デジタル・トランスフォーメーション(DX)への取り組みが、多くの企業で加速しています。その第一歩となるのが、業務のペーパーレス化であるといえるでしょう。そして DX を実現するための有効なアプローチとして、業務目線でのシステム開発が高度なスキルを必要とせずに可能となるローコード開発にも、注目が集まっています。これら双方を同時進行で進めているのが、鉄鋼製品の商社である伊藤忠丸紅鉄鋼です。同社では全社を挙げてペーパーレス化に取り組むとともに、SAP 周辺の業務をマイクロソフトのローコード開発プラットフォームである Microsoft Power Platform でシステム化することで、DX の礎を築いています。同社の取り組みについて IT 部門と経理部門の担当者と、同社と二人三脚でローコード開発を支援するシーイーシーに詳細を伺いました。

“人が楽になる”DX を推進

総合商社の鉄鋼製品部門の「分社型共同新設分割」というかたちで 2001 年に設立された伊藤忠丸紅鉄鋼。同社は、総合商社から分割されたという総合力を最大限に活用しつつ、取引・事業における付加価値・サービスの質的向上も図り、取引先の要望に幅広く対応できる体制づくりに努めてきました。そうした成果もあって、創業以来、業容は順調に拡大を続けています。

設立 20 年目にあたる 2021 年度には、新たに次の 3 年間に向けた第七次中期経営計画を策定しており、「MISI as Resilient towards 2023」というスローガンのもと、「備える~収益基盤再強化」「高める~競争優位性構築」「鍛える~人的資源底上げ」という 3 つの重点施策に取り組んでいます。コロナ禍を契機に同社を取り巻く業界や社会にさまざまな変化が生じている中にあって、新たな時代に勝ち残れる収益力とコスト競争力の実現を目指しているのです。

また、合わせてデジタル・トランスフォーメーション(DX)にも注力しており、2021 年度には CDO(Chief Digital Officer)を設置して DX 推進体制を強化。業務のペーパーレス化や自動化、システムのローコード対応などに取り組んでいます。このうちペーパーレス化については、全社を挙げてペーパーレス化を進める取り組み「ペパリンピック」などを実施しています。

伊藤忠丸紅鉄鋼 IT推進部 営業システムチーム長代行の宮﨑 良太 氏はこう話します。

「当社におけるデジタル化の最大のテーマは“より人が楽になる”ことであり、品質を上げつつも、業務にかかる手間をできる限り減らすことを目指しています」(宮﨑 氏)。

  • 伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 IT推進部 営業システムチーム長代行 宮﨑 良太 氏

    伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 IT推進部 営業システムチーム長代行 宮﨑 良太 氏

ペーパーレス化やローコード対応で DX の一歩を踏み出す

DX の一環として全社的にペーパーレス化やローコード開発などを進めている伊藤忠丸紅鉄鋼ですが、なかでも自部門のメンバーを中心としたプロジェクトチームを設置するなど、特に力を入れているのが経理部門です。40 人からなる同社の経理部は営業経理チームと決算管理チームの大きく 2 つに分かれており、いずれも基幹業務システムである SAP ERP を中心に業務が回っています。

すべてのチームを統括する伊藤忠丸紅鉄鋼 経理部 部長代行(兼)営業経理第二チーム長の鍵冨 善宏 氏は次のように語ります。

「鉄鋼業界というのは、中小の問屋さんや倉庫業者との取引も多いことなどから、経理や営業の現場をはじめとして、長年にわたって紙中心の文化が定着しています。しかし、このままではこれからの世の中の流れについていけませんし、業務効率化を進めるにあたっても、紙での仕事がメインである限りはすぐに限界が訪れるでしょう。

とりわけコロナ禍となってからは、取引先等とやり取りする書類にも FAX と PDF などが混在するようになっており、さらに電子帳簿保存法への対応の必要性も出てきたことから、これまで取引先から受領した紙の書類と SAP から出力された紙の帳票をベースで業務を行っていたのを、まずはデータを基本として電子データで確認・回付等の業務を行う仕組みを構築するところから取りかかろうと、プロジェクトをスタートしました。こうしてペーパーレス化を進めていった後には、電子データの利点を生かして、より人の手を減らす省力化、さらには業務の自動化までを視野に入れながら、本件を全社的なペーパーレス化プロジェクトの先陣として進めていこうと取り組んでいるところです」(鍵冨 氏)。

