日本を代表するシステムインテグレーターである伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)は、豊富な技術・ノウハウと先進 IT 企業とのアライアンスを活かし、多様な業種・業務向けに IT ソリューションを展開しています。
その CTC が、2019 年に自社のシンクライアント環境刷新プロジェクトを始動。オンプレミスの基盤からの移行先として同社が選択したのは、マイクロソフトが提供するクラウド型のデスクトップ仮想化サービス「Windows Virtual Desktop」(WVD)です。
また、WVD のコントロールプレーンとしては、シトリックスの「Citrix Cloud」が採用されました。2019 年 10 月に本格的な検証を開始し、2020 年 1 月末のリリース(5,000 ユーザー、4 月にはさらに 5,000 ユーザーを追加)に成功。短期間での導入に成功した同プロジェクトは、WVD 環境における最速の大規模導入事例として注目を集めています。
ExpressRoute 経由の閉域網接続で、クラウドへの シンクライアント環境移行を推進
CTC が自社シンクライアント環境の刷新に踏み切った大きな要因は、現行システム基盤の老朽化にあったといいます。伊藤忠テクノソリューションズ サービスデザイングループ 情報システム室 情報システム部 インフラシステム課 課長の浅沼 宏紀 氏は、プロジェクトが立ち上がった経緯をこう語ります。
「これまでのオンプレミス環境で運用していた Windows Server 2008 R2 の EOS(サポート終了)が 2020 年 1月 に迫っていたこともあり、2019 年度の計画としてシンクライアントの入れ替えは決まっていました。オンプレミス、クラウドを問わず、どういった環境を構築するのかを検討しているなかで WVD のベータ版が公開され、検証してみたところ我々の要求に対応できそうという感触が得られました」(浅沼 氏)。
これまでのオンプレミス環境は、サポート終了も含め「古い」ことが運用上の課題になっていたと浅沼 氏。「サーバーのリソース不足によるパフォーマンス低下もそうですが、OS 自体も古いため、最新のアプリケーションが動かなかったり、古いバージョンの Web ブラウザしか使えなかったりと問題が山積みでした。」と振り返ります。
新たに構築するシンクライアント環境には、最新 OS が快適に動作するパフォーマンスが求められますが、実はインターネット経由で WVD の動作を検証したときには、思ったようなスピードが得られなかったといいます。同社では閉域網接続で遅延の少ない ExpressRoute 経由での利用も検証しており、この方式で実用上問題のないパフォーマンスを実現できたことが、導入を決定する大きな要因となりました。
ただしマイクロソフトは閉域網での WVD 利用をサポートしていないほか、WVD の一般提供が開始された 2019 年 9 月末当初は海外のコントロールプレーンが使われており、日本リージョンの登場を待たなければならない状況でした。こうした課題を解決するために、CTC は「Citrix Cloud」の採用を決定します。
「WVD 単体では ExpressRoute 経由のアクセスがサポートされないことがわかり、対処方法を模索していたところ、シトリックスからのアプローチがあり、Citrix Cloud との連携を検討することにしました。Citrix Cloud を採用することで、WVD のコントロールプレーンを使う必要もなくなり、WVD の導入を阻んでいた課題が解消できました」(浅沼 氏)。
シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 セールスエンジニアリング本部 ソリューションSE部 クラウドソリューション&テクノロジーの小島 薫氏は、CTCのプロジェクトでCitrix Cloudが採用された経緯をこう語ります。
「もともと CTC 様の IT 全体の課題を解決するためのソリューションを提案しており、そのなかで Citrix Cloud の Virtual Apps/Virtual Desktops Service も検証していただいていました。今回のプロジェクトでは、WVD 単体での導入を検討されているということで、運用管理面やセキュリティ面でも Citrix Cloud が支援できることを説明し、採用を検討してもらったという経緯です」(小島 氏)。
WVD+Citrix Cloud の連携で課題を解決し、短期間のシステム構築を実現
