全国にある電力関連企業の職域生協(11 単位生協、組合員数は 322,764 名(2022 年 6 月現在))の共済事業を担う組織として、1990 年 6 月に設立された全国電力生活協同組合連合会は、会員の構成員である組合員の生活の文化的・経済的改善・向上を目的とした火災共済事業を運営しています。すべての単位生協をつなげる役割を持つ火災共済システムは設立時に構築され、この事業の基盤として改修や更新を重ねながら運用されてきましたが、ハードウェア・ソフトウェアの老朽化は避けられず、システムの抜本的な改善・効率化に着手。汎用機からオープン系システムへの移行(サーバー化)を皮切りに、IaaS へのリフト、PaaS へのシフトといった段階的なモダナイゼーションが推進されました。このプロジェクトでは、クラウドサービスとして Microsoft Azure が採用されています。
オープン系システムへの移行からスタート、Azure を採用してクラウドへのリフト&シフトを推進
全国電力生活協同組合連合会(以下、全国電力生協連)では、火災に関する保障はもちろん、風水雪害、雷・雹(ひょう)害などによる被害を保障する火災共済制度を、組合員向けに提供しています。この火災共済の契約及び共済金を管理し、全国にある 11 の単位生協と連携して運用するオンラインシステムは設立当初に構築され、全国電力生協連の役職員と各単位生協の役職員が利用しており、現在は 137 名の登録ユーザーによって運用されています。
この火災共済システムの管理は、設立時から継続してさくら情報システムによって行われています。デジタル技術の進化に伴い、従来の汎用機では業務効率化やシステム運用コストの最適化が難しいと判断した全国電力生協連とさくら情報システムでは、段階的なシステムのモダナイゼーションを検討します。2007 年には最初のステップとしてメインフレームからオープン系システムへのマイグレーション、すなわち Cobol から Java への移行を行いました。20 年以上にわたり本システムの構築・運用に携わってきた、さくら情報システムの法人事業本部 ビジネスソリューション第3部 第1グループ 山本 歩 氏は、プロジェクトが始動した経緯を振り返ります。
「当時は紙を使った手入力を中心に業務を行っており、事務の負担が高い業務環境になっていました。さらに汎用機で動いているシステムが、多様化する業務の要求に対応できなくなってきていたこともあり、システムの全面的な見直しによる改善・効率化を検討。2007 年 3 月から 2008 年 1 月にかけて、汎用機からオープン系システムへの移行を実施し、業務の効率化とスピードアップを図りました。ライブラリや API が充実している Java を選択し、画面を Web 化したことでユーザビリティの向上も実現しています」(山本 氏)。
その後、各単位生協との連携強化を実現するためのネットワーク接続や、利便性向上を目的とした単位生協向けの画面機能(共済金登録)の追加を経て、2018 年 からはオンプレミス環境からクラウド(IaaS)へのリフトに着手したと山本 氏。「現行の仮想化ホスティングサービスではライセンス問題やサーバー機器の負担が解消できないと判断し、IaaS へのリフトを提案しました」とシステムの変遷を語ります。
そして、Windows 2012 の延長サポート終了をはじめとした、ミドルウェア、アプリケーションの課題解決と、将来を見据えた拡張性の高い基盤構築、さらにはライフサイクルの長期化(コスト削減)に向けて、IaaS へのリフトに続き PaaS へのシフトを検討。2021 年 3 月からプロジェクトが始動しました。全国電力生協連 代表理事 専務理事の竹谷 敦志 氏は、PaaS 化を決めた要因についてこう語ります。
「全国電力生協連の火災共済システムは担当役員が定期的に代わっていくため、さくら情報システムからシステム更改や改善の提案を受けた担当者と、実際に更改を行う担当者が異なることも多く、スムーズなやり取りが難しいという課題を抱えていました。サーバー機は数年おきの更新が必要なためコスト面の負担も問題となっており、PaaS 化することによって、ライフサイクルの長期化が実現できるということは非常に大きなメリットだと感じました」(竹谷 氏)。
PaaS へのシフトにあたっては、IaaS へのリフトで導入した Microsoft Azure(以下Azure)が採用されました。サーバー化と IaaS への移行にプロジェクトマネージャーとして携わったさくら情報システムの山本 氏は「IaaS へのリフトでは、自社で運用しているホスティングサービスも選択肢の 1 つだったのですが、現行のシステムで Microsoft SQL Server を利用していたこともあり、最終的にはマイクロソフト製品との親和性が高く、システムを効率的かつ柔軟に構築可能なアーキテクチャを持つ Azure を採用しました」と語ります。また、PaaS 化のプロジェクトに携わったさくら情報システムの和田 拓 氏は、Azure PaaS を採用した経緯をこう説明します。
