都度手間がかかっていました」(篠原 氏)。
こうした課題に対応するために取り組んだのが、Microsoft Azure(以下、Azure)を活用したクラウド上でのファイルサーバー構築でした。
コロナ禍でのリモートワーク対応が不十分で、データへのアクセスが困難な状態に
沖縄美ら島財団がファイル管理に関して抱えていた課題は大きく 4 つに整理できます。
1 つめは、上述したように運用管理の負担増です。拠点ごとに設置したサーバーは、事業規模やシステム規模に応じてラック型サーバー、タワー型サーバー、ファイルサーバーとしての NAS など多岐にわたる製品がそれぞれに適したかたちで設置されていました。また、ハードウェアだけでなく、Windows Server の設定の管理やアップデート対応なども必要でした。メンテナンスは県内のすべての拠点を情報システム係数名で担うため、移動時間も含めて大きな負担になっていました。
2 つめは、データ共有の難しさです。上述のように、グループウェアだけでは画像や動画などの大容量ファイルをやりとりすることが難しいという事情がありました。拠点にファイルに外部から直接アクセスできないため、誰かに依頼してデータを送ってもらうことも多かったといいます。
「複数の拠点をまたがって仕事をすることも多いです。午前中に沖縄県北部にある財団本部でファイルを見て、午後に南部にある首里の拠点で同じファイルを見たいと思ってもファイルにアクセスできません。誰かに頼んでファイルサーバーにアクセスしてもらい、必要なデータを送ってもらうといったことも多くありました」(篠原 氏)。
3 つめは、災害対策への対応が不十分だったことです。データはバックアップを含めて基本的に各拠点だけで管理されていました。もし災害が発生して拠点が被災すれば、管理されていたデータを復旧することは困難な状況でした。
4 つめは、リモートワークへの対応が不十分だったことです。特に、コロナ禍以降は、リモートワークに対応できないことで、運用管理、データ共有、災害対策という 3 つの課題すべてにおいて必要な対応ができなくなり、大きな事業リスクになっていました。
「こうした課題に対応するために取り組んだのがファイルサーバーのクラウド化です。クラウド化にあたっては、SaaS として提供されているファイル共有サービスの利用や、各拠点を閉域網ネットワークで相互接続して既存のサーバー機器をリプレースする方法、専用データセンターでのプライベートクラウドを構築する方法などを検討しました。ただ、SaaS の月額コストや閉域網接続の構築コスト、ユーザーインタフェースが変わることなどが課題となっていました。そんななか、USEN ICT Solutions さんとの出会いがきっかけとなり、Azure を活用したクラウドベースのファイルサーバーを構築することになったのです」(神里 氏)。
Azure Files でデータ容量の急増にオートスケールで対応、PaaS 活用で運用負荷を軽減
USEN ICT Solutions では、閉域ネットワーク接続から、クラウド接続、ファイルサーバー移行、 Active Directory(以下、AD)連携、システム監視など、ネットワーク事業を中心にさまざまなシステム構築、運用の支援を行なっています。Azure を活用したソリューションにも定評があり、近年では沖縄の企業組織、官公庁、自治体などの支援にも力をいれています。USEN ICT Solutions 西日本ソリューション営業部長 南 征史 氏はこう話します。
「東京のインサイドセールスと九州の営業、プリセールスが連携して、沖縄美ら島財団様が抱えている課題や解決方法を提案しました。サーバー更改のタイミングにて、クラウド化の検討が始まり、データセンター上にプライベートクラウドを構築する方向でほぼ方針が固まっていたのですが、既存の業務のあり方や、既存の機器・システム、新たに導入するクラウドのメリットを生かすことができる別のアプローチとして、Azure を活用したファイルサーバーの構築を提案しました」(南 氏)。
USEN ICT Solutions が提案したのは、業務データを格納している 11 拠点のファイルサーバーを Azure の仮想マシンとして稼働する Windows Server ベースの 1 つのファイルサーバーに移行するというものです。ファイルサーバーを統合することで、すべての拠点から 1 つのデータにいつでも柔軟にアクセスできるようになります。また閉域網を活用することで安全なデータのやりとりも可能になります。ただ、課題もありました。USEN ICT Solutionsプロダクト推進部 クラウドデザイン課 佐藤 篤史 氏が解説します。
「11 拠点のファイルサーバーのディスク容量は約 35 TB に達していました。そのまま 1 つの仮想マシンに統合すると、拡張性が乏しくなり、災害対策も難しくなります。そこで、ファイルサーバーの裏側で、Azure のファイルサービスである Azure Files と連携する構成を選択しました。4 TB の容量を持った Windows のファイルサーバーを Azure 上の仮想マシンとして稼働させ、アクセスの少ないデータは自動的に Azure Files に展開できるようにします。Azure Files は必要に応じて柔軟にデータ容量をオートスケールで増やすことができ、PaaS なので容量設計や運用管理なども基本的には不要です」(佐藤 氏)。
1 つのファイルサーバーを管理すればよいため運用管理の負荷は大きく下がり、業務ニーズに対応したストレージ容量の拡張性や運用の柔軟性も確保できました。また、ファイルサーバーは稼働場所がオンプレミスからクラウドに変わっただけなので、利用者から見たユーザーインタフェースは同じです。Windows エクスプローラーからネットワークドライブや共有フォルダとしてアクセスでき、これまでと変わらない操作性を維持しつつ、どの拠点からもアクセスできるようになりました。クラウド化により、インシデントも減少し安定稼働にもつながりました。
