ライフサイエンス領域に特化した AI「Concept Encoder」を独自開発する FRONTEO が、「AI 医療機器」や「AI 創薬」の領域でビジネスを拡大させています。膨大な医学論文情報を即時検索・分析できる論文探索 AI システム「Amanogawa」の Microsoft Azure 上での展開を開始。サーバ台数を 20 分の 1 に、システム監視・セキュリティ監視コストの 99%削減、CI/CD による自動化で開発効率を大幅向上させるなど、大きな成果を上げています。「ライフサイエンスAI」という将来性が見込める領域でグローバルトップの技術を持つ FRONTEO が、なぜ Microsoft Azure を採用したのかを聞きました。
AI 創薬や AI 医療機器、医療 DX で注目される「ライフサイエンス AI」をリードする日本企業
2003 年の創業以来、「情報社会のフェアネスを実現する」を理念として、リーガルテック分野を中心に、金融、知財、人事、医療といったさまざまな領域で事業を展開してきた FRONTEO。自社プロダクトとして、企業のあらゆるシーンで人間の判断を助け業務効率化に寄与する人工知能「KIBIT(キビット)」や、ライフサイエンス領域に特化し医療や研究の発展に貢献する人工知能「Concept Encoder(コンセプトエンコーダー)」、ネットワーク解析人工知能「Looca Cross(ルーカクロス)」を開発するほか、AI ソリューションとして「リーガルテック AI」「ビジネスインテリジェンス」「ライフサイエンス AI」「経済安全保障 AI」などを展開しています。
そのなかでも近年市場から大きな注目を集めている事業の 1 つが、ライフサイエンス AI です。ライフサイエンス AI は、リーガルテック領域で培った自然言語解析の AI テクノロジーを活用しながら「AI 創薬」「AI 医療機器」「医療 DX」といった、医療機関・研究機関・企業の新しい取り組みを支援する事業となります。ライフサイエンスAI事業本部本部長/執行役員 髙橋 真人 氏はこう説明します。
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株式会社FRONTEO ライフサイエンスAI事業本部本部長/執行役員 髙橋 真人 氏
「AI 医療機器では『会話型 認知症診断支援AIプログラム』『骨折スクリーニングAIプログラム』などの開発を行っています。『会話型 認知症診断支援AIプログラム』は言語系 AI としては世界に先駆けて臨床試験を行い、現在、薬事申請に向けて取り組んでいます。画像系の AI 医療機器は欧米を中心にいくつか存在していますが、言語系の AI 医療機器では FRONTEO が最先端を走っている状況です。また、AI 創薬は、成功確率 3 万分の 1、開発期間 15 年、1000 億円の投資が必要とされる創薬分野でニーズが高まっている技術です。AI やデジタル技術を活用して、創薬のスピードアップと効率化を進めることで、成功確率の向上や開発期間の短縮、投資の最適化に貢献します」(髙橋 氏)。
AI 医療機器や AI 創薬は、人々の生活の質に直接的、間接的に関わる技術でもあります。例えば、創薬の開発期間が長くなれば、その薬を必要とする患者が薬を入手できる時期が遅れるのはもちろん、製薬企業にとっては特許期間が短くなり、市場規模を追求したり、有望な薬の獲得を目指し M&A を加速させたりします。そうした状況は最終的には、薬価の上昇や社会保障費の上昇につながっていくことになるのです。
そうしたなか、創薬プロセスを抜本的に変革するソリューションとして FRONTEO が提供するのが、膨大な医学論文情報を即時検索・分析できる論文探索 AI システム「Amanogawa」です。Amanogawa はこれまで自社サーバ上で構築、提供されてきましたが、市場ニーズの高まりを受け、管理性や拡張性、柔軟性のこれまで以上の向上と、広くユーザーに提供していくための体制強化が求められていたといいます。そこで採用したのが Microsoft Azure(以下、Azure)でした。
医学論文探索 AI システム「Amanogawa」の基盤を Azure に移行
創薬研究では、論文情報と公開データベースを日々チェックし、重要な情報について常に知識・知見をアップデートすることが不可欠です。また、年々増え続ける膨大な情報をタイムリーに捕捉するための情報収集作業に、多大な時間と労力が費やされています。この時間と労力がかかる背景の 1 つには「キーワード検索の制約」があると、髙橋 氏はいいます。
「生物医学領域の論文を検索できるデータベース『PubMed』には、現在 3000 万件を超える論文が掲載されていて、すべてに目を通すことがもはや不可能な状態です。例えば、リウマチだけでも該当論文は 50 万件を超えています。また、キーワード検索は、複数の言葉で候補を絞り込んでいく際に、検索者の知識によるバイアスが入るため、調査結果もその偏りの影響を受けたものとなり、確認すべき論文をとりこぼすリスクがあります。これに対し Amanogawa は、AI を活用することで、キーワード検索ではヒットしない論文も含めて、自分の欲しい論文を素早く網羅的に探し出すことができます。分析過程も可視化されているので、他の研究者との情報共有も簡単にできます。検索時間の短縮化と効率化、ノンバイアスなアナリシスは、創薬のこれからを左右する重要技術だと考えています。また、医学情報分析ツールとして医薬品開発以外での活用も広がりつつあります」(髙橋 氏)。
