「沖縄県那覇市に本店を構え、県内に 65 店舗を展開する株式会社沖縄銀行では、「地域密着・地域貢献」という経営理念のもと、お客さま中心のサービスを提供し続けています。デジタルトランスフォーメーション( DX )にも積極的に取り組んでいる同行では、融資ビジネスの拡大をはじめ、“お客さまが本当に求めている”サービスを提供するため、データ分析基盤のクラウド移行プロジェクトを推進。Microsoft Azure の PaaS を活用したデータ分析基盤を短期間で構築することに成功し、お客さまファーストのデータ活用環境を実現しました。
モバイルアプリの利用増で増加したデータを有効活用するために
「以前よりデータの重要性については認識しており、データを分析・活用するための仕組みを作ることで、お客さまが当行に求めている“真のニーズ”が見えてくると感じていました」
沖縄銀行 システム部で執行役員部長を勤める永田 真 氏 は、同行がデータ分析基盤のクラウド移行を決めた経緯をこう語ります。同行では、決済サービス「 OKI Pay(オキペイ)」をはじめ、残高や明細を手軽に確認できる「 Wallet+(ウォレットプラス)」、自身の口座間での振替や他ユーザーの口座への送金に対応した「おきぎん Smart 」といったスマートフォン向けのアプリを提供しており、インターネットを活用したサービスの利用者は急増しております。このため、同行に蓄積される利用者のデータも増えていきましたが、有効な分析・活用までには至っておらず、お客さまへの提案は営業現場の“経験と勘”に頼られていました。
経験豊富な営業担当者はお客さまのニーズを的確に捉え、適切な提案を行うことができますが、近年では多様化したお客さまのニーズに対し“ギャップ”を感じることも増えてきたと永田氏。蓄積された利用者データを活用することで、こうしたギャップを埋められるのではないかと考えたといいます。
今回の取り組みで中心的役割を担った沖縄銀行 システム部 システム戦略 開発グループ 主任の砂川 綾乃 氏も、モバイルアプリの利用者数増加が、データ分析基盤のクラウド移行につながったと話します。
「 2019 年 5 月から無料アプリ「おきぎん Smart 」を提供しているのですが、利用者数は順調に増え続けています。平日でもアプリをインストールした方の利用率は 1 割におよび、さらに給料日やクレジットの引き落とし日などでは 3 割近くのお客さまがアプリを利用しています。これはモバイル向けサービスとしては非常に高い数値といえます。アプリの利用者が増えたことで、普段直接お会い出来ないお客さまとの“接点”が生まれました。こうした接点を効果的に活用したいというのが、今回の取り組みにスタートさせた理由のひとつになります」(砂川 氏)
銀行の窓口を頻繁に利用するお客さまは限られています。その意味でも、モバイルアプリを使った新しい接点は銀行が今後生き残っていくために重要な役割を果たします。
2019 年までは、インターネットを利用したアプリ・サービスを顧客に提供して接点を増やしていくフェーズだったと髙宮氏。2020 年からは、その接点を有効活用していくためのチャレンジを行うフェーズで、今回の取り組みもその一環と捉えています。「顧客のニーズに応えるデータの利活用」と「モバイルアプリによる非対面チャネルの有効活用」を実現するうえで、データ分析基盤のクラウド移行は必然だったといえるでしょう。
Microsoft Azure を使ってクラウドの可能性を模索、その経験がデータ分析基盤構築に活かされる
沖縄銀行がデータ分析基盤を構築するクラウドサービスに Microsoft Azure(以下、Azure )を採用したのは、いくつかの理由があります。同行では、今回のプロジェクトをスタートする前に、Azure を使ったお客さまへのアンケートシステムを内製で作ったという実績がありました。
約 2 カ月という短期間でアンケートシステムを稼働させており、その際にAzure のメリットを理解していたのが大きな要因になったといいます。さらに髙宮 氏と砂川 氏は、アンケートシステムの作成以前から Azure を使って“クラウドの可能性”を模索していたと当時を振り返ります。
「以前より Azure でクラウドの有効活用を模索しており、Cognitive Services の機能を使った音声によるスマートフォン向け日報登録システムのプロトタイプを構築したりしていました。この日報登録システムは実際に開発を進め、本格的に行内展開していく予定になっています」(髙宮 氏)
「システム部では、『内製力をつけよう』という取り組みを継続的に行っていて、お客さまアンケートシステムの前から Azure の環境を使って何ができるか PoC を試みていました。お客様アンケートシステムを作成したことで、Azure と Power BI の親和性が高いことがわかり、データ分析基盤もAzure を使って構築しようという流れになりました」(砂川 氏)
砂川 氏は、お客さまアンケートシステムの作成で見えてきた Azure 選択のメリットとして「 Power BI のレポートのバリエーション」と「大量のデータを高速に処理できること」を挙げます。オンプレミス環境のデータ分析基盤には、膨大な入出金情報を処理する環境構築(インターフェース準備)が大変であったことに対して、状況に応じてパフォーマンスを調整できる「オートスケール機能」などを備えた Azure は非常に有効な選択肢となりました。セキュリティ面でも、閉域網を利用する ExpressRoute や安全な認証を実現する Azure Active Directory などを組み合わせることで担保できることがわかったと砂川 氏。使った分だけ料金がかかる仕組みも良心的で、コスト面でもチャレンジしやすかったと語ります。
