多彩な空間づくりを手がける株式会社丹青社。同社ではさまざまなプロジェクトに関する社内作成資料がデザイン潮流や技術ノウハウの蓄積として、より良い空間づくりにつなげるための貴重な資産となっていますが、一方ではその貴重な情報の共有に課題を感じていました。そこでマイクロソフトの AI 活用クラウド検索サービス Azure Cognitive Search をベースに資料検索システムを構築し、PoC を実施。これにとどまらず、同社が参画するビジネスコンソーシアムにおいても、システムを活用する PoC を展開しています。本記事では丹青社、及びシステム構築を担った株式会社電通国際情報サービス(ISID)の担当者から話を伺い、Azure Cognitive Search を使った取り組みにフォーカスしていきます。
コロナ禍で止まったリアルな場での情報共有、その解決策を探る
丹青社は「こころを動かす空間をつくりあげるために。」というコーポレートステートメントのもと、商業・ホスピタリティ・パブリック・イベント・ビジネス・文化という 6 つの空間づくりを事業領域としています。そして、これらの多彩な分野で日々作成され、蓄積される資料は、同社にとって貴重な情報資産となっています。
2015 年 9 月には、品川へ本社を移転。これを機にオフィスをワンフロアに集約したことで、貴重な情報のやり取りをリアルな場で垣根なく行うことが可能になりました。企画開発センター 企画部 部長 の菅波 紀宏 氏は、同社ならではの風土と環境を次のように語ります。
「ワンフロアになったオフィスはそのメリットを最大限に活かし、会社に行くと自然にコミュニケーションが生まれるような空間づくりをしています。打ち合わせや雑談に加え、社内交流イベントなども頻繁に開催していましたので、必然的にナレッジ共有ができていました。社内のデザイナーも事業部の垣根を越えた『デザインセンター』という新たな組織をつくり、スムーズな情報共有を実現していたのです」
コミュニケーション環境はすこぶる良好であったものの、2020 年春、新型コロナウイルスのパンデミックが発生します。第 1 回目の緊急事態宣言以降は同社でもテレワークを中心とした働き方になり、出社率は 4 割以下に。リアルな場で従業員同士が顔を合わせる機会を失い、対面でのコミュニケーション量が著しく減少します。つまり、せっかくのワンフロアオフィスのであることのメリットを活かせなくなってしまったのです。
加えて、従業員同士のリアルな交流をベースに成果を上げていた同社のナレッジ共有には、仕組み面での懸案もありました。「それまでデータ共有は部門単位で実施されていることが多く、事業部を越えて共有する仕組みを確立できていませんでした。出社自体をしない状況が長期化する中で、事業部を横断した情報共有システム構築が優先順位の高い課題となりました」(菅波 氏)
AI活用ソリューションで社内検索システムの短期構築を実現
このシステム構築に際し、同社が採用したのが Azure Cognitive Search です。菅波 氏が Azure Cognitive Searchを知ったきっかけは、実はリアルな場での立ち話によるものでした。
同社は、複数企業が協創して未来のオフィス空間づくりを志すコンソーシアムに参画しています。その新たな価値創造を実現する場として 2019 年 7 月、東京・丸の内にコワーキングスペース「point 0 marunouchi」(以下、point 0)がオープンしました。2020 年 10 月に point 0 の一角で、菅波 氏は同じくコンソーシアムに参画する、日本マイクロソフトの AI/ML Specialist 濵田 隼斗 氏と軽い立ち話をします。「そこで当社の課題を軽く話したところ、資料情報共有システムの構築に Azure Cognitive Search を活用できるのではないかというアドバイスをいただきました」と菅波 氏は振り返ります。
わずか 10 分程度の立ち話で、菅波 氏は「とても魅力的に感じ、これは使えると直感しました」と言います。1 週間後に詳しい説明を受け、翌月には Azure Cognitive Search の採用が決定。プロジェクトはきわめてスピーディーに動き出しました。
このシステム構築にあたり、同社から出た要件について菅波 氏はこう解説します。
「まず、クライアントの要望が多様化・複雑化しており、従来のように空間分野などで分けられたカテゴリーから情報を見つけるのではなく、資料を全文検索したいとのニーズがありました。また、当社の資料はグラフィックを使用することが多かったので、画像からテキストをそのまま抽出したいという声もありました。その他、管理面でタグ付けの自動化や管理者以外のファイル登録、権限設定などを容易に行えること、UI が優れていること、複数のファイル形式が混在する中で一括検索が可能なこと、などが挙がりました」
濵田 氏から話を聞く中で、Azure Cognitive Search ならこれらの要件を満たすシステムが作れると菅波 氏は確信します。12 月には各事業部の営業責任者やデザイナーといったデータオーナーと協議を重ね、併せてシステム構築のパートナーとして ISID を選定し、年が明けて 2021 年 1 月にシステム構築をスタート。そしてなんと翌月の 2 月には社内での PoC 実施にこぎ着け、月内にはそれも完了します。
