デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが進む中、データの重要性が高まっています。データから価値を引き出すためには、データを活用するための基盤が必要です。しかし、データ活用基盤の構築には多額の投資が必要になることが多く、特にリソースに限りがある中堅中小規模の企業にとっては厳しい取り組みになります。そのような中、全国で年間 3000 社を超える中堅中小企業を支援するシステム会社のソフトクリエイトが取り組んだのが、社内実践を通した顧客サービスの向上です。「Oneソフトクリエイト構想」と呼ばれるスモールスタートできる情報共有基盤を社内に構築し、その知見とノウハウを全国の顧客に提供することで、中堅中小企業の DX を支援しようとしています。Azure Data Factory を活用したソフトクリエイトの情報共有基盤構築の取り組みを紹介します。
創業 35 年を数える SI 企業、中堅中小企業の顧客に多彩なサービスを提供
1983 年にパソコンショップ「ソフトクリエイト」渋谷店からスタートし、その後、システム受託開発サービスやネットワーク構築保守サービス、インターネット通販サービス、データセンターホスティングサービスなど事業を拡大させ、2011 年に東京証券取引所一部に上場したソフトクリエイトグループ。
創業から 35 年にわたって延べ 1 万社以上の顧客にサービスを提供してきた同社は現在、システムインテグレーション事業、ECソリューション事業、ワークフロー事業、コンテンツマーケティング事業、ビジュアルマーケティング事業を中心に、幅広い顧客のニーズに応えています。
ソフトクリエイトグループにおいて、システムインテグレーション事業を展開するソフトクリエイトは、システムインテグレータとして長年の実績を生かした IT 基盤のコンサルティングから、クラウドインテグレーション、IT アウトソーシングサービスなどを含め、設計・構築、保守・運用までをトータルで提供することが特徴です。
そのソフトクリエイトが直面した課題の 1 つが、顧客データを中心に社内に存在するさまざまなデータをどう一元的に管理していくかというものでした。ソフトクリエイト 代表取締役社長 林 宗治 氏はこう話します。
「システムインテグレーション事業を手がけるソフトクリエイトは、部門部署を超えてお客様の情報を 1 箇所に集約し、適切に活用していく構想『Oneソフトクリエイト』を推進しています。これまでさまざまな事業を展開する中で、部門ごとに多彩な情報が集まっていましたが、それらを統合して活用することが十分にできていませんでした。IT ソリューションを提供するわれわれ自身が、DX という点で遅れを取っていたともいえます。そこで、お客様のデータを 1 箇所にまとめ、活用できる基盤をつくることから始めたのです。まずは、われわれ自身がお客様の模範となり、それをソリューションとして提供しながら、お客様との情報共有も進めていく。最終的には、われわれとお客様が一緒になって新しい価値を創出することを目指しています」(林 氏)。
この Oneソフトクリエイト構想で活用しているのが Azure Data Factory(以下、Data Factory)を中心としたMicrosoft Azure(以下、Azure)の PaaS サービス群です。
クラウド SFA で 50,000 社を超える顧客情報を管理するも、情報連携が課題に
ソフトクリエイトの大きな強みの 1 つは、全国の中堅中小規模の企業 50,000 社以上に直接アプローチできる営業力を持つことです。長年のコンサルティングやソリューション提供実績に加え、Microsoft 365 や Azure を中心としたマイクロソフトの製品やサービスを使ったマネージドサービスの提供に定評があります。
特に、Microsoft 365 を活用した SMB 市場向けのマネージドサービス「Microsoft 365トータルサービス」が年間 200 %の成長を続けており、2021 年には、マイクロソフトの全世界のパートナーの中から、Modern Workplace for SMB 部門で「2021 Microsoft Partner of the Year Awards」ファイナリストにも選出されています。
戦略ビジネス部を統括する、ソフトクリエイト 企画統括部 戦略ビジネス部 上席部長 花原 啓太 氏はこう話します。
「営業を強化するために 2019 年から営業部門の営業支援(SFA)と顧客関係管理(CRM)ツールとして『Salesforce』を採用し、お客様情報の管理を行なってきました。3 年ほど運用する中で、Salesforce は営業部門に定着し、営業活動や顧客情報を可視化し、スピーディーに商談を進める為の情報共有基盤になっていました。ただその一方で、お客様の DX をトータルでサポートしていくためには、セールスに関する情報だけでなく、エンジニアリングに関する情報も共有することが重要になってきていました」(花原 氏)。
Salesforce は営業部門やマーケティング部門で定着していましたが、エンジニアリングを担当する技術本部ではほとんど利用されていませんでした。そのため、営業担当者がエンジニアリング情報を見ながら、顧客に提案するといったことが難しかったといいます。一方で、技術本部やそのほかの部門が営業情報を確認し、集計することも難しかったといいます。
ソフトクリエイト 技術統括本部 デジタルサービス事業部 事業部長 中野 真路 氏はこう話します。
