ディープラーニングを中心とする技術により日本の産業競争力を向上させることを目的とした団体、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)。2017 年の設立以来、活用促進から社会の環境整備、啓蒙、活用事例の紹介、人材育成まで、幅広い活動を展開しています。特に同協会が重視している人材育成においては、ディープラーニングに関する知識を有し、ジェ積極的な事業活用を行うネラリスト向けの「G検定」と、ディープラーニングを実装するエンジニア向けの「E資格」の2つの検定資格を作り、検定資格合格者専用のコミュニティ「CDLE」(Community of Deep Learning Evange-lists)を運営するなど積極的な活動を続けています。

ディープラーニングをビジネスで活用する能力・知識を認定する2つの検定資格

  • 一般社団法人日本ディープラーニング協会<br />理事 岡田 隆太朗 氏

    一般社団法人日本ディープラーニング協会
    理事 岡田 隆太朗 氏

JDLA の岡田 隆太朗 氏は、ディープラーニングをビジネスで活用することの意義を次のように語ります。

「急速な進化を続けるディープラーニング技術のビジネス活用を促進することが、JDLA にとってもっとも重要なミッションといえます。そのためには活用層の開拓、すなわち多くのビジネスマンやエンジニアに関心を持っていただくことが重要です。その入口としてシラバスを策定し、ディープラーニングを活用するために何を学べばよいのかを明確化してきました」(岡田 氏)。

人材育成の活動については、ディープラーニング技術に関する俯瞰的な理解を持って企業のビジネスに活用する人材を増やすために、ビジネス層向けのG検定とエンジニア層のE資格を策定。受験資格を得るための認定プログラムを用意するなど、ディープラーニング活用のロードマップを引いているといいます。

「ディープラーニング技術を理解し、事業活用するための能力・知識を持つことを検定する『G検定』と、適切な手法を用いた実装を行える能力・知識を持っていることを認定する『E資格』という認定試験を 2017 年より実施ししています。どちらもかなり難しい試験なのですが、受験者は増加を続けており、現在における受験者合計は 5 万人を超え、合格者も 3 万人に達しています」(岡田 氏)。

開始当初は個人での受験が多かったが、最近では企業主体の団体受験も増えてきていると岡田 氏。社員 500 名を受験させた賛助会員企業なども出てきており、ディープラーニングを活用できる人材の育成に、企業が本気で取り組み始めていることを感じていると話します。

さらに JDLA では、G検定、E資格の取得者が交流する場として「CDLE」(シードル)というコミュニティを作り、勉強会やセミナーを開催しています。

「検定資格を取得したあとも新しい技術が次々に生まれてきますし、新たな活用事例も出てきます。取得して終わるのではなく、継続的にアップデートを続けるために、資格取得者たちが学び合いを行う場として CDLE というコミュニティを用意しました」(岡田 氏)。

G検定やE資格の合格者のなかには、在籍する会社で AI / ディープラーニングの能力を活かせる業務に就けていない、またはそのような業務が存在しないといったケースも少なくないと岡田 氏は話します。こうした合格者が、身につけた知識や技術を使って“腕試し”を行う場として、JDLA は「CDLE ハッカソン」を実施。2019 年 8 ~ 9 月に開催された「CDLE ハッカソン 2019」には多くの CDLE メンバーが参加し、データ活用のアイデアやディープラーニングの実装方法などを競い合い、学び合うなど好評を博しました。

そして 2 回目となる「CDLE ハッカソン 2020」は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、2020 年 7 ~ 8 月に完全オンラインで開催されました。

