1963 年に創業し、建設コンサルタントとして社会資本整備事業全般に携わってきた大日本コンサルタント株式会社では、国土交通省主導で推進されている BIM/CIM の原則適用に対応するため、3D CAD をはじめとする BIM/CIM 対応ソフトウェア(以下、BIM/CIM ツール)の利用環境の見直しに着手。既存のワークステーション運用における課題を解決するアプローチとして VDI(仮想デスクトップ基盤)の導入を検討し、複数の選択肢のなかからクラウド型の VDIサービス「Azure Virtual Desktop」を採用しました。この選択は同社が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)においても重要な役割を担うことになり、BIM/CIM ツール利用環境の課題解決を実現しただけにとどまらず、“新しい働き方”を実現する施策の 1 つとなりました。
リリースされたばかりの Azure Virtual Desktop の導入を検討し、既存 BIM/CIM ツール利用環境の課題解決を図る
構造保全分野・社会創造分野・国土保全分野の 3 つの事業を中心に、「美しく魅力ある国土の建設と保全」と「安全で快適な住まい環境の創出」を理念に掲げビジネスを展開する大日本コンサルタント株式会社。橋梁、都市や公園、下水道、道路、河川・港湾など幅広い社会資本において、専門的な技術・知識を活かした事業支援を展開している同社では、以前より BIM/CIM 環境の構築・活用を行ってきました。そんななか、国土交通省が建設現場の生産性向上を目指し、2023 年度までの BIM/CIM 原則適用にむけた動きを加速させている状況を踏まえ、BIM/CIM 業務の拡大を見据えてハードウェアのリプレースを検討。既存の高性能ワークステーションを使った環境では、スポット的な BIM/CIM ツール利用に制限がかかることを考慮し、柔軟な運用が可能な VDI 環境への移行に向けた取り組みに着手しました。本プロジェクトを統括した大日本コンサルタント 技術統括部 技術企画部 部長の長岡 尚登 氏は、当時の状況をこう語ります。
「国の主導で BIM/CIM の全面的な推進が求められたことで、使用するソフトウェアやハードウェア、利用者の教育といった推進体制を整備する必要が出てきました。BIM/CIM ツールを快適に活用するには高性能のワークステーションが不可欠ですが、BIM/CIM 推進のために裾野を広げていくと利用するユーザーが増えてしまい、新しいワークステーションを導入しなければなりません。専任の CAD オペレーターだけでなく、スポット的に利用したいというユーザーも増加しており、こうしたニーズに対応した環境を用意するのには限界がありました。そこで VDI 環境への移行を前提に検討を開始しました」(長岡 氏)。
こうして BIM/CIM 環境の課題解決を目指したプロジェクトを発足した大日本コンサルタントは、VDI 環境の BIM/CIM ツール活用において業界トップの実績を持つ株式会社大塚商会をパートナーとして選択。大塚商会はオンプレミス環境への VDI 導入に加え、同社のデータセンターに構築した VDI 環境をサービスとして提供する「たよれーる CAD VDIサービス」を提案しました。大日本コンサルタントは後者の導入を検討していましたが、同時期にマイクロソフトがクラウド型の VDI サービスである Azure Virtual Desktop(以下、AVD。※当時の名称は Windows Virtual Desktop、略称は WVD)」の提供を開始。AVD における BIM/CIM ツールの動作などを詳細に検証した大塚商会は、大日本コンサルタントの要件に適したソリューションであると判断し、提案を切り替えました。AVD の提案を行った大塚商会 PLMソリューション営業部 プロジェクトPLMグループ グループ長の長井 尚史 氏はその経緯を振り返ります。
「大塚商会が提供している『たよれーる CAD VDIサービス』の導入を検討していただいている間に AVD がリリースされ、社内でスタートしていた AVD での BIM/CIM ツール 検証と併行して、個別に大日本コンサルタント様での利用を想定した条件で検証を行いました。その結果、AVD が大日本コンサルタント様の要件に対し、より適していると確信を得る事ができましたので、急遽提案を切り替えさせて頂き、AVD リリースから間もないタイミングでしたが、採用を決定していただきました。大日本コンサルタント様は大塚商会が展開している『CAD on AVD』の最初のお客様であり、本プロジェクトは建設業界では、もっとも早い BIM/CIM on AVD の 導入事例ではないでしょうか」(長井 氏)。