このように Azure 活用のベースが整ってきた状況のなか、「 Azure を活用したデータ分析基盤の構築」の取り組みが 2019 年 10 月にキックオフを迎えます。900 社を超える企業の BI/DWH システムを構築してきた株式会社ジールと日本マイクロソフト株式会社が加わり、2019 年 11 月 28 ~ 29 日と 12 月 16 ~ 17 日の 4 日間にわたりワークショップが開催されました。
密度の濃いディスカッションが行われ、沖縄銀行の抱える課題や想定するクラウド活用、それらに対応する Azure のサービス・機能などを全員が共有することで、効率的にワークショップを推進していったといいます。数多くの企業とのワークショップを経験してきた株式会社ジール SI サービス第三本部 ビジネスアナリティクスプラットフォーム事業部 シニアコンサルタントの永田 亮磨 氏は、沖縄銀行の取り組みを、「短期間での構築を実現した希有な成功事例」と語ります。
「沖縄銀行のメンバーと最初に会ったときに『 Power BI と Azure を既に使いこなしている』という印象を受けました。他のプロジェクトではワークショップの回数はもっと多く、通常は 3 ~ 4 カ月をかけて行いますが、今回はかなり短い期間でデータ分析基盤を構築できました。その要因となったのは沖縄銀行の“内製力”の高さだと思います。ワークショップの空いた期間はメールでやり取りを行っていたのですが、沖縄銀行のメンバーが自力で問題を解決してくれたため、最小限のやり取りで済みました」(ジール 永田 氏)
ワークショップでは、「 Azure のサービスで何ができるか」の確認はもちろん、「銀行内にあるデータをどう活用すれば良いのか」「そのためにはどのサービスを利用すれば良いのか」など単なる質問・回答に留まらない活発なディスカッションが行われたといいます。サンプルデータではなく、実際のデータ(一部マスキングを実施)を使って構築作業が進められたことで、データの分析・活用のイメージが掴みやすかったと髙宮氏 は話します。
「取り組みのスタート時点では、具体的なデータ活用方法をイメージできておらず、単に『分析したい』という目的だけでしたが、実際のデータを使って可視化を行うことで、どう使うのが効果的なのかを理解しながら進めることができました」(髙宮 氏)
Microsoft Azure に含まれるサービス群を効果的に活用し、セキュアで拡張性の高い分析基盤を構築
沖縄銀行が培ってきた内製力と、ワークショップによるメンバー全員での認識共有により、セキュアで拡張性・柔軟性に富んだデータ分析基盤がスムーズに構築されました。システムで採用したアーキテクチャについて、ジールの永田 氏はこう語ります。
「沖縄銀行内のデータソースを ExpressRoute で Azure に接続、Azure Data Factory というデータ収集サービスを通して Azure Data Lake Storage Gen2 とデータ連携しています。大量のデータを処理するために、分散処理フレームワーク「 Spark 」が使える Azure Databricks を使い、最終的に Azure Synapse Analytics(データ ウェア ハウスとビッグ データ分析がまとめられた無制限の分析サービス)に PolyBase ロード・連携して Power BI からアクセスできるようにしました」(ジール 永田 氏)
今回の移行プロジェクトで重要な要素といえるパフォーマンス(拡張性)に関しては、IaaS ではなく PaaS を選択することで、スペックの変更が簡単に行えるアーキテクチャにしたとジール 永田 氏。データが増えても自動で性能を上げられるように構成したと語ります。セキュリティ面に関しても、仮想ネットワークを中心にデータのリポジトリ同士がつながる仕組みを取り入れ、できる限り認証を限定化する構成を目指したそう。ワークショップでも Azure のセキュリティのベストプラクティスを説明し、設定方法も解説されました。実際のデータを使いながら環境構築を進めるため、事前に行内の分析対象データをマスク化するといった対策も行われ、非常に強固なセキュリティ体制でシステムを構築していきました。
こうして、実際にデータの分析・活用を検証しながらデータ分析基盤のクラウド移行が実施されました。本格的な活用はこれからですが、沖縄銀行ではワークショップで構築したプロトタイプを元にレポートを作成。同行が展開している 3 つのモバイルアプリの利用者属性、年代別の利用者推移などを可視化し、決済アプリ「 OKI Pay 」が年末に展開したキャンペーンによる効果(利用者の増加)を定量的に分析するといった成果を明らかにしています。
アプリ利用者の年代別の利用回数や平均決済額など、これまでの顧客情報では分析できなかったデータの可視化に成功し、入出金情報の時系列の変化を確認できるようになったと砂川 氏。時系列データからライフスタイルの変化の可視化を実現し、キャンペーンによる効果もグラフ化し、定量的な効果測定ができるようになったと導入効果を口にします。
「入出金の情報を正しく分類することで、分析の精度を向上させることができました。これまで経験と勘に頼っていたお客さまごとのニーズをデータで確認できるようになったと考えていますが、現状はまだシステム部門の仮説であり、実際の検証・活用はこれからです。関連部署と連携しながらお客さまにアプローチしていきたいと考えています」(砂川 氏)