また、ライフサイエンス領域の AI ソリューションは、一部オンプレミスで提供しているサービスもあり、その場合はユーザーである製薬会社や大学、医療機関の研究施設などへのサーバ・ストレージなどの IT インフラの準備や、アプリケーションの構築・運用を行う必要がありました。そうしたケースでは、各施設に存在する医療設備などに API で接続する、施設が利用するシステムの機能や精度に合わせてアプリケーションをカスタマイズする、製品のバージョンアップ時に施設に赴いてアップデートを行うといった作業の必要が生じるなど、構築や運用に手間がかかることもありました。
「お客様の拠点は全国にあるので、オンプレミスで展開した場合は、構築や運用管理、保守メンテナンスのために AI の知識を持ったエンジニアが出張して対応しなければなりません。そのため、利用が増えていくとサービスの提供価格や品質に影響が出る可能性があります。また、オンプレミスでの展開により、誰もが簡単に使えるテクノロジーではなくなってしまうことも懸念されます。テクノロジーは使うことに意味があります。そこで、Amanogawa を Azure 上で提供し、より多くの人にとって活用しやすい仕組みとすることを目指しました」(髙橋 氏)。
3000 万件の論文を格納した MongoDB を Azure Cosmos DB にスムーズに移行
クラウド化のメリットは、運用の効率化や利便性の向上だけではなかったといいます。システム面で抱えていたオンプレミスの課題とクラウド化のメリットについて、システム開発チーム AIエンジニア 呉 桐 氏はこう説明します。
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株式会社FRONTEO システム開発チーム AIエンジニア 呉 桐 氏
「Amanogawa は、PubMed に掲載された全英語論文を学習済みで、即時の探索・解析が可能です。ただ、PubMed の論文は週 5~10 万件ペースで増えているため、効率良く保管したうえで、タイムリーに情報を更新していく必要がありました。そのため、PaaS を中心にクラウドを利用することで、こうした基盤の運用管理を効率化したいと思っていました。また、将来的には、医療機関のデータとして患者情報などと連携することも検討しています。その際には強固なセキュリティで保護されたクラウド環境にシステム全体を移行することで、情報を保護することができます。IT インフラ管理、顧客情報の管理の点からもクラウド化は必須でした」(呉 氏)。
Amanogawa のシステムでは、サーバ上で複数のサービス同士を通信させながら処理を行なうマイクロサービスアーキテクチャを採用していました。
各サービスは Docker コンテナで稼働しており、Docker Compose を使って全体を管理。また、論文を格納するデータベースとして MongoDB を、データ管理のためのデータベースとして Postgres SQL と Redis を、モニタリングには Prometheus をそれぞれ利用するという構成でした。
「量が増え続けるデータベースをどう管理していくか、既存の構成に大きな変更を加えずにクラウド化するにはどうすればいいか、サーバ規模が拡大したときにどう効率良く監視するかなどを検討していました。Azure は、既存のツールをそのまま利用したり、より使いやすいツールに代替したりすることができます。例えば、MongoDB は、Azure Cosmos DB(以下、Cosmos DB)の MongoDB 用 API を使って、既存データベースから Cosmos DB にスムーズに移行することができました。データベースの分割やバックアップ、メンテナンスなど、MongoDB の管理に悩んでいたところで、Cosmos DB が利用できるとわかったことは、Azure を全面的に採用していく大きな理由になりました」(呉 氏)。
Azure Kubernetes Service に移行し、基盤の運用管理の手間を削減、自動化も推進
MongoDB の Cosmos DB への移行にメドがたったことで、コンテナ基盤や周辺システムの移行も実行します。まず、コンテナ管理環境は Docker Compose から Azure Kubernetes Service(以下、AKS)に移行させ、ユーザー情報は Azure Database for PostgreSQL へ、検索結果のキャッシュは Azure Cache for Redis へと移行しました。Amanogawa の検索モデルやデータファイルは Azure Files に保存し、AKS のコンテナにマウントして利用するという構成にしました。
