2004 年には国内で初めて Web 上でフォトブックを作成できる個人向けサービス「Photoback」をリリースし、オンデマンド出版市場をリードしてきたコンテンツワークス。「写真が語り出すような本」を製作できることが特徴ですが、写真をめぐる環境が大きく変わるなか、システム基盤のレガシー化で、ユーザーのニーズに応えにくくなっていたといいます。そこで取り組んだのがサービス基盤のクラウド化です。「FastTrack for Azure」を活用して、サーバレス化や PaaS 化など最新の知識やノウハウを効率良く学び、事業拡大を見据えた新しいアーキテクチャと組織体制への移行を実現しました。

オンデマンド出版サービスのパイオニアとして「フォトブック」市場をリード

1997 年にオンデマンド出版サービス「BookPark」で創業し、思い出を「伝える」「創る」「支援する」「残す」を柱に事業を展開しているコンテンツワークス。2004 年には国内で初めて Web 上でフォトブックを作成できる個人向けサービス「Photoback」をリリースし、国内におけるオンデマンド出版のパイオニアとして市場をリードしてきました。

Photoback は、手持ちの写真データを Web 上にアップロードして編集し、簡単に自分だけのフォトブックをつくることができるサービスです。現在の会員数は 50 万人、フォトブックの累計発行部数は 650 万部を超えていて、写真スタジオなどの法人向けフォトブック作成支援サービス「Photoback for Biz」も 2500 社超で利用されています。

コンテンツワークスは富士ゼロックス(現、富士フイルムビジネスイノベーション)の新規事業としてスタートし、小学館、講談社、マイクロソフトの出資を受けて法人化された経緯があります。そのため、従来からある出版文化を受け継ぎながら、テクノジーを駆使したオンデマンド出版を実現していることが大きな特徴です。取締役 サービス開発部 部長 前田 勝己 氏は、Photoback を中心としたコンテンツワークスのサービスについて、こう話します。

  • コンテンツワークス株式会社 取締役 サービス開発部 部長 前田 勝己 氏

    コンテンツワークス株式会社 取締役 サービス開発部 部長 前田 勝己 氏

「マットな質感の紙を利用したり、帯や扉、中表紙をつけたり、本としてのかたちにこだわっていることが特徴です。CD サイズや文庫本サイズのフォトブック、見開きがフラットになるフォトブックなど、紙の良質な手触りと美しいレイアウト、仕上がりを持った『写真が語り出すような本』を作ることができます。お客様からはよく『実際に書店に並んでいる本と同じ体裁と雰囲気を持ったフォトブック』という評価をいただいています」(前田 氏)。

コンテンツワークスの IT システムは創業以来、オンプレミス環境で構築、運用されてきました。ただ、会員数の増加と取り扱う写真データ量の増加にともない、オンプレミス環境のシステムではビジネス拡大に追随できないシーンが増えてきていたといいます。

「特に近年は、スマホの普及やカメラの性能向上によって写真 1 枚あたりのデータ量が大きくなっています。また、生活のなかでの写真の位置づけも日々変わっていて、そうした変化に対応していくことが求められています。そこで Photoback のサービス基盤をクラウドに移行し、事業の発展にあわせてサービス内容を拡大できるようすることを目指したのです」(前田 氏)。

コンテンツワークスがサービス基盤に採用したのが Microsoft Azure(以下、Azure)でした。

写真のデータの増大でストレージ容量が不足、機能改善や新サービス投入が難しく

コンテンツワークスが抱えていた課題は大きく 3 つあります。

1 つめは、ストレージの容量確保を中心にしたインフラの運用管理です。写真データの量はビジネス拡大とともに増大していくため、容量不足が発生したときにストレージを追加するといった対応を続けてきました。インフラの設計と管理を担当する北林 孝美 氏は、こう説明します。

  • コンテンツワークス株式会社 北林 孝美 氏

    コンテンツワークス株式会社 北林 孝美 氏

「当初は写真 1 ファイルあたりのデータ容量も数 MB でしたが、近年では 1 ファイルで 10MB を超えることが当たり前になっています。作品として編集中のデータは一定期間保持し続ける必要があり、保存期間が過ぎたデータから順次削除しています。現在は 450 万枚の写真を保持する設計ですが、ユーザー数とデータ量の増加にストレージの増設が追い付かなくなった結果、サービスに制限をかけざるをえない状況になっていました。また、ユーザーが 100 ページを超えるようなフォトブックを編集していて、編集中に保存期間である 14 日間を過ぎてしまうと、データが削除されるといった問題も発生するようになりました」(北林 氏)。

2 つめは、ユーザーのニーズに応じて機能を改善したり、新サービスを投入したりすることが難しくなっていたことです。Photoback for Biz のサービス開発を担当している加治屋 志歩 氏は、こう説明します。