  • 伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 経理部 部長代行(兼)営業経理第二チーム長 鍵冨 善宏 氏

    伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 経理部 部長代行(兼)営業経理第二チーム長 鍵冨 善宏 氏

プロジェクトチームを率いる伊藤忠丸紅鉄鋼 経理部 決算管理チームの山田 遼 氏も、こう続けます。

「チームのメンバーは、経理部から 8 人、IT推進部から 3 人、経営企画部からの 2 人で構成されており、支払い関係業務のシステム化と、電子帳簿保存法対応という、大きく 2 つの観点でプロジェクトを進めています」(山田 氏)。

  • 伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 経理部 決算管理チーム 山田 遼 氏

    伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社 経理部 決算管理チーム 山田 遼 氏

ペーパーレス化の要となるローコード開発基盤に Power Platform を採用

SAP 周りを中心とした、ペーパーレス化、そしてローコード開発をとっかかりとして DX に取り組んでいる伊藤忠丸紅鉄鋼において、その基盤となっているのは Power Platform でした。Power Platform はローコードでの業務アプリ開発が可能な Microsoft Power Apps、ワークフローを手軽に自動化できる Microsoft Power Automate、データ解析を簡単に行える Microsoft Power BI、チャットボットをノーコードで作成できる Microsoft Power Virtual Agents で構成されたプラットフォームです。

Power Platform を選定した経緯について宮﨑 氏はこう振り返ります。

「2020 年にノーコード・ローコード開発プラットフォームをいくつかの候補から比較検討したなかで、使い勝手や品質、コストの観点からトータルで当社にとって最も優れていると判断したのが Power Platform でした。既に社内で利用している Outlook やMicrosoft Teams といった Microsoft 365 との連携性も魅力でしたし、Power Automate や Power BI、Power Apps といったアプリも新しく出てきていて、それらの活用も視野に入れました」(宮﨑 氏)。

さらにその後、Power Platformを導入する際のパートナーについても数社を比較検討した結果、シーイーシーと一緒に取り組むこととなりました。その理由についてこう続けます。

「シーイーシーさんとは初めてのお付き合いでしたが、Power Platform をはじめマイクロソフト製品に関する豊富な実績があり、他社の提案と比較して提案内容にも説得性を感じました」(宮﨑 氏)。

  • システムイメージ

    システムイメージ

コロナ禍や電子帳簿保存法が追い風に

2021 年初頭には、全本部から選定された営業担当者を交えたキックオフミーティングを実施。紙文化が根強い一部の国内部門の担当者からはネガティブな反応もあった一方で、コロナ禍を契機に一部電子化を進めていた部門からは「共有フォルダを使った仕組みが便利」などの、ポジティブな意見が寄せられました。

「そこで空気が変わりました。紙文化が根強い部門については、粘り強く説得と説明に回る必要がありましたが、SAP からの出力帳票を PDF 化し、Power Platform によって 回付、承認、保存等の業務もシステムによるペーパーレス化を実現することで、出社しなくても業務を回せるのだということが、だんだんと理解してもらえるようになっていきました。単に業務のペーパーレス化のお願いをするのだけではなく、DX によって皆さんの仕事がもっと楽になるんですよとシステム化によるメリットを具体的に伝えるようにしたのも効果があったと思います」と鍵冨 氏は言います。

山田 氏も、「コロナ禍での非常事態宣言により、在宅勤務をしなければならなくなったことで、紙のままではいけないという意識が高まりプロジェクトの必要性が生じました。さらにそこに、電子帳簿保存法への対応という必須事項が加わったことで、ペーパーレス化の緊急性、重要性が一気に高まり、ある意味で導入の追い風となりました」と話します。

