1892 年 (明治 25 年) の創業以来、歴史と伝統に裏付けされた技術力と、誠意ある仕事で、高品質な建設サービスを提供してきた株式会社大林組。同社では、2010 年 12 月に既存の情報システム 3 部門を統合したグローバルICT推進室を設置し、ICT を利活用した、更なる品質の向上に取り組んでいます。

ICT 利活用の取り組みについて、業界内でもいち早く進めている大林組。なかでも、建設現場の業務効率と施工品質の向上を目的とした検査システム「GLYPHSHOT (グリフショット) 」は、2002 年の運用開始後、新機能の提供や 3,000 台もの iPad の現場導入を経たいま、大きな効果をもたらしています。2014 年には、これまでオンプレミスで運用されていた「GLYPHSHOT」をクラウド化するプロジェクトが開始し、2015 年 10 月より、「GLYPHSHOT」シリーズの一部のシステムにて、クラウド上での運用が開始されています。この建設現場を支える重要システムのインフラ面について、サポートやサービスの「信頼性」を評価し採用したのが、日本マイクロソフトが提供する Microsoft Azure です。

プロファイル

1892 年 (明治 25 年) の創業以来、歴史と伝統に裏付けされた技術力と、誠意ある仕事で、高品質な建設サービスを提供してきた株式会社大林組。2015 年度からスタートした 3 ヵ年計画「大林組グループ中期経営計画2015」では、建築、土木、開発の基幹分野の安定的収益の確保に加え、新たな領域での収益創出に向け収益基盤の多様化を計画。そこへ向けて大林組では、ICT も利活用し、施工品質の更なる向上に取り組んでいきます。

導入の背景とねらい
お客さまの求める品質に応えるべく、検査システム「GLYPHSHOT」のクラウド運用を検討

高品質な建設サービスを提供し、業界を代表する企業でもある株式会社大林組 (以下、大林組)。同社では、2015 年度より新たな 3 ヵ年計画「大林組グループ中期経営計画2015」をスタート。建築、土木、開発の基幹分野における安定的収益の確保に加え、新たな領域での収益の創出に向け収益基盤の多様化を進めています。3 ヵ年計画の遂行には ICT の有効活用は欠かせず、同社では 2010 年 12 月に設置されたグローバルICT推進室を核として、投資対効果を追求した ICT の利活用に取り組んでいます。

株式会社大林組

そのグローバルICT推進室が 2014 年より取り組みを進めたのが、2002 年より長きにわたって大林組の施工品質を支えてきた検査システム「GLYPHSHOT」のクラウド化でした。2015 年 10 月には、同システム内の「配筋検査システム」について、クラウドでの運用を開始。GLYPHSHOT を構成するその他のシステムについても、順次クラウド上で運用する計画です。株式会社大林組 グローバルICT推進室 技術課長 堀内 英行 氏は、GLYPHSHOT の概要について、次のように説明します。

株式会社大林組
グローバルICT推進室
技術課長
堀内 英行 氏

「建設業の現場では、新築時の施工管理に伴う各種検査や記録、改修時の調査や診断といったさまざまな場面で、非常に高い水準の品質管理が求められます。GLYPHSHOT は、現場の担当職員が、その場で各種図面を見ながら、工事が設計どおりに行われているかを確認したり、是正が必要な箇所を記録したりするシステムです。同システムでは、これらの記録を担当者間で共有し、お客さまである発注者への報告書や専門業者に対する是正指示書を作成する機能も提供することで、品質管理能力と業務効率を高めてきました」(堀内 氏)。

GLYPHSHOT は、PDA を活用した、新築工事の仕上げ状況のチェックや既存建物の調査診断システムとして、2002 年に開発されました。その後もシステムの拡張を重ね、現在では「仕上検査システム」「配筋検査システム」「設備検査システム」の、大きく 3 つのシステムで構成された、建設現場に欠かせない重要システムとなっています。また、当時は PDA とクライアント PC を USB 接続してデータを同期していましたが、2012 年に PDA から iPad へとプラットフォームを移行し、システム構成も、iPad と Windows PC、Windows Server を使った新たな構成へとリニューアルしています。このリニューアルに伴い、同社では 3,000 台もの iPad を建設現場へ導入、現場への無線 LAN 設置も行いました。そして、iPad の搭載カメラで撮影した工事写真や検査データをオンプレミスのファイル サーバーへ同期することにより、施工品質の向上と同時にワークスタイルの変革にも効果を成しています。