  • コンテンツワークス株式会社 加治屋 志歩 氏

    コンテンツワークス株式会社 加治屋 志歩 氏

「ファイルサイズが大きくなるにつれて、画像のアップロード時間が長くなっていました。また、アプリケーションの制約上、ユーザーあたり 1 枚ずつしかファイルをアップロードできない仕様でした。フォトブックを編集するまでの手間が多くかかることで、サービスの UI/UX が低下していました。ストレージの I/O やファイルの分散処理にかかわるため、アプリケーションを改修するだけでは根本的な解決ができないと考えていました」(加治屋 氏)。

3 つめは、クラウドへの移行を検討したときに知識やノウハウがほとんどなかったことです。開発担当の長瀬 マキ 氏はこう話します。

  • コンテンツワークス株式会社 長瀬 マキ 氏

    コンテンツワークス株式会社 長瀬 マキ 氏

「サービス当初からアプリケーションは .NET 環境で C# を使って開発してきました。システム基盤は仮想化されていて、ビジネス拡大に応じてシステム規模を拡大させることはできていました。ただ、クラウドのようにピークに応じてサーバをスケールアウトさせたり、処理を分散して並行実行したりはできませんでした。既存システムをクラウドに移行する場合も、サービスを稼働させたまま、どの機能をどう移行すればよいかなどノウハウがありませんでした」(長瀬 氏)。

  • オンプレミス環境下の課題

    オンプレミス環境下の課題

「FastTrack for Azure」を活用して、クラウドに関する最新の知識とノウハウを学ぶ

コンテンツワークスが既存の課題を解消し、ビジネス拡大を目指すために活用したのが「FastTrack for Azure」です。FastTrack for Azure は、クラウド ソリューションを迅速かつ効果的に設計し、デプロイすることを技術的に支援するカスタマーサクセスプログラムで、2020 年 2 月から日本国内でも提供が開始されています。コンテンツワークスはこのプログラムを活用して、クラウドに関する知識とノウハウの獲得、アーキテクチャや移行プランの策定、具体的な移行作業を進めていきました。

「Azure 自体は 2011 年の東日本大震災をきっかけに利用をはじめました。震災で紙焼き写真などの思い出が流されるような事態を受けて、Photoback で作った作品も永久に保存できるようにしたのです。システム自体をオンプレミスに置きながら、Azure の Blob ストレージに作品をアップロードして保存できるようにしました。今もこのサービスは提供し続けていますが、Azure の活用自体は進んでいませんでした。Azure からはその後、さまざまなサービスが提供され、われわれもキャッチアップできなくなっていたのです。そこでマイクロソフトに相談したところ、FastTrack for Azureの紹介を受けました。体系的にサービスを学ぶとともに、クラウド移行を技術面からサポートしてもらったのです」(前田 氏)。

FastTrack for Azure の中心的な活動は、定期的に実施されるミーティング(定例会)です。定例会の前に困り事や課題を提出しておき、それに対する考え方や解決方法をアジェンダとして定例会の場で議論し、解決策をさぐっていまきす。プロジェクト開始当初は毎週、その後、隔週、毎月といったように頻度やメンバーも少しずつ変えながら、取り組みを進めていったといいます。定例会では、マイクロソフトの技術者やパートナーがテーマや課題に応じて参加し、綿密なサポートを行いました。

「認証やデータベースのあり方、パフォーマンスの改善方法、移行方法などを議論し、最終的に『画像のクラウド化』と『インフラのクラウド化』という大きく 2 つのプロジェクトを推進することになりました。画像のクラウド化は、Photoback に掲載する写真データの保存先をオンプレミスのストレージから Azure Blob ストレージを使ったサーバレス環境に移行するもの。インフラのクラウド化は、オンプレミスのプライベート環境で動作していた仮想サーバを IaaS や PaaS 環境に移行するものです」(北林 氏)。

Azure Blob と Azure Functions でサーバレスを実現、インフラの IaaS 化と PaaS 化も推進

1 つめの課題だったストレージ容量の不足は「画像のクラウド化」により解消しました。ポイントは、ファイルのアップロード先としてBlob ストレージを利用するとともに、Azure Functions というサーバレスコンピューティングを実現する仕組みを使っていることです。

「Photoback 上でユーザーが写真を編集する場合、これまではオンプレミスのストレージにアップロードする仕組みだったため、ネットワーク帯域やストレージ I/O の影響を受けやすい環境でした。そこでまずアップロード先を Blob に変更しました。これにより、自社で帯域を確保する必要がなくなり、アップロードの並列処理が可能になりました。また、アップロード後にそのイベントを検出して Azure Functions と連携して画像のサムネイルを自動生成する仕組みを整備しました。ユーザーはサムネイルを使って作品を編集するため、全体のパフォーマンスも向上、スケーラビリティやセキュリティも確保できました」(加治屋 氏)。

