2018 年 4 月、大阪市交通局が民営化され、大阪市高速電気軌道株式会社(以下、Osaka Metro)による地下鉄・新交通システムの運営が開始されました。鉄道事業を基幹とし、流通や都市開発など多角的に事業を展開する同社では、民営化を機に、オンプレミス上で運用していた会計/購買/工事/固定資産といったシステムをクラウド上に移行することを検討。2019 年 7 月から SAP ERP のクラウド移行に着手し、2019 年 12 月より本稼働を開始しています。本プロジェクトのクラウド基盤として選択されたのが「Microsoft Azure」でした。
オンプレミス環境のリプレースを機に、SAP ERP のクラウド移行に着手
Osaka Metro では 2025 年に開催予定の大阪万博を大きなマイルストーンと捉え、MaaS(Mobility as a Service)を推進し、ハードウェア・ソフトウェアの両面から鉄道をはじめ交通事業全体の課題を解決するための取り組みを進めています。昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、社会の生活様式は大きく変化しており、交通インフラと周辺事業に携わる同社の中期経営計画においても、ICT の活用は極めて重要な役割を担っています。
こうした状況のなか、これまでオンプレミス環境で運用を続けてきた SAP ERP を、クラウドサービス上に構築する移行プロジェクトが立ち上がりました。Osaka Metro の基幹システム運用に携わる ICT戦略部 ICT運用課長の阪口 大輔 氏は、クラウド移行の経緯をこう語ります。
「これまでオンプレミスで運用してきた会計領域のシステムが保守切れとなるタイミングで、オンプレミスを続けるかクラウドに移行するかの評価を行いました。従来のシステム基盤は老朽化が進んでおり、日々の運用業務にも課題を抱えていました。こうした保守的な要素も含めトータルで評価し、クラウドへの移行を選択したのです」(阪口 氏)。
Osaka Metro は SAP ERP のクラウド移行に際し、アビームコンサルティング株式会社が提供する「ABeam Transportation Solution」(ATS)を採用しました。鉄道事業のシステム構築に精通する同社のノウハウを活かして開発された ATS は、多くの鉄道会社に導入されている実績の高いソリューションです。今回のクラウド移行においてプロジェクトマネージャーを務めたアビームコンサルティング P&T Digitalビジネスユニット ITMSセクター Expert 谷井 悟郎 氏は、ATS の特徴について解説します。
「ABeam Transportation Solution(ATS)は、鉄道事業の経理業務や工事管理、購買、資産管理などに合わせたテンプレートを提供しています。工事管理や資産のグループ償却など、他のパッケージにはない鉄道事業に特化した機能をテンプレート化し、短期間で導入できるようになっています。単なるパッケージ製品ではなく、プロトタイプで検証しながら導入企業様と連携して調整を行い、システムを構築していきます」(谷井 氏)。
Osaka Metro では、オンプレミス環境の SAP ERP においても、アビームコンサルティングのテンプレートを採用していました。アビームコンサルティング エンタープライズビジネスユニット トランスポーテーションインダストリーシニアマネージャーの新田 高志 氏は「民営化を見据えて 2015 年から導入を進め、会計、購買、工事、固定資産のテンプレートを運用してきており、今回のプロジェクトはこれらをそのままクラウドへと移行させる取り組みといえます」と話します。
“変わらないこと”が大きなメリット、クラウド化で保守運用支援も効率化
SAP ERP のクラウド移行プロジェクトにおいて、重要となるのは移行先となるクラウド基盤の選定です。Osaka Metro とアビームコンサルティングは、2019 年 5~6 月にかけて集中的に選定作業を行い、Microsoft Azure の採用を決定しました。その決め手は、アビームコンサルティングが Microsoft Azure の環境構築に精通していたことと、保有する SQL サーバーライセンスをクラウド上のシステムに持ち込みできること、すなわちコスト面での優位性にあったといいます。
「他のクラウドサービスでは、SAP 用の SQL サーバーのライセンスを購入し直す必要がありますが、Azure では既存のライセンスをそのまま持っていけるので、導入コストを大幅に削減できます。可用性やセキュリティ面ではどのクラウドサービスも高い水準に達しているので、コスト面での優位性が採用の大きな要因になったといえます」(谷井 氏)。
移行作業は、オンプレミスの環境を中間サーバーへと移行させ、サポートパッケージを適用。そこから本環境に移行させるという 2 段階のプロセスで進められました。途中、シングルサインオン環境の構築で当初想定していなかった AD への参加が必要になったものの、Microsoft Azure 上で環境を作成して何度もテストできたため、特にトラブルに至らなかったといいます。移行自体はスムーズに進められ、作業開始から 6 カ月後の 2019 年 12 月からクラウド上の SAP ERP への切り替えが完了しました。会計システムの運用を担当している Osaka Metro ICT戦略部 ICT運用課 係長の横川 裕司 氏と、同 ICT運用課 会計システム運用担当の町谷 宏樹 氏は、オンプレミス環境と同様に運用できることに驚いたといいます。
「クラウドへの移行という大きな変革にも関わらず、オンプレミス上のシステムとまったく同じ運用ができること、すなわち“変わらないこと”が、運用担当者として大きなメリットだと感じました」(町谷 氏)。
阪口 氏は、クラウド移行のメリットとしてリモートによる運用保守サポートが実現したことを挙げます。
「オンプレミスのときは現地での対応が中心でしたが、Azure 上に移行したことでアビームコンサルティングさんがリモートで対応してくれるようになりました。コロナ禍で自由に移動することができない現状においては、見逃せないメリットといえます」(阪口 氏)。
アビームコンサルティングの谷井 氏も「クラウド化したことで、弊社内からはもちろん、在宅勤務環境からも運用保守作業が行えるようになり、より迅速な対応が可能になりました」と、クラウド移行のメリットを実感しています。
クラウド移行の推進は、鉄道事業における DX 実現の鍵となる
会計システムのクラウド移行プロジェクトは 2019 年 12 月で完了しましたが、Osaka Metro では、他の領域における Microsoft Azure への移行も検討しているといいます。
「当社の中期計画ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が重要なミッションです。お客様の動向や駅・車両といったデータを分析・活用する際には SAP ERP のデータも不可欠と考えており、その意味でも今回のクラウド移行プロジェクトは DX 実現の先行的な取り組みといえます。今後も、さまざまなシステムをクラウド上に構築し、安全性を担保しながらデータを活用できる環境を構築していきたいと考えています」(阪口 氏)。
短期間で既存のオンプレミスと同様に運用できるシステムを Microsoft Azure 上に構築した本プロジェクトの実績は、Osaka Metro の DX において重要な役割を果たしていくはずです。鉄道事業に携わる企業はもちろん、MaaS の推進に関わるさまざまな業種の企業・組織にとって、Osaka Metro とアビームコンサルティングの今後の取り組みは、重要な気づきが得られるものとなるでしょう。
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