「部門ごとに、契約や対応履歴、納品システム、機器の設定などが分離して管理されていたため、顧客からの問合せや顧客とのやり取りの確認が難しくなっていました。また、顧客単位での売上実績の集計やカテゴリー、サービスごとの集計のために手作業が必要で、傾向や分析の見える化も難しい状態でした。そうした課題を解消しようと、技術本部を中心に全社的に利用できる情報共有基盤として、Microsoft Dynamics 365 Customer Service(以下、Dynamics)を採用するプロジェクトがスタートしたのです」(中野 氏)。
「Oneソフトクリエイト構想」の中で Salesforce と Dynamics の連携に取り組む
ここで問題になったのが、営業部門に定着していた Salesforce を中心とする既存システムの取り扱いです。林 氏は「投資を行ない、利用の促進を図り、ようやく定着したシステムの利用を止めることは、企業にとって大きなリスクになる」と指摘し、こう話します。
「DX プロジェクトの中でも、既存システムを刷新して一から作り直すというケースがよく見られるのですが、実際には失敗していることが多いと感じています。システム導入にはそれぞれ理由があり、その当時の正しい意思決定を伴って行われます。ある意味で、その企業の経験を表したものであり、必要がなくなったから捨てるということは、経験を捨てることでもあります。そのため、Salesforce を Dynamics に単純にリプレースするのではなく、他の既存のシステムも含めてうまく連携させながら、新たな価値創出につなげていこうとしました。このことは、同じ悩みを抱える中堅中小企業のお客さまのニーズに応え、お客様に現実的な解答を提供することにもつながります。そこで進められたのが Oneソフトクリエイト構想なのです」(林 氏)。
Oneソフトクリエイト構想のビジョンは「部門を超えてソフトクリエイト内で顧客関連情報を 1 箇所に集約して積極活用する」ことです。そのステップ 1 として、まずは、技術本部で管理する顧客に関する情報をひとつの共通システムで管理し、営業が管理する SFA と連携して、会社全体で共有できる環境を作ることを目指しました。
具体的には、営業/マーケティング部門の Salesforce と、技術本部に導入する Dynamics をデータ連携する基盤の構築です。このデータ連携基盤に採用されたのが、Data Factory でした。中野 氏は、Data Factory を採用した狙いを、こう説明します。
「データ連携に関して、大きく 3 つが課題になっていました。1 つめは、顧客からの問合せや顧客とのやり取り、プロジェクト進捗の共有が難しいという『顧客軸での情報共有』、2 つめは、傾向や分析の見える化が難しいという『顧客軸での売上集計』、3 つめは、エンジニアの稼働工数の消化状況や予測を通じた『コスト見通しの精度向上』です。Salesforce と Dynamics を連携させて、営業、技術本部それぞれが同じデータを共有することで、これらの課題を解消することができます。Data Factory は、Salesforce と Dynamics というクラウドサービスをクラウド上で高度に連携できる最適なソリューションでした」(中野 氏)。
データ連携基盤として Azure Data Factory を採用、半年でサービスをリリース
Data Factory を選定するにあたっては、他のさまざまな ETL ツールやデータ連携ツールも検討したといいます。花原 氏はこう説明します。
「営業部隊でも取り扱っている製品やツールが候補となっていました。すでに多くの企業で採用されている実績あるツールも多く、必ずしも新しい製品である Data Factory を使わなくてもいいのではないかという声もあったのは事実です。しかし、データ連携ツールはそれぞれ特徴があります。例えば、別に候補になっていた製品は、オンプレミスシステムと高度に連携できることが特徴で、必ずしもクラウドサービスとの連携に秀でているわけではありませんでした。一方、Data Factory は Azure PaaS として提供され、連携のためのコネクタ数が多く、SaaS も含めて既存のさまざまなシステムと簡単に接続できます。また、コーディングが不要で簡単にスタートできることもポイントでした」(花原 氏)。
グループ会社であるソフトクリエイトホールディングスでは、グループ全体で Azure サービスを全面的に採用しており、EC事業など、サービスの提供基盤としても Azure をフル活用しています。Azure が持つ世界最高レベルの可用性やセキュリティ、信頼性を高く評価しており、Azure AD をはじめ社内システムとの親和性が高いこと、今後のビジネスを展開するうえで、データの親和性の高さなども、採用の理由の 1 つになったといいます。さらに中野 氏によると、Microsoft Power Platform(以下、Power Platform)の Microsoft Power Automate(以下、Power Automate)も候補になったといいます。
「Power Automate を使えばデータを同期する仕組みを作ることができます。ただ、1 日 1 回など決められたスケジュールで同期することが基本で、リアルタイムでのデータ連携は難しい。一方、Data Factory は、API を使いながらもローコードで Salesforce と Dynamics を簡単に連携できます。また PaaS であるため、コスト見積もりがしやすく、利用が拡大して連携データやデータ量が増えたときの対応も容易でした。クラウドのメリットを生かして『やってみてダメなら他のやり方を試す』といったアプローチが取れることもメリットでした」(中野 氏)。