大日本コンサルタントの長岡 氏も、このように続けます。「当社としても、今後の BIM/CIM ツール利用では、場所の制約から解放される必要性、状況に応じた柔軟なスケールアップが求められることを考えれば、先行リスクをとっても Microsoft Azure(以下、Azure)という安定した情報基盤上に構築される AVD を選択するべきと考え、早急に『CAD on AVD』での提案を行っていただくよう要望し、応えていただきました」(長岡 氏)。
クラウド/CAD/仮想化(VDI)のノウハウを持つ大塚商会が AVD の環境構築を支援
大日本コンサルタントが AVD を採用した要因としては、同社が取り組む DX でクラウド化が推進されていたことが挙げられます。「BIM/CIM の業務拡大を目指してスタートしたプロジェクトでしたが、会社全体としてクラウド化を推進していく方向性がクラウド型である AVD の採用につながりました」と長岡 氏。クラウド型 VDI における BIM/CIM ツール運用のノウハウを熟知した大塚商会からの提案であったことや、当時は少なかった GPU の利用が可能なクラウドサービスであったことも採用を後押ししたと語ります。
Azure 上で稼働するサービスとして提供される AVD の導入を決定した大日本コンサルタントですが、Azure の本格的な活用は今回が初めてでした。社内システムの運用・管理を担当し、今回のプロジェクトでは Azure Active Directory との連携やネットワーク周りの調整などを行った大日本コンサルタント 業務統括部 人事総務部 情報管理室の田島 大嗣 氏は、今回のプロジェクトを Azure 活用の第一歩になると捉えています。
「情報管理室では数年前から Azure の検証を行ってきましたが、本格的な社内システムへの展開までは検討していませんでした。その意味では、本プロジェクトが今後の Azure 活用に向けたファーストステップとなるのではと考えています」(田島 氏)
AVD の導入を進めるにあたっては、PoC を実施して、BIM/CIM ツールの利用環境と Azure の運用を確認しました。2020 年 4 月から環境構築に着手し、同年 7 月~8 月にかけて BIM/CIM ツールを扱っているオペレーターが検証。PoC は Classic(バージョン 1)で行われ、実際に運用しているデータを流して、どの程度のレスポンスで動作するかをエンドユーザー目線で評価しました。その結果、運用性などで細かな課題はあったものの、総合的には問題がないと判断。2021 年の春から正式運用に向けた環境構築が進められました。
PoC・本番環境構築を支援した大塚商会にとっても、「AVD 基盤で BIM/CIM ツール利用の社内検証は十分に実施したとはいえ、初のお客様への導入となるため、PoC を進める上で事前に十分な検討を行うと共に、お客様環境に即した詳細な検証を行いました」と、以前より大日本コンサルタントの BIM/CIM 化を支援してきた大塚商会 PLMソリューション営業部 プロジェクトPLM1課 BIM-CIM/i-con担当 セールスリーダーの馬場 真郎 氏は振り返ります。
実際の環境構築を担当した大塚商会 技術本部 TCソリューション部門 テクニカルソリューションセンター VDIソリューション課 テクニカルスペシャリストの菅 直樹 氏は、AVDの導入で苦労したポイントをこう説明します。
「当時は(AVD が)リリースされたばかりで、使い勝手の面で改善してほしい箇所がいくつかありましたが、マイクロソフトが精力的な改良を進めたことで使いやすいサービスになっていきました。実際にお客様のデータを取り込んで活用するため、セキュリティ面での対応を考慮して環境を構築する必要がありましたが、大日本コンサルタント様の情報システム部門と連携することで、セキュリティを担保した形での設計・構築を進められました」(菅 氏)。
本プロジェクトでBIM/CIM ツールの領域をサポートした大塚商会 PLMソリューション営業部 首都圏PLMサポート2課の大福 浩之 氏は「オンプレミスの仮想環境で BIM/CIM ツール を利用する際にはプロファイルの管理に苦労することが多いのですが、AVD では FSLogix という技術を用いたプロファイル管理が行え、事前の検証で物理マシンと同様の環境で利用できることが確認できました」と AVD のプロファイル管理を評価。パフォーマンス面においても、最新の GPU を搭載した仮想マシン インスタンスが続々とリリースされる Azure ならば柔軟な対応が可能であると語ります。また、クラウド環境に CAD ソフトウェアを導入する際に課題となりがちな仮想環境におけるライセンス問題に関しても、今回のプロジェクトでは問題は生じなかったといいます。