Azure Backup で災害対策に対応、AD と資産管理ソフト連携でリモートワーク対応も実現
災害対策については、データをクラウド上に置くことで、信頼性を高めるととともに、Azure Backup を使ったバックアップや他のリージョンなどへのコピーなども容易に実施できるようになりました。また、Azure Files に格納されるデータも高い可用性のもとで管理されるため、データ保護の信頼性が高まりました。
リモートワークへの対応という点では、アカウント管理で利用していたオンプレミスの AD を仮想マシンとして Azure に移行することで、既存のアカウント管理やアクセス権管理の状態を引き継いだことがポイントです。Azure Active Directory(以下、Azure AD)への移行も検討しましたが、まずは既存の仕組みをそのまま移行することでスムーズな移行を図りました。
さらに、オンプレミスで稼働していたパッケージ製品の資産管理システムとアンチウイルスシステムも仮想マシンとして Azure に移行しています。これにより、ユーザーがどこにいても、クラウド上からユーザーアカウントの管理やデバイスや、デバイスにインストールさせたソフトウェアの管理を、セキュリティを保った状態で行うことができるようになったのです。神里 氏はこう話します。
「財団では Windows Server や Microsoft Office のほか、AD、資産管理のパッケージソフトの稼働 OS などのマイクロソフト製品を利用しており、Azure との親和性が高いです。特に既存の AD と連携したファイルサーバーを構築する際に、スムーズに対応できる点を評価しました。Azure Files など Azure のサービスと連携し、拡張性の高い柔軟なファイルサーバーが構築できることが魅力でした」(神里 氏)。
移行作業は 2021 年 9月からスタートし、同年 12 月には完了したといいます。システム側の構築は USEN ICT Solutions に依頼し、データの移行はユーザー一人ひとりがそれぞれ行なう方式にしました。Windows でフォルダからフォルダにファイルをコピーするようにデータ移行を行ったこともあり、トラブルなく進めることができたといいます。
そのようにトラブルなく移行できた背景には、USEN ICT Solutions やマイクロソフトのサポートの手厚さがあったといいます。
「Azure の詳しい機能やサービスを問い合わせたときにはすぐに内容を理解して、その場で対応してくれました。テクニカルな問題は『持ち帰って回答します』という担当者が多いなか、その場ですぐに回答してくれたことが印象に残っています。3 カ月で構築を終えることができたのは、USEN ICT Solutions さんだからこそです」(神里 氏)。
また USEN ICT Solutions でも、マイクロソフトから Macや複合機などからの AD や DNS 設定で技術サポートを受けることで、スムーズに課題を解決できたといいます。
クラウドへのファイルサーバー移行で、時間や場所に縛られない柔軟な働き方を実現
ファイルサーバーのクラウド移行によって、業務のあり方は大きく変わりました。篠原 氏はこう話します。
「それぞれの拠点からデータにアクセスして共有できることは大きなメリットです。データを直接手渡ししたり、データの中身を確認するために事務所に戻ったりする必要がなくなりました。そして、フリーアドレスのようにどこでも働くことができる環境を整えても、データが特定の場所に縛られているとまったく意味がありません。クラウドを使っていつでもどこからでもデータにアクセスできるようになってはじめて、自由で柔軟な働き方ができます。特にコロナ禍でテレワークが増えたことで、そのことを痛感しました。今ではデータがないために仕事が中断するといったことは一切なくなり、どこにいても同じ環境で仕事ができます。生産性が高まり、本来の仕事に集中できるようになりました」(篠原 氏)。
システム運用管理の負荷軽減という点でも大きな効果を挙げています。情報システム係では 11 拠点のサーバーに対し月 1 ~ 2 回の定期メンテナンスを必ず実施していたことに加え、故障や障害対応などでかなりの時間を運用管理に割いていました。
「ファイルサーバーのクラウド移行後は、そうした作業が 9 割ほどなくなりました。少ない人数でシステムを運用しているため、付加価値につながりにくい作業はできるだけ効率化したいと思っています。付加価値につながらない作業を減らし、その分を情報システム係としてより生産的な業務に振り向けることができたことは、働き方の改革という点でも大きなメリットです」(神里 氏)。
さまざまな効果を実感するなかで、今後は、シングルサインオンの実現や Azure AD への移行、人事系システムのクウラド移行など、Azure のさらなる活用を進めていく予定だといいます。
「今後、ICT や IoT を活用した調査研究事業の拡大や管理運営施設の効率的な運用を目指していきますが、例えば、人流解析による効率的なスタッフ配置などで、データをセキュアな環境で運用していくことができると考えています」(篠原 氏)。
一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みも積極的に進めていく方針です。
「クラウドというと、大手企業が利用するイメージがありましたが、今回、USEN ICT Solutions のサポートを得ながら Azure に移行したことで、中小中堅企業こそクラウドを活用すべきだと感じるようになりました。今後は、構築した基盤を活用して、沖縄美ら島財団なりの DX を進めていきます」(神里 氏)。
沖縄美ら島財団の業務変革や働き方改革、DX の取り組みを USEN ICT Solutions とマイクロソフトが今後も力強くサポートしていきます。
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