また、今回の取り組みで実現した「データの可視化」は、Power BI を採用したことも大きな要因といえます。Power BI の可視化を担当した沖縄銀行の武藤 亮太 氏はそのメリットを語ります。
「統計の知識がなくてもビジュアルを作りやすいのが Power BI の利点といえます。本格的なデータベースを構築しなくても、Excel や CSV ファイルを取り込んでどのように使えるか容易に試すことができます。Power BI に組み込みの AI 機能についても、今以上に様々な分析シナリオに対して積極的に取り入れたいと思っています」(武藤 氏)
Power BI を活用することで、経験と勘だけでは明確化できない情報をビジュアルで見られるのは非常に大きなポイントと武藤 氏。今回の取り組みで分析結果を視覚的に確認できることの重要さを改めて実感したといいます。加えて、ワークショップでは当初定めた分析シナリオに合わせて3つのレポートを作成し、今ではそのレポートのブラッシュアップだけでなく、新規レポート開発も含めて効率的に進められている点にも触れています。 「このスピード感は、Power BI の使いやすさだけでなく、Azure Synapse Analytics によって膨大なデータを高速参照できるおかげもあり実現できている」と、武藤 氏は可視化におけるデータマネジメントの重要性を語ります。
システムありきではなく、「すべてはお客さまのために」を念頭にデータの分析・活用を推進
今回作成したレポートは、営業推進部門へのプレゼンにも使われ、好意的な反応を得ています。既に昨年度取り組んだ施策の実績を地図にプロットしてほしいといった要望も届いており、さらに今夏のキャンペーンを企画立案から一緒に進めていこうという提案も出てきているそうです。今後は構築したデータ分析基盤で顧客が求めるニーズを明確化し、他部署と連携して適切な提案を行えるようにしていくことが重要になります。
「現状はクラウド上にデータ分析基盤を構築したところです。これを使ってお客さまのライフスタイルに応じたニーズを汲み取ったデジタルマーケティングを展開したいと思っています。そのためには他部門との連携はもちろん、システム部門から様々な提案を行うための内製力を高めていく必要があると考えています」(砂川 氏)
また砂川 氏は、データ分析基盤を Azure に構築したことで、今後実装される Azure の機能・サービスを享受できる環境が整ったとし、今回のプロジェクトを支援した日本マイクロソフト並びにジールには、今後もデータの活用方法や効果的なツールの使い方についてアドバイスしてもらいたいと期待を寄せています。ジールの永田 氏も、ML(マシンラーニング)や Power BI の効果的な活用方法を提示して、沖縄銀行が取り組む DX の推進力になりたいと力を込めます。
Azure の基盤構築やアプリ作成を主に担当した沖縄銀行の嘉陽 宗孝 氏も、Azure の最新の機能・サービスを迅速に活用するためのスキルを身につけていきたいと今後の展望を語ります。
「 Azure のメリットは、ハードウェアの構築を意識せずに開発を進めていけるところにあります。続々と登場する新しいサービスも活用しやすいので、積極的に取り入れられるようにスキルを磨いて、お客様のニーズに応えたいと考えています」(嘉陽 氏)
Azure の各サービスは、様々な非機能要件 (性能・拡張性・セキュリティ・運用など) を幅広く、且つきめ細やかに実装されている点が、他社クラウドサービスと比較した Microsoft Azure の優位性と嘉陽 氏。だからこそサービス活用・開発に対して積極的になることが出来、自信にも繋がっていると語ります。
髙宮 氏は、“近未来の銀行の在るべき姿”について日本マイクロソフトとアイデアを共有し、今回構築したデータドリブンな環境を、より効果的に活用していく方法を模索しているといいます。
「今後は、システム部門にもデータアナリスト的な力が求められてくるはずです。そのためには、柔軟な発想力を持った人材を育成していく必要があると思っています。現代の銀行には、お客さまに”真の価値”を提供するための DX が不可欠です。本行が継続して取り組んできた“内製力”を活用して、お客様の”真のニーズ”に応えるサービスを開発していきたいと考えています」(髙宮 氏)
システム部門を統括する永田 氏は、今回のプロジェクトと今後の展望についてこう語ります。
「今回のプロジェクトを含め、我々の取り組みのすべては『お客さまのため』のものです。システムありきではなく、『すべてはお客さまのためにある』ことを念頭にデータの分析・活用を推進していきたいと考えています。そのためには、我々が想像できない最新テクノロジーの活用方法を知る日本マイクロソフト並びにジールの支援が不可欠です。今後も1つのチームとして様々なプロジェクトを展開していければと期待しています」(永田 氏)
揺らぐことなく「お客さまファースト」の DX を推進する沖縄銀行が構築した“Powered by Microsoft Azure” のデータ分析基盤は、非常に大きなポテンシャルを秘めています。本格的な活用はこれからで、銀行、金融業界以外の分野も注視する価値があります。果たしてどのような成果が得られるのか、今後の展開からも目が離せません。
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