東京(神楽坂/葛飾)と千葉(野田)、北海道(長万部)と日本国内に 4 つのキャンパスを構え、「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神のもと、自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造を担う人材の育成に取り組む東京理科大学。近年ではデータサイエンスプログラムを立ち上げ、AI/IoT といった先端技術と従来の専門分野を融合させた授業を展開。IT を 活用して社会の発展に貢献できる人材の育成を進めています。同大学ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みも積極的に行っており、従来の板書主体の講義から、デジタル技術を活用した新しい教育スタイルへの変革を目指した教育 DX を推進。その一環として学内の実習室環境(PC 教室)のクラウド化に着手し、Azure Virtual Desktop(AVD)+Citrix Cloud を採用。セキュアかつ安定した仮想環境の構築に成功しました。

BYOD 化の基本方針に合わせて、学内実習室環境(PC 教室)のクラウド化プロジェクトが始動

7 学部 32 学科を擁する国内随一の理工系総合大学である東京理科大学では、IT を活用して社会の発展に貢献できる人材を育成するためデータサイエンスプログラムを立ち上げ、AI/IoT といった先端技術と従来の専門分野を融合させた授業を展開しています。同大学が取り組む教育 DX では BYOD 化の推進を基本方針としており、デジタル技術を活用した新しい教育スタイルの実現に向けた環境整備が急務となりました。同大学の IT システムを統括する情報システム部 部長の石黒 寛行 氏は BYOD 化を推進した背景をこう語ります。

  • 東京理科大学 情報システム部 部長 石黒 寛行 氏

    東京理科大学 情報システム部 部長 石黒 寛行 氏

「欧米では、学生が自分の PC を持ち込んで授業や研究に利用するのがすでに当たり前でしたが、日本の大学においては、そういった文化が浸透していませんでした。本学においても、入学した際に PC の購入を求める学科は一部にありましたが、全学的には展開されていない状況でした。そこで、本学は新型コロナウイルス感染症の影響等もあり、「教育のICT化」が一気に加速し、BYOD 化の推進を開始しました」(石黒 氏)。

こうして BYOD 化の推進を基本方針として進められた東京理科大学の教育 DX。その一環として立ち上がったのが、学内実習室環境(PC 教室)のクラウド化プロジェクトです。本プロジェクトで技術面の責任者を務めた、情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任の吉田 孝将 氏は、その経緯を説明します。

  • 東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任 吉田 孝将 氏

    東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任 吉田 孝将 氏

「本学では BYOD 化を推進するという基本方針があり、既存の PC 教室で行っていた授業を学生所有のパソコンで行うための環境構築を検討していました。ただ、学生ごとに仕様が異なるパソコンを使った場合、PC 教室で行った場合と同等の授業が成立するのかという懸念があり、まずは PC 教室の環境を仮想化するというアプローチで、BYOD 化にともなう課題の解決に取り組みました」(吉田 氏)。

こうした経緯で始動した本プロジェクトですが、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大、いわゆるコロナ禍により、PC 教室での授業が難しくなったことで重要度が向上。優先度の高いミッションとして取り組みが加速し、利用するクラウドサービスの選定に着手します。「BYOD 化の推進を開始した段階では、PC 教室の運営における課題解決までは考えていませんでしたが、コロナ禍の影響によって、BYOD 化と併行して PC 教室の仮想化(クラウド化)を進める必要が出てきました」と石黒 氏。想定外の取り組みだった本プロジェクトが、結果的にコストやメンテナンスといった PC 教室の課題解決につながったと振り返ります。

移行先となるクラウドサービスの選定においては、複数のベンダーから提案を受け、マイクロソフトが提供する DaaS 型の VDI サービス Azure Virtual Desktop(以下、AVD)が有力候補となりました。同大学では、Microsoft Azure や Microsoft 365 といったマイクロソフト製品を以前から利用しており、これらの既存環境と親和性の高いことが導入検討候補となった大きな要因だったと吉田 氏は語ります。

「PC 教室のクラウド化にあたっては、PC 教室内のパソコンにリモート接続するという選択肢もありましたが、本学が現在所有している OS やソフトウェアのライセンスではリモート利用が行えず、実現が困難でした。こうした課題を解決するための方法をマイクロソフトに相談したところ、現在のライセンスを活かせる AVD の導入を提案していただきました。また、Windows 10 が動作し、さらに複数ユーザーで同時に利用できるマルチセッションをサポートしていて利便性を担保しながらコストを抑えられることも、他のサービスに比べて優位性を感じたところです」(吉田 氏)。

