広島大学 東広島キャンパスをはじめ、数々の教育機関が集う国際学術研究都市として知られる広島県 東広島市では、IT を活用した業務の効率化や行政サービスの品質向上を実現する取り組みが積極的に進められています。
中でも業務デバイスの重要性には以前より着目しており、2016 年には庁内端末として約 200 台の「Microsoft Surface」を先行導入。デスクトップ PC からタブレット端末への移行に伴う効果や課題を検証し、2019 年のリプレース時期に合わせ、庁内で利用するほとんどの端末(約 1,100 台)を Surface Pro 6 へと切り替えました。
デバイス刷新と OS アップグレードで業務効率化、災害対策を目指す
「未来に挑戦する自然豊かな国際学術研究都市」を目指した“まちづくり”を進める東広島市は、以前より地方自治体における IT 活用を重要なテーマに掲げており、さまざまな取り組みを進めてきました。
2016 年に実施された Surface の先行導入と Office 365 を利用したメールシステムの構築は、地方自治体としては先進的な取り組みといえ、全国の公共機関の注目を集めました。デスクトップ PC が主流だった庁内のデバイス環境で Surface を先行導入した主な目的は業務の効率化で、特にペーパーレス化が重要視されていたといいます。
そうした検証を進めている中、2018 年に西日本豪雨が発生。東広島市においても甚大な被害がありました。このような想定外の災害時に重要な役割を担ったのが、Office 365 のコラボレーションツール「Microsoft Teams」の前身に当たる「Skype for Business」でした。東広島市役所 政策企画部 情報政策課 情報政策課長の橋本 光太郎 氏は、当時の様子を振り返ります。
「西日本豪雨では、本市でも大きな被害が発生しました。電車の運行は止まり、高速道路も土砂で通れなくなり、市内においても本庁・支所・関係施設間の交通が分断されてしまいました。災害対策本部は庁舎に設置しましたが、実働的には消防署が中心となり、情報の連携は不可欠です。そうした状況の中、マイクロソフトの Skype for Business を使うことで、1カ所に集まることなくスムーズに本部会議を進めることができました」(橋本 氏)。
デスクトップ PC にはない可搬性を備えた Surface が導入されていたことで、庁舎内で行われる災害対策会議の場への持ち込みも容易となり、庁外にいるメンバーの PC やスマートフォンと Skype for Business で接続。円滑な状況把握や情報伝達を実現したといいます。このように、災害時においても有用なツールであることが実証された Surface と Office 365 は、その後も本格導入に向けて検証が行われ、課題をひとつひとつクリアしていきました。Surface の本格導入に携わった東広島市役所 政策企画部 情報政策課 情報管理係 係長の小田 浩貴氏は、Wi-Fi 環境の検証にも力を入れたと語ります。
「これまでもインターネットにつなぐデスクトップ PC は Wi-Fi で接続していましたが、部署に 1 台程度の配備だったのでアクセスポイントに余裕がありました。Surface への切り替えにあたり、政策企画部と総務部に先行導入して、Wi-Fi の安定性と端末の使い勝手を検証しています。アクセスポイントのアップデートを行うことで多数接続時の安定性を確保し、約 1,100 台の本格導入に踏み切りました」(小田 氏)。
端末の使い勝手に関しては、主に画面サイズやインタフェースの違いなどが検証されたといいます。庁内にあるほとんどの端末を切り替えることになるため、Surface にもデスクトップ PC と同じ感覚で使えることが求められたと橋本 氏。充実した基本性能やタブレット端末としても使える 2 in 1 設計に加え、Surface を選んだ大きな要因として「Surface Dock を利用した拡張性」を挙げました。
「タブレットやノート PC として、モバイル性を活かした業務効率化や生産性向上を図りながら、自席においてはドッキングステーションにつないで外部ディプレイ、キーボード、マウスを使った従来通りの操作が行える環境を構築したいと考えました。Surface なら Surface Dock と組み合わせて使うことで、外部機器との接続が容易に行えます」(橋本 氏)。
自席には、デスクトップ PC で利用していた 23 型の液晶ディスプレイを配置し、既存資産を活用することができました。USB 接続のキーボードとマウスは新たに導入。Windows 7 の延長サポート終了のタイミングに合わせ、大塚商会によるサポートのもと、約 1,100 台の Surface への移行が実行されました。OS のバージョンアップに関しても、先行導入のときから Windows 10 における業務アプリの動作検証が行われたといいます。移行作業はスムーズに進み、基幹系システムや特定業務に利用する端末を除き、すべての職員が Surface を活用。ハードウェア的なトラブルの報告はほとんどなく、安定した運用を実現しています。
2 in 1 設計と Surface Dockの活用で多様な業務シーンに対応する Surface
前述したように、東広島市が Surface を導入した目的のひとつにペーパーレス化がありましたが、その効果はすでに出てきているといいます。庁内のどこからでも Wi-Fi 経由でファイルサーバーやグループウェアにアクセス可能な環境を構築し、会議の場でも印刷した紙資料を持っていく必要がなくなりました。こうしたさまざまな取り組みを経て、紙の使用量は Surface 先行導入時から 5 年間で 9% ほど削減されたといいます。
いまや Surface で情報を共有してペーパーレスで打ち合わせを行うことの有効性は職員に浸透しつつあり、今後さらなるペーパーレスの促進が期待できます。今回のプロジェクトで中心的な役割を担った政策企画部 情報政策課ではスマートオフィスの実証実験が行われ、他の部署に比べてフリーアドレス化が進行していたため、より高度なペーパーレス化が実現できたと橋本 氏は語ります。