2 つめの課題であるスピーディーなサービス投入や機能改善については「画像のクラウド化」や「インフラのクラウド化」とともに、クラウドに適した組織体制やカルチャーを育成することで解決していきました。

「サービスデリバリーをいかにはやくするかが事業成功のカギだと考えています。ソースコードの修正から実際のリリースまでを一気通貫に扱えることが必要で、そのためにはオンプレミスだけでは限界があり、クラウドの力を最大限に引き出していくことが重要でした。インフラをクラウド移行しながら、開発運用体制もクラウドに適した体制に移行していく計画です」(北林 氏)。

3 つめの課題である知識やノウハウの不足は、FastTrack for Azure を採用することで根本的に解消できました。

「マイクロソフトのトップエンジニアに直接質問できることは、取り組みを進めるうえで大きな力になりました。オンプレミスのシステムを長く運用していると『クラウドの常識』と思えることでもまったく知らない状態ということがよくあります。例えば、リトライ処理 1 つとっても、ネットワークやシステムが安定しているオンプレミスとは異なり、クラウド環境では失敗することを前提に設計していくことが必要です。また、Blob 特有の制限など Azure のサービスの仕様で、並列処理でも思ったようなパフォーマンスがでない場合もあります。FastTrack for Azure を利用したことで、サーバレスなどの全体のアーキテクチャから、必要になる技術やサービス、具体的な課題の解決方法、さらには、DevOps やアジャイルなどのクラウドネイティブな組織文化も学ぶことができました」(長瀬 氏)。

たくさんの写真に囲まれながら充実した人生を送ることを支援していく

画像のクラウド化を進めた効果は絶大で、アップロード時間は 3 倍高速化されました。例えば、これまでは画像 50 枚をアップロードするのに 90 秒程度かかっていましたが、クラウド化移行は 30 秒で済むようになりました。

「画像のアップロードは写真を編集する前の作業であり、長く時間がかかりすぎると、ユーザー体験を大きく低下させる要因になります。複数の画像をすばやくアップロードできるようになったことで、サービス全体のユーザー体験が大きく向上しました。ストレージ容量にも制限がなくなったので、編集データの有効期限を通常より延長するオプション機能も提供できるようになりました」(加治屋 氏)。

また、Azure Functions を採用したことで、新しいサービスの開発や機能改善が容易になりました。

「現在は、Blob に保存したデータからサムネイルを作成していますが、同じように画像に対してさまざまな処理が可能です。例えば、保存した画像に対して Azure Cognitive Servicesの機械学習や AI を適用し、新しいサービスを開発することもできます。Azure Functionsを並列に実行させることで、処理を高速化することも容易です」(長瀬 氏)。

インフラのクラウド化の効果については、スピーディーな IaaS への移行が実現できたことと、必要に応じて PaaS への移行が実現できたことが大きかったといいます。

「FastTrack for Azure を活用することで、どのアプリケーションをどうクラウド化していくかの道筋を立てることができました。すべてのサーバをリフト&シフトするのではなく、認証系の Active Directory(以下、AD)と SQL Server は最初から Azure AD と Azure SQL Database という PaaS へ移行することを決めました。PaaS のマネージドサービスとして利用することで、インフラ運用管理の負担が大きく削減できます。また、FastTrack for Azure でアドバイスをいただいたことで、データベースの PaaS 化検証も 2 カ月という非常に短い期間で実現できました。今後は順次、IaaS への移行と PaaS 化やマイクロサービス化を推進していく予定です」(北林 氏)。

  • 現状のシステム構成図

    現状のシステム構成図

  • 移行後のシステム構成図(予定)

    移行後のシステム構成図(予定)

このように、FastTrack for Azure を活用して、画像のクラウド化とインフラのクラウド化を推進してきたコンテンツワークスですが、今後はさらに、取り組みを加速させる予定です。

「新たなシステム基盤を構築したことで、新サービスの投入やユーザー数の拡大に迅速に対応できるようになりました。これまでは難しかった 1 万人規模のキャンペーンなども実施できます。Photoback は『思い出を残していく』ことを大事にしてきたサービスです。今後は、『思い出を作っていく』という面でも新しいサービスを投入していきます。たくさんの写真に囲まれながら充実した人生を送ってもらうために支援していきます」(前田 氏)。

コンテンツワークスの新たな取り組みを、マイクロソフトと Azureが技術面から支えていきます。

  • 集合写真

[PR]提供:日本マイクロソフト