富士フイルムグループの一員である富士フイルムソフトウエア株式会社では、メディカルやイメージングの領域を中心に、先進的なソフトウェアやサービスを開発、運用しています。同社が提供している法人向けのファイル管理、共有サービス「IMAGE WORKS(イメージワークス)」は、2017 年にMicrosoft Azure の PaaS を活用したクラウド型サービスへと進化し、サービス基盤のモダナイゼーションを果たしました。

その後も最新のクラウド技術を柔軟に取り入れて機能追加を続け、2019 年 11 月には「Azure Cognitive Search」を活用した「類似画像検索」機能をリリースしました。そして 2020 年 1 月には、同機能を実際に導入したユーザー企業から寄せられた要望に応えるため、専門家を交えて集中的に実装を行うハッカソンを実施、マイクロソフトの技術者や外部のプロフェッショナルを招き、短期間でのサービス改善を実現しました。

Azure Cognitive Searchで画像を用いた類似画像検索を実現

IMAGE WORKS の開発チームでは、同サービスを導入した企業のニーズにいち早く応えるため、最新テクノロジーの活用を積極的に行っています。画像や動画など、IMAGE WORKS 導入企業が扱うイメージファイルのデータ容量とファイル数が増加したこともあり、Microsoft Azure の PaaS を利用してサービス基盤を構築しています。スケーラブルで安定性の高いサービス提供を実現しただけでなく、Azure が提供する最新機能、サービスを活用した付加価値の創出にも取り組んでいます。

  • IMAGE WORKSのメイン画面

    IMAGE WORKSのメイン画面

たとえば、大量のイメージファイルを効率的に活用するには画像検索の速度と精度が重要となります。IMAGE WORKS では、画像に効果的なタグ付けを行うことで迅速な検索を実現していましたが、ネットワーク環境の整備やクラウドサービスの浸透などによって企業の扱うデータが増加した現在では、人間の目を通して手動でタグ付けするという従来の手法は運用負荷が高すぎます。このため、2018 年には AI を活用した自動タグ付け機能をリリースしましたが、それでも自動的に付与したタグを確認する作業は必要でした。

富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム チーム長 佐藤 力 氏

富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム チーム長 佐藤 力 氏

その一方、「完璧な精度でなくてもよいから完全自動化を実現してほしい」という顧客からの声も寄せられていました。そこで、富士フイルムソフトウエアが取り組んだのが“画像で画像を探す”検索です。最新ソリューションとなる「Azure Cognitive Services」の「Computer Vision」「Face」「Custom Vision」や「Azure Cognitive Search(旧称 Azure Search)」の機能を他社に先駆けて採用し、画像データベースに大量の解析結果を自動付与してメタデータ化し、検索インデックスを構築しました。利用者が検索タグではなく、探したい画像に似た画像を送信することで検索を行う「類似画像検索」機能を実装、2019 年 11 月に本格運用を開始しました。IMAGE WORKS の責任者を務める富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム チーム長の佐藤 力 氏は、機能追加の経緯をこう語ります。

「数年前に、Azure を採用したサービス基盤のモダナイゼーションを実現しましたが、もともとの狙いとして、パブリッククラウドの機能をうまく活用して IMAGE WORKS の付加価値を高めたいと考えていました。サービスを利用している企業からは、検索機能のパフォーマンスと利便性を向上してほしいという要望が多く、それに応えるために今回、Azure Cognitive Search の機能を使った類似画像の検索機能をリリースしたのです」(佐藤 氏)。

すでに自動タグ付け機能で AI を利用していた同社ですが、類似画像検索においても AI、特に Azure Cognitive Services を効果的に活用しています。技術的な構想を固めたのは 2019 年初頭で、AI を開発して実際に利用できるまでの時間やコストを大幅に削減できる Azure Cognitive Services や、データを効率よくかつ柔軟に分析、検索できる Azure Cognitive Search の採用を決定しました。マイクロソフトのサポートもあり、特に問題が発生することもなく約 1 年で開発が進められたといいます。開発リーダーとして携わった富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチームの榊原 絵里華 氏は、開発時の状況を振り返ります。

富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム 榊原 絵里華 氏

富士フイルムソフトウエア株式会社 ソフトウエア開発本部 アドバンストソリューショングループ イメージワークスチーム 榊原 絵里華 氏

「普段はフロントエンドの開発を行っており、バックエンドのシステム開発ははじめてだったのですが、Azure Cognitive Services はドキュメントや SDK が充実していて、スムーズに開発を進められました。細かい部分で生じた課題に関しても、マイクロソフトに問い合わせることで対処することができました」(榊原 氏)。

このように、Azure Cognitive Services や Azure Cognitive Search の SDK を活用することで、類似画像検索の実装に至った IMAGE WORKS ですが、実際に運用を始めるとパフォーマンスや精度面での課題が浮かび上がってきました。そこで、2020 年 1 月に「ハッカソン」を開催し、外部のプロフェッショナルの知見を活かすことで短期間での課題解決を実現したといいます。