また、ユーザー側からのアクセスは Azure Front Door で処理され、その際には Azure Web Application Firewall(WAF)を活用してセキュリティを担保。システムの運用情報のモニタリングを Azure Monitor で、アプリケーションのパフォーマンス管理を Azure Application Insights で行なっています。
さらにアプリケーション開発に関しては、GitHub Actions と Azure を連携させ、CI/CD 環境を構築して自動デプロイできるようにしています。
このように、オンプレミスで構築していたコンテナ管理基盤を、ほとんど構成を変えることなく、Azure の PaaS やマネージドサービスに移行することで、基盤管理の手間の大幅な削減と、システムやアプリケーションのアップデートの自動化、開発やモニタリングの効率化、安定稼働と、将来にわたっての拡張性を実現したのです。
「Kubernetes は今回初めて使いましたが、1 つのサーバでしか利用できない Docker Compose と違って、複数サーバでクラスタを構築してサービスを管理でき、非常に便利だと感じています。現在は、3 台のサーバ上に 16 個のコンテナが稼働しています。これまではユーザーごとに複数のサーバを管理する必要がありましたが、基盤となるデータベースも 1 つに集約したうえ、コンテナを増やすことで、ユーザーが増えたときにもすぐにアプリケーションを提供できます。PaaS を利用しているため、運用効率も大幅に向上しました」(呉 氏)。
現在 Amanogawa は、日本国内の製薬大手 20 社の半数以上に採用されています。今後、ユーザー数の増加や、研究開発部門以外の関連部門への利用が広まるなかで、シェアはさらに高まっていくことが見込まれています。
FRONTEO とマイクロソフトのパートナーシップで新しい市場を作っていく
Azure 採用の背景には、FRONTEO とマイクロソフトが戦略的なパートナーシップを締結していたことも関係しています。日本マイクロソフト パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 クラウドパートナー開発本部 ビジネスディベロップメントマネージャーの小坂 真司 氏は、こう説明します。
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日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 クラウドパートナー開発本部 ビジネスディベロップメントマネージャー 小坂 真司 氏
「2020 年 10 月から、社会的な課題となっている高齢化による医療・介護リスクへの対応と、課題解決につながるソリューションの提供に向けて協業を開始しました。第一段として、FRONTEO様の会話型 認知症診断支援 AI プログラムを Azure 上で構築し、専門的な会話や問診ではなく、ごく自然な会話を通じて認知症の診断をサポートすることを目指しました。今回の Amanogawa の Azure 移行は、その取り組みを受けて行ってきたものでもあります。もともと FRONTEO 様とは、自然言語処理の分野で市場をリードしていたときからお付き合いがあります。今後は、ソリューションのグローバル展開などさまざまな面で協業していきます。マイクロソフトは、FRONTEO 様のパートナーとして、AI 創薬や AI 医療機器の展開、医療 DX の推進に取り組んでいきます」(小坂 氏)。
実際、Amanogawa の Azure 移行でも、マイクロソフトのエンジニアと密接に連携しながら、システム構成や移行計画を実施していったといいます。
「システム構成を示しながら、おすすめの構成案を提示していただきました。毎週のテレビ会議で技術面でのアドバイスを受けながら、どのコンテナにどのデータをどう保存すればいいかを議論しました。Kubernetes の利用や Cosmos DB への移行もそうした議論の中から見つけ出した最適解でした。マイクロソフトと、スムーズな移行と将来的に管理負担が減る仕組みを一緒に作り上げていったイメージです」(呉 氏)。
Azure への移行効果としては、サーバ台数の 20 分の 1 への削減、モニタリングツールとセキュリティ監視の手間の 99%削減、データベースのバックアップなどの運用コストのゼロ化、自動デプロイによる開発効率の向上など、大きな成果を生んでいます。
髙橋 氏は今後について次のように展望します。
「まずは製薬の研究開発分野で取り組みを加速させます。その実績をベースに営業やマーケティングでの医学情報分析などに展開していきます。より拡張性が求められますし、Azure の海外リージョンや新しいサービスを利用することも増えるでしょう。ビジネスパートナーであるマイクロソフトと一緒に新しいマーケットをつくっていきたいと思っています」(髙橋 氏)。
キーワード検索から AI を活用した概念検索への転換は、医療研究だけでなく、われわれの生活を一変させる可能性を持った技術といえます。FRONTEO の取り組みを、今後も日本マイクロソフトが支援していきます。
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