GLYPHSHOT 上にある最新の図面データを閲覧しながら、工事や検査を進められる

現場で検査結果を GLYPHSHOT に入力できるため、二重入力がなくなり工数削減と人的ミスの減少の双方が実現できる

このように、機能改善や新機能の提供とともに、大林組の建設業務に大きく寄与してきた GLYPHSHOT ですが、年々増え続けるデータ量への対応について、オンプレミスの運用では限界が見えはじめていたといいます。堀内氏は、GLYPHSHOT のクラウド化を検討した背景を次のように振り返ります。

「現場で扱うデータ容量が増えるにつれ、それをすみやかに、かつ安全に保管することが難しくなってきました。たとえばデータがオンプレミスのファイル サーバー上にしかない場合、その容量が大きいほど、万一の際、すべてのデータを安全に復旧できなくなるリスクが高まってしまうのです。また、建設サービスという特性上、個々の工事期間や現場での作業時間は、時期によりかなり変動します。需要に応じてシステムの稼働状況を変えることができれば、リスク回避と併せてシステム利用のコスト適正化も見込むことができました」(堀内 氏)。

さらに、顧客である発注者の、品質要件の高まりによって、ワークスタイル変革についても一歩前進させる必要が出てきたと堀内 氏は語ります。「お客さまの品質やスピードへの要求が高まりつつあり、建設現場でのコミュニケーションにおける課題も出てきました。現場では、設計監理者や専門業者による検査など、大林組の担当職員以外も作業工程において密接に関わっています。オンプレミスの GLYPHSHOT では、ネットワーク セキュリティ上、当社職員しかアクセスできない取り決めにしていました。そうすると、検査記録を紙で授受することになり、それぞれの検査記録を一元管理することができません。結果としてそれは管理ミスに繋がり、施工品質の低下や、業務効率の低下に繋がってしまうのです。システムが内包するリスクやコストの削減、高まるお客さまの要求などに対応するには、既存の環境では限界があり、クラウドがマッチしているのではないかと考えました」(堀内 氏)。

以上を背景とし、大林組では 2014 年 4 月より、クラウド上で GLYPHSHOT を運用するプロジェクトの検討を開始しました。

システム概要と導入の経緯、構築
スケーラビリティや開発の容易性にくわえ、信頼性が決め手となり Azure を採用

大林組でまず行われたのは、GLYPHSHOT のクラウド運用に関する要件の整理と、それを満たすサービスの調査でした。本プロジェクトは、大林組のモバイル デバイス向けシステム開発を担当する株式会社システム・クリニック (以下、システム・クリニック) と、大林組の 2 社で進められ、同年 4 月から 7 月にかけて要件整理とクラウド サービス事業者の選定が行われたといいます。株式会社大林組 グローバルICT推進室 技術課 担当課長 津久井 啓介 氏はクラウドの選定基準について、次のように説明します。

「重要システムゆえに、実行基盤の信頼性はいうまでもなく求められます。また、常に増減する建設現場に対応するためにはスケーラビリティも必要ですし、リスク回避のための障害対応性能も重要な要素です。加えて、アクセス権限といった新たな機能の拡張に際し、今回のプロジェクトは『クラウドで運用する、あらたな GLYPHSHOT の開発』という構想で進められたため、開発の容易さも必須要素となりました。信頼性、スケーラビリティ、コスト、障害対応性能、開発の容易性。以上 5 つの要件をもってサービス比較は行われ、同年 9 月には Microsoft Azure と米国に本社をおく IaaS サービスの 2 社にまで絞られました」 (津久井 氏)。

ここで絞られた 2 社のサービスは、いずれも先の要件 5 点をクリアしていましたが、最終的にはより優位だった Azure を採用するに至ったといいます。サービスの選定と提案、システムの開発を行った、株式会社システム・クリニック 取締役 工学博士 菅沼 直昭 氏は、Azure 採用の決め手をつぎのように説明します。

「既存の Windows 環境との親和性と、サービスとしての信頼性、サポート体制が決め手でした。大林組の基幹システムは、ミドルウェア部分で Windows Server を利用していたので、クラウド版の開発においてそのノウハウも生かせます。また、Visual Studio を使って、開発から運用保守までを一貫した体制でまわせる点も大きなメリットでした」(菅沼 氏)。

