三菱重工グループが Microsoft Azure を採用した全社共通のデータ分析基盤を構築しました。データウェアハウス(DWH)として Azure Synapse Analytics を採用、また、ETL ツールとデータカタログ製品としてインフォマティカを採用するという特徴的な構成を採用し、高速性と機能性を両立させています。プロジェクトをリードしたのは ICTソリューション本部で、わずか半年で基盤の構築を完了しました。三菱重工、マイクロソフト、SCSK、インフォマティカがタッグを組んで推進したプロジェクトの詳細を紹介します。
DX とデータドリブン経営への転換をリードする ICT ソリシューション本部
1884 年の創立以来、エンジニアリングとものづくりのグローバルリーダーとして、社会課題に真摯に向き合い、人々の暮らしを支えている三菱重工グループ。グループは国内外の約 300 社で構成され、民間航空、輸送、発電所、ガスタービン、機械、インフラから防衛・宇宙システムなどにまで至る幅広い産業において、長い歴史の中で培われた高い技術力と最先端の知見を統合したソリューションを提供しています。
特に近年は、カーボンニュートラル社会の実現に向けたエナジートランジション、モビリティの電化・知能化、サイバー・セキュリティ分野にも力を入れ、人々の豊かな暮らしの実現を目指しています。
具体的な事業戦略については、新型コロナの影響や火力事業の環境変化、民間航空機分野の戦略見直しなどの要因から、2021事業計画を半年前倒しで策定し、「収益力回復・強化」と「成長領域の開発」を 2 本柱として計画を推進しているところです。また、事業戦略と歩調を合わせるように IT 戦略についても、企業価値の向上に向けてさまざまな施策を実施しています。
三菱重工 ICTソリューション本部 BPI部の野本 剛 氏は、こう説明します。
「ICTソリューション本部では、グローバルな視点で時代に即した先端 ICT に係るデータ分析基盤を構築し、三菱重工グループのデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)とデータドリブン経営への転換をリードすることを目指しています。こうした考えに至ったきっかけの 1 つは、基幹システムとして採用している SAP ERP の現行バージョンのサポート切れです。SAP の新バージョンに対応する取り組みを単なるシステムの置き換えではなく、企業価値の向上に寄与する仕組みへの変革を目指して検討を進めていますが、その取り組みのなかで、データ活用のための基盤構築を行なう必要性が出てきたのです」(野本 氏)。
また、データ分析基盤の構築について、三菱重工 ICTソリューション本部 BPI部の泉 洋平 氏は、こう説明します。
「データを事業へ提供する価値という観点から、コンセプトを整理し『事業への早期経営情報提供の実現』を目標の 1 つに定めました。SAP ERP のバージョンアップ対応と並行して、グローバルでデータ統合し、経営情報をリアルタイムで提供する環境を整備するデータ分析基盤構築プロジェクトをスタートさせたのです」(泉 氏)。
このデータ分析基盤構築プロジェクトにおいて重要な役割を果たしているのが、Azure Synapse Analytics を始めとする、Microsoft Azure(以下、Azure)が提供するデータ活用のためのさまざまなサービスです。また、Azure のサービスと組み合わせて、データカタログ製品としてインフォマティカ製品を採用するなど、独自の構成となっていることも大きな特徴です。
情報の分析に時間がかかり、データ活用のスピードにも影響が
三菱重工では、これまでデータ活用のための基盤を個別に構築してきました。このことが逆に、全社的なデータ活用の妨げになっていたといいます。
「従来、データ利活用の基盤は、経理・調達・人事など各業務領域ごとに個別に構築していました。そのため、業務領域をまたいだ分析が容易にはできないという課題があったのです。例えば、経理の情報に人事情報を組み合わせて何かを分析しようとすると、データを収集したり、加工したりするために複雑な工程が必要になっていました。くわえて、個別に複数の基盤が存在するために、基盤を管理する担当者の数が増加することも課題でした。基盤が複数あることによって、データ管理に関するコストが増加していたのです」(野本 氏)。
個別システムというのは、事業領域ごとに異なる SAP システムや BI ツールが導入されていたり、プロジェクトごとに異なるデータベースやデータウェアハウス(以下、DWH)が構築されていたりという状況です。また、同じパッケージシステムを採用している場合でも、導入時期が異なるため、バージョン管理やライフサイクル管理をそれぞれ個別に行なう必要があったといいます。
「データを蓄積する基盤も違えば、分析のためのツールも違っていました。例えば、ユーザーが 3 種類のシステムをまたがった分析をしようとする場合、3 種類のお作法を覚えないとデータが取れませんでした。また、システム運用側にとっても、3 つのシステムの運用方法を知っておく必要があり、管理負荷が高まっていました」(泉 氏)。
