2021 年 4 月にデジタル共創本部を設置し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の全社推進を加速させている旭化成グループでは、データ活用のための「DXプラットフォーム」の構築にあたり、データハブ型のデータマネジメント基盤を整備しました。そこで採用されたのが、マイクロソフトの Azure Data Factory と Microsoft Purview という 2 つの製品です。グループ 1200 超のシステムを自在に連携させ、必要に応じてデータを柔軟につなぎ合わせることが可能になったのです。巨大なデータレイクを構築し、データを統合する DX プロジェクトが多いなか、データを「みつける」ことと「つなぐ」ことにフォーカスした狙いとは。プロジェクトを推進したデジタル共創本部 IT統括部と、プロジェクトを支援したジールに話を聞きました。
DX プラットフォームの中核施策としてデータマネジメント基盤を構築
「世界の人々の"いのち"と"くらし"に貢献する」ことをグループ理念に掲げ、マテリアル、住宅、ヘルスケアという 3 つの領域で事業を展開する旭化成。2022 年 4 月からスタートした「中期経営計画 2024 ~Be a Trailblazer~」では、2030 年の目指す姿に向けたファーストステップとして、成長事業への重点的なリソースの投入と、中期視点での抜本的事業構造転換に着手し、事業ポートフォリオ進化を追求しています。
その一環として 2021 年から強化してきたのが デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みです。DX の全社推進を加速するために、2021 年 4 月にデジタル共創本部を設置し、複数に分散していた戦略部門、機能別の DX 推進部門、IT 基盤部門を一堂に集め、人財や機能を集約。また、社内外の共創を根付かせるための拠点として、デジタル共創ラボ「CoCo-CAFE」をオープンさせたほか、「Asahi Kasei DX Vision 2030」を策定し、旭化成グループが目指す DX の姿を明確にしました。
デジタル共創本部 IT統括部 戦略・企画グループ グループ長の大久保 純子 氏は、こう話します。
「DX を成功に導く要因は、人、データ、組織風土にあると私たちは考えています。そして、それを推進するにあたって、何よりも重要となるのが、豊富なデータへのアクセス、それを活用する高い DX 技術を持つ人、そして現場のリアルな経験値から新たな価値を創造する組織風土です」(大久保 氏)。
旭化成グループの中計「Be a Trailblazer」でも、データドリブン経営やスマートファクトリー化、マテリアルインフォマティクスなどを実現するデジタル基盤強化は、グループの DX を支える柱として位置づけられています。このデジタル基盤の中核となる施策の 1 つがデータマネジメント基盤の構築です。
「旭化成グループは既存事業の有機的な成長に加え、M&A を通じて事業ポートフォリオの強化を行ってきました。そんななか、グループ内の共創を促し、シナジーを生み出していくには、それぞれの事業が持つデータを素早く連携させ、情報として共有していくことがポイントになります。これを実現できる基盤が必要だと考えたわけです」(大久保 氏)。
そこで旭化成が構築したのが、Microsoft Azure(以下、Azure)の PaaS を活用したデータマネジメント基盤サービス「DEEP(Data Exploration & Exchange Pipeline)」でした。
グループ 1200 超のシステムを疎結合で連携させ、事業メリットを引き出す
データマネジメント基盤サービスの構築にあたっては、大きく 3 つの課題を抱えていたといいます。
1 つめは、情報のサイロ化の課題です。各システム内にデータが分散する、いわゆる情報のサイロ化が進み、データ活用も事業内に限定している状態でした。
2 つめは、コストとリードタイムの課題です。個々のシステム間で独自にデータ連携開発を進めることで、データ活用までの期間の長期化、投資コストの増大が発生していました。
3 つめは、運用面の課題です。システム間の連携が複雑化することにより、運用保守の負荷やコストが増大していました。
デジタル共創本部 IT統括部 戦略・企画グループ 課長 山崎 力 氏はこう解説します。
