稲畑産業株式会社は、1890 年に京都で創業した稲畑染料店を起源とする化学分野の専門商社です。130 年を超える歴史を有する同社はグローバル展開を積極的に進め、世界 17 カ国※に拠点を設立。グループ連結売上の半分以上を海外が占めています。同社は海外拠点の基幹システム標準化に向け、導入していた SAP 社製 ERP を最新バージョンである SAP S/4HANA へコンバージョンするにあたり、三井情報株式会社(以下、三井情報)にプロジェクトを依頼し、従来のプライベートクラウド環境から Microsoft Azure(以下、Azure)へと移行しました。本稿ではこのプロジェクトに携わった稲畑産業、三井情報両社の担当者から話を伺い、プロジェクトの実像に迫ります。
海外拠点の共通 ERP 基盤確立に向けて SAP のシステムを導入
稲畑産業はグループ全体で 17 カ国・約 60 の海外拠点※を展開しています。近年、海外事業の売上高が日本国内を上回り、海外比率が半分を超える状況にあります。
※2021年3月末時点
これら海外拠点の基幹システムは、各拠点が個別に選定・運用してきました。海外事業の重要性が高まる中、同社では「SAP ECC6.0(SAP ERP Central Component)」を海外拠点の共通 ERP 基盤として導入し、基幹システムの標準化を図ることを計画しました。「SAP はグローバルに展開しているシステムですから、海外のいくつもの国へ導入するにあたり、どの国でも柔軟に対応できることを強みと捉え、SAP ECC6.0 を選択しました」と、稲畑産業 情報システム室グローバル基盤部 部長代理の原田 隼人 氏は語ります。
このプロジェクトのパートナーとして選定されたベンダーが三井情報です。実は稲畑産業と三井情報は、それまで深い付き合いがあるわけではありませんでした。
「当社が望む要件に対して、三井情報の提案内容が最も具体的で、現実的でした。最初は 8 社から提案をいただき、内容を見て絞っていきました。最終的に三井情報ともう 1 社が残ったのですが、両社と話をしていく中で当時の三井情報担当者の SAP についての深い知見と人柄を信頼できたことも、選定の重要なポイントとなりました」(原田 氏)。
三井情報ではどのような案を提示したのでしょうか。同社 SAPソリューション部 第一技術室の加島 大嵩 氏はこう振り返ります。
「2014 年に稲畑産業様からいただいた RFP(提案依頼書)には、海外拠点の売上比率が高いものの基幹システムは各拠点で個別に構築していたため、業務プロセスの標準化が遅れ、業務管理面・統制面でのリスクや非効率性が経営課題となっていることが記されていました。三井情報としてはこれらの課題を的確に把握し、十分に応えられる最適なソリューションとして、SAP ECC6.0 をベースとした MKI-Trade Suite を提案できたことが高く評価されたのだと考えています」(加島 氏)。
商社のシステム構築で蓄積した知見を活かすソリューション
三井情報は三井物産のグループ企業であり、三井物産のシステムへの取り組みを通じて、商社業務に深い知見を持っていました。そのため、同じ商社である稲畑産業の課題にもフィットする提案ができたのです。
三井情報は、SAP ECC6.0 をベースに商社・卸売業・メーカー販社向けに開発した ERP テンプレート「MKI-Trade Suite」を稲畑産業に提案しました。同テンプレート開発に関わった同社 商社第二技術部 第三技術室 マネージャーの下島 耕太 氏は「MKI-Trade Suite は国内だけでなく海外 40 カ国の法制や税制に対応した製品として多数の導入実績があります。稲畑産業様の課題の解決に適したテンプレートであることと、実績に基づく具体的な展開方法論に信頼を感じていただけたのでしょう」と話します。
SAP ECC 導入は順調に進みましたが、稲畑産業は、導入の完了を待たずに SAP S/4HANA へのコンバージョンを決定しました。原田 氏はその経緯を次のように説明します。
「全拠点へのSAP ECC 導入は 2019 年に完了を予定していましたが、その前年に経済産業省の DX レポートでいわゆる“2025年の崖”問題が提起されたことに加え、当時は SAP ECC も同じ 2025 年にサポート期限を迎えるということで、約 5 年後にまた対応が必要になるという話が社内で出ました。2025 年が近づけば近づくほどベンダーも手一杯となり、リソース不足が想定され、それに伴うコスト高騰の懸念もあったことから、当社としては早めの対応によりトータルでメリットが出せるのではないかと考え、SAP S/4HANA へのコンバージョンを決断しました」(原田 氏)。
稲畑産業は、早期コンバージョンによって SAP S/4HANA の新機能のメリットを最大限に享受できると考え、決断したのです。
SAP S/4HANA コンバージョンを機に Azure への移行を実施
