東京ガスグループの情報システム会社として、サービスの「安定」「効率」「革新」といった付加価値を提供している東京ガスiネット株式会社。同社は Microsoft Azure を全面採用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させています。その一環で取り組んだのが、グループの基幹システムとなる導管管理システムのクラウド移行であり、システムのクラウド化に先行してストレージシステムのクラウド化に取り組みました。その際、新たなストレージとして採用したのが Azure NetApp Files でした。
東京ガスグループの DX を基幹システムのクラウド移行の面から支える
LNG の調達から輸送、都市ガスの製造・供給、エネルギーソリューションへと続く「LNGバリューチェーン」のもとで事業を展開している東京ガスグループ。同グループ唯一の情報システム会社として 1987 年に設立され、東京ガスの安心・安全・信頼を支えてきたのが東京ガスiネットです。
東京ガスiネットの強みは「エネルギー分野における業務知識を活かした企画・提案力」「東京ガスグループの IT を支え続けてきた経験に基づくノウハウ」「企画・提案から運用管理に至るトータルソリューション力」の 3 つに集約されます。
事業インフラの担い手として、東京ガスグループの IT を支えながら「安定」という付加価値を提供する一方、業務改革の提案・推進者として、IT を通じた業務改革や新サービスの提案・推進を行うことで「効率」「革新」という付加価値も提供しています。
2017 年に 30 周年の節目を迎えた同社は、10 年後の自分たちのありたい姿を、新たなビジョン「『はじめて』をカタチにする会社」として制定。あわせて、クラウドを活用した全社的なシステム刷新の取り組みを加速させます。そこで全社的なシステム基盤として選んだのは、2014 年から開発検証基盤として利用してきたMicrosoft Azureでした。2017 年からは「クラウドファースト」を掲げ、デジタル化推進部のリードのもとで、Microsoft Azure へのクラウド移行を進めることとなったのです。
クラウド移行を行うなかでも、特に規模が大きく重要なシステムに位置づけられているのが、東京ガスグループの基幹システムの 1 つである導管管理システムです。導管ソリューション部 導管設備情報グループの梅津 弘隆 氏はこう説明します。
「導管管理システムは、ガス工事を安全に安定的に実施するために欠かせないシステムです。東京ガスグループの DX 推進でも重要な役割を果たすことが期待される一方、クラウド移行にあたっては、移行リスクを避けながら、さらなる安定運用やコスト最適化を実現していくことが求められます。そこで、システムレイヤーごとに 5 つのプロジェクトを組成し、2022 年度までに段階的に移行を完了させる計画を立てました」(梅津 氏)。
そのような状況において、2021 年 2 月までに先行して移行を完了させたのが、ストレージシステムと、比較的規模の小さなサブシステムの移行です。5 つのプロジェクト全体を統括した梅津 氏は「ストレージについては大きな問題が発生していて、すべてのプロジェクトが頓挫しかねないところでした。その問題を解決したのがAzure NetApp Filesだったのです」と振り返ります。
ガス工事の計画からメンテナンスまでを管理する導管管理システム
導管管理システムは、ガス工事の起案から図面作成、承認、発注・入札、施行、メンテナンスなどまでを一貫して管理するためのシステムです。
導管管理システムでは、関東圏の住宅、店舗、工場に設置されたガス管の工事を一元的に管理しており、利用者数は、計 5,000 名です。取り扱うファイルは、図面や現場の写真、申請書、ガス漏れなどの報告書、関係者との議事録など、ガス工事にかかわる成果物のほとんどすべてとなります。
ストレージシステムのクラウド移行プロジェクトを PM としてリードした、導管ソリューション部 導管設備情報グループの植田 孝明 氏は、導管管理システムをこのように説明します。