「旭化成グループはグローバルにビジネスを展開していますので、各国のデータ保護規制、例えば、欧州 GDPR や中国 CS 法、米ディスカバリー制度等に準拠することを要求される可能性があります。そうした場合に、DEEP に一元的にデータを蓄積・統合する方針にしてしまうと、それぞれの規制に対応したポリシーやルール、システム構成にする必要があり、結果的に、迅速かつ効率的にデータ活用への橋渡しをするという、本基盤の目的の達成が難しくなってしまうリスクを考えました。そのため、DEEP にはあえてデータ蓄積の機能は持たせず、データの可視化と連携に特化した、疎結合的な構成にする方針としました。とは言いつつ、クイックにデータ分析を始めたいというニーズがあることを見越して、汎用的に利用可能なデータ分析環境も別途用意することとしました」(山崎 氏)
加えて、大久保 氏は、疎結合なアーキテクチャが求められた背景には、旭化成グループにおける現場重視の組織文化の存在もあったと指摘します。
「旭化成では、これまで、複数システムを連携させて課題解決するような仕組みを、現場ごとに作ってくることが多かったように思います。こうすることにより、現場に即したシステム化が推進されてきたわけです。ただ、その一方で、グループ全体で相互にデータを活用しながら DX を推進するアプローチが不足していた部分もありました。今回、現場における DX を支えるグループ共通基盤を整備することで、現場主導で構築されたしくみと、それを相互につなげていく全体のしくみ、それぞれを、適材適所で組み合わせられる状況になったと考えています」(大久保 氏)。
その意味で DEEP 構築は、現場主導の強みと全体最適の強みを両立させる取り組みでもあったといいます。
「これまではデータオーナーという役割の定義はされていたものの、どのようにデータを活用していくかは現場任せでした。そこで、データファブリック的な視点にて、全社的にガバナンスを効かせながら、DX に向けたデータ活用を加速していこうとしたのです」(山崎 氏)。
Azure Data Factory と Microsoft Purview でスピーディーかつ柔軟なデータハブを実現
DEEP の構想策定は 2020 年 9 月からスタートし、2021 年 4 月から具体的なロードマップ策定と RFP 作成に至ります。複数のベンダーの提案のなかから採用されたのが、BI 専業の SIer として多数の実績を誇るジールが提案した、Azure Data Factory(以下、Data Factory)と Microsoft Purview(旧 Azure Purview)を活用したデータハブ型のデータマネジメント基盤の構築です。
「2021 年 6 月中旬にキックオフを行い、8 月末までにプロトタイプ環境を構築、10 月初旬には基盤活用案件として、自動車関連(オートモーティブ)領域に関する複数事業をまたがる販売データの集約と連携を開始。データ連携先となる仕組みとしては、Azure Synapse Analytics(以下、Synapse Analytics)を用いたデータウェアハウスの構築と、Power BI を用いたダッシュボート化を実現しました。さらに 2022 年下期に向けて本番環境の構築と、基盤活用案件として、3 つのプロジェクトを推進しました。具体的には、GHG 排出量の削減に向けたカーボンフットプリントの見える化、経営ダッシュボード、機能材料事業の販売データの見える化の 3 つです。このうち、カーボンフットプリントの見える化と、経営ダッシュボードについては 2022 年 4 月にデータ連携を開始しました」(山崎 氏)。
約 1 カ月でのプロトタイプ環境の構築と、キックオフから約 4 カ月でのサービスリリースというスピード開発を実現できた背景には、DX 推進に向けてスピード重視で取り組みを進める経営層の強い意志と、それを実現するうえでデジタル共創本部が採用した、プロトタイプ上で実案件を回すアジャイル型の開発体制の推進にあったといいます。
「事業側や経営層を含むステークホルダのみなさんからは、早く具体的な成果につなげようという、良い意味でのプレッシャーがありました。そのために基盤部分のプロトタイプ環境を迅速に立ち上げ、その上で活用案件を構築、並行して本番環境を構築するというアプローチをとりました。プロトタイプ環境上で稼働させた活用案件のためのしくみは、その後、シームレスに本番環境に移行していきました。このアプローチがとれたのは、Azure の PaaS のメリットを活用できたこと、それを提案してくれたジール様の優れた知見と技術力があったからこそです」(大久保 氏)。
旭化成では、RFP 作成にあたって、機能要件 153 件、非機能要件 135 件を定義し、グループ全体に基盤を展開していくことを想定して、連携可能なシステムやサービスの多様性、データ加工処理の汎用性、柔軟性、基盤自体の運用保守性を特に重視して検討したといいます。また、Azure は基幹システムのインフラ基盤や社内向けの仮想基盤サービスとして採用しており、グループで全社的に導入している Microsoft 365 や Azure AD との親和性も期待したといいます。
