近年、多くのグローバルブランドは、顧客接点のデジタル化による O2O(Offline to Online)マーケティングをはじめ、新興市場における偽造品からのブランド保護、日々高度化されていく SCM における物流合理化といった、攻守両面の様々な対応を迫られています。しかしながら、多くのブランドでは、対症療法的・局地的な対処に追われており、ブランド全体を貫く施策は打ち出せていないのが現状です。
そうしたなか、大手化粧品メーカー・株式会社資生堂のグループ企業である株式会社ザ・ギンザが運営する「ザ・ギンザ(THE GINZA)」では、マイクロソフト社が提供するクラウドプラットフォーム Microsoft Azure(以下、Azure)を最大限に活用した、トレードログの IoT 連携ブロックチェーンツール「YUBIKIRI for Microsoft Azure」を導入。RFID/QR とブロックチェーンの併用により、物流合理化と O2O マーケティングを一気通貫で実現するとともに、Salesforce Commerce Cloud との連動により、店頭施策と EC 施策を融合させることに成功しています。
ラグジュアリー化粧品としては世界初となる、マーケティングと SCM を跨ぐブロックチェーン技術の本格導入の経緯について、担当者の方々に話を聞きました。
お客さまの“本物であること”へのこだわりに応えたい
株式会社ザ・ギンザは、資生堂グループの一員として、国内の空港型免税店、および直営店での資生堂グループ化粧品等の販売、そしてオリジナル化粧品「ザ・ギンザ(THE GINZA)」の開発・マーケティング・販売など、ビジネスを展開しています。
タイムレスな美しさを追求するプレステージ スキンケアブランドとして 2002 年にデビューしたザ・ギンザは、来年 20 周年を迎える日本国内でも長い歴史を有するブランドであることに加え、中国などアジア各国をはじめとした、海外の美容意識の高い顧客層からの人気も高まり続けているブランド。「肌は身にまとう、最高のオートクチュール」というスキンケア哲学のもと、一人ひとりの肌に合う「テーラーメイド・スキンケア」を目指した商品であることを追求し続け、2021年 6 月 1 日にはスキンケア 8 製品を含む全 10 製品をリニューアル。「究極のヘルシースキン」を叶えるスキンケアラインへと、さらなるパワーアップを果たしました。
そしてリニューアルと同時に、クロスボーダーでの O2O(Offline to Online)施策と偽造品対策の推進支援、物流の合理化、ユーザーへの本物のブランド体験の提供支援を実現するべく、IoT 連携ブロックチェーンツール「YUBIKIRI for Microsoft Azure」の運用、クロスボーダーCRM を開始したのです。
株式会社資生堂 ザ・ギンザ グローバル ブランドユニット グローバル ブランド ディレクター 黒田 明日香 氏は、ブロックチェーン導入の背景についてこう話します。「お客さまへブランド体験をダイレクトかつシームレスにお届けできるよう、どのようなお客さまがどの商品を購入したのか把握できるようにすること、また、プレステージスキンケアブランドなだけに、“本物の商品”であることへの意識の高いお客さまが多いので、本物であることの証明が簡単に行えるようにすること、この 2 点の実現を特に目指しました」
“マーケティング向けのブロックチェーン”が決め手に
ザ・ギンザでは、IoT 連携ブロックチェーンツールを活用することで、オフラインとオンラインでの購入情報の統合や偽造品の防止を実現しました。
製品に添付されている QR/RFID タグを読み取ることで、購入情報が秘匿性の高いブロックチェーン上で管理され、オフラインとオンラインの購入データを一元化することが可能となっています。
「これにより、O2O マーケティング施策を通じ、お客さまへのよりダイレクトなコミュニケーション、テーラーメイドなサービスのご提供を目指します」と、黒田 氏は言います。
また、「ザ・ギンザ メンバーシップクラブ」を刷新し、4 つのメンバーステージを設けることで、お客さまのステージに応じた特典が提供できるようになりました。ステージのベースとなるポイントは、製品に添付されている QR/RFID タグを読み取ることによって付与されます。
さらに、デジタル上で正規品証明書を確認することができるため、購入者が安心して商品を使用することも可能となっています。
IoT 連携ブロックチェーンツールとして、トレードログの「YUBIKIRI for Microsoft Azure」を採用した理由について、今回のプロジェクトの PM としてシステム面などを管轄した、株式会社資生堂 ザ・ギンザ グローバル ブランド ユニット ビジネス・コミュニケーション開発グループ 鈴木 翔 氏は次のように話します。
「大きく 2 つの面から、トレードログさんのソリューションの採用を決めました。まず 1 つは、仮想通貨などの金融領域ではなくマーケティング用途に活用されている Quorum※への専門性が高く、本来は導入に多大なコストがかかるブロックチェーンをより安価かつ簡易に取り入れることができる API を提供いただけるという利点がありました。これならば、ブロックチェーンを活用した CRM を、迅速かつ低コストで実現できると判断しました。そしてもう 1 つの理由となったのが、トレードログ株式会社の代表取締役である藤田 誠広 氏が、マーケティング知見が豊富だった点、また共同創業者の中村 雅弘 氏がソフトウェア開発だけでなく IoT への経験が豊富だった点です。その点もあって、今回のシステムはブロックチェーンと RFID といったソフトウェアとハードウェアにまたがる 2 つの先端テクノロジーを活用したのですが、トレードログさんからはすべてを網羅したかたちで実装に向けたコンサルティングサービスも受けることができました」