オンライン開催では参加者に Azure DSVM と Azure Machine Learning を提供

鈴木 淳哉 氏

鈴木 淳哉 氏

「CDLE ハッカソン 2020」は、アイデア部門と予測性能部門の 2 部門で開催され、特に「画像データに基づく気象予測」でスコアを競い合う予測性能部門は新しい試みとして注目を集めたといいます。そうしたディープラーニング技術の活用には処理能力の高い分析環境が不可欠です。オンライン開催となった本ハッカソンでは、予測性能部門の参加者に平等な環境を提供することが大きな課題となりました。そこで、JDLA の賛助会員であるマイクロソフトがパートナーとなり、「Azure Data Science Virtual Machine(DSVM)」と「Azure Machine Learning」のいずれかを参加者の一部に提供しました。両部門に参加し、予測性能部門で優秀賞(2 位)を受賞した鈴木 淳哉 氏も、Azure DSVM を活用した 1 人です。鈴木氏は、今回のハッカソンに参加した経緯をこう語ります。

「2019 年にE資格とG検定に合格して CDLE に参加しました。ふだんは社内システムのインフラを中心に運用・開発を行っており、業務でディープラーニングに関わる機会はなかなかありませんでした。そこで、身につけた技術の活用や会社へのアピールの意味合いも含め、さまざまなデータ分析コンペに参加するようになり、今回のハッカソンにも参加することにしました」(鈴木 氏)。

すでに国内での数々のコンペで受賞歴があり、世界的なデータ分析コンペである「Kaggle」でもメダルを獲得しているという鈴木 氏ですが、ディープラーニングの勉強を始めたのはE資格、G検定を受験した 2019 年のことで、まだ 2 年も経っていないといいます。鈴木 氏は「E資格は難しい検定試験ですが、受験の前提条件として指定講座の受講があるため、合格するためのプロセスをふみながらチャレンジでき、独学で受ける試験と比べて親切だと思いました。」と語り、認定プログラムを用意して効果的な人材育成を図る JDLA の取り組みを高く評価します。

鈴木 氏は、予測性能部門には個人として参加、アイデア部門には SNS で知り合った CDLE メンバー 4 人でチームを組んで参加しました。

「子どものころから宇宙に憧れを持っていたこともあり、予測性能部門が衛星画像を用いたコンペと知った瞬間に参加ボタンを押してしまいました(笑)。アイデア部門に関しては、CDLE の参加者に Twitter で『一緒にやりませんか』と声をかけていただき、これまでまったく接点のない 4 人でチームを組み、週 1 回ビデオ会議で打ち合わせをしながら取り組んでいきました」(鈴木 氏)。

オンライン開催となった今回のハッカソンでは、前回と比べてメンバー同士の交流が減ることが懸念されていましたが、実際にはオンラインならではの出会いや交流が生まれたという岡田 氏。鈴木 氏も「オンラインだからこそ気軽に参加し、場所や時間を気にせずメンバーと繋がることができました。」とオンラインの効果を実感しています。

今回のハッカソンでは、前述したようにマイクロソフトの Azure DSVM および Azure Machine Learning が一部の参加者に提供されました。Azure DSVM は Azure のクラウドプラットフォーム上に構築されたデータサイエンスの仮想マシン(VM)イメージで、データ分析のための環境があらかじめ構成されています。「リアルでの開催では会場に環境を用意して使ってもらうことができましたが、オンラインの場合は十分なリソースを持った環境の提供が重要な課題でした。その意味でもマイクロソフトさんに協力いただけたことは非常に大きかったと思います。」と岡田 氏は Azure DSVM と Azure Machine Learning を利用できた意義を語ります。

実際に利用した鈴木 氏は、Azure DSVM の印象をこう振り返りました。

「実は Azure 自体はじめて使ったのですが、SSH で接続してしまえば、自宅の端末にリモートで接続しているのとほとんど遜色なく使うことができ、難しさは一切感じませんでした。環境構築にかかる時間や手間を省けるのも大きなメリットだと感じました。ただし今回は利用できるリソースに制限があったので、自分の端末でできること、Azure DSVM で実行することを整理して進めていきました」(鈴木 氏)。

