“心臓病診療が受けられない患者さんを世界からなくす”……この高い目標を掲げて起業したカルディオインテリジェンスは、マイクロソフトが提供するスタートアップ向け支援プログラム「Microsoft for Startups」を活用し、AI によって心電図の波形データを高精度かつスピーディーに解析するソフトウェアのサービス強化と、ブラッシュアップに取り組んでいます。このソフトウェアでは、心電図の自動解析に加え、解析結果がわかりやすくシンプルなレポートにまとめられることで、これまで医療従事者が行っていた波形データの読影・診断の負荷を減らし、心房細動の早期発見につながっていきます。本記事では、世の中に大きなインパクトを与える同社の取り組みと、マイクロソフトのサポートにフォーカスします。
心房細動検出に関する課題解決を目指した AI ソリューション
カルディオインテリジェンスは、2019 年 10 月に設立された研究開発型の医療系ベンチャー企業です。国際医療福祉大学教授で循環器の専門医である田村 雄一 氏と、AI の専門家である高田 智広 氏が、2016 年頃から研究を続けてきた成果を事業化する目的で設立されました。田村 氏が代表取締役社長CEO、高田 氏が取締役CTO を務めています。
企業理念やミッションには、AI を活用した医療機器の開発によって心臓専門医が不足する現場を支援し、心電図検査をより多くの人に届けることで、世界中で心臓病診療を受けられない患者さんをなくすことを目標に掲げています。心電図検査を実施することで不整脈患者さんを見つけやすくなるので、不整脈の中でも高い頻度で脳梗塞を引き起こすとされる心房細動の早期発見にフォーカスした取り組みを展開しています。
同社取締役COOで、CDO(Chief Development Officer)の役割も兼務する武智 峰樹 氏は、会社経営の執行に加えて、システム開発全体の指揮をとる役割も担っています。武智 氏は「当社の取り組みでは、ディープラーニングの技術を活用しているところが重要なポイントです」と語ります。良質なデータを大量に集めてタグ情報を付与し、それを AI に学習させることでディープラーニングを有効に機能させることができます。同社の場合、設立以前からディープラーニングを活用したソフトウェアの開発を進め、国際医療福祉大学で蓄積してきた質の高い心電図データやタグ情報を活用できる点がアドバンテージとなっています。
そうした土台の上で、設立からわずか 1 年後の 2020 年 11 月、最初の製品として「SmartRobin(スマートロビン)」をローンチしました。「研究開発型のベンチャーでありながら、短期間でマネタイズできるプロダクトをリリースし、実際の診療現場でお使いいただくことでお客様と共にプロダクトを育てられることが、当社の大きな強みであると考えています」と武智 氏は話します。
SmartRobin は、不整脈の中でも心房細動を高精度かつスピーディーに検出する AI 診断サポート医療機器ソフトウェアです。従来使われているホルター心電図は、24 時間から長いものでは 7 日間という長時間の心電図をとることができますが、人間の心拍数は 1 日約 10 万拍、1 週間であれば 70 万拍にも及びます。つまり、7 日間の心電図波形を解析するともなると、患者さんごとに数百ページに達する解析レポートが出てきます。当然、心臓専門医の不足が指摘される中で、長い時間を費やして波形データを読影し、診断を行うのは大きな業務負荷となります。
SmartRobin を活用することで、通常7日間の波形の読影に数日間かかるところ、最短わずか 10 分程度で高精度な解析を行うことができます。さらに、その解析結果を 1 枚のレポートでわかりやすく表示します。そのため一般内科医など心臓や不整脈の非専門医であっても、AI のアシストにより心房細動をすばやく検出することが可能になります。また、このソフトウェアは人間を介さず心房細動を自動検出するため、医師の業務負荷軽減にもつながるソリューションといえます。
「長時間心電図をとる理由の 6 割は心房細動の検出だといわれています。そのため、私たちは心房細動にフォーカスし、長時間心電図検査をスピーディーに解析できるサービスを提供することで、未診断により重篤な脳梗塞に至る患者さんを減らし、かつ医師の業務効率化という世の中の課題も解決していくことを目指しています」(武智 氏)。
【参考】「長時間心電図解析ソフトウェア SmartRobin®AIシリーズ」の技術が、「第10回Medtecイノベーション大賞」にて『Medtec大賞』を受賞
スタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」を活用
SmartRobinのサービスは、クラウドサービス、オンプレミスで動くアプリケーションの両方の形で提供されています。このクラウドサービスの基盤として、Microsoft Azure(以下、Azure)を利用しています。
Azureを採用した理由について、武智 氏は次のように語ります。
「医療データという個人情報を取り扱ううえで、国内のサーバーに閉じた形でデータを担保できるプラットフォームとしての安心感と、Azure の使い勝手、そしてクラウドネイティブな開発環境としての発展性に着目しました。加えて、医療業界の商慣習としてオンプレミスに展開する可能性も高かったので、クラウドとオンプレミスの両方で使えるアーキテクチャを採用し、Kubernetes で開発を進めました」
SmartRobin の開発にあたっては、非専門医でも扱えるようなわかりやすいユーザーインターフェース(UI)をいかに作るかが第一の課題であったといいます。加えて、従来のホルター心電図の解析システムは精度の点でも不十分であったため、SmartRobin では心房細動の検出に特化して精度を高めること、また SmartRobin の現場での活用を支援する付帯サービスを含めてソリューションを作り上げていくことも課題になったと武智 氏は振り返ります。
