国内小売企業において、Cookie レス時代に向けて「リテールメディア」を構築し広告販促 DX への取り組みが活発化しています。リテールメディアとは、ID-POS データをはじめとする小売企業が持つオフラインデータと、EC サイトやスマホアプリなどから収集されるさまざまなオンラインデータを CDP 上で分析し、購買行動に合わせた広告配信を可能にすることで、新たな広告収益を確保する仕組みです。このリテールメディアを構築運用するためのプラットフォームを提供し、大手流通小売業を中心に国内トップクラスのリテールメディア支援実績があるのがアドインテです。同社は、CDP を構築するための DWH 基盤をはじめ、すべてのシステム群を Microsoft Azure へと移行しました。アドインテのビジネスの中核の 1 つである DWH 基盤の移行がもたらした効果について、担当者に話を伺いました。
新たな収益源として国内で急速に広がる「リテールメディア」とは
小売企業が保有する商品の販売データや顧客の行動データなどを利用し、ブランドメーカーなどから広告を募る「リテールメディア」が、国内でも急速に広がっています。リテールメディアは、世界最大のスーパーマーケットチェーン Walmart が 2014 年頃から取り組みを開始したのがはじまりとされ、その後、Krogerやターゲット、ベストバイなど米国の小売企業へと広がりました。そのトレンドが日本にも訪れている状況です。
リテールメディアでは、顧客 ID 付 POS(ID-POS)のデータや、店頭・フロアでの回遊データ、自社 EC サイトやスマホアプリから得られるデータなど、オフラインとオンラインのさまざまなデータを統合し、それらを CDP(Customer Data Platform)や DMP(Data Management Platform)で分析しながら、顧客に適した広告を適切なタイミングで SNSなどを含めた様々なメディアへの広告配信が可能となります。小売企業にとっては来店促進や商品の販売に加え、広告収入という新たな収益の柱を得ることにつながり、メーカーにとってはこれまで不可能だった、デジタル広告を配信したユーザーのリアル店舗での購買計測などが可能になり、効果的なマーケティング施策をうつことができるようになります。アドインテでは、Cookie レス時代に向けたブランドメーカー向けのリテールメディア広告配信サービスとして「Brand Loop Ads」というサービスもリリースしており、化粧品メーカーや飲料メーカー、日用品メーカーなど、多くのブランドメーカーが活用しています。
このリテールメディアを開発・運用するためのプラットフォームを国内小売企業向けに展開し、国内トップクラスの支援実績があるのがアドインテです。2009 年に創業し、O2O(Offline to Online)マーケティングや、OMO(Online Merges with Offline)ソリューションを展開してきた同社は、リテールメディアの国内展開のパイオニアであり、現在では、連携された流通決済総額 6 兆 7,000 億円を超える国内最大級のリテールメディアプラットフォーマーとなっています。アドインテ 副社長兼COO 稲森 学 氏はこう話します。
「Cookie レス時代への突入も追い風となり、リテールメディアの成長は著しく、Walmart は、数年後には全米の 広告代理店でトップ 10 に入るような広告プラットフォーマーとなろうとしています。同社は、リテールメディア構築による広告事業以外に、 小売が保有するデータやリアル店舗を起点として、ヘルスケアや金融の領域にも事業を広げています。これから収益を上げるための集中領域は、【広告】【ヘルスケア】【金融】の 3 つと宣言したことも話題になりました。日本でもこの 1 年で取り組みが活発になっていて、すでに当社でも 40 社を超える小売企業のリテールメディア開発や CDP 構築の取り組みをご支援させていただいています。今後数年で小売企業のほとんどがリテールメディアへの取り組みを推進するようになると思います 」(稲森 氏)。
小売企業のリアル店舗を活用したメディア化は何年も前から話題となってきましたが、デジタルサイネージなどで特定の時間だけディスプレイするような取り組みに限られていました。また、ID-POS データの活用も以前より行われてきましたが、社内データベースといった閉じた環境にあり活用が制限されていたり、メーカーなどとデータを共有して販促していても、結局は施策と効果分析が分断されていたり、配信母数が少なかったりと本当の意味での有効活用はできていなかったのが現状です。
リテールメディアはこれまでの取り組みとは大きく異なり、小売企業が広告という新たな収益源を確保しながら、ブランドメーカーも過去不可能だった、デジタル広告とオフラインでの購買分析を可能にしたプラットフォームを活用し、共創を促進していく新しい取り組みなのです。
「AIBeacon」と「Brand Loop Ads」を 活用した OMO ソリューションを展開
アドインテが小売企業向けに展開しているリテールメディアソリューションは、これまで同社が手がけてきた OMO ソリューションがベースとなっています。アドインテでは、同社が独自に開発した IoT端末「AIBeacon」を小売企業の店舗内に設置し、店舗を訪れる顧客のさまざまな行動データを、個人情報を取得せず匿名加工情報として収集できるようにした国内唯一の端末です。