「Surface の導入と並行して、ペーパーレス化を実現できる環境が構築できたため、内部のシステムを再構築して電子決裁の導入を行い、職員への研修では紙の出力を減らす働きかけもしており、紙の書類が回覧されることは少なくなってきました」(橋本 氏)。
多様な使い方に対応する Surface ですが、現在は業務に合わせた利用形態が模索されているところだといいます。情報政策課では外部ディスプレイなしでの運用を試していますが、部署によっては同様に単体での運用を行っているケースも出てきました。タッチ式の液晶ディスプレイを搭載した Surface なら、ピンチアウト/イン操作で画面の拡大・縮小が容易に行えるため、外部ディスプレイを利用しなくても快適にペーパーレスのシステムが利用できます。こうしたタッチディスプレイの特性や Surface の操作に慣れてくれば、自席での業務だけでなく、たとえば会議室など自席以外での利用も活発化してくるはずです。
外出先でも業務可能な環境を構築し、IT を使った住民向けサービスの拡充にも取り組む
Wi-Fiを使って庁内で Surface を活用できる環境を構築した東広島市ですが、庁外での利用も進めています。出張時にスマートフォン(モバイルルーター)を利用して出先で業務を進めたり、健診事後教室・子育て世代包括支援センターのミーティング会場にモバイルルーターと Surface を持ち込むことで、画面上で情報を確認しながらスタッフ間のミーティングを実施するといった活用が行われており、期待どおりの効果が出ています。2019 年夏には試験的に在宅勤務の実証も行っており、今後は建設・土木関係の業務現場での利活用も進めていく予定といいます。
また、庁内・庁外を問わず、インターネットにつながる端末を業務で利用する際はセキュリティ対策が必要になります。地方自治体では、総務省から⽰されている対策強化案に基づく「自治体情報セキュリティクラウド」が構築されており、インターネットへの出口を集約して強固な監視体制を実現しています。このため、外部からの侵入リスクはほぼなくなってきていますが、それだけでは近年増加している標的型攻撃やフィッシング詐欺などメールを介した脅威への対応が十分とはいえません。東広島市では、Office 365 のメール フィルタリング サービスである「Office 365 Advanced Threat Protection(ATP)」を利用することで、メール経由の攻撃に対応し、未知のマルウェアにも対応できる強固なセキュリティ体制を構築しています。
さらに東広島市では、住民向けサービスへの IT 活用も進めているといいます。橋本 氏は、住民向けのサービスには、旧来のアナログ的要素が残っていると話します。
「住民向けサービスのデジタル化は進んでおらず、対面・郵便・電話といった従来型のアプローチで業務が行われています。サービスを受ける資格があることに住民が気付かず、そうした機会を逸しているケースも少なくありません。このため、IT を活用したスマートなアプローチで、利用者(住民)に負荷をかけないサービスを提供できればと考えています」(橋本 氏)。
現在は業務ごとに個別のサービスを提供していますが、今後は利用者との接点を集約して統合的なサービスとして提供していく予定と橋本 氏。役に立つサービスでないと住民は利用してくれないため、たとえばインターネット上で手続きが完了し、窓口に出向かなくても済むようなサービスを構築できればと語ります。
「業務自体をクラウドへシフトさせていかないとスピード感のあるサービスが提供できません。その実現には、パブリッククラウドの導入が必要になると考えています。そこで注目しているのが『Microsoft Azure』です」(橋本 氏)。
住民向けサービスを統合するにはアーキテクチャの複雑化が避けられず、将来的な展開を考えてもスクラッチ開発は現実的とはいえないと橋本氏。さまざまな機能・サービスが利用できる Microsoft Azure の導入により、課題を解決できるのではと期待を口にします。さらにインターネット分離で三層のネットワークを運用していることもあり、すでに導入済みの Office 365 に関しても、その機能をフルに活かせているとはいえないのが現状です。今後は「OneDrive」をはじめ各種ツールの活用を模索しており、特に災害対策で大きな効果を発揮した Skype for Business の後継ソリューションとなる Microsoft Teams については、迅速に利用環境を整備していく予定だといいます。
「Surface を導入して場所を問わず業務を行える環境は整いましたが、音声コミュニケーションが中心のワークスタイルは変わっておらず、『電話』の機能が業務効率化を妨げています。Microsoft Teams と既存の電話を連携させて、より効率的なコミュニケーション手段が実現することを期待しています」(橋本 氏)。
橋本 氏は、今後の IT 活用で重要なのは「技術ありき」ではなく「課題解決の手段」、すなわちイシューオリエンテッドで考えていくことが大切と語ります。そこで重要となってくるのがデータの活用です。東広島市では、昨年度から試行的に BI ツールを導入し、今まで埋もれていた庁内データの見える化を進めているといいます。
また、広島県 東広島市 市長の高垣 広徳 氏は、Surface を中心とした IT 利活用の取り組みについて、下記のように評価しました。
「効果的な ICT 投資により、DX の基盤となる環境を整備することができました。整備した環境を活用し、場所に限定されない形態によって行政業務における DX を進めるとともに、外部との接点を拡大することでより開かれた市役所を目指していきます。また、そうした取り組みにより、市が提供するサービスの質的向上やこれまでにない新たなサービスの提供を進め、住民の QOL を向上させていきたいと考えています」(高垣 氏)。
業務デバイスの重要性を知る東広島市は、Surface を軸に「職員」と「住民」に寄り添ったIT活用を展開してきました。そうした先進的な取り組みは、地方自治体・民間企業を問わず今後も注目され続けることでしょう。
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