こうした多彩な部分でのアップデートをサポートしているのが、マイクロソフトがグローバルで展開しているスタートアップ向けの支援プログラム「Microsoft for Startups」です。Microsoft for Startups は Azure クラウドサービスの無償利用(最大約 1200 万円)をはじめとして、技術的支援、情報提供、ビジネスマッチングなど事業面でのサポートも含まれた 2 年間のプログラムです。同社への支援は 2020 年 10 月からスタートしています。
「実は創業者の一人である高田も以前、自分の会社で Microsoft for Startups を利用した経験があり、大変満足のいくサポートを得られたと聞いています。確かに私たちのようなスタートアップ企業にとって魅力的な内容となっており、マイクロソフト様から技術面などでいろいろ教えてもらいながらクラウドサービスを立ち上げていくのは有利であると判断し、採用に至りました」(武智 氏)。
事業の核となるソフトウェアのさらなるブラッシュアップに取り組む
もちろん、SmartRobin 自体の進化も重要なテーマです。同社では Microsoft for Startups を活用し、SmartRobin サービスのブラッシュアップを進めてきました。医師との対話を繰り返して試行錯誤しながら UI に改良を加え、2022 年 2 月には非専門医向けに数施設で心房細動の診断に役立つ新機能の提供を開始しました。
「事業の中核をなす製品として、さらに発展させていくことが不可欠です。SmartRobin は現状でも高精度かつスピーディーに心房細動の発作を見つけるソリューションとなっていますが、早期発見という観点では、ディープラーニングの活用をさらに進めていけば、発作が起こる前にその兆候を見つけることも可能になると考えています。そうすれば、そもそも 24 時間、7 日間といった長時間心電図検査を実施することなく、わずか数分の検査で心房細動発作の有無を高精度に検出できるようになるでしょう。ディープラーニングの精度向上には GPU リソースが必要ですが、それも Microsoft for Startups で提供してもらっています」(武智 氏)。
武智 氏が話した新技術は、すでに治験段階にあります。今後は SmartRobin のオプションとして搭載していく予定とのことです。
Microsoft for Startups を利用することで得られるメリットについて、武智 氏はこう話します。
「トラブルが起きた際、早期解決に向けてスピーディーに対応してくれるなど、技術面でのサポートがやはり大きいですね。ちなみに、これまで Azure の基盤の問題でサービスが停止したことは一度もありません。Azure はやはり安心してサービスを開発・提供できるプラットフォームですし、そのプラットフォームを存分に活用し、信頼感のもとでクラウドサービスの SLA を考えていけるのは、Microsoft for Startups がもたらしてくれるとても大きなメリットだと思います」
技術面だけでなくビジネス面でも、ソリューション展開していくうえでの支援を受けているほか、マイクロソフトのヘルスケア部門を通じてビジネスのシーズを模索しており、今後そのシナジーの成果が出てくるだろうと武智 氏は期待を寄せます。また、自社の取り組みとして Microsoft for Startups を利用していることが対外的なアピールにもなり、「力強くバックアップされている実感がありますね」と評価しています。
導入医療機関の拡大、そして次のグローバル展開に向けたフェーズへ
SmartRobin のサービスは 2020 年 11 月のローンチ後、上述のように Microsoft for Startups を活用して非専門医向けに UI の改善などを進めつつ、現場の医師ともやり取りをしながら製品の完成度を高めてきました。
実際に導入した医療機関からは、SmartRobin を高く評価する声が数多く届いています。あるクリニックでは、心電計はあるものの扱える臨床検査技師や看護師がおらず、医師も他の業務で忙しいためほとんど使われていない状況でしたが、SmartRobin の導入で月平均 6 件弱の検査を実施でき、そのうち約 15 %で心房細動の患者さんが見つかり、診断に効果を発揮したといいます。そのほか、解析結果のレポートがシンプルにまとめられて心房細動の診断に役立てやすい、非専門医でもわかりやすい、といった声もあるとのことです。
2022 年春からは 30 以上の医療機関へ導入されます。現場で多くの医師に利用してもらうために、非専門医向けの機能拡張も含めプロダクトとしての幅をより広げていく考えです。2022 年内には 100 から 200 の医療機関に横展開することを目指し、いま拡販のフェーズに入っているといいます。また、医療 AI プラットフォーム技術研究組合(HAIP)とも連携に向けた情報交換が動き出しています。
さらには、同社の企業理念とミッションは“世界”を対象としていることから、クラウドサービスの強みを活かし、できるだけ早い段階での海外進出も検討しているといいます。その際は、海外向けのあらたなサービスの導入も視野に入れています。
その近い未来を見据え、Microsoft for Startups の期間終了後も、Azure をはじめとしたテクノロジーに関する部分、またビジネス化のフェーズにおいてもマイクロソフトのサポートに期待していると武智 氏は話します。世界中から心臓病診療を受けられない患者さんをなくし、不整脈患者さんを救うというカルディオインテリジェンスが目指す未来の実現に向けて、マイクロソフトもさらなるサポートに力を入れていきます。
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