デジタライゼーションを事業戦略の柱と位置付け、先進テクノロジーの活用を積極的に推進する株式会社三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)。2017 年には米国シリコンバレーにデジタルイノベーションラボを設立し、グローバルな視点で最先端の技術やビジネスモデルを有するスタートアップ企業・ IT ベンダーのソリューションに注視し続けています。
SMBCグループと株式会社日本総合研究所は、米国シリコンバレー発のスタートアップ企業である Allganize(オルガナイズ)と共同開発した AI システムを、SMBCグループの三井住友カード株式会社、SMBC日興証券株式会社のコールセンター業務から導入することを決定。システム構築の基盤として採用されたのは、Microsoft Azure のマネージドコンテナサービス「Azure Kubernetes Service」でした。
最先端の自然言語処理技術を採用した AI ソリューションを見出す
現在、SMBCグループは「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」をビジョンに掲げた 3 カ年の中期計画の最中にあり、AI など先進テクノロジーを取り込んだデジタライゼーションを推進しています。株式会社三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部 副部長 栗本 雄太 氏によると、同グループでは以前より攻めのデジタル化と守りのデジタル化の両面からデジタライゼーションに取り組んでおり、シリコンバレー・デジタルイノベーションラボの設立もその一環だといいます。
「SMBCグループ全体でデジタライゼーションを実現する取り組みは、以前より進めています。2017 年にはグローバルな視点でスタートアップやソリューションをキャッチアップして実用化するという目的で、シリコンバレー・デジタルイノベーションラボを設立しました」(栗本 氏)。
デジタライゼーションを推進するうえで SMBCグループがこだわっているのは“実用化”であると栗本 氏。「もちろん PoC などの実証実験も行いますが、その先にある実用化を意識して取り組んでいます」と語ります。
現在進めている、コールセンター業務への AI システム導入プロジェクトにおいても同様で、AI ソリューションの導入を検討する段階から実用化を目指して推進してきたといいます。株式会社三井住友フィナンシャルグループ シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ ラボ長を務める船山 明信 氏は、Allganize の AI ソリューションを採用するに至った経緯をこう語ります。
「シリコンバレー・デジタルイノベーションラボに来る前には、先進技術を SMBCグループに届ける役割を担う IT 技術活用グループをリードしていたので、AI を活用した案件を数多く経験していました。自然言語検索の技術に触れるなかで、トレーニングデータの準備、導入前後の継続したデータトレーニングなど、その難しさを肌で感じており、ブレイクスルーする技術があればと常々思っていました。そうした状況のなか、世界トップレベルのグローバル・ベンチャーキャピタル/アクセラレーターである Plug and Play のプログラムで Allganize の CEO であるイ・チャンス氏と交流する機会がありました。同氏と、具体的なソリューションとそれを支えるテクノロジーについて議論を重ねることで最先端の自然言語処理技術『BERT(バート)』の派生モデルである『ALBERT』と独自技術を組み合わせた Allganize 独自の AI ソリューションを発掘することに成功しました」(船山 氏)。
同じくシリコンバレー・デジタルイノベーションラボに所属するエグゼクティブディレクター 岡 知博 氏は、Allganize の AI ソリューションに触れた印象をこう語ります。
「AI システムには“学習にコストがかかる”という課題がありますが、Allganize の AI ソリューションは金融関係の多様な情報を用いた学習済みのモデルを持っており、初期性能が非常に高いことに驚きました。実用レベルにまで引き上げるための学習コストを比較したところ、既存の AI システムと比べて 1/10 程度のデータを入れるだけで使えるレベルになり、学習にかかるコストの課題を解決できるソリューションだと感じました」(岡 氏)。
エンタープライズ企業とは思えないスピード感で採用が決定
シリコンバレー・デジタルイノベーションラボは「少ないデータで高い正答率が得られるか」「業務を追加する際、既存のモデルを活かせるか」といった観点を含め、PoC を通じた技術評価を実施。極めて高いレベルのソリューションであることを確認し、日本の IT企画部に導入を提案したといいます。(船山 氏)
この提案を受けて Allganize の AI ソリューションの実装を担当した株式会社三井住友フィナンシャルグループ IT企画部の森 敦夫 氏と、落合 遥堂 氏はこう語ります。
