リウマチ・整形外科領域のスペシャリティファーマとして事業を展開するあゆみ製薬株式会社。同社は SAP ECC 6.0 の保守サポート期限終了をきっかけに、パブリッククラウドで稼働していた SAP システムを Microsoft Azure に 移行し、S/4HANA 化をいちはやく完了させました。Brownfield 方式での S/4HANA 化は製薬業界でもほとんど例がないなか、パートナーの株式会社JSOL とマイクロソフトで密接に連携しながら「フルリモート」でプロジェクトを実施。Azure サービスとの連携性を高めながら DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していく体制を築きました。

ECC 6.0 の S/4HANA 化と他社クラウドからの Azure 移行を同時に実施

あゆみ製薬株式会社 ロジスティック&システム本部 本部長 執行役員 細川 民雄 氏

あゆみ製薬株式会社
ロジスティック&システム本部
本部長 執行役員
細川 民雄 氏

「健康を願う人々が痛みから解放され、自らの足で『歩み』を進めていけるように」という願いのもと 2015 年に設立されたあゆみ製薬。参天製薬の抗リウマチ薬事業と、昭和薬品化工のカロナールを主とする医科事業を承継する同社は、リウマチ・整形外科領域のスペシャリティファーマとして、関節リウマチ、鎮痛、変形性関節症、骨粗鬆症などの分野で製品を展開しています。加えてリウマチ・整形外科領域だけでなく、バイオシミラー(リウマチ)の適応疾患である炎症性腸疾患(IBD)領域にも注力しています。

あゆみ製薬の強みは、歴史と伝統ある企業文化に、柔軟でスピード感のあるベンチャースピリットを融合させた「歴史と伝統のあるベンチャー」であることです。ファンドの出資を受けながら、フレキシブルでスピード感を持った経営を実践し、経営理念である「人々の QOL を高め、日本の医療の未来に貢献する」ことを目指しています。

IT システムについても、堅牢性や安定性、セキュリティ、ガバナンスといった医療・ヘルスケア業界で必須となる要素を押さえながら、薬価改定などのビジネス環境の激しい変化に素早く追随できるスピードを追求しています。あゆみ製薬の IT 活用をリードしているロジスティック&システム本部 本部長 執行役員 細川 民雄 氏はこう話します。

「グローバル化や企業買収・合併など、経営環境が大きく変わるなか、スピーディーな意思決定を行うために、IT と業務を一体化する流れが加速しています。当社も物流・サプライチェーンと IT を一体的に運営する体制のもと、顧客価値を高めるため DX の取り組みに力を入れています」(細川 氏)。

DX の取り組みを加速させるために取り組んだのが、SAP システムのクラウド間移行と SAP S/4HANA 化です。あゆみ製薬では 2015 年 8 月からパブリッククラウド上で SAP ERP Central Component(ECC)6.0 ベースの基幹システムを稼働させてきました。SAP ECC 6.0 が 2027 年に保守サポート期限の終了を迎えることを受け、2020 年 5 月からシステム基盤の Azure への移行と、SAP S/4HANA へのアップグレードを実施。これにより、高い堅牢性とセキュリティを持ちながら、DX に向けてクラウドサービスを徹底的に活用できる体制を構築したのです。

最新プラットフォームへの迅速な移行でリスクを回避して DX を推進

あゆみ製薬の SAP システムは、販売管理(SD)、財務会計(FI)、管理会計(CO)、生産管理(PP)などの基本モジュールで構成されています。製造実行システム(MES)や倉庫管理システム(WMS)、ハンディーターミナルシステム、小口現金システム、ワークフローなどさまざまなアプリケーションと連携するためのインタフェースを実装し、DX の取り組みを推進するためのデータ活用基盤になっていることが特徴です。S/4HANA へのアップグレードをいちはやく進めた狙いの 1 つに、データ活用のさらなる推進があったといいます。

「SAP ERP システムと Power BI を連携させてダッシュボードを構築し、経営の可視化や分析を行っています。SAP S/4HANA へのアップグレードにより、Fiori や機械学習などを活用した DX の取り組みをさらに進められるとの期待がありました。製薬業界では SAP システムがデファクトスタンダードであり、当社のストラテジとして、将来的に SAP 以外の基幹システムが採用される可能性はありません。いちはやく SAP の最新プラットフォームに切り替えることで、保守期限間近になってベンダーの対応人員が不足するといった、古いシステムを稼働させ続けるリスクを減らすこともできます」(細川 氏)。

