株式会社カカクコムは、購買支援サイト「価格.com」やレストラン検索・予約サイト「食べログ」をはじめ、求人・不動産・旅行など多様な分野で消費者視点のサービスを展開しています。同社が働き方改革の一環として進めていた在宅勤務環境の構築は、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大、いわゆるコロナ禍の影響もあって一気に加速。業務環境の変化に伴ってヘルプデスクチームへの問い合わせも増加し、従業員・ヘルプデスク双方の負荷が増大する事態を招きました。こうした課題を解決するため、ヘルプデスクチーム主導によるチャットボット導入プロジェクトが始動。そこで選択されたのは、マイクロソフトが提供するコーディング不要のチャットボットツール Microsoft Power Virtual Agents でした。

従業員とヘルプデスク双方の負荷軽減を図るため、チャットボットの導入を検討

従業員数は約 1500 人、毎年 100 人以上を採用しているカカクコムでは、現在 4 人のメンバーによって構成されるヘルプデスクチームが、業務システム関連の問い合わせに対応しています。チームでは従業員数が増加しても対応維持できる体制を構築してきましたが、それでも入社が集中する時期など、細かな質問が集中するタイミングでは対応に追われ、社内システムの企画・導入などの本来の業務に注力できないといった課題が顕在化していました。こうした背景もあり、以前からヘルプデスクの業務を効率化する手段の 1 つとしてチャットボットの導入が検討されてきましたが、その流れが昨今のコロナ渦の影響により本格化。市場にリリースされている主要チャットボットツールの検証がスピード感をもって進められました。今回のチャットボット導入においてプロジェクトマネージャを務めた株式会社カカクコム プラットフォーム技術本部 コーポレートIT室 ヘルプデスクチームの櫻井 正毅 氏は、その経緯を振り返ります。

  • 株式会社カカクコム プラットフォーム技術本部 コーポレートIT室 ヘルプデスクチーム 櫻井 正毅 氏

    株式会社カカクコム プラットフォーム技術本部 コーポレートIT室 ヘルプデスクチーム 櫻井 正毅 氏

「ヘルプデスクチームでは、手続きの方法など単純な質問に関しては、FAQ を案内するなど都度回答していました。問い合わせが多い時期には、同じ質問に何度も対応することもあり、従業員とヘルプデスク双方の業務が止まってしまう状態に陥っていました。こうした単純な問い合わせを自動化し、人の手を介さずに処理するための手段としてチャットボットに注目しました」(櫻井 氏)。

単純な問い合わせに対応する手段としては FAQ の活用も効果的です。実際カカクコムでも FAQ を用意していましたが、各部署が個別に運用していたため検索性が低く、FAQ の存在に気づけない従業員も多かったと櫻井 氏。社内情報の統合を図る意味でも、部署を横断して質問ができるチャットボットの導入は有効な選択肢だったと語ります。また、在宅勤務が普及したことも、ヘルプデスクが在席していない状況でも自動で問い合わせ対応が行えるチャットボットの導入を、後押ししたといいます。

ヘルプデスクチーム自らがシステムの構築・運用が行えるツールが求められた

今回のチャットボット導入プロジェクトは、「現場の対応」を重視して進められました。このため、社内 IT インフラの構築・保守を担当する構築チームではなく、実際に問い合わせ対応を行うヘルプデスクチームが、ツールの選定からシステムの構築・運用までを担っています。構築チームとヘルプデスクチームを統括するコーポレートIT室 室長の栗山 嘉唯 氏はこう語ります。

  • 株式会社カカクコム コーポレートIT室 室長 栗山 嘉唯 氏

    株式会社カカクコム コーポレートIT室 室長 栗山 嘉唯 氏

「構築チームがチャットボットのシステムを用意して『これを使ってください』と提供するやり方では、運用が長続きしないのではという懸念がありました。それに加えて、実際に問い合わせに対応しているメンバー自身が継続的に改善していけるシステムでなければ、すぐに陳腐化してしまうとも考えており、構築チームがいないと動かせないようなシステムにはしたくありませんでした。そこで、ヘルプデスクチーム主導でプロジェクトを推進することになりました」(栗山 氏)。