AIBeacon は、Wi-Fi センサーと BLE(Bluetooth Low Energy) Beacon が一体となった、IoT センサーです。顧客が店舗内でどのような回遊行動をとったかなどを匿名データとして、プライバシーに配慮しながら、正確に安全に把握することができます。更には、LINEアプリとの連携により、LINE チラシやLINE クーポン、LINE POPなどの販促メニューとの連携も可能になります。
この AIBeacon から得られるデータと小売企業から提供を受けた、匿名化された ID-POS データを CDP や DMP 上で連携させることで、顧客の購買行動を統計的に分析できるようになります。また、アドインテでは、ブランドメーカーに特化した広告の出稿や運用、管理を行なう「Brand Loop Ads」を開発・運営するほか、オンラインとオフラインのユーザータッチポイントを高度化するような、さまざまなソリューションを独自開発しており、広告効果最大化への支援も行なっています。
つまり、AIBeacon や ブランドメーカーに特化した広告配信サービス「Brand Loop Ads」などを活用したアドインテの OMO ソリューションを利用することで、データの収集から、店舗や顧客の分析、セグメント抽出、広告を使ったPR・集客など、ONEtoONEコミュニケーションを一気通貫に行えるのです。
「リテールメディア構築における小売企業はそれぞれに特有の課題を抱えています。『カード会員は多いものの、アプリ会員が少なく配信母数が足りない』『ID-POS などのオフラインデータと EC サイトやアプリなどのオンラインデータを統合して分析したい』といったデータ分析に関するものから、『特定の顧客層向けに効率良くキャンペーンを実施したい』『新たにリテールメディアを開発したい』『リテールメディアでの収益が上がらない』といった、CDP 構築や DX 推進、新規事業に関するご相談をたくさん頂けるようになりました。われわれのリテールメディアソリューションは、オフラインデータの価値を最大化し、小売、メーカー、顧客の3者それぞれが Win-Win の関係を構築できると思っています」(稲森 氏)。
ただ、そうした顧客ニーズに素早くきめ細かく対応していくためには、システムやプラットフォーム側の高度化が求められました。そこで採用したのが、Microsoft Azure(以下、Azure)でした。
ビジネス拡大とともにAzureへの移行を実施
稲森 氏は Azure へ移行した理由について「2017 年頃からこれから必ず急成長すると確信していたリテールメディアの市場を支えるための、機械学習など豊富な機能とサービスが提供されていたことに加え、充実した技術的な支援体制や、Microsoft のパイプを生かした営業面でのさまざまなサポートも受けることができました」と、新たな市場を立ち上げるためのビジネスパートナーとしての選択であったことを明かします。
アドインテでは、2019 年頃から別のクラウドプラットフォーム上で動作していたシステム群を Azure へと全面移行しています。現在は、仮想マシンからオブジェクトストレージ、各種 PaaS などまでさまざまなサービスを活用していますが、そのなかで、ID-POS や AIBeacon を中心としたオフラインデータの収集・分析のための DMP として採用している DWH 基盤が「Azure Databricks(以下、Databricks)」と「Azure Synapse Analytics(以下、Synapse Analytics)」です。アドインテ 開発マネージャーの藤崎 史郎 氏はこう話します。
「小売企業各社から収集されるさまざまなデータをデータレイクに格納し、データに対して ETL 処理を行なって、Databricks や Synapse Analytics で解析処理を行なっています。DWH での解析処理は、以前は別のクラウドサービスのビッグデータ分析フレームワークをシングルインスタンスで利用していたのですが、データ量が増大していくなかで、処理に時間がかかるようになっていました。そこで、Azure への移行にともなって DWH 基盤を刷新し、大量のデータを素早く、効率良く処理できるように設計し直したのです」(藤崎 氏)。
以前の環境では、単一サーバで単一の解析を処理させるという方法のため、データ量が増加すると 1 つの解析が終わるまで 4~5 時間かかることも増えてきていたといいます。インスタンスのサイズを大きくするだけでは限界があり、クラスター構成にする場合でも、基盤の運用管理が別途必要になることも課題でした。
また、以前の環境では、Web ブラウザから DWH での解析を実行できる環境を作っていましたが、実行するプログラムや実行結果を自前で管理する方法を採用していたため、運用管理が属人化しやすいという課題もあったといいます。アドインテの森下 友加里 氏はこう話します。
「大量データの分析では一般にクラスターを立ち上げて、プログラムや実行結果をノートブックと呼ばれる単位で管理します。以前の環境ではクラスターを落とすと、ノートブックの内容まで消えてしまうため、必要に応じてダウンロードして保存しておく必要がありました。アドホックな分析の場合、必要がないと判断してそのまま消してしまうことも多く、個人的にあとから困ることがよくありました。また、解析を行なう前に、あらかじめクラスター環境を構築、デプロイする必要もあり、手間がかかっていました」(森下 氏)。
DMP を構成する DHW 基盤に Databricks を採用
アドインテがリテールメディアの取り組みで取り扱うデータは、AIBeaconなどアドインテが提供する OMO ソリューションから収集されるデータと、匿名化された ID-POS データ、3rd Party データなどで構成されています。