「IaaS へのリフトを検討した際には複数のクラウドサービスを比較し、将来的な PaaS の活用を見据えて、Azure SQL Database が利用できる Azure を採用しました。PaaS へのシフトに際しても、全国電力生協連様と PaaS のメリット・デメリットを共有しながら検討を進め、最終的には Web アプリケーションサーバーとデータベースサーバー、管理ツールを Azure PaaS にリフトすることを決定しました」(和田 氏)。
EOL を迎えた Web AP フレームワークと業務 AP フレームワークを Spring に変更して PaaS 化
今回の PaaS 移行プロジェクトでは、従来の Java フレームワークが EOL を迎えるタイミングだったこともあり、Java フレームワークの変換が重要なテーマとなりました。Azure PaaS(App Service)での Java 対応は、Java、Tomcat、JBoss EAP と 3 つの選択肢がありますが、本プロジェクトでは Spring Boot 内蔵の Tomcat が採用されています。Java のフレームワークの刷新における開発リーダーとして本プロジェクトに参画したさくら情報システムの井本 敬介 氏は、システム構成について解説します。
「今回のプロジェクトでは、フレームワーク、ミドルウェア、OS、ハードウェアのほぼすべてを最新化しています。アプリケーション部分では、EOL を迎えた Web AP フレームワークと業務 AP フレームワークを『Spring』に変更することを検討。調査を進めるなかで、Spring Boot でバッチをつくり込んでいくと起動時に時間がかかるという課題が顕在化したため、バッチに関しては Google Guice で作成するというシステム構成にしました。データベースへのアクセスも、従来は 2JDBC を通してテーブルにアクセスしていたのですが、新しい技術を活用したいという思いもあって MyBatis に変更しています。画面周りに関しても、従来は Beehive を使って JSP で作成していましたが、今回の刷新では Spring Boot で主に使われている Thymeleaf(タイムリーフ)を採用しています」(井本 氏)。
Azure PaaS へのリフトは、さくら情報システムとしても初めての取り組みであり、すべてが一からのスタートだったと井本 氏。「ミドルウェアに関しては、Web アプリケーションサーバーを WebLogic から Azure PaaSの Azure App Service、データベースサーバーを SQL Server から Azure SQL Database に置き換えています」と語り、さらに監視ツールも JP1 から Azure PaaS の監視ツール Azure Monitor に移行したと解説します。また山本 氏は、プロジェクトの推進にあたり、マイクロソフトのサポートが重要な役割を果たしたと語ります。
「IaaS にリフトする際にはマイクロソフトのサポートなしで行いましたが、今回の PaaS 化にあたっては、初めての試みで右も左もわからなかったこともあり、社内関係者を通じてマイクロソフトの担当者との接点を持たせていただき、導入から技術支援まで手厚いサポートをいただきました。Azure を使用する部署を対象とした技術セミナーをはじめ、技術力向上に関する支援が充実していたほか、本プロジェクトの要件に合った Azure の機能や、コスト(利用料金)を抑えるためのアドバイスをいただけて本当に助かりました」(山本 氏)。
Azure の監視周りを担当したさくら情報システム プラットフォーム事業本部 プラットフォームソリューション部 基盤ソリューショングループの浅野 遙 氏も、監視ツール部分の PaaS 化におけるマイクロソフトのサポートを高く評価しています。
「これまで JP1 で運用管理・監視を行ってきましたが、Azure への移行に伴いクラウドサービスとしての監視が難しいという課題が顕在化してきました。このため、Azure のサポートに問い合わせて PaaS の監視ツールである Azure Monitor への移行に取り組みました。とても丁寧に対応していただき、感謝しております」(浅野 氏)。
クラウドを活用したモダナイゼーションの鍵を握るのは、Java on Azure のナレッジ
こうして、技術面はもちろん、コンサル面、契約面など多方面からマイクロソフトのサポートを受けながら推進された本プロジェクトは、2022 年 6 月にシステムの構築と移行作業が完了し、本番稼働を迎えます。プロジェクトマネージャーを務めた、さくら情報システム 法人事業本部 ビジネスソリューション第3部 第1グループの岡本 朋子 氏は、本番稼働開始後は大きなトラブルもなく安定して運用できていると語り、「PaaS 化によってログが見やすくなるなど、従来よりも運用が効率化できたと感じています」と導入効果を語ります。全国電力生協連の竹谷 氏も「PaaS を採用した新システムが稼働してからというもの、単位生協からのトラブルに関する問い合わせや相談はほとんどありません」と語り、ユーザー側から見ても PaaS 化による問題は生じていないことを説明します。
