世界的な空調機メーカーとして知られるダイキン工業は、2021 ~ 2025 年度の戦略経営計画「FUSION25」において DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を掲げています。DX においてはそれを担う人材が重要なキーとなりますが、同社は新入社員に対し 2 年間みっちりデジタル技術について教育を行うユニークな社内人材育成組織「ダイキン情報技術大学」を 2017 年に開設。すでに各事業部門の現場で IT 活用の取り組みが進むなど、目に見える成果を生み出しています。2021 年には新入社員を対象としたデータ分析コンペも実施し、デジタル人材の育成を加速させています。マイクロソフトはダイキンのこうした DX 推進とデジタル人材育成の施策を、知識・技術、そして人の面からもサポートしています。

新入社員を主な対象にデジタル教育を集中して施す「ダイキン情報技術大学」

DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けてキーとされる AI や IoT は、それ自体はあくまでも技術であり、企業にとって重要な価値を創出するにはそれらの技術を使いこなす人材が必要になります。とはいえ優秀な人材は降って湧いてくるものではなく、獲得には企業間で激しい競争が繰り広げられます。

となれば、人材を社内で育成するのが有力な選択肢となるでしょう。この仕組みを組織化し、しかも大々的な規模で展開しているのがダイキン工業です。

同社は 2017 年 12 月、DX 実現を担うデジタル人材を育成するための社内講座「ダイキン情報技術大学」(以下、情報技術大学)を開設。毎年約 100 人を数える新入社員全員を対象に、2 年間、デジタルにまつわる高度な教育を施しています。この期間、新入社員は実務ではなく、数学などの基礎知識からプログラミング、AI の技術や活用方法をひたすら学び続けるのがユニークな特徴です。また、参加者にはダイキンの中で活躍してもらうことを見据えているため、自社製品を知るための「空調研修」や先輩社員との交流を通じ、業務、技術、人といった各種方面でダイキンについて理解を深めるカリキュラムも組まれています。加えて、新入社員だけでなく既存社員や管理職にも AI について学ぶ機会も別途提供しています。

ダイキンといえば、言わずと知れた空調機メーカー。そのダイキンがなぜ、ここまで社を挙げた形でのデジタル人材育成に取り組むのでしょうか。同社の技術開発の拠点であり、情報技術大学の企画・運営も行うテクノロジー・イノベーションセンター(以下、TIC)で、情報技術大学の事務局を担当する高橋 知伸 氏が解説します。

  • ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 高橋 知伸 氏

    ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 高橋 知伸 氏

「現在、当社はコロナ、気候変動、世界情勢などと大きく変化する環境の中にあり、求められるニーズが多様化しています。加えてグローバル化、デジタル化が進み新たな競合の参入も加速しています。そのため、これまでのように良いものをつくるだけでは勝てなくなっており、顧客と直接つながりを持つこと、技術開発のスピードアップ、モノづくり・SCM 改革、間接業務の効率化など、あらゆる企業活動を抜本的に変える必要があります。そのためには社内の業務およびビジネスを理解した上でデジタル技術を活用することが不可欠となります。そこで自社での人材育成に取り組んでいます」(高橋 氏)。

育成の方針として重視する点は大きく 3 つあります。1 つ目が、デジタル技術をいかに活用するかを考える力。2 つ目は、AI を作る上で必須となるデータ分析力。そして 3 つ目が、AI を活用できる基盤を作り上げるシステム化の力です。「この 3 つが合わさり、有意義な効果が生まれると考えています。最終的には デジタル技術を“ただ知っている”だけではなく、実際に社内の各事業部が抱える課題を解決していける人材の育成を目指しています」(高橋 氏)。

最初の修了生輩出から 2 年で将来有望な成果の数々が芽吹く

情報技術大学は 2018 年度の新入社員=第 1 期生を皮切りに、既存社員等も含めてこれまで約 1000 人の修了生を送り出しています。前述のように新入社員は丸 2 年間、事業部門に配属されず“情報技術大学生”として デジタル技術をみっちり学びます。

1 年目は AI に関する基礎やシステムの専門知識など座学が中心となり、2 年目に営業、開発、製造、間接等さまざまな部門の現場を複数経験しながら各部門の課題解決に取り組むPBL(Project Based Learning) を実施。そして卒業後の 3 年目から、実際に各部門へ配属される仕組みです。また既存社員や管理職は、業務に携わりながらより実践的なスキルや活用方法を身につけています。

すでに卒業した 3 期生までの社員は各部門で成果を出し始めていると、自身が 2 期生で、現在は TIC のデータ活用推進グループでクラウドの AI 活用基盤構築を担当している水上 悠生 氏が話します。

  • ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 水上 悠生 氏

    ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 水上 悠生 氏

「修了生は、社内の情報収集基盤を構築したり、機械学習を取り入れた業務効率化ツールや採用向けチャットボットを開発したりと、すでに多方面で活躍しています。社外のデータ分析コンペに参加して優勝を飾った社員や、業務効率化の事例を外部で発表した社員も出ています」(水上 氏)。

同グループの他のメンバーも、修了生がもたらしている DX の効果を実感しています。水上 氏と同じくクラウド基盤の提供に携わる岩脇 正浩 氏は「修了生がいろいろな部門に配属されることで、クラウドのこういうサービスを使いたいといったリクエストや問い合わせが全社的に上がるようになりました。それまでクラウドや IT に興味を示す社員自体少なかったので、変わってきたことを実感しています」と語ります。

  • ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 岩脇 正浩 氏

    ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 岩脇 正浩 氏

また、1 期の修了生で、各部門と実際的なデータ活用のテーマを推進する立場の桑山 忠弘 氏も「1 期生が卒業してまだ 2 年程度しか経っていないにもかかわらず、データ活用という軸で修了生が部門と部門、あるいは社内と社外をつなぐブリッジ役を果たし始め、共通言語で語れる土壌が出来上がってきました」と手応えを感じています。

  • ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 桑山 忠弘 氏

    ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 桑山 忠弘 氏

Azure Machine Learning を活用し 70 人参加のデータ分析コンペを実施

TIC では 2021 年、情報技術大学 1 年目の教育コンテンツとしてデータ分析コンペを開催しました。高橋 氏は同コンペの企画も担当しています。

「今回は空調機器の生産・販売計画業務を担っている SCM 部が実際に保有している販売台数などの生データを利用し、空調機器出荷台数の将来的な需要予測を行う機械学習のモデルを開発してもらいました。データ分析から価値を上げるには、まず業務の流れをしっかり理解することが不可欠。現実に業務で用いるデータを基に分析していくことで、分析力を鍛えるとともに、その理解を深めてもらうことも狙いでした」(高橋 氏)。

同コンペには新入社員約 70 人が参加。そして、AI の分析モデルを作る基盤として利用されたのが Azure Machine Learning です。そもそもマイクロソフトはコンペ以前からハッカソン開催に協力するなど、同社の DX 推進の取り組みにテクノロジーやナレッジの面で寄与しており、岩脇 氏や水上 氏による AI 分析基盤も Microsoft Azure(以下、Azure)上に構築されました。

高橋 氏とともにコンペの企画を牽引した水上 氏は「大きなデータセットを一つのストレージに置き、そこに各受講生が自分たちの Azure Machine Learning スタジオからアクセスしてデータを取り出し、コードを書いてもらうようにしました。計算リソースは各々自分に合った大きさを選べますし、ドラッグ&ドロップで視覚的にトレーニングやデプロイが可能な Azure Machine Learning デザイナーや、データセットを入力するだけで自動的に様々な前処理やモデル選択を試行する自動機械学習(AutoML)も自由に使えるようにしていました」と解説します。

データ分析コンペに取り組む準備段階で、コンペに参加する新入社員向け に 3 日間、Azure Machine Learning の使い方を実践的なハンズオン形式で学ぶ講習がマイクロソフトにより行われました。その前段階としては修了生を対象としたハンズオン講習も実施しており、そこで上がった声をマイクロソフトにフィードバックして、新入社員向け講習のカリキュラム作りに反映したといいます。

マイクロソフトとしてはそのフィードバックを受けて「Azure Machine Learning の使い方以前に、そもそも機械学習とはどのようにして作っていくのかといった基本部分から丁寧にインプットするように心がけました」と、日本マイクロソフトの女部田 啓太 氏は話します。

  • 新入社員約 70 人が参加した、データ分析コンペ

    新入社員約 70 人が参加した、データ分析コンペ

データ分析・活用の一層の浸透に向けて力強い手応えを得る

コンペは 6 日間にわたって開かれ、参加者はチームではなく個人個人で AI モデルづくりに取り組みました。アルゴリズムは自由に選択することができましたが、多くの参加者はマイクロソフトが開発した LightGBM を選択し、最終的な AI モデルとしてだけでなく、データの調査なども含め幅広く活用しました。また終了後は、データ分析を深く学べたとの声が多かった一方、時間が足りなかったという声も少なからず出ていたようです。