2015 年に SAP システムを初めてパブリッククラウド上に構築した際も、そのパブリッククラウドが SAP 認定を取得するのとほぼ同じタイミングで稼働を開始するなど、業界の先駆者的な立場で取り組みを進めてきました。当時は基幹システムをパブリッククラウド上で稼働させることに不安や懸念があったといいますが、「いまになってわかるのは『クラウドなしに新しい取り組みはできない』ということです。今回の S/4HANA や Azure への移行も、さまざまなビジネスメリットを評価したうえでの判断でした」と細川 氏は振り返ります。特に、既存のパブリッククラウドから Azure に移行した背景には、シームレスなデータ活用への期待があったといいます。

「オンプレミスとクラウドで複数の Active Directory(AD)サーバを構築して、ガバナンスを確保しています。また、業務アプリケーションとして Microsoft 365 を活用していますが、最上位プランの E5 が提供する多彩なセキュリティ機能を活用しています。『SAP on Azure』を実現することで、こうしたマイクロソフトのサービスの機能をフル活用できます。たとえば SAP アプリケーションを Microsoft Defender for Endpoint(旧 Defender ATP)で保護することで、より強固なセキュリティを確保しながら SAP データを活用することが可能になります」(細川 氏)。

SAP on Azure の知見とノウハウを持つパートナー JSOL を高く評価

移行元の SAP 環境は、サーバ OS として Windows Server 2016、データベースサーバには Microsoft SQL Server 2016 を採用し、ECC 6.0 にエンハンスメントパッケージを適用して運用されてきました。5 年にわたって非常に安定して運用してきており、機能面での不足やシステム運用での課題はまったくなかったといいます。

参考:株式会社JSOL 導入事例
SAP ECC6.0のEOSを受け、JSOLにS/4HANAへのマイグレーションを依頼。コロナ下の全オンライン体制でプロジェクト完遂

株式会社JSOL 法人ビジネスイノベーション事業本部 居城 総一 氏

株式会社JSOL
法人ビジネスイノベーション事業本部
居城 総一 氏

「クラウド上に新規に SAP システムを構築する際は、追加アドオン開発やカスタマイズを極力行わず、標準機能を活用することを強く意識しました。製薬業界では、統合や買収によってシステム環境も変更を余儀なくされるため、移行や改修がしやすいシステムを構築することが重要です。また、SAP の構築・運用パートナーとして製薬業界で多くの実績がある JSOL を選定し、JSOL が提供する製薬業界向けテンプレート『J-Model』や知見を活用して、短期かつ安価な導入を実現しました」(細川 氏)。

こうした Fit to Standard の徹底は、S/4HANA 化と Azure 移行においても実践されました。S/4HANA 化では、既存機能を変えずに基盤をアップグレードするテクニカルアップグレードを採用し、JSOL が持つ Azure での環境構築のノウハウを活用しています。細川 氏は JSOL について「体制、コスト、スキルの三拍子がそろった SAP パートナーです。特にエンジニアの質が高く、スキルとコミュニケーション力は圧倒的だと感じています」と評価します。

JSOL の法人ビジネスイノベーション事業本部 居城 総一 氏は、JSOL が持つ SAP の知見とノウハウについて、こう説明します。

「JSOL 独自開発のアセスメントツールを用意しています。アセスメントツールを用いると、SAP HANA への移行において、どこが課題になるか、改修のポイントを把握できます。今回の Azure 移行でも、アセスメントツールを使って効率よく移行を進めることができました」(居城 氏)。

株式会社JSOL プラットフォーム事業本部 北見佳史 氏

株式会社JSOL
プラットフォーム事業本部
北見佳史 氏

BASIS を中心に基盤やインフラを担当する JSOL プラットフォーム事業本部 北見佳史 氏は SAP on Azure に関する同社のノウハウをこう説明します。

「マイクロソフトとは Azure が SAP 認定を受けた当初から、密接に連携する体制を築いています。Azure に新規に S/4HANAを構築する案件や ECC6.0 を移行する案件も数多くこなしています。今回の Brownfield 方式による S/4HANA 化はファーストケースとなりましたが、これまでのノウハウを活用して不安なく乗り切ることができました」(北見 氏)。

キックオフからカットオーバーまでフルリモートで実施、Teams も活用

実際、2020 年 5 月にキックオフから 2020 年末のカットオーバーまで、ほぼトラブルなく移行作業が進んだといいます。

「Azure 上でのアセスメント環境構築、2 回のリハーサルと各種テスト、年末の本番移行作業まで非常にスムーズに進みました。移行作業は初日に Azure への移行、2~3 日目に S/4HANA 化、4 日目に事後作業というスケジュールでした。アセスメントでは 5 日間を想定していましたが、実際には 3.5 日間で完了させています」(細川 氏)。