株式会社大林組
グローバルICT推進室
技術課
担当課長
津久井 啓介 氏

株式会社システム・クリニック
取締役
工学博士
菅沼 直昭 氏

株式会社大林組
グローバルICT推進室
部長
川畑 徹 氏

Azure の信頼性について、株式会社大林組 グローバルICT推進室 部長 川畑 徹 氏はさらにコメントを続けます。「データを 6 重にも保存している点や SLA 数値といった部分ももちろん重要ですが、これまでの日本マイクロソフトとの取引実績から抱いていた信頼が一番大きいかもしれません。大林組では Office 365 も利用しているのですが、そこにおけるサービス継続性やサポートがすばらしく、信頼性についてはすでに体感していました」(川畑 氏)。

5 点の要件水準を満たしていること、特に信頼性の面で優れていたことを背景とし、大林組では 2014 年 9 月に、あらたな GLYPHSHOT のインフラ基盤として Azure を採用することを決定。2014 年 11 月から、具体的なシステム開発に入りました。開発に際しては、スケーラビリティとコスト、開発スピードを考慮し、IaaS での構築ではなく、PaaS である Microsoft Azure Web Apps を用い、新しいアーキテクチャのシステムとして構築が進められました。

システムの開発においては、特に大きなトラブルもなく進行できたといいます。「Visual Studio を利用して継続的なデプロイやテストを行えたことが、スムーズに開発を進行できた背景だと思います。開発規模は大きかったのですが、Visual Studio の環境であれば、1 つひとつのブロジェクトを開発してすぐクラウドにデプロイし、テストできます。機能の実装テストなど、できるものを前倒しで行っていくことで、実装段階から品質を作りこんでいくことができたのです」と、菅沼 氏は、Azure Web Apps 上での開発の容易性を評価します。2015 年 10 月には、GLYPHSHOT を構成する 1 つである「配筋検査システム」が Azure 上に準備でき、同時期より運用を開始しています。

導入ソフトウェアとサービス

  • Microsoft Azure Web Apps
  • Microsoft Azure SQL Database

導入メリット

  • Azure 上での検査システム運用により、従来あったネットワーク面の制約が解消でき、品質と業務効率のさらなる向上を目指せる基盤が獲得できた
  • 常に増減する、規模も場所も異なる建設現場に対応したスケーラビリティを実現でき、コストやリソースの最適化が可能になった
  • 検査システムを統合的に管理できるようになり、建設現場立ち上げ時のサーバー構築やメンテナンス工数が削減できた

導入の効果
Azure 上での GLYPHSHOT の運用がもたらした、社外関係者とのコミュニケーションを見据えた基盤の獲得

「あらたな GLYPHSHOT のシステムは、担当職員が用いる iPad や建設現場のクライアント PC から、インターネットを経由してクラウド上のサーバーとストレージにアクセスするしくみになります。現場の担当職員が場所と時間に縛られることなくシステムを利用できる点は従来どおりですが、ユーザー管理機能を新たに拡張したことで、社外関係者も、限られた権限のもとでサーバーにアクセスできるインフラを持つことができました」(堀内 氏)。

くわえて、津久井 氏は、クラウドならではのスケーラビリティについて、つぎのように解説します。「システムのミドルウェア部分について、Web アクセスを受け持つフロント部分と内部処理を受け持つバックエンド部分に分けたことが、1 つのポイントです。これにより、負荷分散とスケーラビリティの確保を容易に実現できます。具体的には、フロント部分は Web ロールを用い、バックエンド側は Worker ロールを用いることで、それぞれの処理性能を高く維持しつつ、サーバーそれぞれを容易にスケールアウトできる構成にしました。データへのアクセスについては Azure SQL Database を利用しています」(津久井 氏)。

Azure 上で運用される GLYPHSHOT のシステム構成

新たなアーキテクチャをもったシステムにより、時間帯や時期、現場の規模に応じて、柔軟にシステムを拡縮できるようになりました。また、データの保護やセキュリティについても、すべてのデータをクラウドで管理し、担当職員、社外関係者ごとに適切なアクセス権限を付与した環境で利用することで、オンプレミスよりも安全な環境を担保できるようになったといいます。くわえて、システムのメンテナンス性が高まったことも、クラウド版を構築したメリットの 1 つだといいます。「これまでは、建設現場ごとにサーバーを構築したり、データを管理したりする必要がありましたが、新たなシステムではクラウド上に各現場のシステムとデータがありますので、統合的な管理が可能になりました。新しい現場の立ち上げや、急遽の不具合が発生した場合でも、現地にまでおもむかずシステムの構築やメンテナンスができることは、検討当初それほど期待していなかったものの、いざ運用を開始した現在では大きなメリットだと感じます」(津久井 氏)。