  • 類似画像検索

    類似画像検索

ハッカソンを開催することで、運用後に見えてきた課題を短期間で解決

もともと富士フイルムソフトウエアの IMAGE WORKS 開発チームには、外部のプロフェッショナルが持つノウハウを積極的に取り入れることで課題解決を図る組織文化が形成されており、これまでも何度かハッカソンを開催してきました。その運営とハッカソンにおける技術的な支援を担っているのは、株式会社ゼンアーキテクツ CTO の三宅 和之 氏です。

株式会社ゼンアーキテクツ CTO 三宅 和之 氏

株式会社ゼンアーキテクツ CTO 三宅 和之 氏

「IMAGE WORKS については、すでに 5 回ほどハッカソンを行っています。以前に自動タグ付け機能を追加した際も、構想段階で 1 回、実装後のチューニングでもう 1 回ハッカソンを開催しました。ハッカソンの開催目的は、大きく分けて 2 つあります。1 つは新しいプロジェクトに取り組む際のプロトタイプの策定、もう 1 つはリリースした機能やサービスの課題解決で、今回は類似画像検索機能のパフォーマンスチューニングがメインなので後者のパターンといえます」(三宅 氏)。

2020 年 1 月に行われたハッカソンは、富士フイルムソフトウエアの開発チームと三宅 氏が招聘した外部エンジニア、さらにマイクロソフトのエンジニアが加わった 10 名程度のメンバーで進められました。開催期間は 3 日間、泊まり込みではないものの、合宿のようなイメージで集中的な議論や実際のプログラミングが行われたといいます。「パフォーマンス改善をテーマとして集中的に取り組み、検索スピードを 10 倍ほど向上できました。」と三宅 氏。佐藤 氏も、今回のハッカソンの結果には手応えを感じていると話します。

「我々が開催しているハッカソンでは、毎回のテーマに詳しい専門家を招聘することが多いのですが、今回も『検索』に関するプロフェッショナルに参加してもらい、劇的な改善を実現できました。決められたメンバーで漠然と頑張るのではなく、プロフェッショナルの知見を貪欲に取り入れるというのが私の考えるハッカソンです」(佐藤 氏)。

ハッカソンの成果は検索スピードの向上だけではなく、検索の精度に関しても大きく改善されています。Azure Cognitive Services が用意する API で、どれが使えるのかをマイクロソフトのエンジニアに確認し、API 活用の方向性を明確化できたと佐藤 氏。外部の知見が効率的な開発を実現できたと振り返りました。

これまで数多くのハッカソンを運営してきた三宅 氏によれば、通常 3 カ月程度で行う作業でも 3 日間程度に短縮できたケースが多いと、ハッカソンの持つ効果を強調します。

「社内の開発者が自分で調べながら解決するのと、専門知識を持ったメンバーを加えて集中的に解決方法を議論するのでは、作業時間の違いは明確です。今回のハッカソンでも、かなりの時間短縮が図れたと思います」(三宅 氏)。

最新テクノロジーを積極的に取り入れる企業文化が理想の開発環境を実現

今回の事例からもわかるように、自社のサービスを内製で開発している企業にとってハッカソンの開催は大きな意味を持ちます。特に新しいサービスにチャレンジする場合や、運用後の課題解決に行き詰まっている場合などでは、極めて大きな効果が期待できます。富士フイルムソフトウエアも、ハッカソンを開催することで、新しいアイデアを形にしたり、行き詰まったところを突破したりしているといいます。

三宅 氏も「Azure の最新機能やサービスを取り入れる際の検証に、マイクロソフトの技術者を招いたハッカソンの開催が効果的です。」と語り、日進月歩で進化を続ける Azure の活用においてもハッカソンが重要な役割を担うことを明示しました。

とはいえ、膨大な Azure の機能を活用したり、ハッカソンを開催して短期間での課題解決を図ったりするには、アジャイル型の開発環境が不可欠です。その意味でも Azure を使ったモダナイゼーションを数年前に実施し、クラウドネイティブなマインドを浸透させていた IMAGE WORKS 開発チームは、理想的な体制を構築しているといえます。

「もともとはウォーターフォール型の開発で、10 年以上前に構築したオンプレミスのシステム基盤を使っており、現代ビジネスのスピード感に適応できないという課題を抱えていました。また、システムは内製で開発していたのですが、若いエンジニアが入ってきたときに『この人たちに 10 年以上前の技術を教えるだけでよいのか?』といった育成面での危機感も感じていました。そういった部分も加味して、ちょうどクラウドが浸透し始めたタイミングで Azure を導入し、積極的なクラウド活用を進めていきました」(佐藤 氏)。

