1969 年の池袋PARCO 開業から 50 年あまりにわたって、ファッションとアート、カルチャー、エンターテインメントを軸にショッピングの楽しさを提案し続けてきたパルコグループ。「訪れる人々を楽しませ、テナントを成功に導く、先見的、独創的、かつホスピタリティあふれる商業空間の創造」を経営理念に、時代をリードするさまざまな企画やイベントを開催しています。
2019 年には、パルコの原点である「インキュベーション」「街づくり」「情報発信」というコンセプトを進化させた次世代型商業施設として、3 年間の建替え工事期間を経て渋谷PARCO がグランドオープン。従来の商業施設という枠を超え、デザイナーやクリエイターと共創しながら、新しい刺激や楽しさの体験価値を提案しています。この渋谷PARCO のリニューアルオープンで来店者をひときわ楽しませたのが XR を駆使したこれまでにない空間演出でした。XR とは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)等の総称で、仮想的な空間をまるで現実の世界のように感じられる技術を表します。渋谷PARCO が行った XR の取り組みは、いま小売業界が模索する「実店舗ならではの体験を創造し、その魅力と集客力を増す」という視点からも大きなインパクトがあるものでした。
1 カ月で 2 万 5,000 人が楽しんだ VR 空間の取り組み
今回の渋谷PARCO の空間演出において、まず 5F では、吹き抜けや廊下の空間を活用し、VR ゴーグルやスマートフォンを使って空間を覗くと、3D クリエイティブコンテンツがあたかもその場に存在するかのように表示されるというバーチャルショーケース「SHIBUYA XR SHOWCASE」を展開。また 9F では、VR 空間をデザインするクリエイター発掘育成プロジェクト「NEWVIEW」の成果作品を体験できる「NEWVIEW EXHIBITION」を開催しました。
これらの取り組みでは、開業 1 カ月で延べ 2 万 5,000 人を動員し、その後も XR に関連する展示が継続的に実施されるなど、新しい渋谷PARCO を象徴する企画となりました。渋谷PARCO だけでなく福岡PARCO や名古屋PARCO など、全国規模での継続的な VR 関連の企画やイベントを積極的に展開しています。
パルコにおいてデジタルや CRM の取り組みを推進する林 直孝 氏は、XR を活用したデジタル施策の狙いをこう話します。
「VR、AR、MR は世の中全体で見るとまだまだ浸透していないと感じられるかもしれません。ただ、そう遠くない将来、ファッションの楽しみ方は大きく変わってきます。スマートフォンを皆さんがいつも手に持っているように、普段の生活の中にスマートグラスが入り込んでさまざまな楽しみ方を体験するようになる。そうした世界を皆さんと一緒につくっていきたいと考えています」(林 氏)。
Psychic VR Lab と共同して、新しいデジタル施策を推進
パルコにおける XR の取り組みが本格的にスタートしたのは 2016 年頃からです。2016 年 8 月に渋谷PARCO がリニューアルに向けて一時休館しますが、休館前のイベントでは世界的に著名なアーティストのシークレット LIVE を VR で提供し反響をいただくなど VR の可能性を感じていた時期でした。そのタイミングで VR や MR 技術を駆使して新しいサービスを提供するベンチャー企業、Psychic VR Lab と出会います。「全人類の超能力を覚醒させること」をミッションに掲げる同社は、ファッションやアート、カルチャー、エンターテインメントの分野でもさまざまなアイデアとテクノロジーを持っていました。
林 氏は Psychic VR Lab について「新しい取り組みにチャレンジし、楽しみながら作り上げていこうというパルコの企業文化に近いものを感じた」と言います。一方で、Psychic VR Lab の COO 渡邊 信彦 氏も、林 氏との出会いをこう振り返ります。
「2016 年 5 月に会社を立ち上げたばかりで、当時は VR がこれからどのような世界を作り上げていくのか投資家ですら半信半疑といった時期でした。そんなとき、あるイベントで林さんと出会い、同じ未来を描いていることがわかって意気投合しました。それからさまざまな取り組みを一緒に展開してきたのです」(渡邊 氏)。
2017 年には、米国の巨大イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」への共同展示を行い、そのコンテンツを東京・新宿でもポップアップショップ「2037年トーキョーcollection - TOKYO解放区 × PARCO -」として展開。20 年後のファッションをテーマとした展示で、国内でも多くの反響がありました。
また、Microsoft HoloLens を活用したバーチャルショップへの共同出店や、クリエイター発掘育成プロジェクト「NEWVIEW」も共同で企画しています。
「NEWVIEW はアワード開催やスクール開講などを受けて参加クリエイターが増えており、作品のクオリティも年を追うごとに高くなっています。スマートグラスを携え、VR 空間のなかでショッピングをはじめとしたさまざまな体験を楽しむという文化の素地は着実に育まれています」(渡邊 氏)。
PARCO で定期的に開催される VR 関連イベントと合わせ、XR はショッピングセンターにおける来店誘導といった枠を超えた新しい体験を提供するものになっています。
林 氏は「コロナ禍で全国的に休業を余儀なくされましたが、ショッピングの意欲が落ちているわけではありません。行きたいけれど行けないという状況の中で、オンライン販売チャネルも昨年比 4 倍へと急激に伸びました。XR をはじめ、さまざまなデジタルの取り組みを行いながら、お客様のさまざまなニーズにスビード感をもって取り組むことが重要です。」と、デジタル推進のポイントを強調します。
XR プラットフォームの開発に Microsoft Azure を全面採用