こうした業務の負荷は、データ活用のスピードにも影響を与えていたといいます。
「現場の担当者は、現場のデータだけを見て自分が必要な分析ができます。ただ、事業部の管理部門は、複数の部門のデータを集めたうえで分析する必要があるため、現場での分析よりも手間が増えます。関わる部門、人、データが増える分だけ、データを準備するための手続きが増えていきます。さらに新たなデータ分析のニーズに対応する場合となると、活用までにかなりの時間がかかってしまっていたのです」(泉 氏)。
全社データを蓄積・分析していくための基盤を半年間で構築
データ分析基盤構築プロジェクトが目指したのは、こうしたデータのサイロ化と活用までのスピード感、人手に頼らざるを得ないといった状況を改善しながら、業務データを経営判断や意思決定に活用できる全社共通のデータ蓄積基盤を構築し、データドリブン経営推進を支えることでした。
「データがサイロ化する要因には、当社がさまざまな領域をまたがって事業を行なっていること、システムを構築した時期がそれぞれの事業で異なることが挙げられます。また、実務でデータを扱っている人たちが優秀すぎることも理由ではないかと思っています。少し無理をすれば、Excel や Access などを駆使して、自分たちでデータを結合、加工、修正して『乗り越えることができてしまう』状態でした。ただ、時間と手間をかけてデータを見ることができても、実際データ抽出の依頼部署が報告を見ても『そうだったんだ』で終わってしまい、『次に何をするか』を判断するタイミングが遅れてしまうこともあったのです。それが三菱重工のデータ活用の一番の問題でした」(野本 氏)。
データ分析基盤構築プロジェクトは、2021 年 4 月からスタートし、最初の基盤構築を 2021 年 10 月に終えました。
「半年間で構築したのは、全社的なデータをこれから集めていくための最初の器となる部分です。その部分は PaaS を活用して柔軟にスケールアップできるように構成されています。いまは一部の基幹システムのデータが入っている状態で、今後はまず、基幹システムの刷新プロジェクトとして取り組んでいる新しい SAP システムのデータを蓄積していきます。またこれから作られる新しいシステムのデータも蓄積していきます。あらかじめ器を作っておくことで、全社的な統制を効かせられるようにし、データが混在して埋没してしまうような状況を防ぎます。そのうえで全社規模のデータ活用基盤としてスケールアップしていく計画です」(泉 氏)。
三菱重工では、2023 年 5 月に、経理・調達という 2 大基幹システムの一部カットオーバーを控えています。これら次期基幹システムは、SAP S/4HANA と周辺システムで構築されており、基盤としては、Azure 上で SAPのマネージドサービス「SAP HANA Enterprise Cloud(HEC)」を利用する HEC on Azure となります。基幹システムの基盤に HEC on Azure を採用したことは、全社データ分析基盤に Azure を採用した背景の 1 つでもあります。
全社データ分析基盤には、DWH としての Azure Synapse Analytics を中心に、データレイクやデータマートを構成するための Azure Data Lake Storage やAzure SQL Database、Azure Storage、並列分散処理向けのAzure HDInsight、データ連携のための各種サービスを構成する Azure VM (仮想マシン)などで構成されています。
マイクロソフト、SCSK、インフォマティカがタッグを組んでプロジェクトを推進
全社データ分析基盤に Azure を採用した理由について、泉 氏はこう説明します。
「実績に基づく信頼性の高さは当然のことながら、状況に合わせてサービスを即時に追加し提供可能な機敏性と、負荷に応じて能力を自動調整する弾力性を重視しました。PaaS として優れた信頼性と拡張性を提供できる Azure は、有望な選択肢でした。それに加えて、次期基幹システムで Azure を採用していることもあり、最も連携の多いシステムと最短経路でアクセスができることがポイントになりました。また、DWH として Azure Synapse Analytics を採用した理由は、DWH の性質上、高いパフォーマンスを発揮するとともに、拡張性のあるソリューションが必要だったためです。さまざまなクラウド DWH を検討しましたが、われわれの求めるパフォーマンスと拡張性という要件に合致したサービスは Azure Synapse Analytics だけでした」(泉 氏)。
Azure を採用する前段階では、プライベートクラウド上で IaaS の VM を使う取り組みも進めましたが、環境の構築スピードやスケーラビリティでは PaaS が圧倒的に優位であり、Azure の採用が決まったといいます。また、データ分析基盤構築のポイントとして、Azure サービスだけでなく、ETL ツールとデータカタログ製品としてインフォマティカを採用している点が挙げられます。その理由について、野本 氏はこう解説します。