「導管管理システムは、IBM AIX をサーバ基盤とする Java アプリケーションとして開発されています。ユーザーがシステム上で図面や写真、申請書などのファイルを登録するとファイルがアップロードされ、サーバに接続した Dell EMC Isilon ストレージに集約されて保存されます。一方、システムに登録されるデータの中には PDF として帳票化する必要のあるデータもあり、PDF への変換のために Windows Server 上に構築した Java アプリケーションで変換処理を行っています。ストレージ上の同じファイルに対して、AIX からは NFS プロトコルで、Windows Server からは SMB プロトコルでアクセスするという仕組みでした。クラウド移行にあたっては、2 つのプロトコルによる同時アクセスの仕組みをどう実現していくかが大きな課題になりました」(植田 氏)。
導管管理システムは、2014 年に NFS と SMB のデュアルプロトコルの仕組みで稼働を開始し、移行プロジェクトを開始した当時は、設計した 120TB のディスク容量のうち 90TB を利用している状況でした。ただしストレージハードウェアの保守切れのタイミングでのクラウド移行を計画したものの、クラウド上のエンタープライズストレージサービスで、NFS と SMB のデュアルプロトコルを実現したサービスは存在せず、移行そのものができないという事態に直面していたのです。
「先が見通せず暗い気持ちになりながらマイクロソフトに相談したところ、2019 年 5 月頃にご提案いただいたのが正式サービス開始直前の Azure NetApp Files でした。当時の Azure NetApp Files には、NFS と SMB の同時アクセス機能はないとの事でしたが、プレビューとしての実装が始まることを教えていただきました。『まさにこれだ』と気が晴れる思いでした。Azure NetApp Filesがなければ、アプリケーションの改修やスケジュールの再設定など含めて、移行計画を見直さなければならないところでした」(梅津 氏)。
SMB と NFS のデュアルプロトコルに対応した Azure NetApp Files
導管管理システムは、AIX 物理サーバ 12 台、VMware で仮想化した Windows Server 4 台、容量増加に伴ってスケールアウトした Dell EMC Isilon 2 台(X200、X210)を中心に構成されています。また、5,000 名のユーザーのうち、社外ユーザーの 2,000 名はシンクライアントシステムを経由してシステムにアクセスすることでセキュリティとガバナンスを確保しています。こうしたシステム構成をクラウド移行するために採用したのが、ハイブリッドクラウド構成です。
「5 つのプロジェクトは『ストレージシステムのクラウド移行』と『比較的規模の小さなサブシステムのクラウド移行』の 2 つ以外に『AIX サーバ基盤の Red Hat Linux 化とクラウド移行』『Windows Server 仮想マシンのクラウド移行』『ユーザー向けシンクライアントシステムのクラウド移行』の 3 つがあります。この 3 つのプロジェクトは現在も継続しています。ハードウェア保守期限が切れるタイミングで、先行してストレージシステムのクラウド化を進めることになったため、サーバ基盤はオンプレミスに残り、ストレージ基盤だけが先行してクラウド移行するという状態になりました」(梅津 氏)。
ストレージのみをクラウド上に配置するハイブリッドクラウド構成には、いくつか懸念点もありました。ストレージサービスがエンタープライズクラスの信頼性を確保できるか、I/O やネットワーク遅延などのパフォーマンスが問題にならないか、プレビュー中だったデュアルプロトコルの信頼性はあるのか、運用管理が二重になり負担が増えないかなどです。そこで、2020 年 7 月から 3 カ月間 PoC を実施し、懸念をひとつひとつ解消していきました。
「PoC では、Azure NetApp Files に 最小構成の 4TB ボリュームを作り、実際にシステム上からファイルの登録や PDF の変換処理などを実施して、パフォーマンスや信頼性、ネットワーク遅延、操作性などを検証しました。まず感心したのは、管理の容易さです。ボリューム作成なども、Azure ポータルから簡単に操作できるため、負担が増える心配はなくなりました。また、データサービスや信頼性も既存のストレージと遜色ないことを確認しました。Azure ExpressRoute を使った 100Mbps の閉域接続でも遅延などが発生せず、システムも安定的に稼働していました」(植田 氏)。
Robocopyを活用して 2 ヵ月間で約 70 TB のデータ移行を完了