「成果としては、まずデータ分析力の向上は達成できたと考えています。またアンケートを見ると、AI から価値を生み出していくには業務の理解が重要であることも浸透したようで、企画側としてはうれしかったですね。一方で、現実の分析テーマでは前提としてデータをいかに取得するかといった“泥臭い”作業も伴うわけですが、この辺りについては今回の取り組みだけではまだ認識が進まなかった面も散見され、次への課題となりました」(高橋 氏)。

また、情報技術大学 2 期生でデータ活用推進グループの三宅 総一朗 氏は、コンペの成果をこう評価しています。

  • ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 三宅 総一朗 氏

    ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 三宅 総一朗 氏

「新入社員は業務で使う生データに触るのが初めてなので当然なのですが、やはり最初は苦戦している様子が伺えました。ただ、わからないところは質問を受け付けていましたし、そうしたヒントも生かしてチャレンジが進んでいったのは良かったと思います。結果については、苦戦しながら一定の精度を出せた人もいれば、出せなかった人もいましたが、今回の経験から現場配属に向けた手応えを得られたのではないでしょうか」(三宅 氏)。

三宅 氏は SCM 部における機械学習を用いた実際の需要予測にも携わっており、今回、業務で使えるレベルの精度を出すモデルがもし開発されれば現場での採用も考えていたとのこと。「残念ながら今回はそこまでに至りませんでしたが、将来への希望は感じましたね」と感触を得ています。

対して、コンペには Azure の活用促進という狙いもあったと岩脇 氏。「当社は Azure で構築した分析基盤の活用を進めていこうという段階で、今回のコンペにはその基盤を 70 人という大人数で初めて使ってみるという試験的な要素もありました。基盤を提供する立場としては、インフラを気にせずセキュリティも担保された状態で、ユーザーは使うことのみに集中できるこの基盤を、実際に問題なく利用できたところが成果だと感じています」(岩脇 氏)。

Azure Machine Learning については、会社の実データを利用するうえで必須のセキュリティがしっかり確保されたうえ、分析に便利な機能が豊富に用意され、GUI も優れていると、高橋 氏や水上 氏は高く評価しています。「むしろ今回はまだまだ使いこなせていない機能が数多くあったので、今後また同様のコンペを実施するのであれば事前の学びを充実させ、コンペ期間も長く設けるなどして、機能をフル活用していければと思います」(高橋 氏)。

最後に、ダイキンの Azure と AI 活用に関わる取り組みを総括し、岩脇 氏がマイクロソフトのサポートをこう評します。

「セキュリティを意識せず自由に分析できる環境を作り、活用しようとスタートした取り組みの全体において、マイクロソフトにはいろいろ相談し、手厚いサポートをいただきました。多くのベンダーとの付き合いがありますが、ここまで手厚くサポートしていただけることは少ないと感じています。改善もかなりのスピードで進み、その情報も即座に提供されましたので信頼も厚く、最終的には“マイクロソフトが大丈夫と言ったかどうか”が仕様を決める上での重要ポイントになっていたくらいです」(岩脇 氏)。

これに対して日本マイクロソフトの伊藤 駿汰 氏は「フィードバックの機会を設けていただき、マイクロソフトとしても学びの多い取り組みでした。情報共有も密にいただけたことで、円滑に進められたと思っています」と振り返ります。

また女部田 氏は、ダイキンの DX に向けた意気込みやその風土について次のような印象があるといいます。

「ハンズオン研修にしても、まず 70 人という大人数が集まること自体驚きですし、コーディングができる方も多かったので、とても進めやすかったですね。入社後にゼロから教育し、ここまで育成する体制を整えている会社は他に例を見ません。DX 人材の育成という点で、はるかに進んでいると強く感じました」(女部田 氏)。

ダイキンは社内でのデータ活用をさらに強化していく計画で、情報技術大学を通じた人材育成と Azure の分析基盤が引き続きキーとなっていくことは間違いありません。マイクロソフトも、これまで通りに伴走を続けながらその取り組みを力強く支えていきます。

  • ダイキン工業株式会社 桑山 忠弘 氏、岩脇 正浩 氏、三宅 総一朗 氏、水上 悠生 氏、高橋 知伸 氏。日本マイクロソフト 女部田 啓太 氏、伊藤 駿汰 氏、永田 祥平 氏

    ダイキン工業株式会社 桑山 忠弘 氏、岩脇 正浩 氏、三宅 総一朗 氏、水上 悠生 氏、高橋 知伸 氏。日本マイクロソフト 女部田 啓太 氏、伊藤 駿汰 氏、永田 祥平 氏

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