「すでにコールセンターの照会応答業務に AI システムを導入していましたが、現場からは『学習や見直しが大変』『管理負荷が高い』といった声が上がっていました。こうした課題を解決できるソリューションとして、当行でも簡易的な機能確認を行い、シリコンバレーと同じく“使える”という確信を得たため、導入を推進していきました」(森 氏)。
「導入前の精度の高さや管理負担が低いというメリットは聞いていたのですが、それに加えてユーザビリティの高さも魅力に感じました。AI のシステムは継続的なメンテナンスが管理者の負担となるケースも少なくないのですが、Allganize はマニュアルなどを見なくても簡単に操作でき、専門的なスキルを持たない管理者でも、今の利用状況からどうメンテナンスを施していけばよいのかがわかるようになっています」(落合 氏)。
船山 氏も「自然言語処理は、大量のデータを保有かつ整備していて、さらにそのデータを継続的に教育するためのヒトや、データの準備・トレーニングを行うためのマシンパワーであるモノ、そして費用が揃っていることで初めて利用が出来るエンタープライズ向けのソリューションで、使える企業は限られている」と課題認識していました。
一方で、Allganize の AI ソリューションは、事前にトレーニングされた学習モデルを保有しているので、利用企業ごとに事前トレーニング済学習モデルとの差分学習を行うだけで利用できます。
これは、従来の自然言語技術が抱える大きな課題を解決した、「誰でも簡単に自然言語処理を利用できるようにした」革新的なソリューションだと評価しています」と、Allganize の AI ソリューションが持つ魅力を語ります。
また、Allganize の AI ソリューションには機械読解技術が搭載されており、自然言語を使って非定型の文章を読み込むことができます。この機能を活用することで、FAQ の検索システム構築の手間が大幅に削減されると岡 氏。「極端な話、クエスチョンとアンサーの紐付けを行わなくても、質問を入れるだけでマニュアルやルールの文書から回答箇所を探して提示させることが可能になります。Excel ファイルの表を検索することも可能で、FAQ だけでなく社内文書の横断検索にも利用できると感じました。」と評価します。
デジタライゼーションを事業戦略の柱と位置付け、先進テクノロジーの活用を積極的に推進する三井住友銀行では、まだ世の中に浸透しきっていない最新技術でも SMBCグループシリコンバレー・デジタルイノベーションラボを HUB に評価を行い、積極的に取り入れています。SMBCグループでは、スピーディに Allganize の AI ソリューションの採用を検討。Allganize の CEO と出会ってから 3 カ月程度で、その技術の価値を見極め、コールセンター業務への導入に向けて推進を開始しました(船山 氏)
Allganize Japan の代表取締役である佐藤 康雄 氏も、エンタープライズ企業らしからぬスピード感に驚いたと語ります。
「Allganize はグローバルで大手企業に AI ソリューションを提供していますが、PoC 実施の判断から実行までにかなりの時間を要するケースも少なくありません。SMBCグループはシリコンバレー・デジタルイノベーションラボさまも日本側のシステム統括部さまも非常に判断が速く、実用化を見据えたシステム構築もスピード感を持って進められました。」(佐藤 氏)。
Azure Kubernetes Service をベースに、金融機関基準のセキュリティ対策を実装
Allganize の AI ソリューションの実装環境には、コンテナオーケストレーションシステムである Kubernetes が推奨されています。今回のプロジェクトでは、ベースとなるコンテナサービスとして「Azure Kubernetes Service」(以下、AKS)が採用されました。船山 氏はそのきっかけを振り返ります。
「SMBCグループは、以前から『Global Systemically Important Financial Institutions』の略で、グローバルな金融システムの中で極めて重要な金融機関を指す G-SIFIs 初の O365 全面採用を行うなど、マイクロソフトさまとは、さまざまな局面でご一緒していますし、Microsoft Azure のパワーユーザーでもあります。今回 Allganize のシステムがコンテナ技術を使っていることは知っていましたので、イ・チャンス氏に AKS での稼働実績などについて確認したところ、韓国のお客さまの案件において導入実績があることが分かりました。そこで、日本マイクロソフトさまに相談、ご紹介したのがきっかけとなります」(船山 氏)。
実際のシステム構築を担う森 氏は、AKS を採用した経緯をこう語ります。
「当グループのクラウド活用戦略では、大方針として『マルチクラウド』と『セキュリティファースト』を掲げており、AKS だけでなくさまざまなベンダーの製品を検討しました。当時は、エンタープライズクラウドにおける Kubernetes の実績やベストプラクティスがほとんどなく、その一方でコールセンターからは早く使いたいという要請が強く、選定には苦労しました。そのなかで、マイクロソフトは金融機関が求めるセキュリティレベルでのリファレンスアーキテクチャをいち早く検討しており、当行向けの勉強会を何度も開いてくれていました。構築を担当するベンダーからも、AKS を活用することでスケジュール的に良い提案をいただき、AKS の採用を決定しました」(森 氏)。