大塚商会では、マイクロソフトと密接に連携して Azure 上で BIM/CIM ツールを活用するための検証を続けており、その強みが今回のプロジェクトに活かされていると長井 氏。クラウド、VDI、CAD の技術者を全て揃えたサポート体制を構築することで、運用時に問題が生じた場合にも万全のサポートを提供できると力を込めます。
「大塚商会では、クラウドの技術者、CAD の技術者、仮想化の技術者で体制を構築しており、特に CAD のエンジニアに関しては、日本国内でもトップクラスのエンジニアを揃えています。それぞれの技術者が社内で情報共有しながら問題解決を図ることで、スピーディな課題解決を実現しています」(長井 氏)。
約 30 台の BIM/CIM 用マシンが AVD 上で稼働、更なる導入拡大も検討している
大日本コンサルタントの長岡 氏は、提案段階からの大塚商会のサポートを「期待どおり」と話し、「セキュリティに関しても、環境を構築しながら要件整理を行い、二要素認証の導入やロケーションに合わせた制御といった対応を大塚商会の支援で実現できました」と高く評価しています。
次いで、導入経緯をこのように振り返りました。「2020 年 4 月に PoC 環境を構築してから正式運用開始まで約 15 カ月。クラウドサービスの導入としてはゆっくりかもしれませんが、十分な PoC を行えたとともに、この間に AVD の使い勝手も向上しました」(長岡 氏)。
大日本コンサルタントで BIM/CIM 推進プロジェクトのリーダーも務める、技術統括部 技術企画部 技術企画室 係長の神原 由紀 氏も「PoC での評価指標に関しても丁寧な提案をいただき、スムーズかつ効果的な検証が行えました」と、手厚いサポートに感謝を述べます。
2021 年 12 月時点では、AVD 上で約 30 台の仮想マシンが稼働している状況で、今後もワークステーションのリプレースに合わせて AVD への移行を推進していく予定です。スポット利用者向けの共有型仮想マシンも用意しており、既存の BIM/CIM 環境における課題解決に大きな効果を発揮。神原 氏も「BIM/CIM 業務の底上げを図るための社内研修を行う際にも BIM/CIM ツールの利用環境が必要でしたが、その度にハイスペックマシンを用意するのは難しい状況でした。AVD を導入したことで研修向けの環境も容易に用意できるようになりました」と喜びます。実際に使用したオペレーターからも、既存のワークステーション環境と比べて遜色なく、違和感なく利用できたという声が聞こえてきており、AVD の導入効果に確かな手応えを感じているといいます。
「今回のプロジェクトは BIM/CIM 環境をクラウド型 VDI に移行することを目的としているため、いわゆる情シス部門ではなくエンドユーザー側での運用・管理も必要です。このためインフラ運用の専門的知識を持たない部署で問題なく運用できることが、今後の利用拡大につながると考えています」と長岡 氏。AVD に関しては Azure の管理を含め、運用面でのさらなる改善を期待していると話します。
大日本コンサルタントでは、今後も BIM/CIM 用途で使用しているワークステーションのリプレースに合わせて AVD への移行を進め、「場所の制約からの解放」「状況に合わせたスケールアップ」といったクラウドのメリットを活かしていく予定です。具体的な計画はこれからとなりますが、GIS(地理情報システム)を活用するためのワークステーションや解析業務を行っているマシンに関しても、AVD への切り替えを検討しているといいます。今回のプロジェクトを全面的に支援した大塚商会も、AVD の利用拡大をはじめ大日本コンサルタントが取り組む DX を全面的に支援していきたいと考えています。
大日本コンサルタントと大塚商会、マイクロソフトが三位一体で展開する、クラウド VDI を活用した BIM/CIM 推進の取り組みには、今後も注視していく必要があるでしょう。
*大日本コンサルタント株式会社は株式会社ダイヤコンサルタントと経営統合し、DNホールディングスグループとなりました。
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