こうしたパルコと Psychic VR Lab による XR の取り組みをテクノロジー面から支えてきたのが、マイクロソフトの製品やサービスです。渡邊 氏はこう話します。
「MR の世界をリードしていたのは Microsoft HoloLens の生みの親であるマイクロソフトのアレックス・キップマン 氏でしたから、当社でも HoloLens をはじめとしたマイクロソフトの製品やサービスを会社設立時から活用してきました。特に、現在のビジネスに欠かせない基盤となっているのが、Microsoft Azure です。当社ではアーティスト向けの XR クリエイティブプラットフォーム『STYLY』を開発し、提供していますが、STYLY の開発基盤や提供基盤、ユーザー向け画面の提供などはすべて Microsoft Azure を活用しています」(渡邊 氏)。
STYLY は、Web ブラウザのみで VR 空間の制作が可能なプラットフォームです。高性能な VR 対応型 PC だけでなく、一般的に普及している PC を使って誰でもすぐに始められることが大きな特徴です。「MAYA」「Blender」などの 3D ソフトをはじめ、「YouTube」「SoundCloud」など多くのサービスと連携しており、複雑な操作なしに各種素材を取り込んで、空間制作を行うことができます。
「VR の作品づくりには特有の難しさがあります。3D 空間を作るアーティスト、プログラミングと UI/UX ができるデザイナー、そしてサーバエンジニアのスキルが必要になります。グラフィックや音響だけでなく、PC やサーバの知識まで必要になる。そんななか、VR を難しいと感じることなく、作品づくりに専念してほしい。そういう思いから開発したのが STYLY です。STYLY は VR のハードルを取り除き、クリエイターにとっての階段となります。VR を民主化するためのツールなのです」(渡邊 氏)。
VR を民主化するという狙いは、STYLY の開発と運用においても当てはまると渡邊 氏は言います。
「以前は CG を作ったり、編集したりするためにタワー型 PC やサーバ機器などを自前の環境で用意していました。しかし、今はクラウドを活用することができます。社内のさまざまな機器やソフトウェアを全面的に Microsoft Azure に移行し、サーバ管理やクラウド設定などの作業を大幅に効率化しました。それにより、サービスの開発に専念し、新しいニーズや技術にスピード感をもって対応できるようになりました」(渡邊 氏)。
現在 Microsoft Azure は、サーバやストレージ、GPU などのインフラから、高性能なデータベースや負荷分散など、ユーザーが STYLY を快適に利用できるために必要となるさまざまなサービスで活用されています。
MR の世界観が加わることで、買い物が楽しく新しいものに進化
Psychic VR Lab がサービス基盤として Microsoft Azure を全面採用した背景には、新たなチャレンジを支援し、文化として育んでいくための企業風土があったと渡邊 氏は指摘します。
「マイクロソフトは、スタートアップを支援するためのさまざまなプログラムを提供しています。2017 年にその 1 つである BizSpark(現在は Microsoft for Startups)に参加して、Microsoft Azure のサービスやノウハウを学びました。初期のサービス展開をコスト面から支えていただいただけでなく、アレックス・キップマン 氏をはじめとするエンジニアやアーティストとのコンタクト機会を作っていただいたり、実際のビジネス展開についてもさまざまなかたちでサポートしてもらいました。そういった支援の仕組みがあったことが、Microsoft Azure を採用した最大の理由です」(渡邊 氏)。
マネタイズが見えにくい段階から応援するというマイクロソフトの姿勢は、クリエイターを支援し文化を育むことに力を入れるパルコにも通じるものがあります。その姿勢はパルコと Psychic VR Lab による共同の取り組みに対しても同様で、林 氏は「マイクロソフトからは、HoloLens が登場した当時からさまざまな相談に乗ってもらい、活用のあり方を提案いたただきました」と振り返ります。
「ショッピングセンターは買い物する場所であり続けますが、それだけではお客様に対する価値提供としては不十分です。これまでも、アート、カルチャー、エンターテインメントを組み合わせることで買い物の体験を拡張してきました。だからこそ『パルコは面白い』とご評価いただいてきたのだと思います。HoloLens のような現実を拡張するデバイスは、この組み合わせをさらに増やすものです。MR の世界観が加わることで、買い物をより楽しく新しいものに進化させることができます」(林 氏)。
2020 年以降、コロナ禍によってリアルな場所での XR を体験する機会は大きく減りました。しかし一方でパルコは、デジタルや XR の強みを生かした施策を実施しています。たとえば名古屋PARCO では、2020 年のクリスマスイベントにおいて、AR を活用して仮想的に密なイベントを演出しそこにお客様自身も参加できる企画を実施し、好評を博しました。
「当社もそうですが、コロナ禍で DX が大きく進んだと思っています。お客様のご来店が制約を受けるなか、何をどうすれば『楽しく』できるのか。いろいろな部署の担当者が逆転の発想でアイデアをかたちにしていきました。2020 年は DX が自走しはじめた年であり、XR のこれからの流れにも期待が高まった年でもありました」(林 氏)。
コロナ禍では、クリエイターが新たな価値観で作品づくりを進めることができたともいわれます。これらの状況をふまえると、やはりリアルな場所の付加価値を増す施策は、今のうちから手を打っておくべきといえるでしょう。林 氏と渡邊 氏は「世界中からお客様が戻っていらっしゃったときに、新しい体験価値を提供していきたい」と、今後の意気込みを強く語りました。
[PR]提供:日本マイクロソフト