ERP や CRM などの IT システムが生成する IT(Information Technology)データと、工場の製造ラインなどで生成される OT(Operational Technology)データを統合することは、ものづくりのあり方を大きく変える可能性を持っています。例えば、仮想空間上で新しい製品の設計や検証を行うことで、製造設計のコストを大幅に削減し、製品リードタイムを飛躍的に速めることができます。そうしたデジタルファクトリーやデジタルツインの取り組みに向けて「2つのDX」を推進しているのが横河電機です。IT データレイクと対をなす OT データレイクを Azure 上に構築、Azure Purview などの先進機能の PoC を開始し、データマネジメントを高度化させています。「System of Systems」という製造業の未来を描く横河電機の取り組みを紹介します。
製造業の未来像「System of Systems」を目指し、2 つの DX に同時に取り組む
1915 年の創立以来、計測、制御、情報の技術を軸に最先端の製品やソリューションを提供し、社会の発展に貢献してきた横河電機。現在は、エネルギー&サステナビリティ、マテリアル、ライフという 3 つの領域で、計測、制御、情報で培った技術やノウハウをソリューションとして提供しています。例えば「OpreX」ブランドのもと、プラント(工場)の生産設備の制御・運転監視を行う制御システムや、生産性向上のための各種ソフトウエア、流量計、差圧・圧力伝送器、プロセス分析計、プログラマブルコントローラ、工業用記録計などを提供しています。
横河電機が描く未来の社会のあり方の 1 つに「System of Systems(SoS)」があります。あらゆるものが複雑につながり合う時代となるなか、さまざまな事象がシステムで管理されるようになっています。SoS は、そうした運用や管理に独立性のあるシステムが連携し、単独では実現できない目的をシステム全体として実現していく世界像を示しています。横河電機の執行役員 デジタル戦略本部長 兼 DX-Platformセンター長の舩生 幸宏 氏はこう話します。
「SoS が進む世界で、効果的なつながりを進め、統合化・自律化・デジタル化による全体最適の価値を生み出していこうとしています。そのために IA2IA(Industrial Automation to Industrial Autonomy)と Smart Manufacturing の取り組みを強化しています。これらは自律化や生産性向上を目指す取り組みですが、いずれにおいても重要になるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。そこで、デジタル戦略本部が中心になって、コーポレート IT を対象にした Internal DX と、お客様にデジタルサービスを提供する External DX という 2 つの活動を進めています」(舩生 氏)。
デジタル戦略本部のミッションは、YOKOGAWAグループが従来の製造業からOT(Operational Technology)/IT(Information Technology)が統合されたワールドクラスのソリューション・サービスカンパニーに変革することに貢献することです。OT とは従来の生産技術が取り扱ってきた領域であり、IT は情報システムの領域です。そのうえで、DX の目標として「いつでも、どこでも、どの様にでも、すべての企業活動が手のひらで操作可能な Digital Enterprise を実現する」ことを目指しています。
「Internal DX では、YOKOGAWAグループ自身が DX の具体的なユースケースとなるように、Digital Enterprise になるための変革に取り組みます。あわせて、お客様の Digital Enterprise 化への変革に寄り添い、お手伝いすることにも取り組みます。この 2 つを相互連携することが YOKOGAWAグループの DX 戦略です」(舩生 氏)。
IT データと OT データの融合を目指し、OT データレイク基盤に Azure を採用
DX 戦略を推進するための具体的な施策は、2023 年までの中期経営計画に沿って実行されています。Internal DX では「社員の生産性向上・環境負荷低減をテーマに、顧客・パートナー・社員それぞれの体験価値を改革する取り組みとして「CX改革」「PX改革」「EX改革」を行なっています。また、External DX では「ビジネスモデル変革・環境負荷低減」をテーマに、顧客への提供価値向上、既存ビジネスのデジタル化と新規 DX ビジネス創出を推進しています。