コロナ禍でデータセンターのニーズがグローバルに逼迫したことを受け、HANA 用の Azure インスタンスである M32ls の提供が遅れる可能性もありましたが、マイクロソフト、JSOL、あゆみ製薬が協力して、スケジュール通りのインスタンス稼働を実現しました。

特筆すべきは、こうした 11ヶ月にわたる移行プロジェクトがキックオフからカットオーバーまでフルリモートで行われたことです。連絡やミーティングは Microsoft 365 のメールや Microsoft Teams による Web 会議、チャットを使って行い、直接顔を合わせたのはカットオーバー後だったといいます。細川 氏は、フルリモートでの S/4HANA 化と Azure 移行が実現できた理由について、こう説明します。

「これまでの SAP 構築・運用の経験のなかで、JSOL、マイクロソフト、当社の間で強い信頼関係ができていたことが大きいと思っています。JSOL もマイクロソフトも、わからないことを相談するとすぐに回答してくれます。マイクロソフトとは定期的にコミュニケーションをとるなかで、必要に応じて MTC(マイクロソフト テクノロジーセンター)のスペシャリストから直接情報を提供してもらえるなど、事業パートナーとして欠かせない存在になっています。そうした土壌があるからこそ、フルリモートでの移行ができたと考えています」(細川 氏)。

JSOL 側にとっても、細川 氏自身が SAP やインフラに対する知識やスキルを持つエンジニアであり、現場を知る CIO として業務部門との調整を含めたスムーズなプロジェクト推進を実践したことが大きかったと口をそろえます。

居城 氏が「SAP の詳細仕様も Teams で伝えるだけで内容を理解して、業務部門との調整まで行ってくれます。本来説明に要する時間を別の作業に使えるため効率的に進めることができました」と言うと、北見 氏も「アプリからインフラの課題までを理解して、その場で意思決定されるので、持ち帰りもありません。これはすごいことで、私自身はじめての体験でした」と振り返ります。

マイクロソフトのサービスと SAP を連携し、セキュリティ強化とデータ活用を推進

2021 年 1 月 5 日から新しい SAP 環境が稼働しましたが、S4/HANA 化と Azure 移行の効果はさまざまな面で表れています。

まずは ECC 6.0 の保守サポート期限終了にいちはやく対応できたことがあります。プロジェクトもトラブルなく完遂したことで、スケジュールの遅延や追加コストの発生もなく、将来的なリスクも避けることができました。

運用コストの面からも 3 年間のリザーブドインスタンスへの移行によって、データベースインスタンスの運用コストを通常契約よりも 7 割ほど削減することができました。また、運用効率も JSOL が持つ SAP on Azure のノウハウを生かしながら、これまでと同等以上の運用品質を担保しています。

最も大きな効果としては、今後、S/4HANA 化による新機能の提供と、Azure の各種サービスの連携性を活用した DX の推進が加速できることが挙げられるでしょう。細川 氏はこう話します。

「SAP については 1 年ほど運用してから、機械学習などの新機能についてビジネスメリットを評価していくことになります。まずは Fiori の評価からスタートする予定です。Azure については、サイバーセキュリティ対策を中心に SAP システムとの連携を強化していく方針です。すでに Microsoft Defender for Endpoint を使った AP サーバの保護を行っています。それ以外では、複数ある AD サーバの Azure AD Premium P2 への統合と多要素認証の実装や、E5 のセキュリティアドオンである Microsoft Cloud App Security(MCAS)を使ったクラウドアプリの保護、Microsoft Defender for Identity(旧 Azure ATP)による ID 保護の強化、インサイダーリスクマネジメント対策や監査対応などに取り組んでいます。マイクロソフト製品を総合的に採用することで、サービスの連携性と管理性を高め、クラウドを活用した DX を推進していきます」(細川 氏)。

こうしたニーズを受けて、「これまでは IaaS 面からサポートすることが多かったのですが、Azure の PaaS 機能と、SAP の PaaS基盤である SAP Business Technology Platform(旧 SAP Cloud Platform)を活用した提案や情報提供などを行っていく予定です。」と北見 氏。マイクロソフトも SAP on Azure によって DX 推進の基盤を構築したあゆみ製薬を今後も積極的に支援していきます。

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