今後の展望
GLYPHSHOT 全システムの Azure 上での運用を構想。検証を重ね、建設業界全体に共通する課題に取り組む

2015 年 10 月より Azure 上で運用を開始した新たな GLYPHSHOT 内の配筋検査システムは、新規着工現場から順次、利用が開始されています。大林組では常時約 1,000 件もの現場が立ち上がっていますが、このうち鉄筋コンクリート造など、建物の構造によって配筋検査システムの利用が必要となる現場は、約 300 件にものぼるといいます。「日々増減する建設現場ですが、あらたな現場はすべてクラウド上の GLYPHSHOT で運用することで、およそ 1年かけて、すべての現場をオンプレミスからクラウドへ切り替える予定です。もちろん、配筋検査システム以外の GLYPHSHOT シリーズの各システムも、順次 Azure 上に構築する計画です。現在は、この新システムへの切り替えと並行して、今後どのようにこのシステムを活用していくかの検証も進めています。たとえばその 1 つに、データ量やシステム負荷の検証があります。実はこれまで、それぞれの建設現場が実際にどれくらいのデータを扱っているかを正確に把握できていませんでした。現場によってはファイル サーバーに数 10 GB を超えるデータが入っています。まずはこれまで把握できなかった、現場ごとのデータ量やシステム負荷を検証しながら、より効率的にシステムやデータを保守管理できるようにしていこうと考えています」(堀内 氏)。

建設現場における社外関係者とのコミュニケーションの推進も、さらなる品質管理能力の向上のために、本格化させる予定だといいます。GLYPHSHOT の配筋検査システムは、現在のところ大林組の社員を中心とした利用にとどまっています。しかし、実際の工事現場では、GLYPHSHOT を利用する検査の前と後に別の検査があります。前の検査は鉄筋業者が鉄筋工事の後に行う検査で、後の検査は設計監理者による検査です。つまり、工事の品質管理には多くの企業と関係者がかかわるのです。「鉄筋業者や設計監理者など、社内外問わず建設工事に携わるそれぞれの人が、Azure 上の GLYPHSHOT を利用するようになることで、効率と品質をこれまで以上に向上させられると期待しています。お客さまの要件も高まってきておりますので、新たに追加したユーザー管理機能などを使って、より安全で信頼性の高い建設サービスを提供していきたいと思っています」(川畑 氏)。

こうした、コミュニケーションを推進しての品質向上は、建設業界全体に共通する課題でもあります。川畑 氏は終わりに、「今回無事に、クラウド上での GLYPHSHOT 運用を開始することができました。まずはこのシステムで何ができるか、何が必要かを検証し、拡張を行っていくことで、建設業界の課題を解消しうるシステムを目指したいと思います。特に、少子高齢化をはじめとした社会問題を背景とし、1 人あたりの生産性の向上は、大林組だけでなく、建設業界全体で取り組むべきテーマだと考えています。大林組がまず、ICT を活用してそのテーマに取り組むとともに、業界共通に利用できるツールとしても活用範囲が広がっていけばいいという思いもあります」と、業界の課題解消へ向けても、Azure 上で運用するあらたなシステムをもって取り組んでいきたいと語ってくれました。

2020 年の東京オリンピックに向けて、工事の需要は今後もまちがいなく高水準で推移していきます。その一方、少子高齢化といった社会問題は、建設現場における作業員の減少をもたらしていくことが予想され、1 人あたりの生産性向上は、いまや建設業界における大きなテーマです。大林組のグローバルICT推進室では、今回のプロジェクトでクラウド化したあらたな GLYPHSHOT をもって、そうした課題に取り組んでいきます。

ユーザー コメント
「鉄筋業者や監理者など、社内外問わず建設工事に携わるそれぞれの人が、Azure 上の GLYPHSHOT を利用するようになることで、効率と品質をこれまで以上に向上させられると期待しています。お客さまの要件も高まってきておりますので、新たに追加したユーザー管理機能などを使って、より安全で信頼性の高い建設サービスを提供していきたいと思っています」

株式会社大林組
グローバルICT推進室 部長 川畑 徹 氏

パートナー企業

  • 株式会社システム・クリニック

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