Allganize の佐藤 氏も、「我々が今回の AI システム構築で重視したのは『パフォーマンス』『セキュリティ要件』『コスト』ですが、マイクロソフトからはこの 3 つを満たすための現実的な提案をいただけました」と、コンテナサービスに AKS を利用する際にマイクロソフトから手厚いサポートが受けられたことを評価します。
また、Allganize は今回のプロジェクトにおいて、B2B のスタートアップ企業を支援するマイクロソフトのグローバル プログラム「Microsoft for Startups」を利用しています。「AKS 上に実装する際に、Microsoft for Startups プログラムの無料クレジットが利用できたので、コストをかけずに迅速にテスト環境の構築と検証作業が行えました」と佐藤 氏はその効果を語ります。
SMBCグループでは、AKS を使ったシステム構築は今回が初めてで、適切なセキュリティ対策案を検討するためには複数組織間の密接な連携が必要だったといいます。「『IT企画部』だけで進めるのではなく、セキュリティリスクを特定して、適切なリスク軽減策を検討する『システムセキュリティ統括部』、SMBCグループのシステム開発・保守を担う『日本総合研究所』 と一致団結して、リスク低減策の必要十分性について入念な検討と議論を重ねました。」と森 氏。その際、マイクロソフトが提示するリファレンスアーキテクチャと適切なアドバイスには非常に助けられたと当時を振り返ります。
こうして、マイクロソフトのリファレンスアーキテクチャをベースに、SMBCグループ独自のログ監視の仕組みや不正アクセス制限・検知などを組み込んだ照会応答支援システムが構築され、SMBC日興証券と三井住友カードのコールセンター業務への導入が進められています。SMBCグループのデータセンターとクラウド(Microsoft Azure)を閉域網で接続し、ネットワークを適切に管理することや、クラウドやコンテナを利用する上でのリスクに適切な対処をすることでセキュリティを担保しているといいます。現在はシステムの構築中で、2021 年 6 月から運用を開始する予定となっています。
SMBCグループ内の業務領域に止まらず、社会に価値を届ける
SMBCグループでは、BERT/ALBERT 技術と独自の自己教師学習技術が取り込まれた Allganize の AI ソリューションをコールセンター業務以外の領域にも拡大していく予定だといいます。船山 氏は、今回のプロジェクトをふまえた今後の展望をこう語ります。
「どの会社、どの部署でも“言語”は最もベーシックで豊富に蓄積されたデータの一つだと思います。一方で従前より申し上げている通り、そのデータを使えるレベルにするのには課題がございました。これからは、Allganize のような高度な自然言語処理技術を活用することで従来コスト面などが課題で取り組むことのできなかった業務への利用が期待できます。今後も Allganize と密接に連携し、ベーシックでありながらもっとも重要な“自然言語理解”という技術のユースケースを探索していきたいと考えています」(船山 氏)。
自然言語処理技術は、すでに SMBCグループのさまざまな領域で活用されていますが、今後は、三井住友銀行での「コールセンターでのお客様の声分析」「ホールセール営業での折衝履歴」「ニュース記事などからの業界動向把握」などにも活用していきたいと森 氏。実業務の課題を確認して PoC を実施したうえで、Allganize の技術を最適な領域に適用していければと期待を口にします。落合 氏も「三井住友銀行だけでなく、SMBCグループ全体で効果的な活用領域を模索していきたい」と力を込めます。
栗本 氏は、デジタル戦略部の観点から見た今後の展望をこう語りました。
「SMBCグループとしては、グローバルなソリューションプロバイダーとして社会に貢献していくためにも金融にとらわれない新しい事業を作り出す必要があると考えています。その観点から、Allganize やマイクロソフトなどのパートナーとともに新しい事業を構築し、社会に価値を届けたいと思っています。今回の取り組みを SMBCグループ内だけに留めるのではなく、たとえば他の金融機関や他業種の企業に横展開して、ビジネス価値の向上に寄与していければと考えています」(栗本 氏)。
さらに海外にも多数の拠点を持つ SMBCグループでは、Allganize の AI ソリューションをグローバルのビジネスを展開していくことも視野に入れているといいます。実用化を見据えたデジタライゼーションを推進する SMBCグループと、最先端の自然言語処理技術を追求し続ける Allganize、そしてデジタライゼーションを支えるサービスを提供するマイクロソフトの連携により生み出されるイノベーションには、今後も注視していく必要があるでしょう。
※写真撮影のため、一時的にマスクを外した写真となっております。
[PR]提供:日本マイクロソフト