「こうした DX の取り組みで重要になるのがデータです。DX が成熟していくと、IT と OT のつながりが強まります。現在は IT データがクラウド上に集約されるようになっていますが、今後は、OT データもクラウド上に集約され、さらに、IT プラットフォームと OT プラットフォームがグローバルで統合され、自律化が進みます。DX の成熟度にあわせて、データ統合の成熟度を上げていくことが求められるのです。YOKOGAWAグループでは、クラウド上に IT データの統合を済ませ、BI ツールを使った分析から、AI を活用した自動化を自律化に向けた取り組みを先行して推進してきました。現在は、OT データについても、クラウドを活用してデータを統合する段階に入っています」(舩生 氏)。
2019 年から IT データを IT データレイクに蓄積し、業務部門の担当者が BI ツールを使ってデータを分析する仕組みやデータドリブンな意識や風土の育成を進めてきました。2021 年現在、約 3000 人の担当者が日常的にレポーティングや分析を行ない、AI を活用した自動化にも取り組もうとしている段階です。
一方、OT データの統合は、先行する IT データ統合の後を追うように、デジタルファクトリーの取り組みを中心として進められてきました。デジタル戦略本部 DX推進部 デジタルファクトリー課 課長 藤原 秀樹 氏は、こう話します。
「工場で利用する OT データは、拠点や利用システムや機器ごとに多種多様です。膨大なセンサーデータや SCADA/DCS/PLC などのシステムデータを統合したうえで、セルフサービス BI で分析したり、AI で自動化したりするために、データを収集、蓄積、加工していくことが求められます。デジタルファクトリーの取り組みで得られたデータを工場だけで活用するのではなく、お客様にノウハウとして提供すること、最終的には、IT データと OT データを組み合わせてデジタルツインを構築することも必要です」(藤原 氏)。
DX の取り組みの中心となる OT データ統合の基盤に採用されたのは Microsoft Azure(以下、Azure)でした。
IIoT 向け機能の充実や顧客向けビジネスサービスへの貢献度を高く評価
OT データ統合の基盤として Azure を採用した理由について、舩生 氏はこう説明します。
「これまでの IIoT(産業 IoT)やスマートファクトリーの取り組みのなかで、Azure には IoT向け機能とサービスが充実していることがわかっていました。工場の多種多様なデータを収集したり、分析したりするのに役立つ数多くの機能が提供されています。また、すでに顧客向けの External DX の取り組みで Azure を採用しており、デジタルサービスを先行開発して提供していたことも理由の 1 つです。これまでの取り組みで得た知見やノウハウを活用しやすかったのです。さらに、Azure はお客様の間でも利用が広がっていて、Azure でサービスを提供してほしいというニーズも強まっていることも大きなポイントでした。今後、『SoS インテグレーター』としてお客様にさまざまなソリューションを提供していく際に、Azure のノウハウを蓄積しておくことが重要だったのです」(舩生 氏)。
OT データの統合基盤は、Azure の複数サービスを活用して構築されています。大きく、OT データを収集し OT データレイクを構成する「DataLake DB」、収集したデータを加工・標準化する共通データベース「Common DB」、セルフサービス BI で分析するための「Analysis DB」の 3 つがあります。これらは Azure Blob Storage、Azure Databricks、Azure Synapse Analytics などで構成されています。
「DataLake DB に各種データを収集し、DWH としての Common DB でデータを標準化し、データマートとして Common DB を BI ツールで分析します。基本的なアーキテクチャは IT データレイクと同様ですが、製造オペレーションマネジメントの国際規格である ISA-95 の階層モデルに沿ってデータを定義し、管理しています。大きなポイントは、将来的な IT/OT データ統合とデジタルツインの構築を目指して、IT データと OT データでデータモデルを共通化し、後から容易にマッピングできるようにしていることです」(藤原 氏)。
現在は、この Azure の基盤を活用して、OT データをダッシュボード上に表示し、エネルギー消費量、水の状態、人のローディング状態、世界中の拠点の状態などを一元的に把握できる状態です。ISA-95 に従ったオペレーションを行ないながら、現場の担当者がダッシュボードの項目を作成したり、改善のための分析を行なうこともできています。
Azure Purview を利用して、データのカタログ化や検知、リネージュを実現
OT データレイクを構築するにあたってはいくつか課題もありました。特に大きな課題になったのは、多種多様なデータがどの拠点のどのシステムで生成され、どう統合されたかを把握できるようにすることでした。特に、ISA-95 に沿ってデータを紐付ける際に必要になりました。また、データレイクに蓄積したデータを再利用する場合も、どのようなデータがどこにあるかを的確に探す必要がありました。
