世界 70 カ国以上でビジネスを展開する、グローバル製薬企業であるアステラス製薬は「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念のもと、患者に価値をもたらす医療ソリューションの創出を目指しています。同社の IT 部門ではデジタル技術やソリューションを導入して、ビジネス部門の業務改革を推進する DX の取り組みを続けており、その一環として小規模業務に対応した RPA ソリューションの選定に着手。最先端の科学に挑戦する研究員をサポートする研究管理統制部の要望に応える RPA 製品として、Power Automate を採用しています。
ROI 基準を満たさない小規模業務の RPA 導入に向け、自由度の高いソリューションの選定に着手
“変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える”というVISIONを掲げるアステラス製薬では、社内業務においてもデジタル技術を積極的に活用しています。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を利用した業務の自動化・効率化にも以前から取り組んでおり、社内の基幹系システムをつないだ複雑な業務フローを構築する、エンタープライズ型の RPA ソリューションを情報システム部門主導で導入・運用。サプライチェーンマネジメント部門や、ファーマコヴィジランス部門(製薬会社の安全情報管理部門)をはじめ、さまざまな部門で RPA の活用が進んでいます。とはいえ、大量のデータを正確に短期間で処理できるエンタープライズ型の RPA は、大規模業務の効率化においては重要な役割を担う反面、自由度の高い運用を求める小規模な業務へは対応が難しいという課題を抱えていました。そのため、こうしたニーズに対しては別の RPA 製品を利用する必要があったのです。アステラス製薬 情報システム部 デジタルテクノロジーグループの于 継川(ウ ケイセン) 氏は、小規模な業務向けに新しい RPA 製品が求められていたと、今回のプロジェクトが始動した経緯を振り返ります。
「情報システム部が導入と管理を行っているエンタープライズ型の RPA 製品は、すでに多くの業務で利用されていますが、開発・メンテナンスにはある程度のコストがかかります。そのため、小規模な業務では ROI(投資利益率)基準を満たせず、受け入れられないケースが増えてきていました。そこで、こうしたエンタープライズ型では対応が難しいニーズに対応できる RPA ソリューションの導入を検討したという経緯があります」(于 氏)。
こうした小規模案件のニーズに関しては、業務部門主導で RPA ツールを探して導入を検討するというケースもあったと、CoE(センター・オブ・エクセレンス)の一員として、初期段階から今回の RPA 導入プロジェクトに関わっている、情報システム部 ガバナンスグループの若月 千裕 氏は語ります。
「これまで、エンタープライズ型の RPA で対応できなかった小規模案件に関しては、業務部門が独自に RPA 製品を検証して利用を検討するケースも出てきており、情報システム部門でのチェックと管理が行き届きづらい状況にありました。こうした管理面での課題も踏まえて、自由度が高く、さまざまな業務部門の要望に応えられる RPA ソリューションの導入プロジェクトがスタートしました」(若月 氏)。
これまで利用してきた RPA の課題を解決する製品として Power Automate を採用
今回のプロジェクトは、最先端のライフサイエンスに携わる同社の研究員を、コンプライアンスと研究信頼性の両面からサポートしている、研究管理統制部が利用する RPA 製品として検討が進められました。同部では、以前より業務効率化のためデスクトップ型の RPA 製品を利用してきましたが、ライセンスコストや PC の更新に伴う検証などの面で課題を抱えていました。このため、契約更新時期に合わせて新しい RPA 製品への乗り換えを検討していたと、研究管理統制部 研究信頼性グループ 課長代理の松澤 崇穂 氏は説明します。
「私たちの業務は研究員の日々の実験・研究業務や社内外の規制・システムといった外部環境に即した変化が求められるため、大規模向けの RPA では対応が難しく、情報システム部門の了解を得たうえで独自の RPA 製品を利用していました。小回りの利く RPA 製品ではあったものの PC に紐付いたライセンス形態であったため、1 台の PC にライセンスを持たせ、RPA を利用したいユーザーが PC を共有する形での運用となっていました。個々の業務 PC で利用できない点は、RPA を普及させるという観点において大きなデメリットであると感じており、より自由度の高い RPA ツールを求めていました」(松澤 氏)。
同じく研究管理統制部で研究コンプライアンスグループの課長を務める岡 宏昌 氏も「共有 PC で利用するという形態は、リモートワークを推進するうえでも問題が生じました」と、従来の RPA ツールが内包していた課題を語ります。また、部独自で導入しているツールのためアステラス製薬の標準アプリケーションに含まれておらず、業務 PC の更新があるごとにマッチング・検証・修正作業を行う必要があり、そこに少なからず時間を取られていたことも課題だったといいます。
こうした課題を解決する RPA ソリューションとして採用されたのは、マイクロソフトが提供する Power Automate でした。検討を開始した 2021 年 6 月には、Windows 10, 11 ユーザー向けに RPA 機能である Power Automate for desktop が無償で提供開始されていました。情報システム部門で Power Automate for desktop をインストールして、研究管理統制部がこれまで実際に利用していた RPA のシナリオを試し、問題がないことを確認したうえで検証を進め、採用を決定したといいます。