鈴木 氏は、GPU 搭載モデルの Surface Book もマイクロソフトから貸し出しされており、主に画像を処理する前処理の部分とモデルの学習部分で Azure DSVM を使い、処理の重くない作業で Surface Book をはじめとする自宅の端末で実行したといいます。「画像処理やモデル学習を自宅の端末で実行したところ、予想完了時刻が百何十日後と出てしまいました(笑)。Azure DSVM では同じ処理を 10 時間度程度で実行できました。」と鈴木 氏。Azure DSVM がなければ今回の結果は出せなかったと語ります。

他の参加者からも、Azure DSVM の提供がありがたかったという言葉が聞こえてきているといいます。

「E資格を取得したエンジニアの方では、環境構築を含め計算資源をお持ちになっているケースもあると予想していましたが、G検定の合格者にはある程度のリソースを提供する必要があると感じていました。サポートも充実しているマイクロソフトから Azure DSVM および Azure Machine Learning を提供いただいたことで、より多くの CDLE メンバーが参加できたと感じています。限られた人数にしか提供できなかったのですが、希望者は非常に多く、利用したメンバーからは環境構築の手間が省けて助かったという声も数多くいただいています」(岡田 氏)。

オンライン・オフラインの境界を意識させない新時代のハッカソンを目指す

はじめてのオンライン開催で手探りでの実施となった「CDLE ハッカソン 2020」ですが、場所や時間を気にせず参加できるオンラインのメリットが活かされたこともあり、想定以上の盛り上がりを見せたといいます。

「オンラインでこれだけ盛り上がれたのは大きな収穫でした。鈴木 さんと同じようにオンライン経由で仲間ができ、同じチームで別のコンペにチャレンジしているといった声も聞こえてきます。社内のメンバーでチームを組んだチームでは、会社のプレスリリースで入賞を発表しているケースもあるようです。CDLE は G検定、E資格の合格者だけのコミュニティですが、知名度・注目度が高まっていることを実感しています」(岡田 氏)。

予測性能部門で優秀賞を受賞し、チームで参加したアイデア部門でも入賞した鈴木 氏も、今回のハッカソンで得られたものは大きいと語ります。

「資格を取っただけでは自分がどれだけの成果を出せるのかわかりません。今回のように数字で競い合えると、自分自身の力も測れますし、他の方のレベルも見えてきます。その意味でも、自分自身の定量的な評価と他のメンバーとの相対的な評価が確認できた今回のハッカソンは個人的には非常に有意義なものだったと思います」(鈴木 氏)。

この経験は今後の CDLE ハッカソンにも活かしていきたいと岡田 氏。「今後しばらくはオンラインが前提になってくると思うので、オンラインならではのメリットが得られるハッカソンにしていきたいと思います。」と語り、さらに CDLE 以外のコミュニティとのコラボレーションなども実現したいと今後の展望を口にします。

「現在は CDLE メンバー限定のハッカソンですが、E資格、G検定を取得されていない方からの『一緒にやってみたい』という声も増えてきています。こうしたニーズに応えて、たとえば Deep Learning Lab など他のコミュニティと連携して何かできないかと考えています」(岡田 氏)。

鈴木 氏は、参加者の立場から今後のハッカソンへの期待を語ります。

「単純な精度測定ではなく、実際に社会に貢献する度合いが評価されるハッカソンなどもおもしろいのではないでしょうか。現状はコロナ禍の影響もあってオンライン中心になると思いますが、将来的なオンライン・オフラインの枠を取り払い、より自由な形態で参加できるようになるのではと感じています」(鈴木 氏)。

オンラインに限定されたことを枷と捉えず、より柔軟で自由なイベントに昇華した「CDLE ハッカソン 2020」が、ディープラーニングのビジネス活用を加速させたことは間違いありません。その成功を支援した Azure DSVM と Azure Machine Learning も、オンライン・オフラインの境界を意識しない新時代の CDLE ハッカソンに不可欠なものとなるはずです。JDLA と CDLE メンバーの今後の活動から目が離せません。

[PR]提供:日本マイクロソフト