「本基盤のソリューションとして、ジール様の Azure サービスを活用したご提案を採用させていただきました。クラウドサービスを活用したクイックスタート・スモールスタートであることと、アジャイル型のデータ連携開発をご提案いただいたことが、初期投資を抑えつつ、スピード感を持った基盤立ち上げを目指していた弊社の希望に合致したことがポイントになりました。また、日本マイクロソフト様の全面サポートが得られるというお話も強い後押しになりました」(山崎 氏)。
データがどこにあるかをカタログで把握し、必要に応じて自由にデータを取得する
Data Factory は、データ加工・変換・クレンジングなどを行う ETL ツールです。ただ、それだけではなく、各種データソースからのデータ取得やデータ連携を実現するデータ連携ツールや、データ利用者が容易にデータ検索や加工、エクスポートを実施するための GUI を提供するデータプレパレーションツールとしても利用できます。
また、Microsoft Purview は、データソースの管理や、データへのラベル付け、データ分類の自動化といったデータカタログ機能を提供するほか、データガバナンスや機密データの分析などの機能を提供する統合データガバナンスを実現できるソリューションです。
「Data Factory と Microsoft Purview を活用すれば、分散したデータをデータハブ上で統合し、データ連携にかかるリードタイムを短縮することができます。また、データガバナンスを効かせながら、全社的なデータ活用を推進することも可能になります。データをどこか特定の場所に統合してしまうと、いちばん厳しい基準に合わせて管理する必要が出てきます。そうではなく、データを本来あるべき場所で管理しながら、社員全員が『データはこの場所にあるとわかる状態』を目指したのです。カタログでデータがどこにあるかがわかり、必要があればそれを自由に取ってくることができるのです」(大久保 氏)。
ジールのビジネスアナリティクスプラットフォームユニット シニアコンサルタント 増田 圭亮 氏は、Azure サービスを活用したデータマネジメント基盤のポイントについて、こう説明します。
「Data Factory は、さまざまなデータソースからデータを吸い上げ、配信する機能が優れている製品です。Synapse Analytics にも同様の機能が備わっていますが、Data Factory と併用することでさらに柔軟なデータマネジメントが可能になります」(増田 氏)。
また、Microsoft Purview は、正式リリースから間もないサービスですが、そのことに対して不安はなかったといいます。
「RFP でも採用できる製品候補の例として明示していました。ジール様からの提案でも、データカタログ製品として備えるべき機能を十分満たしており、われわれの要件に応えられる製品だとの意見をいただきました。Azure サービスやデータアナリティクス領域に豊富なノウハウを持つジール様から評価された製品ということで、むしろ信頼して採用を決めることができました」(山崎 氏)。
データの統合マップを作成、鳥瞰図のようなデータの包括的な把握を可能に
Microsoft Purview の特徴について、ジールのビジネスアナリティクスプラットフォームユニット シニアコンサルタント 末原 健二 氏は、こう解説します。
「Microsoft Purview は、マイクロソフト製品と高い親和性があり、データを簡単につなげられることが特徴です。数十のシステムとの接続からスタートしましたが、さまざまな接続方式に対応し、問題なく接続できました。また、Microsoft Purview が提供する Data Map や Data Catalog などの機能を利用することで、データの統合マップを作成したり、鳥瞰図のようにデータを包括的に把握したりできるようになります」(末原 氏)。
実際、旭化成では、Microsoft Purview をマネジメント層や現場のリーダーがデータを詳しく確認するためのフロントエンドとしても活用しています。
「経営企画部では、今回の活用案件の 1 つとして構築した経営ダッシュボードを使っての経営データの把握が可能となりました。さらに、データを Data Factory 上のどのデータソースから取得してきているかなどを確認したい場合は、経営ダッシュボードとは別に、Microsoft Purview の画面を使って詳細を把握することができます。特定の情報をデータソースまで遡って確認できることは、ある意味で衝撃的で、データ好きな人にとってはたまらない仕組みになっています。実際、デジタル推進のマネジメント層を中心に『見やすい』『使いやすい』と評判になっています」(大久保 氏)。