SAP ECC 自体は SAP が提供するプライベートクラウド上で運用していましたが、SAP S/4HANA コンバージョンに伴い、稲畑産業ではパブリッククラウドへの移行を検討します。2018 年秋、このパブリッククラウド移行も含めたコンバージョンを三井情報に依頼。稲畑産業は当時から国内の基幹システムなどで Azure を利用しており、そうした他のシステムとの親和性や信頼性を念頭に、SAP S/4HANA コンバージョンでも Azure を活用することに意義を感じます。
「当時は経営層からの要望で BCP(事業継続計画)対策の強化も検討していたのですが、Azure Site Recovery(ASR)に利便性を感じていたことも、移行先のパブリッククラウドとして Azure を選択した大きな理由です」と原田 氏は付け加えました。
SAP の ERP を Azure の機能を活用して実現する「SAP on Azure」ソリューションを採用したこのプロジェクトにおいても、三井情報がパートナーとなりました。原田 氏はその事情をこう説明します。
「コンバージョンにあたってプロジェクトを可能な限り短くしたいと考えていましたが、他社事例を調べると早いところでも 1 年 2 カ月は要していました。三井情報には SAP S/4HANA コンバージョンと Azure 移行の同時対応の実績がすでにあったため、相談することにしました」(原田 氏)。
依頼を受けた背景として、Azure 移行を担当した三井情報の SAPソリューション部 第三技術室の恩田 雄治 氏はこう話します。
「三井情報は当時、三井物産の海外基幹システムの SAP S/4HANA コンバージョンを実施し、コンバージョンの方法論を確立していました。同時に三井物産を始めとした色々なお客様の基盤を Azure に移行しており、そこで得た Azure 移行の知見を蓄積していました」(恩田 氏)。
稲畑産業の要望は、MKI Trade-Suite のビジネスプロセスを変更せずに SAP S/4HANA へ切り替えるストレートコンバージョンでした。三井情報は導入方法論を基にプロジェクト計画を立案し、「9 カ月で本番稼働できる」と返答します。それならばということで、年が明けた 2019 年夏に詳細アセスメントを実施し、同年 11 月からS/4HANAコンバージョンと Azure 移行の同時対応プロジェクトがスタートしました。
「新システムへの切り替え時に業務を止めるダウンタイムを 50 時間以内に納めることが重要な目標でした。PoC を通じてダウンタイム削減施策を実施し、リハーサルを通じて作業の精度・効率性を上げ、本番で確実に目標時間内に収められるよう、全力を注ぎました」と、プロジェクトマネージャーを務めた下島 氏。実際には 48 時間のシステム停止で切り替えが終了しました。「国内の事例では 4 日間で切り替えたといった話を聞いていたので、48 時間で切り替えが済んだのはとても印象的でした。停止時間を短くできたことで、各海外拠点の実業務への影響も最小限に抑えられました」と原田 氏も振り返ります。
Azure の機能を盛り込んだマネージドサービスの初展開を実現
このコンバージョンを機に、稲畑産業は Azure 上で OS/DB/SAP Basis を運用する「MKIマネージドサービス for SAP S/4HANA」を導入します。
「もともとアプリケーションの運用保守は 三井情報にお願いしていましたが、Basis 作業の一部とインフラの運用は他社に依頼していました。しかし SAP ERP のアプリケーションと Basis 間のオペレーションが両社に跨ることに非効率さを感じており、マネジメントについて更なる合理化を模索していました。その点、三井情報のマネージドサービスはマルチベンダーマネジメントのオーバヘッドを解決し、更に運用に必要なサービスメニューが標準搭載されていることから、採用を決定しました」(原田 氏)。
今回のコンバージョンの取り組みと三井情報のマネージドサービスで運用保守が従来よりも効率的になり、今後の DX に向けた第一歩になったと稲畑産業は評価しています。また三井情報も、三井物産の取り組みで培った SAP on Azure の知見と、それを基に確立した方法論が見事に機能したことで自信を深め、他社の SAP S/4HANA コンバージョン案件でも Azure 移行をセットで提案するビジネスモデルに注力しています。運用保守が評価されたことで、三井情報ではサービスの価値を確認できたと喜んでいます。
一方、プロジェクトを通じてマイクロソフトからは強力なサポートを得られたと、恩田 氏は評価します。「MKIマネージドサービスでは Azure の機能をふんだんに使っています。稲畑産業様の案件でも、提案時点でマネージドサービスとしてまとめていた機能だけでなく、プロジェクト期間の直前や最中にリリースされた新しい Azure サービスも積極的に組み込みました。先進機能をうまく導入につなげられたのは、マイクロソフトの協力あってこそだと考えています」(恩田 氏)。
三井情報そして稲畑産業のビジネスを、Azure のさらなる進化とマイクロソフトのサポートがこれからも支えていくことでしょう。
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