「Azure 基盤上で 3 つのデータベースを構築するのにあわせて、テーブルやカラムの属性としてタグをつけられるような製品を探していました。マイクロソフトや構築パートナーの電通国際情報サービス(以下、ISID)に相談をしたところ、Azure の機能の 1 つでプレビュー公開されていた Azure Purview を紹介いただきました。Azure Purview を利用すると、データがどこで発生してどう使われたかをデータリネージュ機能で管理したり、欲しいデータがどこにあるかをデータカタログ機能ですばやく検知したりできます」(藤原 氏)。
YOKOGAWAグループは、日本に 4 工場、海外 13 カ国に 18 工場を保有し、センサーデータ、RDBMS データ、Excel データ、Access データ、PDF、画像などを DataLake DB で管理しています。DataLake DB から Common DB に格納する際に、ISA-95 に基づいたデータモデルに沿ってデータを Azure Purview でタグ付けします。3 つのデータベースは、Azure Data Factory で統合管理されており、Azure Data Factory と Azure Purview を連携することで、OT データレイク全体で、データの流れを可視化できることを検証しました。ISID の Xイノベーション本部 クラウドアーキテクトの米谷 典比古 氏はこう話します。
「約 2 カ月間 PoC を実施して、データベースが正しくスキャンできるか、Azure Purview の一機能であるビジネス用語集に登録された用語をスキーマやテーブルに設定できるか、指定したキーワードで期待したような検索ができるかなどを検証しました。もともと横河電機様では、優れたアーキテクチャのもとよいデータレイクを作られており、Azure のデータベースサービスをはじめとした PaaS をうまく使いこなしていらっしゃいました。Azure Purview を選択されたときも、きっかけは『こうした機能はないか』と要望をいただいたことで、常に先進的な取り組みをされる姿勢に改めて感心しました」(米谷 氏)。
「IT と OT のアラインメントの実現」に向けて、社内人材とパートナーを活用
IT/OT データ統合の取り組みでは、IT 担当者と OT 担当者の間のギャップが障壁になりやすいと言われます。システムの使いやすさを考慮して、いち早く Azure Purview の PoC を実施したように、IT と OT を橋渡しする役目を果たしたのが藤原 氏でした。
「IT 側の知識がほとんどない状態で参加しましたが、製品開発や工場での生産技術の現場を長く担当してきたため、工場のメンバーがどんな考えでビジネスを行なっているかを理解することできます。しかし、実際の取り組みは簡単ではありません。テクノロジーを導入する以前の問題として、マインドセットの違いがあります。当初は、私ひとりで工場に出向いてデータ統合の説明をするのですが、利益を出すという工場のミッションとは目的が異なるため、乗り気になってくれることはほとんどありませんでした」(藤原 氏)。
最初の 2 年間はデータ統合に向けたプロモーションだけに費やしたといいます。その後、デジタル戦略本部として全社的なアプローチを行い、Azure の機能やサービスの効果を実際に自分の目で見て実感できるようになったことで、取り組みが一気に加速しました。工場のメンバーがデータを統合して生産性向上につなげていくことのメリットを理解し、そのために何ができるかを一緒に考えてくれるようになったのです。
舩生 氏は「IT と OT のアラインメントが最も難しい課題だと思います。OT のことをよく知り、IT の知識をもったメンバーが取り組みをリードし、組織としてそれをバックアップするという体制を築けたことが今回の OT データレイク構築の成功のポイントの 1 つです」と振り返ります。
また、異なるバックグラウンドを持つ人材の活躍という点では、OT データレイク基盤のパートナーとなった ISID が果たした役割も大きかったようです。ISID 執行役員の海野 慎一 氏はこう話します。
「ISID が持つ製造と IT の知見を生かしながら、Internal DX と External DX の両方に参加させていただいています。今回のプロジェクトでは、異なる専門性を持ったエンジニアを 1 つのチームに集約し、支援させていただきました。デジタル化とデジタルツインに向けた取り組みを加速させている横河電機様は、製造業のなかでも特に先進的です。当社としても、お客さまの新しいチャレンジに参画できたことを大変ありがたく思います」(海野 氏)。
SoSが進む世界への横河電機のチャレンジはまだ始まったばかりです。製造業の DXの未来に向けて歩みを進める横河電機の取り組みを ISID とマイクロソフトはこれからも強力に支援していきます。
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