従来の開発環境を変更するのは、現場にとって大きな負担となります。富士フイルムソフトウエアでは、プロジェクトに各分野のエキスパートを招聘。実際にオフィスに来てもらい、開発チームとコミュニケーションを取りながら新たな開発環境を活用するマインドを浸透させるというアプローチを採用しました。

「Azure を使ったモダナイゼーションが始まり、これまでやっていたウォーターフォール型の開発手法がガラリと変わったことで現場に不安がありました。そこにゼンアーキテクツやマイクロソフトのメンバーが入ってくれたことで、疑問があればすぐに聞ける環境が実現し、マインド変革のハードルを大幅に下げてくれました」(榊原 氏)。

新しいテクノロジーを積極的に取り入れる企業文化を浸透させることで、エンジニアのモチベーションは大幅に向上します。IT 関連の人材不足が深刻化している昨今の状況においては、新たなエンジニアを確保する際ににも大きな効果を発揮します。

その際に重要となるのが、企業の取り組みを積極的に発信するオープンマインドな環境の実現です。三宅 氏は、自社の取り組みをオープンにすることを避ける企業は多いが、企業自身がアウトプットすることで、フィードバックや新たな情報が得られるなどのメリットが生まれると、情報発信の重要性を語ります。佐藤 氏も、自社の取り組みをオープンにすることの効果を実感しているといいます。

「どの企業もエンジニアの中途採用に苦労していますが、事例などで最新技術を活用した取り組みをオープンにすることで、エンジニアに興味を持ってもらえます。新しい技術を積極的に活用している企業というイメージが付くのは、人材確保においても大きなメリットが得られると考えています」(佐藤 氏)。

佐藤 氏自身が積極的な情報発信を行ったこともあり、富士フイルムソフトウエアにはオープンマインドな風土が形成されてきているといいます。榊原 氏は昨年、世界規模の開発者イベントでスピーカーを務め、エキスパートとの交流を実現。同社の取り組みを外部に知ってもらうのはもちろん、自身の知識を整理することもできたと、情報発信で得られた成果を口にします。三宅 氏も、ハッカソンの運営においてもオープンマインドな企業風土を持つことには大きなメリットがあると語ります。

「各分野のプロフェッショナルをハッカソンにアサインするうえでも、オープンな企業マインドは有利です。自身の成果を外部に知ってもらえるため、企業とエキスパートの両者が Win-Win な関係を築くことができます」(三宅 氏)。

  • ハッカソンの様子

    ハッカソンの様子

外部との情報共有を継続し、最新テクノロジーの活用を模索

富士フイルムソフトウエアでは、今後も継続して IMAGE WORKS のパフォーマンス向上に取り組んでいくといいます。今回の取り組みでは静止画の検索がターゲットでしたが、次の展開としては動画の検索機能を強化することも考えていると佐藤 氏。すでにアイデアはあり、実現方法を明確化するためのハッカソン開催も視野に入れていると語ります。榊原 氏も、ハッカソンに参加することで得られた知見をサービスに取り入れて、ユーザーに提供していきたいと今後の展望を口にします。同社が特に注目しているのは、AI 関連の機能だといいます。

「AI 活用を支援してくれる Azure Cognitive Services は、私たちのサービスに付加価値を生み出すものと考えています。今回の類似画像検索で活用した Azure Cognitive Search も、IMAGE WORKS のキーとなる『検索』の改善を実現するソリューションであり、今後の機能拡充に期待しています」(佐藤 氏)。

モダナイゼーション開始当初より技術的な支援を続けている三宅 氏は、今後の展開としてプラットフォーム全体の刷新を検討していると話します。

「最新技術を前提としたアーキテクチャによって IMAGE WORKS 全体のプラットフォームを再構築することを検討しています。Azure は常に進化を続けており、ネットワークやセキュリティ面での機能強化も図られています。こうした最新の機能やサービスにアンテナを張り続け、積極的に取り入れていくことで、次世代のプラットフォームが実現できると考えています」(三宅 氏)。

外部のプロフェッショナルが持つ知見を取り入れ、最新技術を活用する企業文化が浸透された富士フイルムソフトウエアのチャレンジは、社外へと発信、共有されていきます。デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するためのマインドチェンジに課題を感じるすべての企業にとって、同社の取り組みには今後も注視していく必要があるでしょう。

  • 株式会社ゼンアーキテクツの三宅 和之 氏、Azure開発をサポートした日本マイクロソフトの大森 彩子 氏、富士フイルムソフトウエア株式会社の榊原 絵里華 氏と佐藤 力 氏

    写真左から、株式会社ゼンアーキテクツの三宅 和之 氏、Azure開発をサポートした日本マイクロソフトの大森 彩子 氏、富士フイルムソフトウエア株式会社の榊原 絵里華 氏と佐藤 力 氏

[PR]提供:日本マイクロソフト