創業 112 年を迎える総合出版社である株式会社講談社は、デジタルテクノロジーの活用にも積極的に取り組んでいます。近年では「出版物・コンテンツのデジタル化」に注力し、膨大な作品の電子化を実現。現在は次のステージとしてグローバル戦略を展開し、コーポレートロゴを一新するなど企業リブランディングを進めています。こうして新たな挑戦を開始した同社では、“ITを使って社員が効率的に安心・安全に働ける環境を提供する”というミッションを達成するため、リモートワーク環境の導入を検討。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、場所を問わないワークスタイルのニーズが高まる状況のなか、クラウド型の VDI サービス「Azure Virtual Desktop(旧称Windows Virtual Desktop:WVD)」を採用し、短期間での環境構築に成功しました。
「クラウド型VDI」+「純正の Windows 10 クライアント」が AVD 採用の決め手
「おもしろくて、ためになる」を理念に、出版物やコンテンツを世に送り出し続けてきた株式会社講談社(以下講談社)。これからの 10 年を“グローバル展開を加速させる”期間と位置付け、「Inspire Impossible Stories」をキーコンセプトに掲げて企業ブランドの刷新を図っています。
同社が、リモートワーク環境の構築に着手した目的は「社員に、より効率的で気持ちよく働ける環境を提供する」ことにあると、株式会社講談社 IT戦略企画室 システム部 部長の芝本 行生 氏は語ります。
「出版の世界は“人が財産”といわれています。社内システムやインフラの構築・保守を担っているシステム部も、社員をはじめコンテンツの作成に携わる人たちをサポートしていくことが業務の根底にあり、いつでもどこでも快適に働ける環境を提供するための取り組みを進めてきました」(芝本 氏)。
新型コロナウイルス感染症の拡大、いわゆるコロナ禍による緊急事態宣言が発令された 2020 年初頭。同社は、緊急用に用意していた VPN を利用しリモートワーク支援を行いましたが、急な事態で十分に検証できなかったこともあり、社員全員への提供は難しい状況でした。システム部ではもともと VPN を利用したリモートワーク環境を全面的に採用するつもりはなく、あくまでコロナ禍に対応するための暫定的措置であったと、IT戦略企画室 室次長 桧山 純一 氏は話します。
「セキュリティの懸念や運用の負荷を考えると、VPN を使ったリモートワーク環境を全社的に展開することは難しいと判断しました。あくまで暫定的な措置として一部の人たちに提供しました」(桧山 氏)。
緊急事態宣言は 2020 年 5 月に解除されましたが、講談社では第二波、第三波の到来を見据えて本来のリモートワーク環境構築プロジェクトを加速させます。ソリューションの選定から仕様策定、検証、導入支援までに携わったシステム部 副部長の谷口 洋志 氏は、「5 月頭からプロジェクトを始動し、6 月に Azure Virtual Desktop(以下、AVD)の採用を決定しました」と当時を振り返ります。 谷口 氏は AVD を採用した要因として、「短期間で構築可能なクラウド型の VDI であること」と「純正の Windows 10が使えること」を挙げ、実際に自身で環境構築を行い、確かな手応えを感じたと語ります。
「第二波、第三波到来が懸念されていたため、年内中にはリリースしたいと考えており、クラウド型の VDI サービスしか選択肢はありませんでした。他のソリューションも検討しましたが、純正の Windows 10が使える AVD に大きなアドバンテージを感じました。 5 月下旬に試しに環境構築してみたところ、当時はコマンドベースの Classic 版でしたが、それでもすぐに使えるものができたことに驚きました」(谷口 氏)。
FastTrack for Azure の支援を受け、内製でプロトタイプの改善を行う
折しも、同年 6 月に会社の意思として、短期間でのリモートワーク環境構築が求められていたことも、AVD の選定を後押ししたといいます。同年 7~8 月には AVDに関する構築実績が豊富にあるパーソルプロセス&テクノロジー株式会社(以下、パーソルP&T)がプロジェクトに加わり、AVD を用いたリモートワーク環境のプロトタイプを構築。9~10 月にかけて、限定した部署の 100 人弱のユーザーに解放してテスト運用を行い、それと併行して、自社内でプロトタイプの改善を進めていきました。内製でのシステム構築(改善)にあたっては、マイクロソフトが提供するカスタマーサクセスプログラム「FastTrack for Azure」が大きな助けになったと谷口 氏は語ります。
