“ものづくり立国・日本”を支えているのは、その高度な設計開発力と、それをベースに高品質を実現する生産技術であることは今さらいうまでもないことでしょう。しかしいま、このものづくりの世界にも、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の波が押し寄せています。
そうした動きをいち早く捉えて、いち早く全社を挙げた DX を推進しているのが、日本を代表するものづくり企業の 1 つであるリコーです。同社は、ワークフロー革新センターを新たに設置するなど、グループ全体で DX の取り組みに注力しており、大きな進化を遂げつつあります。
そんなリコーにおける DX 推進の成果を示す 1 例といえるのが、設計開発業務におけるデスクトップ環境のクラウド化です。同社では、マイクロソフトのクラウド VDI サービス Azure Virtual Desktop を導入することで、コストを抑えつつ柔軟で拡張性に優れた設計環境の構築に成功しました。
MFP などの製品で国内外の多拠点における協調設計を展開
リコーでは、国内のみならず海外のグループ会社も交えた多拠点での設計業務を推進しています。メカ設計拠点については、神奈川県海老名市にある同社の開発生産部門が集約する最大の拠点であるリコーテクノロジーセンターと本社などを中心に、中国はじめ海外に展開するグループ研究開発会社とも連携した体制を整えています。また、MFP(複合機)といった同社の代表的な製品では、部品点数の多さや設計データの大きさが顕著であり、例えば MFP の場合、部品点数は 6000 から 10000 部品を数え、1 機種あたりのメカ設計データは数ギガから10ギガバイトにもなります。
リコーにおける設計の特徴について、業務部門と一体となってリコーグループの IT 活用を推進し、設計から生産につながるようなシステムを現場に向けて提供している、同社 デジタル戦略部 基盤開発統括センター コーポレート基盤開発センター 第2改革推進室 設計1グループの黛 峰 氏はこう説明します。「MFP などの場合、まずテクノロジーセンターで本体を設計し、他拠点にてオプションやユニットを担当するといった協調設計を実施しています。当社の製品は機種間で共通部品を利用しているケースが多く、新機種であっても 30%~50%は共通部品となります。加えて、設計変更を反映した最新データを参照しながら設計する必要があるため、設計者間のコミュニケーションが特に重要となり、そこにさまざまな工夫が必要となってくるのです」
拠点ごとの CAD サーバー運用の課題を解決すべくオンプレミス VDI を導入するも、コロナ禍で運用が限界に
VDI を導入する以前のリコーにおける設計環境は、7 拠点のそれぞれに CAD (Siemens NX)サーバーが設置されており、各拠点のサーバーからデータを取得していました。そして拠点間のデータサーバーで、夜間に更新データのレプリケーションを実施していたのです。
しかしながらこの仕組みでは、更新データのレプリケーションを早期に実施できないことに加えて、各拠点に専用サーバーを設置してそれぞれを管理しているため、コストや運用負荷がかかるうえ、バージョンアップや停電対応の調整にも時間がかかってしまうといった課題を抱えていました。とはいえ拠点は拡大し続けていくため、保守運用にかかる負担はますます増大していく一方にありました。
そこでリコーでは 6 年ほど前より、まずはオンプレミスの VDI を導入し、サーバーをテクノロジーセンターに集約するようにしました。ただしこの際、VDI は CAD 用のデスクトップ PC よりも 3 倍ほども費用が高いことを受けて、遠隔地の拠点からはテクノロジーセンターのシンクライアントへと接続する一方、テクノロジーセンター内では PC で運用するという混在環境を採用しました。
そうしたなか、2020 年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が生じたことで、リコーにおいても在宅での設計がメインとなります。
黛 氏と同様の、コーポレート基盤開発センター 第2改革推進室 設計1グループの吉村 俊哉 氏は次のように振り返ります。「各設計者は、自宅のノート PC からテクノロジーセンター内の自席のデスクトップ PC へとリモート接続したうえで設計業務を行っていましたが、事業所内で CAD を利用する時と比べると、手元の操作と画面のレスポンスのラグをはじめとした操作性に難がありました。特に自席のデスクトップ PC がハングアップしてしまうと、わざわざ出社して電源を入れ直さなければ業務を続けられないという、本末転倒な事態にもなってしまっていたのです。そこで当社としても、コロナ対応や BCP 対応に加えて、事業所の再編やフリーアドレス化で開発環境を取り巻く環境が大きく変化する中において、開発環境のクラウド化は必須であると判断しました」
また、テクノロジーセンターの事業所環境の変革の一環として、開発環境におけるクラウド活用の任も担っている同社 RGC 経営管理センター 開発サポート室 技術サポートグループの荻島 則明 氏もこう続けます。「事業所内の座席のフリーアドレス化を進めていく中で、個人のデスクトップ PC を座席に置かない方向にするためにどのようにするか課題がありました。そこで、社内のフリーアドレスのどの席からでも、また自宅からでも、さらにはサテライトオフィスのような場所からでも、どこでも安全・快適に仕事ができるような環境を整えるには、クラウド化が一番だという結論に達したのです。加えて、BCP 対応とセキュリティ対策といった側面でも、現状の課題をクラウド化で一気に解決していきたいという思いもあります」
コスト効果の高さが最大のポイントに!