Data Factory を使ったデータ連携基盤の構築作業は 2021 年 3 月からスタートし、半年後の 9 月には先行リリースを開始するというスケジュールでした。スピーディーな構築とリリースができた大きな要因は、Data Factory がスモールスタートであることと、トライ&エラーがしやすい PaaS だったためだといいます。
プロジェクト成功のポイントは「試行錯誤のしやすさ」と「メンバーの協力関係構築」
データ連携基盤は、既存の Salesforce のデータ項目とまったく同じデータ項目を Dynamics 側に設定し、そのほかに全社的に利用する管理項目を追加するというかたちで構成されています。Salesforce と Dynamics で共通して持っているデータには、顧客管理、活動管理、見積管理、案件管理、予実管理、インシデント管理があります。また Dynamics 側には、このほかに、プロジェクト管理、原価管理、稼働管理、マスタ管理などのデータが設定されています。これらのデータは、Microsoft 365 と連携していて、Microsoft Exchange Online や Microsoft Outlook、Microsoft Teams からデータをスムーズに参照、確認できるような仕組みです。
「データ同期の頻度は 5 分、30 分、日次などがあり、データ項目ごとに使い分けています。データの閲覧権限や書込権限などは Salesforce と Dynamics それぞれの機能を活用して行なっています。データ連携の難しさとしては、不整合なデータを整えたり、設計どおりに連携できない項目を別の手段で置き換えたりといった地道な作業が必要なことです。問題が起こったときは、データアーキテクトやシステムアーキテクトなどがトライ&エラーして適切な設定を見つけていきます。こうした試行錯誤をしやすいことが Data Factory をはじめとした Azure サービスの魅力の 1 つです」(中野 氏)。
また、試行錯誤しながら取り組みを進めるうえでは、部門を超えたメンバー同士の協力関係をいかに築くことができるかが重要だといいます。
「営業部の Salesforce には、50,000 社を超えるお客様の情報が登録されています。それらのデータを部門内だけで通用するルールや言葉で取り扱うのではなく、全社の共通言語の中で活用していくことが求められます。各部門のメンバーがそれぞれの業務に即して協力し合い、お互いに気づきを得ながら、相乗効果を出していけるかがポイントだと思います」(花原 氏)。
良い協力関係を築くことは、新しい取り組みに抵抗する層を動かす原動力にもなるといいます。すでに先行リリースを終え、データ連携の範囲を拡大させている段階ですが、「見積依頼から見積作成状況の共有」「稼働中のプロジェクト(受注済技術案件)の共有」「サポートの対応状況の共有」などが全社的にできるようになったことで、業務の効率化とスビード化が進み、社内ユーザーの多くがシステム構築の効果を実感し始めているといいます。
中堅中小企業の DX に向け「失敗も含めて知見やノウハウを提供し、伴走する」
Oneソフトクリエイト構想がもたらす最大の効果は、Salesforce と Dynamics のデータ連携を Data Factory で実現したという社内事例としての知見とノウハウの獲得にあります。
「お客様にソリューションを提供する企業として、失敗も含めて社内実践事例を『ショールーム化』することは、貴重な資産となります。特に Salesforce と Dynamics を Data Factory で連携させた事例はグローバルでも例がなく、今回の取り組みで得たノウハウがお客様の課題解決に大きく貢献できると考えています」(花原 氏)。
「今回は、Dynamics だけでなく、データの集計で利用している Microsoft Power BI や Microsoft Power Apps など Power Platform の知見の獲得も併せて行なうことができました。これにより、お客様に対しての提案の幅はさらに広がったと考えています」(中野 氏)。
今後は、今回構築したデータ連携基盤を「全社的な社内情報共有基盤」として発展させていきます。具体的には、契約管理、顧客ドキュメント管理、構成管理などを Dynamics 上で行なうようにし、さらに、そうした新しい管理項目やデータを「顧客向けポータル」などと連携させ、顧客サービスの充実を図っていきます。また、その際には、Azure Synapse Analytics などの高度なデータウェアハウスの利用が難しい中堅中小企業に対して、Data Factory を活用した使いやすく、導入しやすい情報共有基盤をソリューションとして提案していくことも検討しているといいます。林 氏は、中堅中小企業における DX に触れながら、こう将来を展望します。
「本質的に DX というのは、自身の会社の業務をよくわかっていて、データがもたらす価値もよくわかっている社内の人がリードすべきものです。私たちのような SI 企業の役割は、お客様のインフラづくりを確実にサポートすることにあります。その意味で、Data Factory は、お客様が使うための箱を簡単に用意できる優れたサービスです。Data Factory を利用すると、箱から簡単にデータを取り出し、データから新しい価値を創出する作業に集中しやすくなります。私たちは、自社の成功体験だけでなく、失敗も含めて知見やノウハウを提供し、お客様に寄り添い伴走しながら、中堅中小企業の DX をしっかりとサポートしていきます」(林 氏)。
ソフトクリエイトの社内実践と顧客のサービスの向上に向けた取り組みを、マイクロソフトは今後も支援していきます。
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