「FastTrack for Azure の支援を受けながら、おもにセキュリティとモニタリングの改善に取り組みました。セキュリティ強化の面では、Azure NetApp Files を採用してエンドポイントを隠し、Azure Firewall による通信制御を実施しました。モニタリング面では Azure Monitor(Log Analytics)を導入して、ユーザーの利用状況をリアルタイムで把握できる環境を整備しました。FastTrack for Azure のサポートはレスポンスが早いことに加え、単なるナレッジベースではなく、しっかりと検証したうえで提案してくれているという印象を受けました」(谷口 氏)。
検討開始から半年で正式リリース、短期間での環境構築を実現する
FastTrack for Azure の手厚いサポートもあり、パーソルP&T のプロトタイプをベースに内製でのシステム構築を進めた講談社は、11 月中旬、検討開始から半年での正式リリースを実現しています。
「わずか半年で運用を開始できたことで、クラウドのメリットを実感しました。オンプレミスのシステム構築を選んでいたのならば、半年経ってもハードウェアの導入すら完了していなかったのではないかと思っています」と谷口 氏。まだ一部不安定な部分はあるものの、導入期間とコストを考えると十分に満足できる結果と力を込めます。桧山 氏も「運用を開始してからトラブルはほとんど起きていません」と、AVD のパフォーマンスに満足しています。また、芝本 氏は「デジタル技術の活用をハイスピードで行った本取り組みは、社内で非常に注目され高い評価を得ました」と語ります。
現在は、講談社の社員だけでなく、業務委託している従業員を含めた約 1,000 名が AVD で構築したリモートワーク環境を利用しています。コロナ禍以前は在宅勤務という概念がなかった講談社ですが、今回のプロジェクトで快適かつセキュアなリモートワーク環境が提供されたことで、社員の働き方に関する意識も変わってきているといいます。
「現在、1 日に 平均して 200 人くらいが利用している状況です。当初は 5 台のサーバーで運用を開始しましたが、より快適な業務環境を目指して段階的に増強し、現在は 16台のサーバーで運用しています」(谷口 氏)。
また、二要素認証を利用できる AVD を採用したことで、セキュリティ面での懸念も払拭されたと谷口 氏。「二要素認証による本人確認の強化に加え、端末内にデータを落とせないようにしているので、情報漏えいのリスクも大幅に軽減できています」と手応えを口にします。個人の端末を使った BYOD にも対応し、自宅や外出先から社内システムへのセキュアなアクセスを実現。社内システムを使っての企画作成や、社内ファイルサーバーにある素材の利用といった用途で有効活用されています。
グローバル戦略に合わせ、デジタル技術の活用を加速させる
グローバル戦略を展開する講談社では、今後もデジタルテクノロジーの効果的な活用を推進していきます。その一環として、同社のシステム部では「データ活用」のための環境構築に着手。谷口 氏が試験的に構築した、マイクロソフトの Power BIと Microsoft SQL Server Analysis Services を利用したデータ分析環境は口コミで社員に広がり、利用するユーザーが増加している状況にあるといいます。「会社的なインパクトは AVD のリモートワーク環境と並ぶほど大きなものがあります」と芝本 氏。マイクロソフトの提供する機能・サービスが同社の DX において重要な役割を担っていることを実感しています。
さらにグローバル展開を見据え、今後は米国に駐在する社員をはじめとし、グローバルに AVD を活用していきたいと谷口 氏。「AVD だけでなく、Teams などのコラボレーションツールも効果的に使っていければと思います。そのためには、これらの技術活用を推進する人材の育成/拡充にも、注力していかなければなりません」と今後の展望を語ります。
「出版物・コンテンツのデジタル化」から「デジタル技術を活用したグローバル展開」へとステージを進めた講談社の取り組みには、今後も注視していく必要がありそうです。
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