開発環境(メカ設計)のクラウド移行を進めるにあたってリコーが特に重視したのは、いかにコストを抑えるかということでした。そこで VDI を稼働するための各種クラウドサービスを比較検討した結果、同社が最終的に選んだのがマイクロソフトの Azure Virtual Desktop(以下、AVD)だったのです。
AVD を選定した理由について黛 氏はこう話します。「VDI を稼働するクラウドプラットフォームとして、Microsoft Azure(以下、Azure)をはじめいくつかのクラウドサービスを比較しましたが、当社グループ全体では広く業務に Microsoft 365 を利用しており、そのライセンスを上手に活用することができるため、二重投資の無駄を防げることが最大の決め手となりました。さらにコスト面以外でも、純粋な Windows デスクトップ環境としてはやはり Azure が最適であるという点も大きな魅力でしたね」
AVD 導入の決定後、リコーでは、個人のデスクトップ PC 環境をそのままクラウドに移行するのではなく、クラウド上に共有環境を構築して必要に応じて使用することで、Virtual Machine(以下、VM)のコストを抑える方針を採用しました。その上で 2021 年 5 月頃より VM の選定を開始したのです。
黛 氏はこう説明します。「VDI のコストを抑えるためには、必要なスペックの精査とクラウド上の共有環境を必要に応じて利用する事がポイントだと考えました。そのうえで、利用者がストレスに感じないような動作を、どこまでの環境でなら提供できるのか、などの観点から、AVD 上の 3 種類の VM を評価していったのです」
使用時間による課金システムであることから、各設計者の利用時間を確認し、月平均利用時間を算出するコストシミュレーションも行いました。その結果、平均利用時間は約 50 時間であることが判明します。
こうして性能とコストの検証を行った結果、GPU(グラフィックカード)と CPU の組合せによって、CAD 用デスクトップPC と同等の操作レスポンスと性能を発揮しつつ、コストの安い構成として、NCasT4_v3 シリーズの VM インスタンスを選定しました。
「デスクトップ PC と比べて単純なコスト比では倍程度になりますが、オンプレミスの VDI よりもコストを抑えられますので、ユーザー側とも合意を得た上で、順次 VDI 化を進めています」(黛 氏)
マイクロソフトのサポートの下順調に導入が進み、横展開のニーズも
AVD 導入の決定後は、先の VM の選定を含めて大きな問題はなく順調に導入が進み、2021 年 10 月には最初の利用開始にこぎつけることができました。なお、システム構築にあたっては、マイクロソフトが提供するカスタマーサクセスプログラム「FastTrack for Azure」も利用されています。現在(2022 年 1 月)では、AVD 上の VM 約 100 台をユーザーに展開しています。クラウド VDI のシステム構成としては、Citrix Cloud と Azure のクラウド環境を用いて Citrix Cloud with AVD の環境を構築、プロファイルの格納先としては Azure NetApp Files を採用。GPU インスタンスの VM を展開することで 3D CAD の VDI 環境を実現しています。
吉村 氏は言います。「オンプレミスの VDI だと、まず機器を購入するまでに 3カ月ほど要し、その後の設置に数カ月を要することになりますが、AVD は本当に素早く導入を進めることができました。弊社では 3D メカ設計環境から VDI の導入を進めましたが、この環境を活用し、設計シミュレーション用途のお試し環境等も数日で整えて提供することができ、こうした迅速性と柔軟性こそクラウドの最大のメリットの 1 つであると実感しています。加えて導入する側としては、ハードウェアの運用管理から開放され、メンテナンス業務も非常に楽になりました。そしてユーザーにとっても、日々激しくテクノロジーが進化する中にあって、その時々の最新かつ最適な環境が利用できるというのは、業務に大きな効果をもたらすものと確信しています」
黛 氏もこう続けます。「マイクロソフトには、最新の技術動向などを共有してもらいながら、時に技術面の課題が生じても原因調査などすぐに対応してもらえたので、さまざまな面において安心して導入を進めることができましたね」
メカ設計環境における AVD 導入の大きな効果を受けて、リコーでは、エレキ設計や生産準備工程チームをはじめとする、AVD の横展開も図っていく構えです。
「同じような業務を行っている他のチームでも、まず今回導入した環境を使って試してみて、そこから計画を考えていけるので、横展開がしやすいですね。『AVD を試してみたい』といったニーズがあればすぐに対応できることこそ、『クラウドファースト』を掲げる当社の強みに結びつくものであると感じています」と、荻島 氏は力強く結びました。
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