「インフォマティカの製品は、業界のリーダーと位置付けられているものが多く、特に今回重要視したデータカタログ製品については、他の追随を許さない機能を有していると認識しています。当社が目指している『グローバルな視点で時代に即した先端 ICT』という点について、業界をリードし成長し続けるインフォマティカの製品と親和性が高いこともポイントでした」(野本 氏)。
具体的なメリットとしては「環境依存ではなく、どの環境のデータもカタログ化できる点」「メタデータのみをカタログ製品内に保持し、実データを持たない点」「CLARE AI を用いた利用者へのインサイト提示などの先端技術を活用している点」を挙げます。
Azure の各サービスと Informatica とを連携するという構成は、システム実装を担当した SCSK と、システムアーキテクチャを提案したマイクロソフトが、三菱重工のニーズに寄り添って、共同で提案し、推進した仕組みです。なお、構築にあたってはマイクロソフトが提供するカスタマーサクセスプログラム FastTrack for Azure も採用され、取り組みにおける課題の解決やスピーディな進行に大きく貢献しました。
「アーキテクチャやシステム構成で悩んだ時期もあったのですが、マイクロソフトさんや SCSK さんとミーティングするなかで、将来的なビジョンを具体的な『絵』として描いて見せてくれました。マイクロソフトさんは SAP の大規模ユーザーであり、データ活用に向けても明確なビジョンを持っています。また、SCSK さんは、インフォマティカ製品の導入実績が豊富で、こちらの要求をしっかり理解したうえで、自分たちでは気づかなかった点まで含めた提案をしてくれました。3 社が当社に寄り添って、明確なビジョンを描き、提案力の高さ、提案スピードで取り組みをサポートしてくれたことで、霧が晴れたように悩みがなくなり、取り組みを推進できたのです」(野本 氏)。
Azure Synapse Analytics とインフォマティカの連携で、高速性と機能性を両立
Azure Synapse Analytics とインフォマティカを連携することのメリットは、高速性と機能性の両立にあるといいます。泉 氏は、データ分析基盤構築におけるパフォーマンスとデータカタログの重要性に触れながらこう解説します。
「蓄積したデータを活用するためには、データレイクだけでいいのか、DWH やデータマートはどこまで必要なのかなどモヤモヤした思いがずっとありました。そんななかメンバー全員がデータ分析のビジョンを共有したことで、当プロジェクトが最も重視すべき要素は、パフォーマンスとデータカタログだという結論に至りました。そこで、高速な Azure Synapse Analytics と豊富な機能を持つインフォマティカとを組み合わせる共通理解が作られたのです。実際に、2 つの製品を組み合わせることで、データ分析に必要となる大量データの加工や DWH の処理をより高速に実現できます。また、メタデータの管理手法により、プライベートクラウド環境のデータ活用でより高いセキュリティが実現したり、AI を使った先端 IT を活用しやすくなるメリットがあります」(泉 氏)。
データ分析基盤は、次期基幹システムの刷新とそれらデータの蓄積していくことで本格的な利用がスタートします。一部のデータを先行して蓄積、分析できるようにしたことで、さまざまな効果を確認できています。
「データ利用部門がデータの準備にかかる時間は 90 %削減できるようになりました。これにより、迅速な意思決定を実現できるようになり、今後、収益力の強化につながっていくと期待しています。また、部門ごとに分析システムやデータベースの構築することも抑制できるようになりました。グループ内で共通のデータ分析基盤を利用することで、同じ目的での投資を抑制できます。さらに、データ管理にかかる運営費用については 50 %削減を見込んでいます」(野本 氏)。
今後については、データ分析基盤を活用して、三菱重工の主要システムのデータを漏れなく連携し「必要なデータはここにある」状態を作り上げていきます。また、並行して、より高い要求に答えるために基盤の高度化も進めていきます。
「今後は、データの鮮度や品質を向上させるためのツールの導入、防衛関連部門のデータを取り扱える環境の構築、構造化データだけでなく、試験研究のデータを中心に非構造化データの取得などを検討しています。また、人材育成も重要だと考えており、データアナリストやデータスチュワードの育成に取り組みはじめています。これらのスキルを持つ人材を確保することで、必要なデータの検討を加速させることができ、データのラインナップ拡張につながるため、データドリブン経営の推進ができると考えます」(泉 氏)。
三菱重工グループの DX とデータドリブン経営の実現に向けて、マイクロソフトはさらなる支援を行なっていきます。
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