このような仕組みは、オートモーティブ販売データの見える化やカーボンフットプリントの見える化、機能材料の見える化などでも実現しています。デジタル共創本部 IT統括部 戦略・企画グループ 課長代理 菅 俊祐 氏はこう話します。
「Data Factory はローコード開発が可能で、IT 初心者でもデータのパイプラインを簡単に作成できます。ユーザー自身が ETL 処理の試行を手軽に行うことができるので、データ活用促進につながると考えております。Microsoft Purview では豊富なコネクタを使って、データソースをスキャンし、即座にデータのカタログを作成できます。メタデータ可視化の素早い実現を期待しております」(菅 氏)。
社会との共創を視野に「データの民主化」を推進、人財育成や内製化を強化
データマネジメント基盤構築の効果は、大きく 2 つあります。
1 つめは、Data Factoryによるデータ連携・活用の加速です。
「個々のシステム間のデータ連携よりも、手間をかけずに、リードタイムを短く、データに対するセキュリティ面やデータ品質面の統制をかけつつ、データ活用への橋渡しを実現していきたいと考えています」(山崎 氏)。
2 つめは、Microsoft Purview によるデータの民主化です。
「Microsoft Purview の画面は、旭化成グループの全社員にオープンに公開していこうとしています。何か使いたいデータが見つかったら DEEP チームに問い合わせてもらい、Data Factory を使ってすぐにデータをつなぐ。Microsoft Purview をデータの民主化への足がかりに、データ探索やデータ活用に向けた意識の醸成を図っていこうとしています」(山崎 氏)。
実際、利用部門への提案に対する反応も良いといいます。デジタル共創本部 IT統括部 戦略・企画グループ 課長代理 岸尾 雄太 氏は、こう説明します。
「これまでデータ連携をする際には、データ提供部門側にも連携構築の負担が大きくかかったり、データの利用部門側でデータの抽出や加工に手間取ったりすることが多くありました。しかしData Factory には数多くの標準コネクタが用意されており、複数のデータベースからデータを取り出すことはもちろん、ファイルサーバからのデータ連携が容易になったり、クラウドサービスと API ベースで連携したりと、データマネジメント基盤を構築してからは、さまざまな方法で負荷なくデータを活用できるようになりました。データ活用の主役は業務部門です。業務部門が積極的にデータを活用したいと感じられる仕組みを IT 部門として提供できたと感じています」(岸尾 氏)。
DEEP プロジェクトは、アジャイル開発のアプローチを取り入れることで、ダイナミックかつスピーディーに追加要件の実装や組織体の変更などを繰り返しながら進みました。そのようななか、ジールはそれぞれのシーンに応じた適切なアドバイスとサポートを提供することで旭化成グループの取り組みを支えました。
「現在も多数の案件で DEEP 活用の検討を進めており、継続して DEEP の利用拡大を推し進める予定です。DEEP の利用拡大を、スピード感をもって、効率的に、コストを抑えつつ進行するには、データスチュワードの育成や、内製化へのシフトが必要と考えています。そのために、教育コンテンツの充実を図りつつ、データ連携開発案件への旭化成社員の参画とジール様の伴走によるスキルトランスファーを進める予定です。併せて、事業を跨がるデータスチュワード同士がコミュニケーションできるコミュニティの整備も予定しています。データ連携開発の生産性向上の観点では、データ連携処理の共通化や、テスト自動化の検討を開始しており、今後もジール様と日本マイクロソフト様には引き続き手厚いサポートを期待しています」(山崎 氏)。
また、Azure のサービスについては、クイックにデータ分析を開始できる Power BI、データを蓄積する基盤となる Synapse Analytics の活用促進や、IoT データやソーシャルデータをリアルタイムに分析するための Event Hub や Azure Stream Analytics、NoSQL データベースとしての Azure Cosmos DB 等の活用を進めていくといいます。
「今後は、さまざまな企業や組織がデータでつながっていく社会になると考えています。旭化成グループとしての DX に加えて、旭化成グループが持つデータを外部のステークホルダと共有し、さまざまな組織と共創できる環境をつくっていきたいと考えています」(大久保 氏)。
旭化成グループの DX と共創の取り組みを、マイクロソフトはこれからも支援していきます。
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