社内で高評価を得たのち、立て続けに新たな PoC へ乗り出す
point 0 での立ち話からわずか 5 カ月というスピード感あふれるプロジェクトでしたが「やはり当社として優先順位の高い課題でしたので、とにかくフルスピードで臨みました」と菅波 氏。社内での説明会からシステム構築、そして PoC まで総じてスムーズに進んだと菅波 氏は感じていますが、その中で苦労したポイントを挙げるなら前出のデータオーナーとの協議であったと振り返ります。
「どの事業部でも資料づくりには大変な労力をかけて作り上げていますし、秘匿性が高いものもありますので、システムに組み込むことについて一部では抵抗感を持つ人もいました。そこで各部門のデータオーナーに時間をかけて説明し、個別に承諾を取っていきました。その際、マイクロソフトという世界的企業のソリューションを活用することが信頼感の醸成につながった面は大きかったですね」
その一方で、システム構築を担当した ISID からすれば、やはりプロジェクト期間の短さが懸案であったと、コミュニケーションIT事業部の野村 周平 氏は話します。
「当社として今回初めて Azure Cognitive Search に携わったため、まず技術のキャッチアップに苦労しました。ただ、菅波さんの尽力で、システム要件や UI デザインについて当社から初期に出した提案がほぼそのまま採用されたので、短期間ではありましたがスムーズに対応できたと考えています。加えて、インデックス作成のプロセスが Azure Cognitive Search で自動化されている点も短期開発に力を発揮しました」
出来上がったシステムは、例えば顧客の要望などのキーワードを入力するとそれを基に全文検索し、合致する資料及び提供可能なソリューションの内容を表示するもの。キーフレーズが提示されるので、個別ファイルを開かずとも内容を確認できるほか、ヒット数が多い場合は詳細検索も可能です。「ファイル表示はブラウザ上で簡単に行えますし、そのままプレゼンもできるので、便利で直感的に使えるシステムになったと実感しています」と菅波 氏。社内アンケートでも「開発を継続してほしい」との声が 93%に達し、部門横断での情報検索や UI、全文検索などの機能に対しても評価が高かったといいます。
同社では当初、2021 年 2 月の PoC に続いて、6 月頃には本格的に社内導入する考えを持っていたようですが、続けて新たな PoC がスタートすることとなります。
未来のオフィス空間での実証が進み、ソリューション化も視野に
point 0 のコンソーシアムは、2019 年 7 月に 9 社の参画でスタートし、2021 年 2 月時点では 20 社にまで拡大していました。参画企業が大幅に増えたことに加えて、コロナ禍発生後は point 0 を実際に訪れるメンバーの減少、個室利用の増加、定例会議・イベントのオンライン化などにより、ナレッジ共有に課題を感じるようになっていたといいます。
「その場にいる人の数自体が減ったため、必然的に雑談などのインフォーマルなコミュニケーションも減ってしまうという、まさに当社と同様の課題が生まれました。企業協創のためにはオンラインコミュニケーションを活発化する情報共有プラットフォームの必要性を感じ、社内での本格導入を前に、point 0 での PoC を始めたのです」(菅波 氏)
4 月にスタートしたこの PoC では、Surface Hub などの point 0 内設置端末と、オンラインの双方から共通で使えるシステムを実証しています。単なる検索によるナレッジ共有だけでなく、NDA 締結企業同士が深いレイヤーで情報共有したいとのニーズに応え、さらには point 0 見学者の質問にタイムリーに回答するためのサポートとしても利用する考えです。社内 PoC から一歩進め、参画企業ユーザーと見学者といった権限設定によるセキュリティの実証も進めています。今後は利用感に関するユーザーアンケートも実施し、4 カ月での PoC 完了を予定しています。
「社内 PoC と同様、point 0 でも、『直感的に情報を見つけられた』『使いやすい』といった好意的なコメントをいただいています。そもそもは自社のナレッジ共有の仕組みとして始めたものですが、社内だけでなくクライアントの課題解決にも使えるのではないかと考え、ソリューションとしてのサービス展開も視野に入れています」と菅波 氏。社内ではデータベースなど他のシステムとの連携について精査を進め、2021 年度下期には本格運用を開始したいとのことです。
ここまでの取り組みを通じ、菅波 氏は「タイムリーな情報提供をはじめ、マイクロソフトのサポートがあったからこそ、スピード感のある開発と PoC を実現できたと考えています」と評価しています。また ISID の野村 氏も「今回のプロジェクトで Azure Cognitive Search はもちろん、マイクロソフトが提供する Azure 系サービスの知見を蓄えることができたのは、当社として大きな成果です。Azure Cognitive Search はクラウドサービスなので、今後も機能が日々アップデートされ、より使い勝手の良い検索システムに進化していくことを期待しています」と語ってくれました。マイクロソフトとしてもこうしたフィードバックを活かし、機能強化や改善を重ねて期待に応えていく考えです。
[PR]提供:日本マイクロソフト