AVD と Citrix Cloud の組み合わせで、学内・学外それぞれにおける認証システムの最適化を実現

ところが、2020 年 10 月に PoC を実施したところ、AVD 単体の導入では学外からのアクセスに関して、利用はできるが機能要件がすべて満たせないことが判明しました。このため東京理科大学は、新たなパートナーとして日鉄ソリューションズ(以下、NSSOL)を選定し、システム構成を再検討。2021 年 10 月には、NSSOL が提案した AVD と Citrix Cloud の組み合わせ(以下、AVD with Citrix)で 2 度目の PoC を実施しました。情報システム部 情報システム課 ITサポート室の小原 功之 氏は、AVD with Citrix により、AVD 単体で環境を構築した際に実現できなかった機能要件を満たせることが確認できたと、2 度目の PoC の成果を語ります。

  • 東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 小原 功之 氏

    東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 小原 功之 氏

「本学では以前から Azure Active Directory (以下、Azure AD)を利用しており、AVD の導入は認証システムを Azure AD に一本化できるというメリットがあったのですが、オンプレミス環境にある Active Directory(以下、AD)と連携させるためには、本学で導入していない Azure AD Connect を利用しなければならないという問題がありました。そこで Citrix Cloud を組み合わせた AVD with Citrix で PoC を実施。Azure AD Connect がなくても AD との連携が行え、さらにユーザーが AVD を使っている裏側でマスターイメージを修正して、翌日反映させるといった、AVD 単体ではできない柔軟な運用が可能になるなど、さまざまなメリットを確認し、AVD with Citrix の採用を決定しました」(小原 氏)。

吉田 氏も「AVD 単体の PoC では、前述の通り本学の要件への対応が十分ではなく、かつ、本学としては学内外の利用場所に応じた多要素認証を掛けることが必須だったため、NSSOL 提案の Citrix Cloud と組み合わせた構成を検討しました」と語り、AVD with Citrix により学外からは多要素認証を利用してアクセス、学内からは多要素認証をかけずにアクセスという、2 つの入口を設けた構成を実現できたと、Citrix Cloud を組み合わせるメリットを解説。さらに「他のベンダーとは違い、NSSOL の担当者は技術的に実現できない点、実現できたとしてもコストが合わない点などをしっかりと説明したうえで、正しい提案を行ってくれました」と語り、NSSOL への信頼が、同社からの提案を採用した大きな要因になったことを説明します。

NSSOL ・シトリックス・マイクロソフトのサポートにより、短期間でのシステム構築に成功

こうして 2021 年後半から、AVD with Citrix による PC 教室のクラウド化プロジェクトが本格的に動き出しました。「リモートで接続する際の多要素認証としては、Azure AD に寄せる方法もありましたが、それではユーザーが Windows 環境にアクセスするために認証を 2 回行う必要が出てきます。ユーザーの利便性を考慮すれば、Citrix Cloud の多要素認証を利用するという方法は非常に有効でした。また、ユーザープロファイルは、ストレージ性能が求められるため、ベアメタルでハイパフォーマンス、低遅延のエンタープライズ ファイル ストレージ サービスである Azure NetApp Files を活用しています」と小原 氏。学内からのアクセスは従来どおり、Azure AD の条件付きアクセスを利用して認証を効率化したと話し、ユーザーに負担をかけないシステム構成が実現できたことを喜びます。

  • システム構成概要図

    システム構成概要図

また、本プロジェクトの初期段階では、PC 教室で利用できるソフトウェアすべてを AVD 上で動作させることを目標としていましたが、PoC の段階で GPU 機能を要求するソフトウェアが正常動作しないという課題が顕在化。将来的にも GPU 必須のソフトウェアを利用する可能性が高いと判断した同大学は、GPU を搭載した仮想マシンの導入に踏み切ります。

システムの構築は非常にスムーズに進められ、2022 年 2 月 15 日 にプレオープン、同年 4 月 1 日から正式リリースされ、すべての学生および、授業で PC 教室の環境を使用する教員に対して、AVD による仮想環境の提供を開始しています。現状では、既存の PC 教室も稼働しており、本年度中は併行運用していく予定だといいます。吉田 氏は、短期間でのシステム構築・運用を実現した要因として、パートナーである NSSOL をはじめ、シトリックス、マイクロソフトからの密接なサポートを挙げます。