WVD と Citrix Cloudとの連携は、数多くのメリットをもたらしました。Citrix Cloud のコントロールプレーンとして機能し、直感的な GUI によりユーザビリティは大幅に向上。独自の ICA 通信プロトコルを利用することで、狭帯域やユーザーのコンディションに合わせて最適な状況で通信(画面転送)することが可能になりました。さらに、シングルマスターイメージを利用したテンプレート運用をはじめ、きめ細かなセキュリティポリシーの適用や電源管理が行えることもポイントとなりました。
「Citrix Cloud を導入したことによる一番のメリットは、運用管理面の効率化です。2020 年 1 月末より本格的に運用を開始していますが、パッチを適用したりアプリケーションをバージョンアップしたりといった、Windows 10 の環境を更新する際の『テンプレートに対して変更を実行し、あとはそれをコピーして配付するだけ』といった手軽さは大きな魅力となっています」(浅沼 氏)。
「今回のプロジェクトでは 1 万人規模のシンクライアント環境が想定されており、シングルマスターイメージで管理できるところは Citrix Cloud の大きなメリットとなりました。また、CTC 様はシステムインテグレーターであり、セキュリティ面での対応も重要なポイントとなります。Citrix Cloud はきめ細かいセキュリティポリシーが設定でき、ユーザーの利便性を損ねることなくセキュリティを強化することができます」(小島 氏)。
こうして Citrix Cloud との連携を進めたことで、WVD の導入プロジェクトは加速していきます。実際に構築を開始したのは WVD の一般提供(GA)と同じタイミングの 2019 年 10 月で、2020 年 1 月に 5,000 ユーザーの シンクライアント環境をリリース。さらに 2020 年 4 月には追加で 5,000 ユーザーの運用を開始するなど、極めて短い期間で 10,000 ユーザーにもおよぶ大規模シンクライアント環境の構築を成功させています。浅沼 氏は、スピーディな環境構築を実現できた理由をこう語ります。
「プロジェクト開始のタイミングからシトリックスに参画してもらい、設計を詰めるなどきめ細かなサポートをいただけたことが短期間で導入できた大きな要因といえます。また、今回のシンクライアント環境構築でもっとも時間をかける必要があったのは、WVD 単体の話ではなく、Windows 10 のポリシー設計の部分です。会社のポリシーを Windows 10 のグループポリシーで設定するのは非常に時間がかかる作業です。幸いなことに CTC では以前のプロジェクトでかなり時間をかけて Windows 10 のポリシー設計を行っており、これと Citrix Cloud の機能を活用することで、ポリシー設計にかかる時間を大幅に短縮することができました」(浅沼 氏)。
シトリックスの小島 氏も、本プロジェクトを短期間で実現できた要因のひとつとして、Citrix Cloud の機能が貢献していると話します。
「Citrix Cloud 自体が大規模の利用に向いたアーキテクチャになっており、サイジングやインフラ側の調達・設計といった部分の時間短縮にも貢献できたのではないかと思っています」(小島 氏)。
WVD の GA を待っていたという事情もあり、2 カ月弱という短期間での環境構築が求められた本プロジェクトですが、実際に運用を開始してからは、短期間で構築したことによる課題も見えてきたといいます。
「詰め切れていなかった部分から課題が生じてきました。たとえば 1 月から 5,000 台のWVDの運用を開始し、しばらく経ってから『ストレージのパフォーマンスが悪い』といった課題が見えてきました。ちょうど同じタイミングで、マイクロソフトが共有ファイルストレージサービス『Azure NetApp Files』をリリースするという話があり、4 月の 5,000 台を導入する際にはストレージの構成をガラリと変えるなど、パフォーマンス改善の取り組みを続けていきました」(浅沼 氏)。
利用ユーザーと運営サイド双方に大きなメリット、コスト削減にも効果を発揮
WVD は本格運用を開始したばかりですが、パフォーマンスに満足しているという声も聞こえているといいます。また、運用サイドとなる情報システム部門でも、WVDとCitrix Cloudの連携により業務効率の改善効果が現れていると、伊藤忠テクノソリューションズ サービスデザイングループ 情報システム室 情報システム部 インフラシステム課 主任の長井 健太 氏は話します。