Power Platform をベースとしたシステムの構築は、シーイーシーから提供された仮システムの実際の画面を見ながら IT推進部や経理部などが改善要望を出し、さらにそれを反映させたものを構築するなど、密なコミュニケーションの下で進められていきました。

シーイーシー サービスインテグレーション事業本部 エンタープライズサービス事業部 マイクロソフトサービス部 主査の馬本 法幸 氏は、「Power Apps では画面のイメージから開発が進められるため、PoC としてできる限り動くものをご提供して、こういう動作ではどうかといった議論が活発に進みました」と話します。

  • 株式会社シーイーシー サービスインテグレーション事業本部 エンタープライズサービス事業部 マイクロソフトサービス部 主査 馬本 法幸 氏

    株式会社シーイーシー サービスインテグレーション事業本部 エンタープライズサービス事業部 マイクロソフトサービス部 主査 馬本 法幸 氏

宮﨑 氏も、「実際にアプリの画面を見ながら直していく、といったアプローチで、小さく始めて大きく育てるように開発を進めることができました」と言います。

さらに鍵冨 氏は、「当初見込んでいなかった電子帳簿保存法への対応でも、追加要件がかなり発生したにも関わらず、シーイーシーさんには我々と密接にコミュニケーションをしながら、きめ細やかに対応してもらえました」と高く評価します。

2021 年の 8 月 から 2 つの本部内でのトライアル利用を開始していますが、12 月現在では大きな問題はなく、モバイル対応も実施していると言います。

「とても安定感がありますね。Dynamics 365 を基盤にしているので共通点が多く、大きな安心材料となっています。これまでフロアをまたいでやりとりしていた回覧書類がなくなっただけでも、大きな効果を実感できています」と宮﨑 氏は感嘆します。

また、鍵冨 氏もこのように話します。「いま誰が対応しているかなども Power Apps を使うことでワークフローとして把握できることをはじめとして、すでに電子データで書類をやり取りしていた貿易部門からの反応は、極めていいですね。国内部門からも当初は不安も大きかったが、実際に使ってみると想像していたよりは大変ではなさそうという意見が多かったです。また、支払を承認する営業担当や役職者等は外出や出張も多いので、『支払いの承認などを、出先からでもスマートフォン上でできてしまうといった点が便利だ』といった声が寄せられています」(鍵冨 氏)。

  • 実際の画面
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    実際の画面

Power Platform の多様なツール活用に向けて

こうして伊藤忠丸紅鉄鋼では、Power Platform を用いた新たなシステムを 2022 年 1 月にカットオーバーし、一部の機能から提供を開始しました。同社では、請求書の重複などの確認がシステム上で行えるようになるなど、Power Apps だけでも年間 2000 時間強の削減効果があると試算しています。

「Power Platform にはさまざまなツールがあるので、それも使いこなしていきたいですね。Power Automate for desktop が 2021 年 4 月から Windows ユーザーには無料になったので、インパクトが大きいと感じています。他の RPA 製品を全社員の PC に入れるとなるとそれなりにコストがかかりますが、Windows 11 には標準装備されているので、新たにツールを入れなくていいのも魅力です。いまは集中管理を基本としていますが、将来的には各部門が自律的に Power Automate for desktop などの RPA ツールを活用して、自らの業務を自動化していけるようにもできればと考えており、そこでもシーイーシーさんからの引き続きの支援に期待しています」と宮﨑 氏は話します。

  • 株式会社シーイーシー サービスインテグレーション事業本部 営業部 江口 麻菜 氏

    株式会社シーイーシー サービスインテグレーション事業本部 営業部 江口 麻菜 氏

これに対してシーイーシー サービスインテグレーション事業本部 営業部の江口 麻菜 氏は、「Power Platform の機能やライセンス等に関する情報提供から、システム構築後の運用保守までフルでご支援しています。今後は、SAPシステム上のデータを Power Apps でデータを吸い出して連携していくなど、伊藤忠丸紅鉄鋼様のさらなる業務負担軽減に貢献させていただければと願っています」と答えます。

伊藤忠丸紅鉄鋼のDXは、今年に入って一段と加速しそうです。

[PR]提供:日本マイクロソフト