こうした経緯で現場主導のチャットボット導入プロジェクトが始動し、ツールの選定が進められます。プロジェクトマネージャの櫻井 氏は、ツール選定で重視したポイントについて解説します。

「チャットボット導入においては、そもそもの課題となる『単純な問い合わせ対応の自動化』を軸に進めていきました。具体的には従業員の質問時間・待ち時間の削減、さらにヘルプデスクが本来の業務ではない部分にリソースを割かれている状況の改善が目的で、それに合わせてツールの選定を行いました。もっとも重視したのは、コンテンツ作成 UI の部分、すなわち“使いやすさ”です。ヘルプデスクチームが自身で構築・改善できるのはもちろん、将来的には各部門の担当者が各々で更新できればという思いもあり、ユーザーフレンドリーなツールを求めました。また、利用率が低く自社に合わないと感じた場合にはすぐに廃止して別のアプローチに切り替えることも想定しており、低コストで容易に導入できることもポイントとなりました」(櫻井 氏)。

チャットボットは自動学習タイプとシナリオタイプの 2 つに大別できますが、今回のプロジェクトにおいては後者のツールを候補としています。「自動学習タイプのツールでは導入当初の精度が低くなるケースが多く、チャットボットを社内に根付かせるという意味で、ヘルプデスクでのコントロールが可能なシナリオタイプのツールを選定しました」と櫻井 氏。こうした部分も現場主導のプロジェクトならではの選定ポイントといえそうです。

ノーコードで作成できる直感的なUIの Power Virtual Agents を採用

こうして 10~20 もの主要なチャットボットツールがチェックされ、最終的には 3 つの候補に絞り込まれました。さらに詳細な検証が進められ、最終的に採用されたのは、マイクロソフトが提供するチャットボットツールMicrosoft Power Virtual Agents(以下、Power Virtual Agents)でした。2020 年末から試用版を使用しての検証が行われ、「ノーコードで作成できる直感的な UI」「導入効果の可視化」「低コスト・短期間で導入可能」といったメリットを確認。2021 年 4 月に正式な採用が決定され、7 月~9 月にかけてコンテンツ(トピック)の作成が進められました。櫻井 氏は、Power Virtual Agents 採用の理由をこう語ります。

「カカクコムでは、Office 365 を全社的に導入しており、すべての従業員が Microsoft Teams(以下、Teams)を使って業務のやり取りを行っています。このため、Teams との親和性が高い Power Virtual Agents は非常に有効な選択肢となりました。実際に試用版で検証を行ったところ、システム導入の経験がないヘルプデスクチームでも問題なく使えることが確認でき、導入効果がグラフィカルに表示されることにも大きな魅力を感じました。また、マイクロソフトの提供するツールということでセキュリティ面においても安心感があり、総合的に判断した結果、Power Virtual Agents の採用を決定しました」(櫻井 氏)。

チャットボットツールにおいてもっとも重要なトピックの作成においては、ユーザーからの問い合わせが多い総務・人事・財務経理・法務・情報セキュリティ室の 5 部署にヒアリングを実施し、トピックを収集。ヘルプデスクチームの作成したトピックと部署のトピックを取りまとめて137 のトピックを用意し、2021 年 9 月末に全社公開しました。実際にトピックの作成・取りまとめを担当したコーポレートIT室 ヘルプデスクチームの湯本 ひかり 氏は、トピック作成時の苦労を振り返ります。

  • 株式会社カカクコム コーポレートIT室 ヘルプデスクチーム 湯本 ひかり 氏

    株式会社カカクコム コーポレートIT室 ヘルプデスクチーム 湯本 ひかり 氏

「Power Virtual Agents は直感的に操作できたので、トピックの作成はまったく問題なく行えました。チャットボットツールの作法や仕組みを理解するのに時間がかかった程度です。ただ、他部署に対して細かな意図が伝えきれていないケースもあり、その調整に苦労した面はありますが、トピック作成自体は本当に簡単でした」(湯本 氏)。