「運用面においてもかなりの効率化が図れています。先ほどから話に出ていますが、Citrix Cloud には OS テンプレートを展開できる機能が搭載されており、マスターとなるマシンを 1 つ作成しておけば、横並びに展開できます。従来型のシンクライアントでは、複数の仮想マシンを同時に管理しており、すべての仮想マシンに対してパッチを適用したり、アップデートをかけたりする必要があったのですが、それが不要(マスターのみの更新で OK)となり、柔軟なメンテナンスが行えるようになりました。もう 1 つ、こちらは WVD 側のメリットとなりますが、クラウドに移行したことで仮想マシンの増減が柔軟に行えるようになりました。まだ実施してはいないのですが、今後、一時的にマシンを増やさなければならない場面が出てきても、簡単かつ迅速に対処できる環境になったことに安心を感じています」(長井 氏)。
さらに、運用管理面やリソースの柔軟な活用、パフォーマンスの向上といったメリットは、コスト面でも効果が表れています。「直接的な比較は難しいのですが、WVD で構築した環境は大幅にスペックアップしています。同スペックの環境を従来のオンプレミス環境で構築することを考えると、かなり低コストで導入することができました」と長井 氏。効率的な通信帯域利用によってネットワークコストの削減も実現できたと、WVD と Citrix Cloud によるコスト削減効果を喜びます。
また浅沼 氏は、Windows 10 のマルチセッションを全面的に導入していたことで、大きなコスト削減効果を実現していると話します。
「プロジェクトの開始当初は、全員にシングルセッションで配る予定でした。ユーザーによって利用するツールが異なるため、1 人に 1 つの環境を用意して、それぞれに管理者権限を付与すれば運用の手間が軽減できると考えていました。ところが、コストの比較をしたときに、シングルセッションとマルチセッションの間に膨大なコスト差が出てきてしまい、最終的にマルチセッションでの導入を決定しました。マルチセッションを採用することで、大幅なコスト削減が実現できています」(浅沼 氏)。
自社のノウハウを「Citrix Cloud for Windows Virtual Desktop」として提供
10,000 ユーザーのシンクライアント環境を短期間で構築した CTC のプロジェクトは、新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅勤務やテレワークの導入が急務となった企業にとっても、非常に興味深い事例といえます。CTC では、本プロジェクトで培った経験を活かし、こうした企業に向けて「Citrix Cloud for Windows Virtual Desktop」の提供を開始しています。
マイクロソフトが提供する WVD は、Windows 10 をクライアント OS とした シンクライアント環境を構築したいと考えた場合の最適解ともいえるサービスです。その WVD と Citrix Cloud を連携させることで実現されるワークプレイス変革は、パフォーマンスやコスト、セキュリティといったリモートワークにおける課題を解決してくれます。
CTC では、これからも自社のシンクライアント環境の整備と改善を継続的に続けていく予定です。浅沼氏は、オンプレミス環境からクラウドへと移行したことによる BCP 対応を、今後の大きな課題としています。
「クラウド側で障害が起きた際に、どう対応するのかをこれから詰めていきます。その前提として、マイクロソフトにはクラウドサービスの品質向上を期待しています。極論ですが、障害が発生しても短時間で復旧できるというサービスならば、BCP をそれほど意識する必要もなくなります」(浅沼 氏)。
シトリックスの小島 氏も、クラウドのシステムを止めないことを重要なミッションと考えています。
「クラウドの領域はベンダー側がある程度責任範囲を持って顧客のシステムを守っていく部分で、コンポーネントのエンハンスメントやアーキテクチャの改善などを継続していく必要があります。今回のシステムの基盤は、マイクロソフトとシトリックスのサービスが連携して構成されています。我々が長年積み重ねてきた開発レベルのリレーションシップを最大限に活かして、顧客のシステムを止めないサービスの提供に取り組んでいこうと思っています」(小島 氏)。
こうした CTC とシトリックスの取り組みは、もちろん「Citrix Cloud for Windows Virtual Desktop」にも反映されていき、さまざまな企業のワークプレイス変革に活かされていくはずです。
[PR]提供:日本マイクロソフト