「情報システム部門と情報を共有しながら、私たちも無償版をインストールして機能や使い勝手を検証し、これまでの課題を解決できることを確認して導入を決定しました」と、業務部門としてPower Automate for desktopの検証を行った松澤 氏は語ります。情報システム部門で検証を行った于 氏も「実際に使ってみて、自動化のフローを実行した履歴がすべて残っているところに魅力を感じました。直感的に操作でき、プログラミングの知識がなくても使いこなせることも大きなアドバンテージだと思います」と、Power Automate for desktop の使いやすさを高く評価しています。
またアステラス製薬では Microsoft 365 を全社的に導入し、マイクロソフトが提供する多数のツールを社内で活用しており、さらに IT インフラのクラウド移行プロジェクトにおいても Microsoft Azure を積極的に採用しています。こうした背景も、マイクロソフト製品との親和性が高い Power Automate が採用された要因であるといえます。実際、今回のプロジェクトで Power Automate for desktop の導入が検討されたことで、アステラス製薬に多くの製品を提供してきたマイクロソフトは、同社向けにハンズオンセミナーを開催。研究管理統制部のメンバー 9 人が参加し、RPA がどのように業務を効率化していくのかを確認したといいます。岡 氏はハンズオンセミナーの効果について、こう語ります。
「情報システム部門が運用するエンタープライズ型の RPA とは異なり、小規模業務向けの RPA は全社展開をしておらず、必要に応じてユーザー部門自らが設計・利用する形で運用していました。このため、今回のハンズオンに参加した 9 名のなかにも、RPA を積極的に活用しているメンバーはほとんどいませんでした。 こうした状況のなか、ハンズオンで Power Automate for desktop で何ができるかを解説いただき、RPA を実際の業務に落とし込むイメージを持てたことは非常に有益だったと思います」(岡 氏)。
Microsoft Power Platform の全社展開も検討、マイクロソフト製品の活用によって DX を推進していく
こうして研究管理統制部の RPA 製品として Power Automate が採用され、有償版のライセンスを購入。現在はこれまで利用していた RPA 製品からの移行を進めている段階となっており定量的な成果はまだ見えていませんが、課題となっていたライセンス形態やコスト面での効果はすでに現れています。また、業務 PC で利用している Windows OS と親和性の高い製品であるため、PC の更新に伴う検証もスムーズに行えるようになったといいます。さらに「無償版をインストールして誰でも簡単に試せることは非常に大きなメリットで、所属する組織内でも種々の業務で『やってみたい』という声が広がってきていることを実感しています」と松澤 氏。情報システム部の若月 氏も、「PC に紐付かない柔軟なライセンス形態は、今後さまざまな部門で運用していくことを考えると大きなメリットになると考えています」と手応えを口にするとともに、今後 Power Automate for desktop の活用を拡大していくうえでの課題についてこう分析します。
「無償版も用意され、誰でも簡単に使えるというのは大きなメリットである反面、ルールやガイドラインを設けずに利用を促進してしまうことで顕在化するリスクもあります。Power Automate for desktop をさまざまな業務部門で使ってもらうためには、自由度を損なわない範囲で、情報システム部がガイドラインを整備していく必要があると考えています」(若月 氏)。
アステラス製薬では、今回のプロジェクトの成果を踏まえ、Power Automate for desktop を使った小規模業務の自動化・効率化を促進していく予定だといいます。「今後は業務部門主導による RPA の自主的な開発といった需要が高まっていくと考えており、各業務部門の小規模業務向け RPA を Power Automate for desktop に一本化していくことも検討しています」と于 氏。さらに Power Automate をはじめ、ローコードでの業務アプリ開発が可能な Power Apps、データ解析を簡単に行える Power BI、チャットボットをノーコードで作成できる Power Virtual Agents で構成されたプラットフォーム Microsoft Power Platform の全社展開も検討していると力を込めます。
RPA の活用も含め、アステラス製薬が推進する DX(デジタル・トランスフォーメーション)において、マイクロソフトの提供する製品・サービスへの期待は高まっています。情報システム部の于 氏は「マイクロソフト製品には、更新頻度が高く、新しい機能がタイムリーに追加されていく印象を持っています。日々の業務に欠かせないツールが継続的に進化していくことで、イノベーションが起こせるのではと期待しています」と更新頻度の高さを喜びます。また研究管理統制部の岡 氏は、エンドユーザー(業務部門)の視点から感じた Power Automate for desktop の印象をこう語ります。
「個人的な感想となりますが、Power Automate for desktop は、使っていて“楽しい”ツールです。フローの構築に工夫を施すことで、これまでできなかったことが実現できます。ついつい熱中しすぎてしまうときもありますが、ユーザーに“楽しい”と感じさせてくれる要素を備えているのは、RPA ツールとして極めて有益なことだと感じています」(岡 氏)。
アステラス製薬の取り組む DX と、そのなかでPower Automate をはじめとしたマイクロソフト製品が生み出すイノベージョンは、デジタル技術を活用して業務改革を図りたい企業にとって重要な気づきを与えてくれるはずです。
[PR]提供:日本マイクロソフト