またトピックの作成においては、命名規則のルールを策定して、どの部署のトピックなのかが一目で判別できるような工夫が施されているといいます。

作成したチャットボットは、利用促進の工夫として Teams に標準で組み込まれる仕組みとなっています。櫻井 氏は「全社員の Teams の左メニューにチャットボットのアイコンが表示されるようポリシー設定をしています。その点だけは、構築チームにサポートしてもらいましたが、その他の基本的なシステム構築は私たちのチームで対応できました」と語り、Power Virtual Agents の導入・運用性を高く評価します。

  • 社員の Teams 左メニューに、チャットボットのアイコンを表示

    社員の Teams 左メニューに、チャットボットのアイコンを表示

チャットボットを軸とした社内情報の統合も視野に入れ、取り組みを推進していく

2021 年 9 月末に全社公開し、以降安定運用を続けているカカクコムのチャットボット。2 ヵ月が経った現状のステータスは 約 1500 名の利用で月間約 300 セッション、トピック数も 160まで追加され、当初の導入目的である「単純な問い合わせ」を月間 200 件程度チャットボットで解決できるようになったといいます。櫻井 氏は「今後、より多くの従業員に使ってもらいたい」とさらなる活用を期待しますが、現状においてもヘルプデスクの負荷は減ってきており、確かな導入効果を実感しています。

  • 利用状況が一目でわかる、Power Virtual Agents の管理画面

    利用状況が一目でわかる、Power Virtual Agents の管理画面

「『チャットボットで確認したのですが解決できなかったので……』といった、一度チャットボットを経由したヘルプデスクへの質問が増え、単純な問い合わせをチャットボットで吸収できていることを実感しています。ヘルプデスクチームの負荷が減れば人員を増やさずに対応できるため、今後運用を継続していくことでコスト面での効果も出てくると考えています。他部署に関しても概ね好評で、問い合わせの多い人事部門などで大きな効果が出てくることを期待しています」(櫻井 氏)。

栗山 氏は、Power Virtual Agents の導入によりヘルプデスク業務全般における改善ポイントが見えてきたことも、大きな効果と語ります。

「Power Virtual Agents を導入したことで、単純な問い合わせの内容が確認できるようになり、どのようなコンテンツ・FAQ が不足しているのかを可視化できました。他部署を含めて質問の傾向を把握できたのは、ヘルプデスク業務全般の改善につながる大きなメリットと考えています」(栗山 氏)。

今回のチャットボット導入の成功を踏まえ、直近では分析レポートの確認とコンテンツの充実、中期的には現在参加していない部署への展開を図っていきたいと櫻井 氏。最終的には社内情報を統合し、チャットボットを見れば知りたい情報が容易に得られる環境を構築したいと今後の展望を語ります。

長期的にはワークフローや各種手続きもチャットボット内で解決するシステムの構築も検討しており、Power Virtual Agents のみならず、Microsoft Power Automate や Microsoft Power BI といった Microsoft Power Platform のサービスの導入も視野に入れていると栗山 氏も力を込めます。

「カカクコムではマイクロソフト製品の活用を推進しており、エンドユーザーが容易に導入・運用して業務の効率化を図れる Power Platform のサービスには注目しています。実際、社内からも Power Automate を使いたいといった要望が出てくることもあり、現場主導のシステム構築は加速していくと考えています。その意味でもマイクロソフトには、今後もローコードで開発できるツール・サービスを広めていただければと期待しています」(栗山 氏)。

本プロジェクトは、Power Virtual Agents を利用したチャットボットの導入を検討しているすべての企業にとって注目の導入事例といえます。「現場の担当者が構築・運用できると聞くと『本当に?』と疑う方も多いと思いますが、実際に触れてみると本当に簡単で使いやすいことが理解できます。トライアルも用意されているので、まずは使ってみることをお勧めします」と櫻井 氏は導入を検討する企業に向けてメッセージを送ります。

カカクコムが推進する、Power Virtual Agents を含めたマイクロソフト製品の活用には、今後も注目していく必要があるでしょう。

[PR]提供:日本マイクロソフト