これらは、リテールメディアに取り組む小売企業が増え、広告主として参加するメーカーが増えていくなかで急速に増加しており、以前の環境では解析処理により多くの時間がかかるようになり、ビジネスの足かせになりかねない状況でした。
これに対し、Databricks と Synapse Analytics は、基盤の構築やデプロイ、管理が不要な PaaS として提供されているサービスとなります。クラスター構成も自動で管理され、データ量などの増加にともなって計算リソースやストレージを自動でスケールさせることができます。また、Web ブラウザ上でプログラムや実行結果の管理を完結させることができます。藤崎 氏はDWH 基盤のシステム構成について次のように説明します。
「まず、Azure Functions を利用して小売企業各社から ID-POS データや AIBeaconのデータを収集します。収集したデータは Databricks で ETL 処理を行なったうえで、Azure Blob Storage を用いたデータレイクに蓄積されます。データレイクのデータから、ビジネスニーズに合わせて、Databricks や Synapse Analytics を利用して解析を行なっていくという流れです。現在は、集計系の分析を Synapse Analyticsで、より高度な分析ニーズに対しては Databricks を利用するという使い分けです。解析結果は、データとしてデータレイクにアウトプットして蓄積するほか、Web UI 上から利用したり、Power BI から利用したりできるようになっています。このように、Azure を利用することで、収集から利用までを 1 つのクラウドプラットフォームで一貫して実施できるようになりました」(藤崎 氏)。
リテールメディアを通じて小売企業の DX の取り組みを支えていく
藤崎 氏は、Databricks を利用したことで、以前の環境で課題となっていたデータ量の増大への対応と処理効率という 2 つの課題をうまく解決できるようになったと話します。
「シングルインスタンスからクラスター構成に変わったことで、分散処理を効率的に行なうことができるようになり、解析に 4〜5 時間もかかるといった状況は発生しなくなりました。以前はインスタンスを並行稼働させていたときに、メモリが枯渇したり、途中で止まって再解析が必要になったりすることが発生していました。移行後は、きわめて安定して、高速に動作しています。クラスターも自動的にスケールし、DWH 基盤の構築やチューニング、運用なども不要になったため、データの処理効率は飛躍的に高まりました」(藤崎 氏)。
また、UI の使い勝手の面でも、以前から大きく改善したといいます。
「Databricks は最初から Web UI が提供されているので、Web UI を別に構築する必要がありません。また、プログラムや実行結果は Web UI 上に保存されているので、ダウンロードしてローカルで管理する必要もありません。このことは、社内での情報の共有やスキルの伝達でも役に立っています。新たに入社した社員は、Databricks の UI にアクセスするだけで、それまでの資産をすぐに利用できるようになりました。『詳しくはソースを見て』と伝えられるのは大きなメリットです」(森下 氏)。
さらに、ビジネススピードの向上にも貢献しているといいます。プログラムの修正や追加は、顧客ごとに月に 5〜10 本程度発生していますが、Web UI 上で素早くプログラムを修正し、素早く解析結果を得られるため、ビジネス部門や顧客への回答をこれまでより速く返せるようになりました。
小売企業やメーカーを中心にリテールメディアへの関心は、Cookie レス時代に向けてますます高まっています。ただ稲森 氏は「日本のリテールメディアはまだ始まったばかり」と強調します。
「現在は ID-POS と連携した広告配信に力を入れていますが、実現 したいと思っていることのまだ 10%にも満たない状況です。リテールメディアとしての ID-POS 連動型広告は初期構築すべきメニューにしか過ぎず、オンラインとオフラインのタッチポイントを更に高度化していかないといけません。 外部メディアの活用だけではなく、アプリや EC サイトなどのオウンドメディア活用や、クリックやインプレッションに応じた課金方法、アンケート広告やレコメンド機能を使った広告メニュー開発など、取り組まなければならないことはたくさんあります 。 外部データとの連携や分析基盤の高度化、クリエイティブ制作など、各種自動化も必ず必要になってきます。Walmart では広告配信の約 50%は AI で運用されているそうですし、2021 年から Kroger ではテレビ CM と連携した効果測定も開始しました。こうした取り組みを少しでも速く実現し、ブランドメーカー様のマーケティング活動をフルファネルで提案できるメディア構築を目指していきたいと思います。最後に、これは当たり前のことになりますが、重要にしていることは、やはりカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上なので、流通小売業様やブランドメーカー様と広告販促 DX 領域以外も取り組んでいきたいと思います」(稲森 氏)。
リテールメディアによる収益源の最大化は、小売業のデジタルトランスフォーメーションを推進する取り組みにほかなりません。アドインテの新市場の立ち上げと DX 支援の取り組みをマイクロソフトが支えていきます。
[PR]提供:日本マイクロソフト