PoC による検証後、2020 年 12 月からストレージのデータ移行を開始しました。データはすべてシステム経由でアクセスされ、日時ごとに異なるディレクトリにファイルとして保存される仕組みです。ファイルへのアクセス権もシステムユーザーだけに設定されており、一般ユーザーの操作中にファイル自体が更新されることはありません。そのため、データ移行はディレクトリ配下のファイルごと単純にコピーするだけで実現できたといいます。
「開発検証機として利用していた Windows Server 仮想マシンに旧ストレージのボリュームを SMB でマウントし、同時に、新ストレージとなる Azure NetApp Files のボリュームを SMB でマウント。そのうえで、Windows の robocopy コマンドを使って旧ストレージから新ストレージへディレクトリごとコピーしていき、コピー終了後に Diff ツールで正しくコピーされたかを検証するという方法を採用しました。これにより、システムを止めることなくコピーし続けることが可能になり、2 カ月間で移行予定であった約 2 億ファイルで 70TB 分 のデータ移行を完了させることができました。データ移行後は旧ストレージの利用を停止し、オンプレミスのサーバ群からの接続ストレージとしてクラウド上の Azure NetApp Files へ振り向けるだけで、これまでとまったく同じようにシステムを利用できるようになりました」(植田 氏)。
データ移行とストレージシステムの移行は、2021 年 2 月末までにすべて完了しました。ハイブリッドクラウド構成に移行してもシステムはこれまでと同様に問題なく稼働しており、Azure NetApp Files に起因するトラブルも一切発生していないということです。
Azure NetApp Files がもたらした 3 つの効果
梅津 氏はストレージシステムのクラウド移行の効果については、大きく 3 つの効果があったと説明します。
1 つめは、ストレージハードウェアの保守切れに対応しながら、ストレージのクラウド移行をトラブルなく実施できたことです。
「ストレージハードウェアの保守期限は 2021 年 3 月末でしたが、スケジュールどおり移行を済ませることができました。Azure NetApp Files がなければ、既存システムの構成変更やアプリケーションの改修も必要になり、より多くのコストが必要になっていたはずです」(梅津 氏)。
2 つめは、旧ストレージと同等の信頼性、堅牢性、可用性を確保できたことです。
「導管ソリューション部として Azure の 1st パーティサービスとはいえ、ネットアップ社のストレージテクノロジーを利用するのは初めてとなります。エンタープライズストレージとしての信頼性の高さや機能の豊富さを実感しています。また、Azure NetApp Files は性能のスケールアップやディスク容量のスケールアウトを簡単に実施できることも大きな魅力です。機器の増設作業や運用管理も不要になりました。Azure ポータルから一元的に管理できるので、管理性も旧ストレージより高まりました。ディスク故障による交換や OS のアップデートなどを含めておよそ年間 2人月分の工数が削減できています」(植田 氏)。
3 つめは、基幹システムのクラウド化に向けて、大きな足がかりを作ったことです。
「シンクライアントシステムにも同じストレージシステムを採用しています。今後、シンクライアントシステムのクラウド移行にともなって、ユーザープロファイルの保存先などを Azure NetApp Files に移行していく計画です。また、AIX や Windows Server のクラウド移行も、サーバを仮想マシンとして Azure クラウドに移行し、ストレージの接続先を変えるだけで済ませることができます」(植田 氏)。
梅津 氏は今後について、広域災害に備えてデータの遠隔地保管を鑑み、Azure NetApp Files が提供するリージョン間レプリケーションなどの機能の活用も検討していきたいと話します。また、クラウド移行した基幹システムのデータと、DX 推進のために構築している東京ガスiネットのデータ分析基盤などとの連携も検討していく予定です。東京ガスiネットの DX の取り組みは、これからも Azure が支えていきます。
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