※Quorum(クオラム)は、ブロックチェーンのプラットフォームの 1 つであり、トークンやゲームの開発に用いられることが多い Ethereum(イーサリアム)をベースに、2016 年に J.P. Morgan によりエンタープライズ向けに開発されたオープンソースソフトウェア。情報の秘匿性やスループットの高さなどの特徴がある
全社的な Azure 利用で培われた信頼感
ブロックチェーン技術を活用した今回の画期的なプロジェクトですが、最初に同技術の導入の検討を開始したのは 2019 年の夏にさかのぼります。その後、約 2 年半にわたったプロジェクトの期間中には、さまざまな課題も生じました。そのなかの 1 つは法律面での課題であり、日本の EC サイトと中国の EC サイトの双方で CRM・マーケティングを行うためには、中国における個人情報の取り扱いに関する法的な側面でのクリアが求められるというものでした。
また、資生堂では初となる QR/RFID タグの本格導入であったことから、ロジスティクスの面でも工場や物流センターなどとの調整に苦労しました。
「合わせて、ブロックチェーン技術の導入も初めてだったため、この技術に対する安全面も含めた理解を、社内、とりわけ IT 部門から得ることにも注力しました。ここでもトレードログさんからの協力が大きかったですね」と、株式会社資生堂 ザ・ギンザ グローバル ブランド ユニット ビジネス・コミュニケーション開発グループ 森 薫 氏は振り返ります。
その IT 部門側の PM として、ベンダーの取りまとめやブロックチェーン導入のサポートを行った資生堂インタラクティブビューティー IT本部 安 聖愛 氏は、クラウド基盤としての信頼性についてこう言及します。
「既に当社では、各種のツールやプラットフォーム、データ基盤など、全社的に Azure 上へと移行完了して日々運用していますので、Azure にはインフラとしての高い信頼感がありました。当社基準のセキュリティ要件のクリアも、Azure であるため必要なく、運用も効率化できています」(安 氏)。
また、トレードログ株式会社 代表取締役 藤田 誠広 氏は、今回の導入と Azure についてこのようにコメントします。
「資生堂さんは既に Azure を使っていましたので、1 からブロックチェーンを導入してなおかつ Azure に繋げるよりも楽に導入できるよう工夫をしました。また、他社のソリューションですと、クラウドもブロックチェーン基盤もアプリもオールインワンで提供されるためベンダーロックインに陥りがちですが、我々としては最適な組み合わせを柔軟に選べるようにして、ベンダーロックインにならないように気をつけています。また、マイクロソフトさんは大手のクラウド事業者の中でも最もブロックチェーンに対して理解があり、ユーザー企業に対しても親身にサポートしている印象が強かったのも、Azure を採用した理由です」(藤田 氏)。
同社の共同創業者 ブロックチェーンエンジニアの中村 雅弘 氏はこう続けます。
「QR/RFID タグを物流工程に用いて、商品情報と出荷先情報をお客様が開封しなくても把握できるようにしたのが今回のソリューションの大きな特徴です。その際、大量のロットを発行するとラベルの単価が上がってしまい導入障壁となるため、1 つのラベルで使い回せるような工夫を施しました」(中村 氏)。
また、鈴木 氏は同社について「実際、トレードログさんには、コスト面で何があるかわからない難しいところまでも詳しく説明してもらい、コストを抑えることにも貢献してくれました」と、評価しました。
「ビューティー×DX」でトータルな顧客体験を
マーケティングへの IoT 連携ブロックチェーンの活用はまだ始まったばかりですが、購入者が自ら QR コードを読み込んで登録するため、店舗を介さずに直接 CRM へとつながることなど、さまざまな画期的な側面が既に社内からの高い評価を得ていると言います。
今年 9 月には、中国本土でもブロックチェーンシステムを導入予定で、日本にいても中国本土にいてもブランド体験のストーリーがつながるのも、化粧品業界初となります。
主に中国支社を担当する、株式会社資生堂 ザ・ギンザ グローバル ブランド ユニット ビジネス・コミュニケーション開発グループ 闕 思雅 氏は、「日本と中国で同じシステムを用いた CRM を展開できるので、よりクロスボーダーでブランドとお客さまがつながるようになると期待しています。当ブランドの中国における主要チャネルは空港免税店ですが、常に店員がいるわけではありません。そうした場合でも、お客さまにブランドサービスを届けられるのは、QR/RFID タグの活用が大きいですね」と、語ります。
また、安 氏は今後について「オフラインで買い物をした際に、お客さまは店舗でしかブランドサービスを享受できないのが一般的ですが、今回はどこで購入しても 1 つのブランドとしてトータルなサービスを受けられるようにできました。このことはザ・ギンザだけでなく、資生堂全体にも価値をもたらすはずで、今後 IoT 連携ブロックチェーン技術の活用が社内で拡大していく可能性を感じています」と、期待をにじませました。
そして最後に黒田 氏は、今後の展開について次のように語ってくれました。「お客さまのタイムレスな美しさを引き出すザ・ギンザブランドのミッションを達成するためには、常にお客さまの変化に合わせて革新を続けていかなければなりません。これからも革新を続け、『ビューティー×DX』で成し得る新しい顧客体験をお客さまに届けていきたいと考えます」
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