「マイクロソフトには、プロジェクト初期から AVD に関するアドバイスをはじめ、手厚いサポートをいただいています。NSSOL は 2021 年半ばくらいから参画していただき、かなり大規模な環境を短期間で構築するという困難なミッションであったにも関わらず、非常に精力的な支援をいただきました。さらに NSSOL を介して シトリックス からも Citrix Cloud の環境構築の支援を受け、構築時の不具合にも迅速に対処していただきました。このようなサポートがあってこそ、プロジェクトを短期間で推進できたと感謝しています」(吉田 氏)。

デジタルテクノロジーを効果的に活用し、対面+オンラインを組み合わせた教育スタイルを推進

正式稼働を迎えた現在は、1 つの授業で最大 160 ~ 180 ユーザーの利用を想定し、同時に 360 ユーザーが使える環境が構築・運用されています。「AVD を利用する授業が同じ時間に重なった場合も対応できます」と吉田 氏は語り、小原 氏も「認証方式や接続の方法が変わったことに関する問い合わせはいくつかありましたが、大きなトラブルは一切なく、AVD with Citrix は安定稼働を続けています」と手応えを口にします。

今回の取り組みを踏まえ、東京理科大学では対面・リモート両面での環境整備を進め、大学 DX をより一層推進していく予定です。AVD with Citrix でクラウド化した PC 教室環境については、今後も周知・啓蒙活動を推進していき、次年度からは学内にある PC 教室を廃止する方向であると吉田 氏は話します。

「現在は PC 教室も併用していることもあり、AVD の稼働率は当初想定していたよりは若干低くなっています。ただ、今後も周知・啓蒙活動を進めていき、次年度からは PC 教室を廃止する方向でいますので、必然的に授業で AVD を利用するケースは増えてくると考えています。それに合わせ、教員側も AVD を使った授業のシミュレーションを進めていくはずで、早ければ本年度後期から AVD の利用率が上がっていくことも想定しています」(吉田 氏)。

PC 教室の構築・運用に責任者として携わり、今回のプロジェクトにも参画している情報システム部 担当次長の篠原 篤 氏は、本プロジェクトの成果と今後の展望についてこう語ります。

  • 東京理科大学 情報システム部 担当次長 篠原 篤 氏

    東京理科大学 情報システム部 担当次長 篠原 篤 氏

「BYOD 化により学生は自分の PC をいつでも使えるようになりますが、学生すべての PC に同じ環境を構築することは容易ではありません。教員側から見ると、ソフトウェアのインストール方法から教えなければならず、授業に使える時間が減るというデメリットがあります。このため、環境が統一された PC 教室を使用したいという意見も少なくないのが現状でした。ただ、PC 教室の環境を学外から使いたいという学生の要望や、場所や時間に縛られない学びの機会を提供したいという教員の要望は以前からあり、その意味でも、BYOD の課題を解決しながら学外からのアクセスを可能にした本プロジェクトは、今後の DX への取り組みにおいて、極めて大きな意味を持ってくると考えています」(篠原 氏)。

石黒 氏も、今回の AVD with Citrix 導入と BYOD 化の推進により、PC 教室にある 1500 台のパソコンの運用コストを削減できる目処が立ったことに加え、20 以上ある PC 教室を他の用途に利用できる可能性が生まれたことが大きな利点であると、プロジェクトの成果を実感しています。

「朝、 PC 教室の鍵を開けて PC の電源を入れ、夕方には電源をオフにして鍵を閉めて……というのは、単純ですが PC 教室がキャンパスに点在しており意外に手間のかかる作業です。PC 教室を廃止できれば、PC のメンテナンスの手間を削減できるだけでなく、教室の運営にかかっていた負荷も減り、業務の効率化も期待できます。さらに PC 教室を他の用途で使えることもメリットだと考えており、通常教室としてはもちろん、BYOD で学内に持ち込んだ PC の電源を供給するための場所の提供やネットワーク環境の整備など、さまざまな使い方を模索しているところです」(石黒 氏)。

東京理科大学では、対面とオンラインを組み合わせた、いわゆるブレンデッド教育(同大学ではハイフレックスと呼称)を実践しながら、今後も DX の取り組みを推進していく予定です。本プロジェクトをフックに加速する同大学の「教育 DX」には、他大学はもちろん、DX に取り組むすべての企業/団体にとって、注目に値する価値があるでしょう。

[PR]提供:日本マイクロソフト