今回のモダナイゼーションにおける全ステップに携わってきた山本 氏は「岡本が話したとおり、システムのログが取りやすくなるなど安定した運用が実現できたことが大きなメリットです」と話し、今後も、生産性やサービス品質の向上を目指していくなかで PaaS 化の効果が生まれることを期待しています。また開発チームのリーダーとして、Java フレームワークの刷新に尽力した井本 氏も、PaaS 化によるメリットは大きいと語ります。
「これまでは WebLogic を使っていて、デプロイするにも複雑な手順を踏んでいました。今回 Spring Boot に変えたことで、Azure App Service にアップロードすると、自動的にバックグラウンドで起動がかかってアプリケーションが使えるようになるなど、運用面でも大きなメリットを感じています。Microsoft SQL Databaseの UTC 時間や Web Apps の日本語化、Vnet 統合・プライベートエンドポイントの設定などに最初は戸惑いましたが、構築後は順調に稼働しており、今回培ったナレッジは別業務にも横展開中です」(井本 氏)。
全国電力生協連の竹谷 氏は、今回の一連の取り組みを踏まえた今後の展望について以下のように語ります。
「今回の PaaS 化を含めたモダナイゼーションの取り組みは、ユーザビリティの向上や BCP 対策など、組合員の満足度が高い共済事業の実現に向けた基盤整備という位置付けになります。今後も継続的に改善を図り、単位生協や組合員にとって使いやすく、より共済制度を利用していただけるようなシステム構築を目指していきたいと考えています。その意味でも、設立時のシステム開発から支援いただき、私たちの要望や課題を熟知しているさくら情報システムには、これからも適切なタイミングでベストな提案をしていただけることを期待しています」(竹谷 氏)。
竹谷 氏と同じく、全国電力生協連において代表理事 副理事長を務める沖山 真盛 氏も、今後の火災共済事業においてシステムの整備・維持の重要性は高いと感じています。
「私は 2022 年 9 月に着任したばかりで、今回のプロジェクトには携わっておりませんが、着任前までは単位生協にいた立場から、火災共済事業においてシステムが収支に与える影響については理解しています。組合員の方々からの、生活協同組合のサービスに対する要求は日に日に高まっていると感じており、被害の状況や過去の経過、やり取りなどもデータベース化して、組合員に寄り添った対応をしていかなければならないと考えています。そういったなかで、システムにどれだけ予算をかけられるか、逆に言えばシステムにかける予算をどれだけ最適化できるかが、今後の全国電力生協連の活動において極めて重要な意味を持ってくると感じています」(沖山 氏)。
システムの運用・保守を担うさくら情報システムも、設立当初から支援を続けてきた全国電力生協連のシステム運用には、これまで以上に注力していきたいと考えています。全国電力生協連の担当営業を務めているさくら情報システムの児玉 康生 氏は、今回の PaaS 移行プロジェクトが始動するタイミングで着任。「創立以来の関係で、長きに亘って信頼いただけていることは理解していましたので、今回の取り組みの成果も踏まえ、全国電力生協連の今後の要望にも応えられるようなサポートを続けていきたいと思っています」と語ります。
また、入社して間もない時期に本プロジェクトに参画したさくら情報システムの中野 裕大 氏は、社内でも初めてとなる Azure PaaS導入の取り組みを体験したことは大きな経験になったと語り、「今回の取り組みで身に付けたスキルを、全国電力生協連様をはじめ、多くの企業・組織の課題解決に活かしていきたいと思います」と抱負を口にします。さらに、自社の取り組みを外部に発信する部署に所属しているさくら情報システムの遠山 英輔 氏(現在は金融事業本部 企画部 チーフ・マネージャー)も、今回の取り組みを、Azure PaaS 上で Java を使ったアプリケーションを稼働させたいと考える企業に対して積極的に発信していきたいと力を込めます。
※さくら情報システムの「さくらモダナイゼーションサービス」についてはこちら
PaaS へのリフトを見据え、Azure 上での Java アプリケーションの活用、すなわち Java on Azure に取り組みたい企業にとって、全国電力生協連とさくら情報システムが推進する火災共済システムのモダナイゼーションから得られるナレッジには、大きな価値を見いだせることでしょう。マイクロソフトは、これからも支援を続けます。
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